6話 【作業厨】の家出
今、俺はレコーズに乗っている。
父さんからは「無理をするなよ」と言われた。
だが、俺はレコーズに乗る練習を続けた。期間にして、およそ2か月。
俺は前世でも運動が得意な方ではなかった。むしろ苦手。運動は作業でも何でもないからだ。
それでも俺は練習をした。理由は簡単だ。国民的な乗り物に乗れない自分が嫌だったからだ。
そして俺は、ついに。
「乗れたよ、レコーズに乗れた!」
物凄く嬉しかった。
言うなれば、初めて自転車に乗れたときの気持ちだろうか。
「リック、おめでとう!」
「もうレコーズに乗れたのね、ぎゅ~っとしてあげましょう」
母さんはまた抱き締めてくる。
いつもなら鬱陶しいこれも、今はすごく嬉しい。
「ありがとう父さん、母さん。折角乗れるようになったから、少し遠くまで行ってもいい?」
今だったら、何処まででも行けそうだ。
俺はワクワクした気持ちで言った。
しかし、
「それはダメだ」
「危ないじゃない!」
昂っていた気分が一気に沈んでいく。
危ない、それはわかる。だが、俺だってもうレコーズに乗れるようになったし、少しくらいいいじゃないか!
「はぁ……」
俺はため息をつきながら家を出る。レコーズに乗って。
もう、何処か行ってしまおうか?森の中にでも……。
そう思った俺。実行してしまった。
5歳にして家出だ。
実行力には定評のある俺。
気が付くと俺は森の中。
「レッツ、作業!」
家出をしたからにはまず家を作らないとな。
土魔法を使って……っと。
出来たのは我が家……あの家と同じくらいの豪邸。
「取り敢えず、住む場所は確保した。次は食料だ」
水と火は魔法でどうにでもなる。食料が一番必要な物だった。
「えーっと、これは詣草。食べたらいろんな意味でアウトな草で、こっちは安育草……なんなのここ、食べられる草無さすぎでしょ!」
他にも、育毛剤兼そういう薬になる毛生草など、食べられないものばかり。
こうなったら、動物の肉でも……。
「ギャオォォォ!」
何か動物の声が聞こえた。
よし、今夜の飯は決まった。
声のする方へ行くと、チクチクした羽のスズメの群れ……と黄色いスライム。
スライムはスズメに襲われている。
「やめろ、オニス◯メ!」
俺は咄嗟に『あの電気ネズミを助けなくては!』と思ったのである。
要は、なんとかモンスターのやり過ぎである。あのゲームは、ストーリークリアしてからスタートみたいなところあるからな。
……そんな場合じゃなかった!
スズメは俺に攻撃対象を移す。
「今夜の夕食になってくれ! 行けっ! ファイアボールっ!」
俺が放ったファイアボールはスズメのうち1匹を焼き鳥にした。残りは逃げてしまったが。
スライムはというと、
(プルプル、プルっ!)
体を震わせていた。そして、スライムはゆっくり俺に近づき……。
肩の上に乗った。
俺はスライムを家に連れ帰った。
「うん、美味しい!」
俺は、さっきの焼き鳥を豪快にかぶり付いていた。
スライムは俺のことを見つめてくる。焼き鳥が欲しいのだろうか。
「これ、食べるか?」
スライムはコクリと頷く。頷くといっても、頷いたように見えただけだが。
焼き鳥を千切ってスライムに与えると、鳥を食べ始める。さっきまで襲われていたとは思えないほどの食べっぷりだ。
「スライムっていうのもなんか冷たいし、名前を付けよう! うーん……」
黄色くて、プルプルしてて。
美味しそうだな……。いやいや。
そうだ!
「『プリン』、なんてどうだ?」
自分でも安直な考えだとは思った。だが、そんな俺の思いとは裏腹に、スライムは跳び跳ねて嬉しそうにしている。
「もっと食うか?」
(プル、プルプルプルっ!)
俺が焼き鳥を差し出すと、飛び付いてきた。
なんか可愛いな、スライムって。
こうして俺とプリンの奇妙な関係は始まった。
「「「ギャオーギャッ!」」」
突如として耳を劈くような声が響く。
外に出てみると、先程のスズメがもっと大きなスズメのような何かを連れて遠くから飛んできていた。
「よし、迎え撃つぞ! ファイアボール!」
しかし、魔法は発動しない。
しまった、魔力不足だ! こんなこと今までなかったのに!
俺はすぐにスライムを肩に乗せて、レコーズに乗る。
しかし、レコーズは飛ばない。
そうだった。魔力が足りないんだった……。
こうしている間にも、スズメの大群は近づいてくる。狙いはプリンの筈だ。意地でもプリンを守らないと! 俺は、出会ったばかりのスライムにどうやら好意を持っているらしい。
「かかってこいや!」
俺はプリンを庇うようにして、体を丸めた。
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