3話 【作業厨】の冒険
本宮圭介、こっちの世界ではエリック・グレーティア。一歳。
唐突に『この家の部屋全てを見てまわりたい!』という衝動に駆られた。
と、いうことで……
実行するぞ!
俺が普段寝ている小さな子供用のベッドのある部屋から出ると廊下。
廊下の一番奥にはリビングとダイニングが。
俺はいつもここで遊んだり、ご飯を食べたりしている。
「リック、何してるのかしら?」
キッチンで料理を作っていた母様が話しかけてきた。
「母様!ちょっと冒険をしようと思って」
俺がそう言うと、またしても抱きついてきた。
「まぁ、冒険だなんて凄いわ!ぎゅ~っとしてあげましょう!」
「苦しいですって母様!」
「そう、でも……」
「だから止めてくださいって母様!」
このやり取り、もはやテンプレ。
「あれ?この香り。もしかしてロズロズクッキー!?」
「良く分かったわね。さすがリック!ぎゅ~っとしてあげま……」
「だーかーらー!」
「でも……」
母様はどんだけ「ぎゅ~っと」するのが好きなんだよ。笑えてくる。
そうそう、ロズロズクッキーとは、ロズロズと呼ばれる花を使ったクッキーのことだ。
リビングの奥には大きな窓から庭が見える。
庭には母様が手をかけている薔薇のような花、ロズロズが咲いている。
―――薔薇の10倍くらいの大きさの花なのだが。
ロズロズは基本的には一株で一輪しか咲かない。
花の香りが甘く、俺も好きな花だ。
母様は、お茶に浮かべたりお菓子に混ぜ混んだりしている。
砂糖よりも簡単に手に入って美味しい。そんな夢のような花だ。
たまに、ママ友? か何かに会いに行くときに持っていってる。
ちなみに、プランターのようなもので育てている桃色の小さい花は安育草というらしい。
花言葉は安産、子供の健康祈願。名前の通りか! 随分と安直な考えすぎてしばしツボる。
でもこれ、父様と母様が俺のためを思って植えてくれたんだろうな……
しばし物思いにふけて、二階に上がる。
二階は、ほぼほぼ客間。
ぶっちゃけ興味ない。
それじゃあ、次の部屋に……って、ん?
俺の視線の先には、グシャグシャになったシーツとピンク色の怪しいお薬。
これは……。
俺は、そっとドアを閉める。
俺は何も見ていない。うん。
次の部屋に入る。
部屋全体に本棚。そしてぎっしり詰まった本。
どうやら父、ディークの書斎らしい。
見渡す限り本、本、本!
これもしかしたら小学校の図書室くらいの蔵書があるんじゃ……?
本棚には『闇の魔獣とその生態』なんて生物のお勉強的な本から、『封魔の巫女物語』とかいう歴史物の物語なんかがあったり。
でも、イマイチ興味がない。元々俺は国語の読解が大の苦手だし、当然だ。
「お、これでも読むか」
俺が手にした本は『王族御用達! 素敵なガーデニング』という本。
俺にとってはガーデニングも一種の作業で、作業厨を豪語する俺からしてみれば、興味の対象のひとつだ。
「どれどれ1ページ目は、っと『安育草。桃色の小さく可愛らしい花を咲かせちゃう。花言葉は安産、子供の健康祈願……』か。そこまでは知ってるぞ!というか喋り言葉なんだな」
俺は続きを読み進める。
「『……そして淫らな行い。種を搾ると薬を作ることができるわよ! 旦那様の種も搾り取っちゃおう!これでクールな旦那様も夜の獣に!』」
……。
あの花、そんな使われ方を……。
俺の健康を祈ってじゃなくて、あれを使って俺がデキた、と。
そうかそうか……
いや、俺の物思いにふけっていた時間を返せよ!
そんなことはさておき、俺はふと気になる本を発見。
題名は『効率魔法の基礎』。
おっ……これは!
俺は夢中で本をめぐる。
「ん? なになに……『効率魔法の歴史。魔法を使った作業の効率化。それは神代の時代から存在したとされる。その概念を作ったのは、たった一人の巫女。その名を……』」
「何をしているんだ!」
突然、大声で怒鳴られる。
「父様、僕はただ冒険を……!」
「危ないじゃないか!」
「へ?」
俺は間抜けな声を出す。
「本の下敷きにでもなったら大変じゃないか!」
あー。
そこまで心配してくれてたのね、父様。
もぅ、父様も母様も過保護なんだからぁ!(唐突のオカマ口調)
「あ、その本。お前もしかして魔法を教えて欲しいのか?」
おっ。待ってました!
魔法は大事だよね! 作業が楽になるし、建築の幅も広がるし、爽快だし……etc.
「うん! 教えてくれるの?」
「よし! 明日から父さんと母さんで教えるぞ!」
よし! これからも異世界、頑張るぞ!
……というかこれから父様と母様を見るとき、そういう風にしか見られないのだが、どうしてくれるんだよ!
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