2話 【作業厨】の異世界転生
ん……ここはどこなんだ?
見慣れない天井、そして風景。
そして死んだはずの俺が、生きている。
『ルーシー、リックが目を覚ました』
『本当! なんて可愛らしいんでしょう』
聞いたことのない言葉だ。
英語にも似ているような、ラテン語か? イタリア語にも似ているような……
というかこいつら誰?
まさかここは死後の世界なのか……?
とりあえず、なにか話さないと。
俺の作業の賜物、言語能力をフル回転させて……
「うぅ……あ~うぅ~! ドゥア!」
ドゥア! だって。めっちゃ変な声出たし。
歯がないから発音がまともに出来ないからか。
ん? 歯がない……?
もしかして俺、赤ん坊になってる!?
ということは、これはもしかして。いや、もしかしなくても……!
異世界転生だっ! うぉっしゃあ!
ここなら夢の『世界一の作業』ができるかもしれない。
ソラとの約束が、果たせる。
さぁ、まずはこの世界の言語を覚える作業から始めよう。
~~~1年後~~~
「「リック、お誕生日おめでとう!」」
あの日から一年が過ぎた。
俺の名前は、どうやらエリック・グレーティアというらしい。ずっと「リック、リック」っていうからつい最近まで知らなかった。
この二人は俺の両親、緑の目をした黒髪の男がディーク、金髪美女がルーシーだ。
ちなみにルーシーという名前は英語圏の名前だ。まぁ、そんなことはどうでもいいけれども。
そしてどうやらこの世界、魔法が使えるらしい。
これは作業効率が上がりそうな予感。いまからとても楽しみだ。
そうそう、もちろんこの世界の言語は覚えた。だが、話すのが早いといおかしな赤ん坊だと思われてしまう。
そこで俺は大体の赤ん坊が言葉を話す、1歳に話せるようになったことにすることにした。
我ながら、名案である。
言語を覚えるコツは「これ、呪文っぽい!」と思って学ぶこと。
「私、ケーキを取ってくるわね」
ちなみに手作りケーキである。昨日準備していたのを見た。
「わかった。ほーらリック、誕生日プレゼントだぞ」
よし、このタイミングだ。息を吸って。
「ありがとうございます、父様!」
「……」
なんか変だったかな? そんなことあるわけない。だって『父様』呼びは、異世界ゲームやら小説やらのテンプレだろ?
ましてや一年かけて考えたセリフ、大丈夫だ。
「ル、ルーシー。ちょっと来てくれ!」
「なんですか? まるでなにかあったようでは……」
「母様、今日は僕のために手作りのケーキをありがとうございます!」
またしてもテンプレ。親の前では『僕』呼び。ここまでは完璧だぞ。
だが、どうしてケーキを落として立ち尽くしているんだ?
「リ、リックが喋ったわ!」
「それもこんなに丁寧に話す。この子は天才じゃないか?」
「母様ですって! なんて可愛らしいんでしょう。ぎゅ~っとしてあげましょう」
ルーシーは語るまでも無く巨乳だ。それが俺の顔面に押し付けられるのだ。
思春期の男なら誰しも興奮してしまうものだ。作業を極めた俺でさえだ。だが、今は不思議とそんな気は起きない。母親だからだろうか。
「く、苦しいです母様」
「あら、ごめんなさい。でもそんなことが言えるなんて。ぎゅ~っとしてあげ…」
「だから苦しいです!」
この調子だとどうなっていくのか、先が思いやられる。
「はい、お誕生日プレゼントだよ」
「もう、絶対リックに似合うんだから!」
俺はプレゼントを渡される。何が入っているんだ……?
「父様、母様。開けてもいい?」
念のため尋ねる。こっちの方が丁寧な感じだろ?
「もちろんよ」
よし、開けるぞ!
開けた瞬間、俺は固まった。
――何故、ブレスレット……?
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