第4話 ゴアの村
5話までは溜めてあるので、それまでは連続で投稿していく予定です。
ゴアの森を抜け、フィールドを歩き出してから約1時間が経とうとしていた。ここに来るまで魔物との接触は一度もない。フィールドは森や遺跡、塔といったダンジョンよりも魔物が出現する確率は低いが、これじゃレベルが上がらないだろ!
そんな事を考えながらエルちゃんと手を繋ぎ、歩いていると目の前に村が見えてきた。他の3つの村と比べると少し小さいくらいだろうか。しかし村の周囲を木の柵で囲い、入り口には門番2人、物見櫓が1基建設されている事は同じ。つまりゴアの村はオンラインverで新たに作られた村と考えていいだろう。
「村だ……!パパ、ママ!」
エルちゃんは俺と繋いでいた手をほどき、村の入り口へと走っていく。俺もエルちゃんを追いかけるように歩いていくと、エルちゃんを見る門番達が驚いているのが見えた。
「エ、エル!?」
「やはり村の外に……無事だったのか!」
「うん!スバルさんが助けてくれたの!」
門番と話すエルちゃんは俺を指差しながら何があったのかを話していく。もう1人の門番はエルちゃんとの会話をそこそこに、村の中へと走っていった。
「おーいっ!エルが、エルが帰ってきたぞーっ!」
「えっ!」
「エルちゃんが!?」
「あっ、本当だ!」
門番の叫び声に村人達が走ってきてエルちゃんを囲む。「怪我はないか」、「お腹は空いてないか」とみんな嬉しそうにエルちゃんに問いかけている。
そんな中、とある2人の男女が村人達の間を掻き分けながら走っているのが見えた。あの2人、もしかして……。
「エル!!」
「あっ……パパ、ママ!」
やっぱりエルちゃんの両親か。2人がエルちゃんの前に辿り着くと、騒いでいた村人達は静まり、3人から少し距離をとる。
エルちゃんの父親も母親も目に涙を溜め、エルちゃんも心配されていたと分かっていても怒られるのは怖いらしく、目をギュッと閉じている。
「この……バカ!!どれだけ心配したと思ってるの!!」
「っ……」
「何で村の外なんかに……外には出るなっていつも言ってるでしょ!!」
エルちゃんの母親はエルちゃんを勢いよく叱る。怒る母親の背後に鬼のようなオーラが漂っているように見えるが、気のせいだよな?俺の目がおかしくなってしまったわけじゃないよな?
「ご……ごめんなしゃ────」
「でも……無事でよかった……!」
謝ろうとするエルちゃんを母親は抱き締める。涙をポロポロと流しながら強く抱き締め、さっきから黙ったままの父親も抱き合う2人を包み込むように抱き締めた。
3人はしばらくそのままだったが声を掛ける人はおらず、誰もが安堵した表情を見せていた。
「エルを助けてくれてありがとう。村を代表してお礼を言わせてもらうぞ。儂は村長のダン・ゴアットじゃ」
ダン・ゴアット
種族:人間
性別:男
Lv3
MP:0
ジョブ:村長
武器:なし
防具:村人の服
アクセサリー:なし
「スバル・キサラギです。エルちゃんを助けたのは当然の事ですよ。だってあんな小さな女の子を放っておけるわけないじゃないですか」
ダンさんをステータス確認で調べながら返事をする。ダンさんはLv3なのか。どういった経緯でそうなったのかは知らないが、戦闘による経験ではなく、村長としての経験がLv3にしたんだろう。経験値は何かしらすれば獲得できるからな。
「そう言っていただけるとありがたい。ところでスバル殿はゴアの森で何を?この辺りじゃ見ない服装をしておるが」
「えっと……ロスレットを目指しているんです。ゴアの森は迂回するのが面倒だったので」
ロスレットとは始まりの3つの村から北、ゴアの村からは北西に進めば辿り着く町だ。プレイヤーが最初に目指す町としては一番近いからな。ほとんどのプレイヤーがそこを目指す。他にもラソンやナンスといった町があるが、この2つを目指す人はあまりいないな。
「ふむ、ロスレットに……もしかして冒険者になる為に?」
「はい」
「なるほど」
ロスレットにはギルド支部があるからな。ギルドとは登録すれば冒険者となって様々な人から依頼を受ける事ができ、成功すれば報酬が貰える所だ。小さな村はともかく、比較的大きな町などにはギルド支部が必ずある。ちなみに本部は巨大な都市国家ウォルス王国にある。
「じゃが、この村からだと歩いて2日はかかるぞ?」
「2日……ですか」
確か始まりの3つの村からなら1日で着いたはずだ。もしかしてゴアの村はロスレットからそれよりも離れているのか?
改めて地図で確認してみると、始まりの3つの村よりも少し離れていた。どうするか?『アンフォルイアクエスト』だとロスレットに行く前に馬を貰えるんだが、俺は馬なんて乗った事がないし。
「エルを助けてもらったお礼として馬を貸したい所じゃが、今は動ける馬がいないのだよ」
「どういう事ですか?」
「この村には3頭の馬がいたんじゃが、1頭は魔物に殺されてな。もう1頭は足を怪我してしまっているんじゃ」
「最後の1頭は?」
「恥ずかしい話じゃが、馬を世話している者が誤って逃がしてしまったんじゃ……」
つまり村にいるのは怪我をした馬だけ、でも動けない。流石に無理に動かすのは無理なんだろうな。俺もそんな事はしてほしくない。
「じゃが、ロスレットに行く方法はまだあるんじゃ」
「その方法は?」
「今日、この村にロスレットからの商人が交易をしに来たんじゃ。明日の昼にはここを出るらしくてな、彼の乗ってきた馬車に乗せてもらえるよう儂から頼んでおこう」
「ありがとうございます、それは助かります」
となると、俺はこの村に一泊しないといけないんだよな……この村に宿屋ってあるのか?なかったら誰かの家にお願いして泊めてもらうか、最悪野宿だな。
「そうそう、エルの両親がこの村に泊まるなら是非うちに来てほしいと言っていたな」
「エルちゃんの両親がですか?」
「うむ。あの2人はまだきちんと君にお礼を伝えていないし、行ってきたらどうかね?」
ふむ……そうだな、一度行ってみた方がいいかもな。それにわざわざ泊めてくれると言うなら、素直に甘えさせてもらおう。ダンさんからエルちゃんが住む家の場所を教えてもらい、俺は席を立った。
「分かりました、ちょっと行ってみます」
「うむ、明日の昼に商人は出るからの。遅れんようにな」
「はい、お願いします」
俺はダンさんに商人の事を頼み、彼の家を後にした。
残りSP4920P/5000P