第3話 ゴアの村までの道のり
「えっと、こっちか」
俺はエルちゃんをおんぶしながら彼女の住んでいる村を目指している。エルちゃんは泣き疲れて眠ってしまったが、その前に彼女が住んでいるがゴアの村だという事が分かった。
ゴアの村……エルちゃんと同様、この村の名前は聞いた事がない。地図で確認してみると、ゴアの村は始まりの3つの村であるカルルの村、ルノの村、シルの村がある場所よりも東にある村だという事が分かった。俺とエルちゃんがいた森はゴアの森という名前で、ゴアの村から見て南東にあるようだ。
今までの事で分かった事が1つある。始まりの3つの村があるという事は、ここはアレクト王国領で間違いないという事だ。
「すぅ……すぅ……」
「気持ち良さそうに眠ってるな。そんなに疲れてたのか」
エルちゃんが村から出たのは今朝だと聞いた。今は太陽の位置から考えて15時くらいだろう。きっと村人はエルちゃんを探し回っているに違いない。早くエルちゃんの無事を伝えたいが、ゴアの森から歩いて約1時間はかかると俺は予想している。走ればもっと早くに着くが、エルちゃんを起こしてしまう可能性がある。
それにしても、俺がいるここは本当に『アンフォルイアクエスト・オンラインver』なんだろうか?何故疑うのかと聞かれれば、転送の時の事もあるが、俺がエルちゃんを助けるには特典が無ければ無理だった。これが正しい始まり方とは思えない。まぁ、俺がプレイヤーなのかNPCなのか分からないけど。
「ん?」
目の前をピョンピョンと跳ねる兎を見つけた。いや、あれは兎ではない。頭部に角が生え、兎によく似た魔物────一角ラビットだ。
一角ラビットLv1
この魔物も初心者にとっては倒しやすい相手だ。この一角ラビット、ゴブリン、それからまだ会っていないがスライムの3体は『アンフォルイアクエスト』で最弱と呼ばれている。まぁ、そうでなくては初心者の相手が務まるわけないしな。
「エルちゃん!ちょっと起きて!」
「むにゅ……もう、食べられなあい……」
「いや、寝惚けてる場合じゃ────うおっ!」
俺達に気付いた一角ラビットが大きく跳んできて、避けた俺の横を通っていた。あの位置はちょうど心臓があった場所……容赦ないな、この一角ラビット。
「だが、俺も負けるわけにはいかないんだよ。エルちゃん、ちょっと離れてて」
「う、うん……」
ようやく状況が分かってきたのか、目を擦りながらエルちゃんは素直に後ろに下がってくれた。よし、これで戦えるぞ。俺はアイアンソードを鞘から抜き、アイアンシールドと共に構える。
「来い!」
ゴブリンを倒せたんだ。だったら一角ラビットも倒せるはず────なんて考えていた俺が甘かった。
「ぐっ!?」
一角ラビットは勢いよく跳躍して体当たりをしてきた。アイアンシールドで防ぐが、衝撃は凄まじく、俺は2歩後ろに下がってしまった。
「なんて威力……そしてなんて石頭だ」
アイアンシールドに頭をぶつけて平気でいるってどういう事だよ。もっと強い魔物なら分かるが、初心者を相手にするお前が痛がってないって……。
「だったら!」
耐衝撃Lv1
10P消費
耐衝撃Lv2
15P消費
この2つのスキルを取得する。これで一角ラビットはもちろん、序盤の魔物の攻撃を受けてよろけたりする事はほとんどないはずだ。
一角ラビットがまたもや体当たりをしてくるが、俺はアイアンシールドで受け止め、弾き飛ばす。地面に着地する一角ラビットはバランスを崩してよろけていた。俺はその隙を逃さず、アイアンソードを振りかざす。
「スラッシュ!」
勢いよく振られたアイアンソードが一角ラビットの体を真っ二つに斬る。見た感じ化け物であるゴブリンならばともかく、ほぼ兎である一角ラビットを殺すのは気が引けていたが、襲ってくる以上そうは言ってられない。
一角ラビットの肉×1
毛皮×1
一角ラビットが消滅した場所にはその2つのドロップアイテムが落ちていた。一角ラビットの肉はゲーム状の説明ではなかなか美味しいとの事。毛皮は服を作るのに使う事が多く、利用価値があるアイテムだ。
「エルちゃん、もう大丈夫だよ」
「うん……」
アイアンソードを鞘に納め、エルちゃんが差し出してきた手を俺は優しく握ってあげた。どうやらもうおんぶはしなくてもいいらしい。
さて、ゴブリンに続き一角ラビットを倒したが、そろそろレベルが上がってるんじゃないだろうか?ステータス確認で調べてみると結果はこうだ。
スバル・キサラギ
種族:人間
性別:男
Lv2
MP:52
ジョブ:剣士
武器:アイアンソード
防具:異世界の服 アイアンシールド
アクセサリー:なし
よし!レベルが上がってる!これでSPは100P回復し、アイテムボックスは11個使えるようになっているはずだ。
そして剣を使い、魔物と戦った事からジョブに剣士が追加されている。他にもジョブはあるが、いくつかは難しい条件をクリアしなければ手に入れられないジョブもある。
まぁ、ジョブは少しずつ増やしていけばいいだろ。とりあいず今はエルちゃんをゴアの村に送り届ける事が先だ。
その後、ゴブリンLv1を3匹、一角ラビットLv1を2匹倒した。おかげでこの2匹を殺す事にもうそんなに抵抗感はない。
ドロップアイテムはゴブリンの剣が2本、一角ラビットの肉が1つ、毛皮が2枚だ。ドロップアイテムが出ない時もあるのだ。
レベルは上がっただろうと思ったが、まだLv2だった。おそらくもう1匹くらい倒せばレベルが上がるだろう。
「あっ……あそこ、出口だよ」
「ああ、本当だ」
ようやく森から出られる場所を見つけた。この森を抜けてそのままの方角で進んでいけばゴアの村に辿り着くはずだ。
「…………」
「どうかしたか?」
「このまま村に帰ったら……パパもママも私の事を怒るんじゃないかって……」
なるほど、両親に怒られるのが怖いのか。答えは考えなくても分かる、絶対に両親はエルちゃんの事を怒るだろう。それがどんな意味を持っているのか、それを俺はエルちゃんに教えてあげないといけないと思った。
「エルちゃん。怒るって事はそれだけエルちゃんの事を心配してくれたって事なんだよ」
「……?何で心配してるのに、怒るの」
「エルちゃんにまたこんな危険な事をしてもらいたくないからだよ。だから心配して怒ってくれるんだ」
何で俺がこんな事を言えるのか。俺も小さい頃に家出とかをして両親を凄く心配させた事が何度もあるからだ。いやー、あの時は家に入るまでめちゃくちゃ怖かった。ドアの前で一体何十分立っていた事か。
「エルちゃんはパパとママの事、好き?」
「うん……大好き」
「パパとママもエルちゃんの事が大好きだなはずだよ。だから心配してくれるんだ」
俺はエルちゃんに優しく声を掛けていく。大切な自分達の子どもに何かあったら、心配しない親はいない。それをエルちゃんには分かってほしいが、どうだろうか。反対されたらどうしよう。
「……私、村に帰る。それでパパとママに心配させちゃった事、ごめんなさいって言いたい」
「よし、分かった。なら村まで頑張ろっか」
「うん!」
ふーっ、どうやら大丈夫だったみたいだな。分かってくれた事に俺はホッとした。
さて、森を出れば約1時間でゴアの村に辿り着くはず。それまでエルちゃんをしっかりと守らなくては。絶対に魔物には指1本触れさせないぞ!
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