第2話 特典
今回は主人公が持つ特典の説明です。
目を覚ますと、視界に映ったのは大きな雲が流れる青い空。周囲に見える木々の葉が風で揺れてカサカサと聞こえてくる。
起き上がり、自分の体を確認する。痛みはないし、どこか変わった部分もない。服装は先程まで着ていた私服だ。
「っ……せ、成功したのか?……ここは森か」
周囲を見渡しても視界に移るのは木々と茂み、そして岩だけ。『アンフォルイアクエスト』は決められた小さな村3つの内、1つから始まっていた。それぞれの村の名前はカルルの村、ルノの村、シルの村。違いがあるとすれば村人の容姿、名前、人数や村の広さ、出現する魔物くらいだろう。
例えカルルの村から始まったとしても、ルノの村とシルの村は存在している。この3つの村は友好的な関係で、交易などもよくしている。
「ここはカルルの森か?いや、ルノの森という可能性も……シルの森はないな」
3つの村の近くには森があり、そこで初めてのクエストを行う。カルルの森とルノの森は比較的大きいが、シルの森はそんなに大きくはない。今いる森はシルの森よりも大きい為、そう判断をしたのだ。
「とりあいずここから出るか。その為にもまずは、っと」
あの謎の声は全て出来ると言っていたは。ならばメニューを開けるはずだと思い、俺は頭の中でメニューと考えてみる。すると真っ白な四角の中にスキルという文字があるのが頭の中で浮かび出てきた。
「やっぱりな」
メニューの項目にスキル以外はない。実は『アンフォルイアクエスト』はメニューを作り出す所から始めなくてはならない。だが、その為に何かをクリアしろという事はなく、ただメニュー用のスキルを使えるようにすればいいだけだ。
しかし、スキルを使うにはSPを使う。このSPは最大で2000Pまで貯める事ができ、初めに持っているのはたったの100Pだ。といっても序盤でそれだけあればそれなりの準備は出来るが。
「特典が本当に使えるようになっているんだったら、このSPは────」
俺はスキルを開き、並べてあるスキルの一覧を見る。左下にはSPの現在あるポイントと最大値が出ていた。
SP5000P/5000P
特典の一つ、それはSPの最大値が上がっていると同時に最大になっている事だ。この数値は特典用のソフトはそれぞれバラバラで、8000だったり、2000だったりする。まぁ、5000Pもあれば全然足りる。それに消費してもレベルが1上がるごとに100P追加されるし。
「メニュー用のスキルは……おっ、あったあった」
鑑定
5P消費
ステータス確認
5P消費
地図
5P消費
アイテムボックス
5P消費
これらがスキル以外のメニューの項目となるものだ。鑑定は視界に入った人物や物を調べる事が、ステータス確認は自分や他人のステータスを確認できる。地図はそのままの通り地図である。
アイテムボックスは生物以外の物ならば収納できるが、プレイヤーがLv1で収納できるのは10個までだ。この場合の1個とは、例えば薬草×1でも薬草×10でも収納している薬草の数は1個となり、薬草×10とポーション×10とかだと収納しているのは2個になる。つまり、同じ物をいくら入れてもアイテムボックスは一杯にはならないという事だ。
ちなみにこのアイテムボックスはレベルが1上がるごとに収納できる数が1個増える。
「よし、メニューはこれでいいな」
試しにメニューと考えず、スキルと考えてみるとすぐにその項目になった。どうやらわざわざメニューを開く手間を省けるらしい。
「次は自分のステータスを確認するか」
ステータス確認で自分のステータスを確認してみる。その結果がこれだ。
スバル・キサラギ
種族:人間
性別:男
Lv1
MP:50
ジョブ:なし
武器:なし
防具:異世界の服
アクセサリー:なし
「確かに『アンフォルイアクエスト』にこんな服はないな」
異世界の服と認識されているとなると、少し目立ってしまうような気がする。とっととこの世界にある服に着替えた方がいいかもしれないな。
「あとは……うん、これでいいか」
筋力UPLv1
10P消費
体力UPLv1
10P消費
耐久力UPLv1
10P消費
割引30%OFF
回避率UPLv1
10P消費
脚力UPLv1
10P消費
今は必要ないかもしれないが、どうせあとで取得するつもりだったからな。ついでにやっておく事にした。
さて、それじゃあこの森から出てみるとするかな。
「きゃあああああっ!!」
「っ!」
なんて考えていたら、突然悲鳴が聞こえてきた。声からして女性だな。とにかく行ってみよう、もしかしたら知っているNPCかもしれない。
走り出すと、その速度に驚く。元々の足の速さに加え、脚力UPLv1が付いているからな。このくらいの速度が出てもおかしくない。
メインクエスト発生
クエスト名:少女との出会い
内容:少女の救出
成功条件:少女の生存
失敗条件:少女の死亡
頭の中に出てきたのはこのような文章であった。メインクエスト……やはりここはゲームの中なのか。だが、始まってすぐにこんなメインクエはなかった……つまり、オンラインverで新しく加わったって事か。
「あそこか!」
走り出して数分、尻餅をつく女の子の姿が見えた。その女の子の前にいるのは、皮膚が緑色で剣を持ち、腰に動物の毛皮を巻いた小鬼のような醜い姿をした魔物────ゴブリンだ。
ゴブリンLv1
ゴブリンは初心者のプレイヤーが戦うにはもってこいの相手だ。レベルはそんなに高くなく、知能も低い為に簡単な罠にさえ引っかかる。
鑑定で調べた結果、このゴブリンもLv1だ。しかしいくら弱いと言っても何の武器も持たずに突っ込んだら殺される。
「よし、このスキルを使ってみるか」
俺は茂みに隠れながらゴブリンに近寄り、スキルから武器召喚と防具召喚を選ぶ。特典の最後の1つであり、本来ならば買ったり宝箱から入手するはずの武器と防具をSPを消費して手に入れる事が出来るのだ。
相手はゴブリン1匹、それもLv1だ。そんなに強力な物はいらないだろう。
アイアンソード
15P消費
アイアンシールド
15P消費
回避率Lv2
15P消費
初心者が使う武器と盾を召喚して装備する。さらに戦闘など現実ではやった事ない為、念の為に回避率Lv2も付ける。
レベルがあるスキルは、同じスキル同士だと加算される。例えば回避率Lv1が1%プラスだとして、Lv2が2%プラスなら今の俺の回避率は3%プラスという事になる。
「よし、行くか!」
俺は茂みを飛び越えてゴブリンと女の子の前に現れる。両者とも驚いた表情をしたが、ゴブリンはすぐに俺に対して敵意を剥き出しにして襲いかかってきた。
「あぶなっ!?」
振られる剣をアイアンシールドで防ぐ。鉄と鉄がぶつかった為に手がジ〜ンと痺れる。しかし、そんな事で立ち止まっているわけにはいかない。
「くらえっ!」
「ッ!」
アイアンソードを振り、ゴブリンの体に傷をつける。傷口から人とは違い、青色の血が流れていく。しかし一撃とはいかずにゴブリンはすぐに襲いかかってきた。ゴブリンの攻撃を防ぎつつ、たまに避けながら俺も剣を振る。だが、決定的な一撃を決められない。
「こうなったら……!」
スラッシュ
10P消費
俺はスキルから片手剣のスキルを意味するソードスキルを選び、スラッシュを取得する。スラッシュとは剣を素早く振り、相手に強力な一撃をお見舞いするスキルだ。これがあれば無傷のゴブリンだろうと倒す事は簡単になる。
「スラッシュ!」
「ギャバッ!?」
アイアンソードを勢いよく振ってゴブリンの体を半分に分ける。ゴブリンとはいえ、生き物を殺してしまった事に罪悪感を抱くが女の子を守る以上、仕方ない。
ゴブリンの剣×1
ゴブリンは消滅し、残ったのはゴブリンのドロップアイテムである剣だけ。一応装備は出来るが、プレイヤーが使うどの武器よりも弱いからな、拾って開いたアイテムボックスに入れる。アイテムボックスは空中に出来た穴に入れれば収納できるというものであった。
「大丈夫か?」
「う、うん……」
アイアンソードを腰に差してある鞘に入れ、女の子に無事かどうか尋ねる。女の子は茶髪で、身長は俺の半分くらいだ。
エル・ラフール
種族:人間
性別:女
Lv:1
MP:0
ジョブ:村人
武器:なし
防具:村人の服
アクセサリー:なし
「た、助けてくれてありがとう……」
「いいさ、間に合ってよかったよ」
「わ、私、エル。エル・ラフール……お兄さんは?」
「俺はスバル、スバル・キサラギだ」
村人のエルちゃんか。聞いたことのない名前だな、つまりエルちゃんはオンラインverになってから追加されたNPCである可能性が高い。
「エルちゃんはどうしてゴブリンに襲われてたんだ?」
「わ、私……村の外に出てみたくて……隠れて出たら、ゴブリンが出てきて追い掛けてきて……森の中に入って……でも、まだ追い掛けてきて……うっ、ううっ……うわああああんっ!」
「怖かっただろうな。でも大丈夫、俺がエルちゃんを無事村まで送るよ」
エルちゃんを抱き締めると、先程の恐怖から解放されたからか、エルちゃんは俺の服にしがみついて泣いた。それも俺の服がびしょ濡れになるまでだ。……まぁ、仕方ないか、こんな小さな女の子なんだから。
残りSP4845P/5000P