朝のご奉仕
翌朝、俺は天井に突き刺さったまま目が覚めた。
辺りにはちゅんちゅんと小鳥達が朝の賛歌を唄う中、視界に広がるのは薄暗い景色に埃と蜘蛛の住家だけ。
全く、異世界初日の朝だというのに最悪だ。
昨日の天国のような光景から一転正しく地獄に堕ちた気分だ。
何とかして脱出を試みたが丁度すっぽりハマッたようで身体をあちこちに動かすがビクともいわない。
くそっ俺の異世界生活もここで終わりか……。
そう思っていた矢先、なにか足に感触がある。
誰かが俺の足を引っ張っているようだ。
まぁ誰かといわれたら一人しかいないのだが。
そのまま誰かは俺の足を思い切り引っ張る。
「痛ててっ! 痛てぇっ! 」
引っ張られることで顎が天井の地面に食い込んでいる。
このままじゃあ某あんぱん系ヒーローみたいに胴体と顔が分かれてしまいそうだ。
そんな俺の気も知らず、どこかの脳筋の誰かさんはぐいぐいと足を引っ張る。
すると段々、天井の床がメキメキと悲鳴を上げ始め亀裂が走っていく。
そしてそのまま俺は地割れに吸い込まれるように下へ落ちていった。
「どわっふっ! 」
尻から思い切り落ちて、間抜けな声が漏れる。
状況を確認しようと辺りを見渡してみるとどっかの脳筋が心配そうにこちらを見ていた。
「だ、大丈夫か? 」
「ああ、なんとかな。」
俺は差し出された手を握り立ち上がる。
春李はなにか恥ずかしそうにもじもじと身体を捩じらせながら。
「昨日はすまなかったな。急な出来事でびっくりして……その気分はどうだ? そこか痛いところはないか? 」
「最高の気分だよ。目に埃が入って痒いとか頭痛がする以外はな。」
後、節々が痛てぇ……。
「ん? タモツ、その傷は……。」
「傷?」
春李に言われ、俺はここで頬から暖かい温もりが流れているのを感じた。
右手でそれを拭ってみる、どうやら落下した際に擦り剥いたらしい。
「大変だっ血が出ている。早く消毒しないと。」
「大丈夫だって大した傷じゃあないんだし。」
こんなの舐めとけば治るって。
ん? 舐める?
……いいこと思いついた。
「ああっ! 痛てぇっ! 超痛いよこれっ! いっぱい血が出てるし傷も深そうだしっ! 」
俺は右頬を押さえ大げさに痛がる振りをした。
俺のリアクションをみて、顔を青くしながら狼狽する春李。
「す、すまんっ! 私が強引に引っ張ったからだ。ああ、どうしよう……。」
くっくっく、まんまと引っかかったぞ。
格闘者なんて傷ついて当たり前のことをやっているのに、ほんとこの娘、チョロい。
「早く、消毒しないとなー、傷口からばい菌が入って化膿でもしたら俺一生外を歩けない顔になっちまうよ。」
「消毒だなっ! 急いで宿主にでも救急箱を借りてこようっ! 」
「いや、それじゃあ手遅れだ、まず応急処置でもしなきゃあ駄目だな。」
「そんなっ! じゃあ私はどうすればいいのだ? 」
「舐めろ。」
「ふぇっ? 」
「だからぁ、舐めるんだよ傷口を。ほら、昔から言うだろ? こんなの舐めときゃあ治るとかさ。丁度傷が頬っぺたにあるから自分で舐めることもできないし。」
「で、でもそんな。」
青かった顔色がみるみる桃色に変わっていく。
こんなこと、現実世界の女子にいってみたものならヘタをすれば警察沙汰だが、そんなことはないようだ。
春李は自分と葛藤するように腕を組んで暫し熟考したのちに。
「わかった。私の責任もあるからな。ほら。傷口を見せてみろ。」
やったーっ! 引っかかったっ!
やっぱこの娘とんでもなくいい娘でチョロいわ。
「こ、こうか? 」
俺は言われるがまま右頬を春李に差し出す。
なんだかキスをされるみたいで恥ずかしいな。
まぁ、もっと恥ずかしいことさせるんだけど。
「そんじゃ、お願いします。」
「あ、ああ。じっとしていろよ。」
春李が俺の顔を掴み、そして舌を伸ばす。
舌が頬についた瞬間、暖かいような冷たいようななんともいえない感触を感じた。
そして。
ぺろりっ。
俺の顔を一舐め。
「どうだ? 痛くはないか? 」
「ああ、いい感じだ。優しく、歯を立てないように舐めるんだぞ。」
「わ、わかった。」
俺の言った通りに春李は優しく舌を上下に動かす。
舌の表面のざらざらが俺の頬を撫で、それがくすぐったいが気持ちいい。
「いいよぉ。春李は上手だなぁ。」
「んっそうか。……ふふっ。」
褒められて嬉しかったのか息を漏らしながら笑う春李。
流石チョロイン、褒めるとすぐ嬉しそうにするな。
褒められて気を良くしたのか、先ほどよりも身体を密着させてご奉仕を再開。
彼女が舌を動かす度に乳が上下に俺の身体に当たり、胸の感触と舌の感触が同時に襲いかかる。
これは予想以上にやばいかもしれない。
「ありがとう、もういいよ。」
俺は春李の肩を持ち身体から離れさせた。
これ以上やったら健全なものからノクターンになってしまいそうだしな。
「もういいのか? 」
春李が俺の顔を覗いて聞いてくる。
舌を動かすのに疲れたのか甘い吐息が漏れ、目をトロンと惚けさせている。
彼女の蜜で濡れた唇がつやつやと扇情的に輝き、内側からぞくぞくと欲望が這い上がってくる。
「春李、ちょっと先に外出てくれないか? 」
「構わんが、傷はもういいのか? 消毒とかしなきゃ。」
「もういいからっ。そういうのいいから。ちょっと出ててくれ。」
「わかった……。」
意図がわからず、不思議な顔をしているが渋々部屋を後にする春李。
俺はその背中を見つめた後で、ベットに行き枕に顔を埋める。
「うがあああああああっ!!! 」
ちくしょうっ! 自分で仕掛けといて恥ずかしいぃいいいいっ!
枕の中でヘタレな男の咆哮が唸った。