チョロイン
「まず、全ての事柄を説明するには、この世界における神話を語らなくてはいけないな。」
「神話? 」
現実世界でいうオリンポス神話とかギリシア神話とか昔の人が考えたライトノベルみたいな話か。
「ああ、そうだ。少し長くなるが聞いてくれ。」
春李は軽く息を整えてる為に大きな胸を数度上下させる。
遥か大昔、人類が文明を築き上げて間もない頃、世界には聖獣と呼ばれる数々の獣がいた。
一匹一匹強大な力を持っており、人類も地域ごとにその獣たちを正しく神のように大切に扱ったそうだ。
そんな獣達が最強を決めるべく行なった戦いがある、それが後に『聖戦』と呼ばれる世界規模の大きな争いだ。
聖獣達は己の肉体をぶつけ合い、死力を尽くして戦った。
正に世界の『覇権』を制する戦いだったのだ。
数年という長い時間を労して聖戦は幕を閉じるのだが、それを見ていた人類が己の信仰していた聖獣達の技をモチーフにした格闘流派を立ち上げ、自らを『覇拳使い』と称して日夜技を精錬し、肉体を鍛えて最強を目指している、という訳だ。
「はえーすっごい。」
春李が長々しい説明をどこか得意げに話したが俺は安直な感想しか言葉にだせなかった。
随分スケールがでかい話というか、何処か作りこまれた話というか、まぁゲームの世界だと仮定して聞けば納得はいくのだが。
「とまぁ大体はこんな感じだ。因みに私の聖獣は先程もいったが白虎、その一撃は大木をへし折る程の威力を持っていたという。どうだ? カッコいいだろ? 」
ふんすと鼻を鳴らし、先ほど戦闘で構えていたポーズをとる春李。
「あ、ああ。かっこいい……と思うぞ。」
「そうか? そうだろっ。ふふっ。」
褒められたのが嬉しかったようで、まるで席替えの時に好きな人と席が隣になった女子中学生のように顔がにやけている。
なんつぅか、この娘、チョロインの匂いがプンプンしてきたな。
髪型変えた時に気づいてあげたり何気ないことで褒めてあげたらすぐ相手の事好きになりそう。
「ところでタモツ、先程も聞いたが君の聖獣、すけべとか言ったか? 私も結構文献などを読み漁り知識は十分持っているつもりだが聞いたことがないんだ。良かったら教えてくれないか? 」
「ああ、そうだな……えっと。えっとなぁ。」
困った、スケベ覇拳の成り立ちなんて全く考えてない。
そもそもなんだよスケベ覇拳ってただスケベな事するだけで格闘でも拳法でもなんでもねぇ。
くそっここは春李の機嫌を損ねないようなもっともらしい事言わなきゃな。
「えっと、スケベ覇拳ってのはな、あのぉ、あれ。タコとかイカ見たいな触手がうねっている聖獣でな、相手に絡みついたり敏感な所とかを狙ったりするんだよ。うん。」
うん、自分でも言っておいてあれだが何だこのフワフワした回答は。
スケベで触手を思いつくとか、エロ同人誌の読みすぎかよ。
そんな聖獣をモチーフにした格闘術なんて絶対嫌だよ、そんなの使う奴は絶対影で「ほら、あの人例の『性獣』使う変な人よ。」とか言われるから。
絶対納得いってないだろうなぁ、困ったなぁ。
俺は申し訳なさそうに春李の顔色を伺おうと視線を上げて見ると。
「おおっ! 触手っ! そんなのは文献に載っていなかったぞっ! いやぁ、世界は広いな。また新しい発見が出来た。」
胸の前で両手を固めて特撮ヒーローの玩具のテレビCMを食い気味み見る子供のように目を輝かせながら俺の口から出任せを信じ込んでいる春李。
あ、この娘、やっぱりチョロいわ。
本日も読んで頂きありがとうございますっ!
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