どっこいしぶとく生きていた
まあ簡単には死なないよ?
―――――――おお―――――――生きとるわ―――――――
次に目を覚ますと俺は薄暗い部屋に閉じ込められていた。
どうやらおれは手枷、足枷はされていないが頑丈な石造りの部屋の中に放りこまれているようだった。
しかもなんか新しい服着てる・・・無地の・・・囚人服かな?
まあどう考えても牢屋だなここ
まあ当たり前か。俺って言い訳もしようのないほど完璧な犯罪者だしな
盗み 殺し 暴行 ・・・と・・・まあよくやったよこの短い時間に
まあ食うために必死だった分はともかく親殺しはまずいな。普通ばれたら一発であの世行きだ。
この国がどういう法がしかれているか知らんが流石にこれはまずい。
まあ?あんな親殺っちまったからって反省とか後悔とかはないからな?
けけけ・・・と笑う俺の声が思いのほか室内に響き、あわてて扉の向こうを窺う。
・・・どうやら聞こえなかったようだ。いかんな・・・妙に興奮する・・・押さえなければ・・・
だがどうにも興奮している自分が押さえられない。
逆境の瞬間が楽しい・・・などという性分が色々といかんとは思ってはいるのだが・・・
とにかく落ち着け?俺。
この状況で選択を誤れば俺に待っているのは死、あるのみだ。
ここは慎重に慎重に・・・
ふうっ!よし落ち着いた!!
しかしどうにも困った。
囚われた・・・ということは恐らくこれから何かを聞きだすための尋問なり拷問があるはずだ。
・・・はず・・・なのだが・・・
・・・俺、叩かれてもほこりは出てもしゃべることなんてな~んもないんだよなぁ?
問題はそこだ。吐くものが何もないのに吐けとか言われてもどうにもならない。「知らない」で通したいが、何ぞの拷問は受けるんだろう。本当に知らない俺としては迷惑な話だ。
では俺には一体今の俺に何ができるだろう
じっと手を見てみる。年の頃は4,5歳か?
ちっちゃい紅葉のような手に「俺」はいまだ違和感がぬぐえない。
体の方は・・・異常はなさそうだ。あちこちを捻ったり伸ばしたりしても痛い所は・・・あれ?そういえば頭が痛くない・・・?思いっきり殴られたと思ったんだが・・・
触ってみても瘤もなかった。
??結構出血もあった気がするんだが??
身体能力は・・・まあ多分あるな。
「今の俺」は住処の森でまるで小猿のように動き回っていた記憶がある。鍛錬を積んだものと比較するべくもないが、まあ多少は使えるだろう。が、過信は禁物だ。
では
俺は軽く印を切り、自らの額に気を巡らせる。出来てくれよ?との祈りをこめ、呪を唱える。
穏
その瞬間、丹田に蓄積され、止まっていた流れが再び動き出す「流れ」を感じた。
よし・・・「術」が使えるなら何とかできる!
幼い体では体力的にも気の経験からもこれでも難しい状況には変わりない。が、コレ(術)があればまだやりようもあるってもんだ・・・
まあ・・・気もちっとも溜まってないから大したこともできんが・・・
あ・・・いやいかん・・・弱気になるな俺・・・
悲観しそうになる気持ちを抑え、「これまでくそをする時ですら行ってきた」錬気を始める。
これまで動いていなかった血流が流れ出したような「熱」が体中を走る感覚に思わず気持ちが昂る。
よし・・・
ちょっとした術なら一瞬だけすぐにも使えそうだ・・・そうだな・・・例えば・・・
「穏」
自らの影を映し出し、自らの分身を見せる術
その瞬間に「俺」の目の前に「俺」が姿を現す。まるで向かい合わせの鏡のように
最初は霞のようによく分からないモノだった「影」はゆっくり色を見せ浮かび上がる。
よし!成こ・・・・・・げ・・・
その瞬間 俺の眼前に現れたのは異形だった。
痩せこけた頬に痩せた体。栄養もよくないのか野山を駆巡っていたというのに青白い肌。まあそれはいい。目だけが爛々と存在感を放っており、それは大きく釣り上がり、らんらんと光る。それも仕方ないかもしれない。だが問題なのはその瞳が血のように赤い。何だコイツは?加えてぼさぼさの髪・・・の色!まだ童だというのに頭は真っ白!なんだこれは! これじゃまるで山姥のようだ!
醜い・・・またなんと醜い姿だ・・・
俺は人ではなく山姥の子供か魑魅魍魎の類なのではないか?・・・いや・・・まさか・・・いきなり病にかかっているとか??
あ・・・ありえる・・・どれもあり得る・・・いったいどれが正解なんだ?
生まれ変わったから顔が違うであろうことは分かっていたがよもやこんな異形の姿で生まれるとは・・・
限界を迎え消えてしまったわけもの消滅とともに俺は思わずへたり込む。
・・・なんてこった・・・俺は「また」醜い姿で生きていかねばならんのか・・・
生前の俺もやはり醜い姿だった。それで幼い頃から大分いじめられた。また繰り返すかと思うと神さんの嫌がらせに憤りが募る・・・前も・・・前・・・
・・・まさか・・・
ふとよぎった嫌な予感に思わず己の股間に手を当て・・・「無い」ことを確認した。
・・・失望した・・・本当に神さんいうヤツに失望した。
「父上様・・・母上様・・・申し訳ありません・・・俺・・・また女です・・・」
「お前が男だったらなあ」そう言って笑う父母を思い出し、俺は初めて涙が出てきた。
神さん・・・俺信心深いほうじゃなかったけどなんか悪いことしたっけ・・・
人間思い通りにならないことでいっぱいでしょうね。
与えられたもので頑張っていきましょう。