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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第一部 第二章 王都編
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王都入園手続き

 引っ越しのドタバタに、住処の改装、カフェテリアの作り込みと、忙しく過ごしていたら、入園手続きがぎりぎりの時期になってしまった。


 初期投資は随分と掛かってしまったが、カフェテリアは狩りに行けない間に収入を得る為に必要なので、早めに進めてしまいたかった。

 一応採算ベースには乗るはずだ……たぶん。


 これによりパーティー金庫の残額が壊滅的になった。

 銀貨三八枚……。

 だが、今日は別の収入も決まる予定なので、大丈夫なはずだ。

 最悪、意識高い系カフェが転けてもそっちでなんとかなるだろう。


 ◇


 リデルを除く俺達五人――俺、ルイーゼ、マリオン、レティ、モモ――は、王都学園の事務室に来ていた。もちろん、入園の手続きをする為だ。


「それでは、こちらの用紙に名前と希望学科をお願いします。

 それから最後の欄には保証人の名前をお願いします」


 俺達が用紙を受け取るとモモも手を差し出す。

 残念ながらモモは入園出来ないんだ。通うようになったら、可哀想だけれど隠れてもらう事になるな。


 王都学園は騎士科、魔法科、技術科、普通科の四つがあるようだ。

 それぞれの共通科目を習う中央棟を中心として、東西南北に専用の学科が用意されている。共通科目は教養と実技。


 騎士科は元々リデルが入ろうとしていたところだ。騎士として必要な知識や戦闘技術を学んでいく。その性質上、ほぼ全員が貴族の令息や令嬢になる。令嬢がいるのは女性騎士団があるからだろう。クッ殺とか言われたらどうしよう。生徒数はおよそ五〇〇人。


 魔法科はそのままだな、魔法を習い鍛錬を行う。こちらも多くは貴族の令息や令嬢で納められているが、少なからず富裕層の家系や、地方豪族の家系から入ってきた人もいるようだ。俺とレティが通うのがここになる。生徒数は一番少なくて、およそ二五〇人。


 技術科は魔法具の作成や魔石を動力源として魔道具の研究、開発を行う。こちらは変わって貴族関係が少なく、商家出身者が多い。生徒数はおよそ三五〇人。


 最後が普通科。共通科目である教養と実技を中心とし、より掘り下げて学ぶことが出来る。地方から集まってきた将来を担う若者たちが中心だ。ルイーゼとマリオンが通う。生徒数は一番多く七〇〇人。


 以上、全校生徒一,八〇〇を要するエルドリア大陸で最も大きな学校だ。


 ちなみに騎士科・魔法科と技術科・普通科の間は仲が宜しくないようだ。ルイーゼとマリオンも魔法科にしておいたほうが良かっただろうか。

 魔法科のレベルがどの程度高いのか分からない為、こういう形をとったつもりだが。


 それにしても人数が多いのか少ないのか判断が難しい。学校が四校だと考えれば普通か。エルドリア中から優秀な人材が集まってくると考えると逆に少ないのか。


 貴族が多い騎士科と魔法科、平民が多い技術科と普通科の関係性はある意味お決まりだな。

 この分だと支配層は貴族で治められていそうだ。護民官制度とか無いだろうか。


 事務のお姉さんの話では、魔封印の解呪をしていなくても講義を受ける事は可能だそうだ。お金が掛かるので、素質を見てから解呪と言う事もあるのだろう。

 魔法科で解呪している人は九割近いようだ。これは全学科で一番高い数字になり、次に技能科、次いで普通科、騎士科は低く二割程度らしい。

 魔法科が一番高いのは当たり前かもしれない、魔法が使えなければ鍛錬にならないからな。


 ◇


 しまった!

 俺は大切な事を忘れていた。


 記入用紙の最後、保護者欄だ。

 俺はアルディス家、レティもアルディス家、ルイーゼは俺の名前、マリオンも俺の名前。

 そう、奴隷解放の件をすっかり忘れていた。


「あの保護者の欄って、後で変更出来るかな」

「はい、可能です」

「アキト様、問題ないかと」

「問題ないわ」


 リデルが学園には奴隷を連れて行けないと言っていたよな。


「奴隷を連れてくる事は出来ませんが、奴隷が入園する事に制約はありません。

 専門の技能を学ばせる為に奴隷を学園に入れる方もおります。確かに多くはありませんし、多少は問題となる事もありますので、お薦めはしておりませんが」


 問題になる事はありそうだよな。

 流石にトリテアの町でハイデルに斬り掛かってこられたような事は無いと願いたいが。


「取り敢えず、これで進めて下さい」


 後で変更できるなら、取り敢えず良いだろう。

 あぁ、何かこの判断は後悔しそうな気がする、激しく!

 だけど、ルイーゼとマリオンの譲りませんって雰囲気も感じる。


 まぁ、良いか。友達より保護者の方が、理性が働く。夜も安心だよ。


「はい、確かに記入漏れはないようですね。

 それでは……授業料は免除されていますね。制服代……教科書代、触媒代、構内食堂の利用、各有料施設の利用、全て免除さてれいます」


 事務員さんは、何かの見間違いかと、書類に何度か目を通す。


「間違いは無いようです……。

 それでは認証プレートを発行いたしますので、少々お待ちください」


 全てをみようと言っただけあって、本当に全額免除だ。しかもレティの分も含まれているらしい。


「それではこちらのカードの上に、手をかざして頂けますか」


 冒険者ギルドでカードを作るときにもやったな。生体認証のようなものらしい。

 今度は白金のプレートだ。キラキラしていて、豪華だな。流石は王都学園と言ったところか。


「ありがとうございます。

 それではこちらが構内のパンフレットと、講義スケジュールとなっています。五分は前に席に着くようにしてください。

 昼食は原則として中央棟の食堂かテラスを利用してください。その他、購買なども中央棟になります。この辺のことはパンフレットに書かれていますので、最低でも一度は目を通してください」


 厚さ一センチ近いパンフレットが手渡される。一枚当りの紙が厚い事もあるが、それでも結構な物量だ。

 俺は困ってからマニュアルを見るタイプだ。どんなに分厚いパンフレットでも問題ない。


「来期は月が明けて一日から始まります。始まりましたら、講義スケジュールから受けたい講義を選んで、指定の講義室に向かってください。

 人気の講義の場合は席が埋まってしまうことがありますので、早めに出席されることをお薦めします」


 講義には自由参加らしい。自由だからといってさぼる人はいないのだろう。高い授業料だし、そもそも講義を受けたくて来ているのだから。


 ◇


 ひと通り受付を済ませ、王都学園を後にした俺達はウォーレン商会に来ていた。

 用は二つある。

 一つは実験用粘着袋の経過確認。もう一つは王都学園の制服を受け取るためだ。

 引き渡し指定店舗にウォーレン商会があったので、他の店に行く理由も無くまっすぐにやって来た。ウォーレン商会は衣類を扱っていると言っていたことを思い出す。


「ウォーレンさんはいるかな」


 なんとなく見覚えのある後ろ姿の子に声を掛ける。


「アキトさん?!」


 振り向いたのはローレンだ。以前メビナ砂漠でウォーレンと一緒に助けた。ウォーレンの娘さんだ。ルイーゼと同じくらいの背丈で、赤茶の髪、少し焼けた肌に大きめの目が可愛い子だ。


「ローレン、王都に来ていたのか。変わりない?」

「はい、昨日着いたところです。週が開けたら学校が始まりますからね」

「学校って、もしかして王都学園?」

「そうです。普通科ですけれどね」


 それは丁度良かった。


「実はルイーゼとマリオンも来週から王都学園の普通科に通うんだ。良くしてくれると嬉しい」

「え、本当ですか。もちろんです、私も嬉しいです。

 ルイーゼさん、マリオンさん、よろしくお願いします」


 ローレンが丁寧に腰を折り挨拶をしてくる。


「私こそよろしくおねがいしますね、ローレンさん」

「よろしくね、ローレン」

「こちらこそです。

 それで、父は今工房の方にいまして、呼んできますので少々お待ちいただけますか」


 待つ間に、店のカウンターで学園の制服を受け取る。

 制服は、思ったよりも近代的なイメージの服だった。男性女性共にブレザータイプで、どちらかと言えば肌にぴったりとしたスマートな物になっている。男性はパンツで女性はスカート、スカートはタイトだが、長めの裾が広がっている感じで、洒落ている。ふくよかな人が着たらちょっと想像しがたいデザインだ。


「アキトさん、お待たせしました」

「いや、ちょうど制服を受け取っていたから大丈夫さ」

「王都学園に通われるので?」

「あぁ。色々学びたいことがあってね」

「そうですか。既に冒険者として活躍されているアキトさんには、少々物足りないと思いますがね」

「知らないことはいっぱいあるさ」

「そうですな。

 失礼、話が逸れました。ではこちらへ」


 ◇


 案内された工房では、今まさに絹糸が作られているところだった。

 初めてこの装置を見る女の子組は興味津々といった感じだ。


 絹糸生成器と呼べばいいのだろうか、例の粘着糸を作り出す円盤状の装置。これが改良されて安定した回転速度が出るようになっている。


「絹糸の太さが安定してそうだな」

「重りを付けて回転速度を安定させました。糸の巻取りも最初から小分けするようにしています。吐出量も調整して、粘着袋一袋から先日の倍近く取れるようになっています」

「凄いな。それで、この間持ってきた試作品は使えそうかな?」

「こちらへどうぞ」


 次に案内された部屋は機織り機があった部屋だ。丁度絹布が出来ているところだった。


「アキト様、素敵です……」


 そうだろう、俺は素敵だろう。


「ほんとね……」


 マリオンもそう思うか。


「なんど見てもうっとりしてしまいます」


 レティも言うようになったな。


 まぁ、絹布のことだがな。

 出来たばかりの絹布を触ってみると、それほど悪くない。むしろ前よりいい感じか。


「絹糸の生成が安定したことで、絹布の方の仕上がりも良くなっています。

 試作品でなく前回お持ちいただいた粘着袋でしたらより良い物になると思いますが、商品としてはこれでも必要十分でしょう」


 素人判断でも十分な気がする。

 俺は一緒に来て、見惚れているローレンに、二つお願いをする。

 一つはエプロン三人分。もう一つは肌着を全員分、交換用も合わせて三着ずつ。

 試作品の粘着袋は一〇個用意してきた。十分に余るだろう。代金はないけれど、粘着袋の売値から引いてくれればいい。


「これでしたら量産は可能ですか?」

「これなら危険はあるけれど、量産は可能だな」

「その方法を教えていただくことは?」

「企業秘密――というわけでもない」


 これは俺が関わらなくても作れるものだ。市場に出回れば誰かが気づいて同じことをする可能性はある。それにいちいち自分で用意するのも面倒だ。だったら――


「作り方を買い取って欲しい。出来れば売上の一〇パーセントくらいで」

「実際の方法を聞かないと判断が難しいところですが、このような場合はだいたい五パーセントになっています。それで手を打って頂けませんか」

「生成に関してはウォーレンさんが見てくれたしな、それでいい。その代わり、たまに少しだけ都合してくれると助かる」

「もちろんです」


 俺はウォーレンと話を詰めるため、女の子組にはローレンについていくよう指示をする。採寸の為だ。後でその情報をもらえるかどうかは、ローレン次第だな。やっぱり、数字で具体性があると、なんか秘密めいていた物が解かれるようでワクワクする。


 ◇


「最初に、この素材の作り方はそれなりの危険がある。自分でやろうとは思わないことだ。ということは、それを頼むに信頼できる仲間が必要だ。

 素材自体は安値で手に入ると思うが、それを使えるようにするには魔物との戦いが避けて通れない。魔物のランクはEまたはFを相手にする事になる」


 ウォーレンは暫く思案した後に、口を開く。


「上級奴隷を使いましょう。費用はかさみますが商品の販売価格で転嫁できる範囲でしょう」


 上級奴隷。たしか忠誠を尽くす意味を込めて、自ら奴隷となった人だったかな。

 一般奴隷に施される奴隷紋は、命令に逆らうと死ぬまで首が締まるが、命令に逆らえないわけではない。死を覚悟するなら命令に逆らうことも可能だ。


 変わって上級奴隷に施される奴隷紋は行動自体に制約を与えることが出来る。秘密を話すなといえば、話すことが出来ない。


 要は奴隷紋の違いで一般と上級に分かれている。


 誰が好き好んで上級奴隷になるのかと思えば、その給金が破格だった。

 通常の奴隷は買われた先で給金が出ることが殆ど無い。だが、上級奴隷は最初に決められた給金を得ることが出来る。

 

 これだと給金を支払わなかったことを口外するなと命令すれば成り立たない気もするが、給金のやりとりは奴隷商人を通すことになるらしい。やっている事は人材派遣だな。

 忠誠の相手は主人ではなくお金というわけだ。その方が明快で良い。


 ちなみに、奴隷には他にも犯罪奴隷、戦闘奴隷がいたはずだ。


「それじゃ作り方を教えよう」


 ◇


 ぐぐぐ。思ったより話し込んでしまった為に、ラッキースケベな展開には遅かった模様。誰だよ奴隷の種類について話とかしていたのは。


 俺が女の子組を迎えに行った時は採寸が終わった後だった。採寸の値が書かれた紙を手に取ろうとしたら、素早くローレンに取り上げられる。

 もうなんの楽しみもない。

 内のお姫様達を欲望の捌け口にするつもりは無いが、欲望の対象くらいは良いじゃ無いか。紳士の楽しみなのに。


「ローレン、いつ出来る」

「二,三日ください。学園が始まる前にはお届けします」

「分かった、それじゃ頼んだ」

「はい」


 ◇


 俺達はウォーレンとローレンに別れを告げた後、少しだけ時間を持て余していた。

 帰るには早く、遠出するには遅かった。


「アキト様、香辛料が少し不足してきましたので、市場へ行きたいのですが」

「それは最優先事項だな」


 豊かな食生活が豊かな人生を彩る、香辛料の不足はそれが危機的状況にあることを意味する。

 ついでに延ばし延ばしになっていたコーヒー豆とかカカオ豆を探してみよう。


 ◇


「高っ!」


 思わず呟く程にコーヒー豆とカカオ豆は高かった。しかも物量が少ない。そして売っているのは魔法具屋だった。

 どうやら何か魔法薬の素材に使われているみたいだ。


 食用に作ってないのか……。


「こんな苦いもの食べる馬鹿はいないね。魔法薬にしたっていやいや飲むくらいだよ」


 既に初老に入った感じの女性が俺の独り言を捉える。耳はすごくいいみたいだ。


「これ、大量に安く手に入れる方法はないかな」

「高いのは搬送料が乗っているからさ。自分で買いに行けば捨て値で買えるよ。欲しければ南のプローヴァまで行くんだね」


 そこまで教えてくれて商売になるのだろうか。とは言え、実際に買いに行ったらきっと一ヶ月以上掛かるのだろう。そう考えれば仕方のない値段か。

 俺は情報をくれた魔法具屋でコーヒー豆を一握りだけ買う。これでも銀貨一枚だ。


「後は、塩、胡椒、砂糖は買った、ニンニクと唐辛子もあるな、香草はなにか必要か?」

「はい、いくつか買いたいと思います」

「それと、卵に牛乳にフルーツに果実水……は作れば良いか。水もレティに出してもらえばいいとして」


 なんか俺も生活感が出てきたな。

 外食ばかりで済ませていた冒険者時代とは全く違う食生活になっている。


 家族のような仲間と、なんでもない事をして暮らす日々も良いものだが、魔物と戦っていないと、自分が弱くなりそうで少し不安だな。


 そう言えばバルカス試験官のことをすっかり忘れていたな。

 今度、魔法のことを少し話す代わりに稽古をつけてもらうのも良いかもしれない。


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