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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第一部 第二章 王都編
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新しい住まい

 今後五年に限り王都学園での生活に掛かる一切の費用を私が見よう。


 国王陛下の言葉を思い出す。

 俺の手元には一つの書状があり、それには簡単にいうとこう書かれていた。


「将来が楽しみなアキトさんへ。

 王都学園への入園手続きは済ませたので、早めに顔を出して、学部を決めて頂戴ね。

 それから同封した書面を、街にいくつかある騎士団の詰め所に持って行くと、月に一度だけ銀貨一〇〇枚がもらえるから忘れないで受け取ってね。

 学園に掛かる授業料その他は全部払っておいたから、このお金で好きな所に住むといいわ。

 

 親愛なる貴方の友メルティーナより」


 みんなの反応が冷たい。


「リデル、一応内容に間違いがないか確認してくれ」

「わかった」


 俺はてっきり寮に放り込まれて終わりだと思っていたが、国王陛下は気前が良かったらしい。俺の算出では月に銀貨九〇枚が必要だった。それには学費やら生活費を含んでの話だ。


 この書状には学費その他、つまり学費だけでなく必要な教科書などの費用と、寮に入らなくても十分に生活出来るだけの費用がもらえるらしい。それも銀貨一〇〇枚だ。


「内容はあっているね」

「国王陛下様も太っ腹じゃないか」

「国王陛下の資産とアキトの財布を比べては駄目だよ」


 俺の財布に入っているのは銀貨三一枚ほどだ。これでも普通の宿に泊まって一ヶ月は食べていけるのだが。


「とりあえず、寮に入らないで済むのは好都合だ。これでモモとも一緒にいられる」


 モモが腰に飛びついてくる。やっぱり心配だったようだ。安心させられて良かった。


「住む家を探して、それから学園に行って手続きだね。

 僕は付き合えないから人を紹介するよ」

「助かる。よし、それじゃ家を探しに行くか」


 俺が席を立つと、ルイーゼとマリオンも立つ。そして、レティも立った。


「レティ、町中を歩きまわると思うけれど、一緒に行くか?」

「はい、これから住む家ですから、出来れば私も見てみたいと思います」


 これから住む家か。いい響だが、問題はそこじゃない。


「レティは王都に家があるじゃないか」

「仲間とはそういうものではないのですか?」

「そういうものかもしれないけれど、さすがに嫁入り前のお嬢様を預かるのは風聞的にも良くないんだが」


 それに理性的にも良くない。


「私をお嫁に貰ってくださる方はいませんから問題ありません」

「いや、レティは十分に美人で魅力的だから、すぐに見つかると思うよ」

「そ、そうでしょうか……」

「嘘じゃない。それに、俺の一存じゃ決めら――」

「許可は頂いております」


 俺はリデルを睨む。リデルはどこ吹く風といった感じだ。

 いい加減に俺も男なんだから、保護する女の子が増えるのは辛いのだが。

 まぁ、取り敢えず、部屋の多い住まいを探そう。


 ◇


「間取りは、リビング・ダイニング・キッチン。可能ならお風呂があるといい。

 それから、小部屋として……最低四部屋。収納もそこそこ必要だな」

「アキト様、部屋数が多くないでしょうか?」

「そうね、無駄に空き部屋が出来るわ」

「えっ、それは……そう、ですよね。多いですよね」

「それじゃ小部屋が一つと大部屋が一つでもいい」


 要は俺が一人になれればいい。


「分かりました。いくつか該当しそうな案件をご紹介します」


 リデルに紹介されたのは、不動産を仲介する業者だった。この世界でも不動産業はあるようだ。


「王都学園に通われるのでしたら、徒歩三〇分圏内がよいでしょう。

 外食が多くなるようでしたら西寄り、作る事が多いようでしたら東寄りに良いお店が揃っております」


 外食にしても毎日では飽きるだろうし、自炊に便利な方が良いか。全然外食が出来ないというわけでもないだろう。


「それでは東側ですね。

 ……いくつか近い所にありますので、実際の建物を見て廻るのはいかがでしょう」


 そのつもりだったので、案内を頼む。


 最初に紹介されたのはメインストリートから一本奥に入った建物だった。壁は石造りで屋根が木製。この辺りでは一般的な作りだ。

 二階建ての建物で、一階部分の半分ががらんどうになっていて、外から丸見えの状態だった。


「ここは元々店舗として使われていました。この空いた空間はその名残ですね。

 残念ながらお風呂はありませんが、広めの水浴び場はついております。

 それに飲食店だった為に、大きめの使いやすいキッチンとなっております。

 部屋は二階になりますが、小部屋が二室、大部屋が一室あります」


 部屋の数や広さ的には問題なさそうだけれど。


「この空間はこのままじゃ使えないけれど、色々手を入れても構わないのか?」

「はい、壊すのでなければ、むしろ歓迎されるでしょう」


 まぁ、誰かが手を入れないと使い物にならないからな。その費用を客が出してくれるなら悪い話じゃないだろう。

 そう考えると、この家は色々と妄想が捗る。この空間をカフェテリアみたいにして、学園に通う意識高い系を目指すのも良さそうじゃないか。

 あ、コーヒー豆を買わないとな。


 中も見て回ったが、特に痛みもなく数年住むには問題がなさそうだ。

 お値段は月に銀貨四五枚となる。当初の予定からすると倍近いが、国王陛下のお金だから良いか。逆にケチケチして使わないでいると減らされそうだ。予算は使いきって足りないアピールをするくらいじゃないとな。


 ◇


 その後も三件ほど見せてもらう。

 どれもそれなりに良いものだったと思う。最初の家以外は部屋も最低四部屋あるし、一件だけはお風呂もあった。値段も大体銀貨四〇枚前後になる。


 後はどれを選ぶかだが――


「アキト様、最初に見た家が良いと思います」

「わたしもそう思うわ」

「私も最初のがよろしいかと」


 みんなは一軒目か。俺の意識高い系に影響を受けたかな。とくに俺も不満はない。


「と言う事で、一軒目にしたいんだけれど、いつから入れる?」

「今日この後、手続きを済まさせて頂ければ、当月の家賃を頂くことで直ぐにでもご利用になれます」


 銀貨四五枚なら問題ない。後に回すのも面倒だし、さっさと済ませてしまおう。

 決まってしまえば引っ越しの荷物すら無いし、体一つで移動するだけだ。


「それじゃ俺は手続きをしてくるから、三人は住むのに必要な雑貨品とか家具を頼みたい。

 予算は銀貨一〇〇枚以内で頼む」

「はい」

「わかったわ」

「分かりました」


「荷物は、モモ、お願いできるか」


 モモが力強く頷く。なんかモモがやる気だ。そう言えばモモは家が大好きだったな。しばらく腰を据えて住むことになる家だから、やる気も出てくるのだろう。


「お金は直ぐ渡すから、荷物を運び込んでもいいか」

「そこまでして頂かなくても大丈夫です」

「分かった、それじゃ手続きを進めるか」


 ◇


 どうしてこうなった?


 俺の寝るはずだった部屋が衣装部屋になっていて、畳二枚分の隙間しか開いていない。

 そりゃ女の子だから荷物は多くなるだろうけれど、これはちょっと俺が可哀想じゃないか。

 まぁ、良いか。狭いのもそれなりに落ち着くし。モモと二人なら眠れないスペースでもない。


「アキト様、お戻りになられていましたか。気付かなくて申し訳ございません」

「いや、別に構わない」

「お食事をご用意いたしますので、リビングの方でお待ちください」


 リビングには質素なテーブルと三人がけのソファーが二組あるだけだった。

 女の子に任せたので、もう少し華やかになるかと思っていたが、シンプルだな。少し予算が厳しかっただろうか。

 その辺は追々追加していくとするか。寝食に困らなければ急ぎでもない。


 キッチンにはルイーゼ、マリオン、レティの三人がいた。広いと言っていただけあって、三人が動くに不自由がなさそうだ。

 マリオンは料理をしないイメージがあるけれど、不器用なだけでルイーゼに教わりながら色々と覚えている。

 レティも同じだな。さすがに貴族のご令嬢が自分で料理を作ることはなかっただろう。不器用という意味ではマリオン以上だ。


 女三人寄れば姦しいというけれど、キャッキャワイワイと料理を作っているのは見ていても飽きないものだ……が、足りない。白いエプロンが足りない。これは問題だな。ネコミミ尻尾とは言わないまでもエプロンは必須だろう。


 この間、迷宮で試作した粘着袋もある。ウォーレンに頼んで至急作ってもらわなければなるまい。


 ◇


「アキト様、お味の方はいかがでしょうか?」


 俺はその肉の味を噛み締め、その食感に打ち震えていた。

 味はまだ詰めるところがあるけれど、柔らかい触感に大量の肉汁。醤油の無い世界でよくぞここまで再現した!


 目の前にあるのはハンバーグ。リゼットからレシピを手に入れ、こちらの世界で揃えられる材料にアレンジし、ルイーゼをはじめに三人で作ってもらった。

 肉は黒豹の肉がベースのようだ。ハンバークは赤身の肉が良いだろう。駝鳥の肉がいくら美味しくてもここは赤身の肉を使うところだ。


「美味しいよ、ルイーゼ。マリオンもレティもよく手伝ってくれた。

 さぁ、冷める前にみんなで食べよう」


 みんなもハンバーグを口にしてご満悦のようだ。


「赤身の肉が黒豹の物しかなくて、美味しく出来ないかと思ったのですが、良かったです」

「黒豹の肉じゃ良くなかったか?」

「黒豹の肉は硬くて余り人気がありません。燻製にして保存食に使われることはありますが、殆ど売り物になりません。

 ですがこの食べ方でしたら印象も変わりそうですね」


 黒豹で売れる素材は爪と皮だったな。

 殆ど売り物にならない肉というなら、それを安く買い集めて、人気が出て来たら売るというのも良いな。

 人気を得るにはまず食べてもらわないと行けない。しかし、意識高い系のカフェテリアでハンバーグを出すというのはどうなのだ……あ、ハンバーガーにすれば良いのか!


 確かリゼットレシピに柔らかいパンがあったはずだ。

 後で作ってもらおう。


「でも、柔らかくてとても美味しいわ」

「そうですね、初めて食べますけれど、人気がないのが不思議です」

「それは調理方法が良かったのかと思います。

 アキト様に頂いたレシピ通りに作ることで、元々ある肉の硬みが程よい歯ごたえに変わっています」


 俺が考えたわけじゃないし、アレンジはリゼットなんだがここでバラす必要もないよな。俺が伝えたことに変わりはない、決して騙しているわけじゃないし。俺スゲーを少しくらい味わいたいじゃないか。


 これが黒豹の肉じゃなかったらもっといいのか。凶牛の肉は柔らかくて霜降りでうまかったな……狩りの獲物は王都に集まってくるとは言っても生肉までは無理だから、自分たちで狩りに行くしか無いな。王都から近いところで凶牛が出るところを探しておくか。


 ◇


 美味しい物を食べ、ひと通りの雑談をした後は明日に控えて休む時間だ。


 俺は与えられた小部屋に向かい、床に寝転がる。布団はお金が足りなかったか、まだ用意されていない。

 着替えの入った袋を枕に、一晩くらいは眠れるだろう。


 色々見て回って疲れたのか、程なく意識が――起こされた。


「アキト様、こちらで何を?」

「何かあったか?」

「なぜこんなところで寝ているの?」

「アキトさん、ベッドで休まれた方がよろしいかと」


 なんか話が噛み合ってない。


「ベッドは買えなかったんじゃないのか?

 あるならモモに持ってきてもらえないか」

「アキト様、ベッドはあちらに用意しております」


 あちら……馬鹿な。

 なんで俺が小部屋の存在にこだわったのかはきちんと説明――してなかったな。


 大部屋には五人が横になれそうなほど大きいベッドが置かれていた。

 試されている。

 と言うか、なんでこんなでかいベッドが売っているんだ。元の世界なら部屋にも入らないぞ。この世界は歪んでいる、俺が粛清してやる!


「眠いから寝るか」

「はい」「そうね」「は、い……」


 レティ、恥ずかしいなら無理するな。俺に理性があるかぎり何もしないと約束する。

 いるのかどうか分からないけれど、色欲の女神様、どうか俺に冷静な心を。


『あら、お願いされてしまったわ』

『だ、ダメよ。アキトの守護神は私なんですからね!』

『でも、願いは叶えるべきではなくて』

『そうだけれど、カルテアの叶え方って……』

『満足すれば落ち着くわ』

『アキトの願いを捻じ曲げないで!』

『あら怖い顔。まぁ、聞かなかったことにしておくわ、またねアルテア』

『もぉ』


 結局はルイーゼ、モモ、俺、マリオン、レティと川の字に並んで寝ることになった。誰か一人と一緒よりは理性も働く。早く慣れることにしよう。

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