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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第一部 第二章 王都編
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水遊び

 翌朝、ルイーゼは起きてこなかった。いや、起きてこられなかった。


 マリオンに様子を見に行ってもらうと、ベッドで唸っているそうだ。

 それはそうだろう、あれだけ体に負荷を掛けていたのだから。むしろ、平気で動けたら何処のアマゾネスだよと思ってしまう。


 俺はルイーゼの様子を伺う。

 両手で顔を隠して恥ずかしそうにしている。そんなルイーゼを眺めているだけでも眼福だが、いつまでもこのままでは可哀想だな。

 

 ベッドに俯せに寝かせてから、背中に両手を当て、程よいしっとりとした肌の感触に少し興奮する――いや、そうじゃなく。


 ルイーゼの魔力を外から制御し、自己治癒(セルフ・キュア)を使う。不思議なもので、前は背中に触れても手の触れた辺りだけにしか効果がなかったのに、今は全身にその効果が及んでいた。まるで魔力の通りが良い、ミスリルや銀に魔力を通すかのように抵抗なく広がっていく。

 人の体も魔力による変異を起こすのだろうか。

 ルイーゼの魔力量や魔力消費効率と関連するのか興味があるところだ。


「ありがとうございます」


 顔を赤くして伏せたまま、ルイーゼがお礼を言ってくる。

 まぁ、俺の言うことを聞かなかった事に恥を感じているのかもしれない。


「こんな事を続けていると、筋肉の塊になってしまうぞ」

「それで強くなれるのでしたら構いません」


 なんの躊躇(ためら)いもないだと。

 だがな、ルイーゼ。俺はそんなルイーゼを見たくないんだ。

 とは言え、ルイーゼが強くなる事を否定も出来ない。この世界では肉体的な強さも生きる強さに繋がっているからな。


 ◇


「前よりなんだか、気持ちがいいわ」


 気持ちがいいか、それは良かった。もっと気持ちよくしてやろう。

 マリオンに自己治癒(セルフ・キュア)を試してみると、ルイーゼほどではないが、やはり魔力の通りが良くなっているようだ。魔法を使う――と言うか、魔力制御能力が上がると魔力使用効率が上がると考えたのはどうやら正しいようだ。

 それは受け手にも現れると考えられるだろう。


≪はい、正解です。だから決して気まぐれでは無いのです≫


 これ位のことなら、王都学園の魔法科に入れば、直ぐにでも習う事なんだろうけれど、知らないといろいろ損していそうだな。

 リゼットもレティもあまりにも当たり前すぎる事までは教えてくれない。と言うか、知っていると思ってわざわざ言わない。俺ももう少しよく話を聞かないといけない。


 あれ、だったらやっぱり魔力制御が一番得意な俺が、一番魔法の使用効率が悪いとかおかしいじゃ無いか。

 訳が分からない。


 ◇


「ルイーゼさん……ですか?」


 翌日。朝の鍛錬と魔法の講師のために訪れたアルディス家にて、フル装備のルイーゼを見たレティの感想だ。


 強くなりたい、そう願うルイーゼの懇願に俺が押し負け、重板金鎧での行動を許可してしまった。

 両手の指を胸の前で組み合わせ、上目遣いに頼まれたら、誰が断れるんだ?

 あぁ、なんでこの世界にはスマフォがないんだ、ベストショットだったのに。


「まぁ、色々と思うことはあると思うが、始めようか。

 ルイーゼの指導はリデルが中心に、マリオンは俺が。

 レティは水の魔法を誰でもいいから不意打ちで狙ってくれ」


 ルイーゼは普段と変わらぬ身のこなしで戦闘準備に入る。

 俺はルイーゼに身体強化(ストレングス・ボディ)を教える時、息をするように自然に使えるようになれと言ったが、まさかそのまま実践していたとは……素直すぎるだろ。


「では、開始!」


 取り敢えず、ルイーゼの事は置いておいて、模擬戦を始める。

 レティがいる事で魔法戦も出来るのは大きい。事故が怖いので、水属性魔法だけだが無いとあるでは全く違うからな。


 俺とマリオンは、開始早々に間合いを詰める。


 レティは動きまわる俺達ではなく、立ち止まって備えている二人――ルイーゼに向けて水波舞流(ウォーター・フロウ)を放った。


 ルイーゼもそれにしっかり対応し、片膝を付いて盾を斜めに受け流す。ついこの間は弾かれて転がっていいたのにな。重板金鎧の重さもあってか、問題なさそうだな。


 ルイーゼへの攻撃を諦めたレティが、今度は俺に向けて射出方向を変えてくる。

 レティも射出方向を器用に変えてくるようになった、魔力制御が格段に上手くなっている。


 俺はその水流に向かって魔砲(マジック・キャノン)を放つ。

 新しく覚えた魔法というわけではない。魔弾(マジック・アロー)がこぶし大の魔力塊なら、魔砲(マジック・キャノン)は両手で抱える大きさくらいにしたものだ。魔力消費量が多く飛距離も短い。せいぜい二,三メートルで殺傷力もない。

 それでも水波舞流(ウォーター・フロウ)の流れを一瞬だけ遮ることが出来る。


「ええぇ?!」


 レティの声を余所に一瞬途切れた水流を越えて一気にリデルに迫る。

 悪いが今日は勝たせてもらう――あれ、これ言ってはいけない一言だっけ。


 リデルの魔法障壁(マジック・シールド)を手っ取り早く魔槍(マジック・スピア)で打ち砕く。

 全力で魔力の放出を行うと硬直時間がある。距離があればなんてことのない硬直時間だし、硬直時間があると知らなければ気が付かないだろう。

 でもリデルは知っている。前回もこのタイミングを狙われた。

 あの時は全力の魔槍(マジック・スピア)だったから硬直を起こしたが、今回は違う。魔力感知(センス・マジック)魔法障壁(マジック・シールド)を破壊するのに必要なだけの威力に絞った。


 俺は魔法障壁(マジック・シールド)の破壊後、すぐさま牽制の魔弾(マジック・アロー)を撃ちこむ。

 リデルはそれを盾で受けるが、構わない。元々当てるつもりでもない、盾を正面に構えさせるのが目的だ。


 構えた盾が作り出した死角に飛び込み、盾が隠しきれていない足を狙って魔弾(マジック・アロー)を撃ちこむ。

 足を取られ、バランスを崩したリデルが膝をつくのを見て、直ぐに背後へ回りこみ剣を振り上げる。

 リデルは前転をして距離を取ろうとするが、そこにレティの水波舞流(ウォーター・フロウ)が襲い掛かった。


 レティが俺を狙って呪文を唱えていたのは分かっていた。レティの詠唱速度も分かっている。上手くリデルと入れ替わることが出来ればこうなるわけだ。


 リデルは水波舞流(ウォーター・フロウ)を盾で受けている、俺の防御には使えない。

 再び牽制の魔弾(マジック・アロー)を撃つが、それをリデルは魔法障壁(マジック・シールド)を展開して受け止める。


 うはっ。

 魔法の発動速度が上がっている。同じことを繰り返していても詰められないな。


 一対一じゃリデルの守りを抜ける気がしない。正攻法では元々無理、意表をついても無理、あの守りを抜くには魔法を連発しないと無理だろ。


 ん?

 連発したらどうなるんだ。

 全力で使うと硬直が起こるけれど、硬直が起きない程度に威力を弱めて二連発で撃つとか。

 問題はそれで魔法障壁(マジック・シールド)が破れるかだが、どう考えても威力は落ちる……何も魔法障壁(マジック・シールド)魔槍(マジック・スピア)で破る必要もないな。


 魔法障壁(マジック・シールド)は点の打撃に弱い。だからと言って木の剣で貫けるかどうかは賭けになるが。


 俺は魔法障壁(マジック・シールド)に向かって身体強化(ストレングス・ボディ)からの体重を乗せた突きを放つ。木の剣が魔法障壁(マジック・シールド)を捉えると、その剣先から砕け散り柄の部分を残すだけとなった。俺は構わず、そのまま柄ごと叩きつけたところで魔法障壁(マジック・シールド)が砕け散った。


 リデルの剣が迫ってくるが、俺はそれを右の小手で受け、盾を膝で蹴り上げ、かろうじて見えた胴に魔弾(マジック・アロー)を撃ちこむ。


 リデルが驚異的な早さで盾を割りこませ魔弾(マジック・アロー)を防ぐ。

 だがこれを防がれるのは想定内だ。

 リデルが直ぐに視界を確保するために盾を戻したところへ、連続で放った魔弾(マジック・アロー)の二発めが潜り込んでいく。

 予想外の打撃にリデルが膝を突く。

 しかし、ここから打てる手が殴る蹴るしかない、なぜ俺はいつも退化するんだ。


 その時、魔力感知(センス・マジック)が上空に大きな魔力の発生を知らせた。


「な?!」


 雨……ではない、洪水とも言えない、巨大な水の雫が空から落ちてきて、その物量を持って俺達四人を地面に這いつくばらせた。


 ◇


「びちゃびちゃだ」

「ビチャビチャですね」


 レティがハンカチをさし出すが、どうにかなるものでもない。

 リデルもルイーゼもマリオンも変わらない。

 でもまぁ、鍛錬で火照った体には心地よくも思えた。


「アキトにはまたやられたよ」

「リデルにはもう敵わない気がする」

「次は同じ手を食わないと言いたいところだけれど、連続で使われると、アレンジ幅が多くて難しいところだね」


 使わないことがフェイントにもなるか。覚えておこう。


「それに、今日は良いように誘われたしね。あそこにレティの魔法が来るのを見ている余裕はなかったよ」

「ごめんなさいお兄様」

「いや、良い魔法だったよ」

「あそこでリデルの動きを封じてくれたのは大きかったな」


 おかげで考えをまとめきれたようなものだ。


「そういえばレティ、最後の魔法だけれど、あの雨粒のまま維持することは出来るのか?」

「どうでしょうか、やってみますね」


 レティの魔法で再び巨大な雨粒が発生したが、今度は地面の上だ。一応崩れることなく、雨粒の状態を維持している。

 レティは射出位置と射出方向を制御する特訓を中心に行っていたが、これはどちらとも言えないな。

 

「面白いな」


 レティは魔法の制御に集中しているようで、答える余裕が無いようだ。

 俺は濡れた機会とばかりにその水玉の中に飛び込む……泳げる。

 はたから見れば水槽の中を泳ぎまわっているようなものだ、マリオンが呆れている。

 そういえばマリオンは泳げなかったはずだ。

 俺はマリオンの腕を取り、水玉の中に引っ張り込む。


「えっ、いや」

「大丈夫、足がつくから」

「ま、まって離さないで」

「あ、こらしがみつくのはまずい!」


 うががあぶぶぶぼっぼお。


 バシャア!


 レティの集中が切れたのか、水玉が弾け、俺とマリオンが地面に投げ出される。しがみつくマリオンの胸があたって幸せを感じるな。


「もぉ、もぉ」


 胸をぽかぽか叩いて不平不満をぶつけてくる姿も可愛い……ちょっとひどかったか。


「ごめん、ちょっと楽しかったから、泳ぐ特訓でもしようかと」

「そういうのは、心構えが必要なの!」


 確かに。

 もう一度謝って、頭を撫でて許してもらう。


 ◇


「レティ、なかなか楽しい魔法だった。今度はみんなで水浴びでもしよう」

「えぇ~」


 さすがに唱えている本人が水浴びをするのは難しいからな。不満もあるだろう、だがこの世界は民主主――世界は違うか。俺のパーティーだな。


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