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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第一部 第一章 冒険者編
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初めての魔物

2016.01.03

魔人族の説明を修正。

魔力特化から魔力物理双方特化としました。

 グリモアの町を出て一時間ほど南に歩いた所でカシュオンの森が見えてきた。もうそろそろ魔物の生息地帯だ。

 俺がこの世界に来た時にいた森がカシュオンの森だったらしい。

 カシュオンの森は魔巣だったらしく、あの時、森に入る選択をしていたら危険なだけでは済まなかったかもしれない。


 魔巣というのは、魔断層と言われる魔力の源を中心とした魔物の生存圏のことだ。

 魔物は基本的に魔巣から離れる事は無く、そういう意味では人類にとって魔物は脅威とも言えなかった。


「そろそろ魔物に注意していこう。

 基本的にこの辺までは出てこないはずだけど、偶に逃げ出した冒険者を追って出てくる事があるから」


 聞いた事がある。魔物が魔巣から離れる要因の一つだ。

 他にも魔巣から魔巣に移動する魔物がいるとも聞いていた。


「アキトは魔物が初めてだよね。

 ここら辺には牙狼(がろう)が多く生息している。狼が魔力を吸って魔物になったと言われているね。

 この辺にいる魔物としては弱い方でランクFになるけど、群れで活動する事があるからランクFの割には注意が必要なんだ。

 普通の狼より少し大きいのが普通で、中には子牛くらいの大きさの牙狼(がろう)もいる」


 ただの狼が三匹でも死に掛けたんだが。


「それは戦う前に無理って感じなんだけど」

「魔物は強力な個体ほど魔巣の中心に生息しているから、この辺には出てこないのでそれは心配しなくても良い」


 魔巣は中心ほど魔力濃度が高く、魔物は強くなるほどより強い魔力を求める傾向があるらしい。だから魔巣から離れるほど魔物としては弱くなり、ある一定距離以上は離れない。


「右の倒木の向こう、牙狼(がろう)だ」


 長さ一〇メートルほどの倒木があり、その向こう側に身を縮めるようにして忍び寄ってくる牙狼(がろう)の姿が見えた。


「僕が前に出て挑発する、隙を突いて魔法を頼む!」


 こちらが気付いた事がわかったのか、目が合った瞬間にダッシュして倒木に飛び乗り、それを踏み台にしてさらにジャンプしてくる。

 リデルは飛びかかって来た牙狼(がろう)の攻撃をきっちりと盾で受け止め、そのまま盾を払うようにして牙狼(がろう)との距離を取る。


 俺はと言うと、牙狼(がろう)の早さにビビっていた。

 幸いにして一メートルくらいのサイズだったが一メートルとは言ってもドーベルマンに飛びかかってこられるような物だ、思ったより心の準備が出来ていなかった。


 それでもリデルがきちんと牙狼(がろう)の初手を防いでくれた事でなんとか状況が理解出来た。まだ心臓がバクバク言っているが大丈夫だ。

 アドレナリンパワーでやる気を奮い立たせる。


「実は魔法の射程が五メートルくらいなんだ」

「わかった、動きを止めてみる!」


 リデルは牙狼(がろう)の攻撃を盾で受け、隙を見て剣を振る。

 何度かの攻防で牙狼(がろう)の肩口に剣が刺さりその動きが緩慢になるのがわかった。


「狙う!」


 左手に魔力を貯めて待機していた状態から一気に魔力を解き放つ。狙いは頭から首、砕けろっ!


 ドンッ! と言う音とともに牙狼(がろう)の顔が跳ね上がる、そこに出来た隙を見逃さずにリデルの剣が喉を貫いた。

 リデルのどこが初心者だって?

 いくら俺が剣の素人だと言っても、今の動きは嘘だと分かるぞ。


「お見事」

「アキトが隙を作ってくれたおかげさ。それに、自信がなさそうだったのに無詠唱で魔法を使うとは思わなかったよ」

「苦肉の策なんだ。魔法具は買えない、魔声門は習えない、後はもう無詠唱しか無いって感じで。使える魔法も今の一個だけだ」

「僕達の年齢で一つとは言え無詠唱魔法が使えるだけでも凄い事だけれどね。僕も魔法は練習しているけれど、無詠唱は無理だね」

「どうせならお金の沸く魔法の方が良かったな」

牙狼(がろう)は素材として売れるのは毛皮だけなんだ。肉は固くて美味しくないし、血や骨も使えない。でも、牙狼(がろう)に慣れれば一角猪とかが丁度良い稼ぎになるはずだよ」


 リデルはそう言うと短剣を使って器用に牙狼(がろう)の毛皮を剥ぎ始めた。

 見ているだけでもなかなか辛い物がある。初めて大足兎の毛皮を剥いだ時は吐いた。これも必要な事と割り切らないと冒険者としてはやっていけないだろう。


「次は俺がやるよ」


 リデルは思案していたが「わかった」と答えた。

 やってあげるだけが優しさじゃ無いとわかっているようだ。相変わらずイケメンだな。


 ◇


「もう、魔力が切れそうだ」

「七匹狩れたし、十分じゃ無いかな」

「これでいくらくらい稼げたと思う?」

「そうだね……牙狼(がろう)の毛皮は一枚あたり銅貨で二〇枚、魔石は一個あたり同じく二〇枚かな」


 大足兎は毛皮と肉を合わせて一匹あたり銅貨一〇枚だ、単純計算で四倍になる。

 一人じゃ倒せないからその半分の二倍か。慎重になる分、狩るペースも下がるからさらにその半分で……あれれ、効率は一緒くらいか。


「いちおう合計で銅貨二八〇枚、図々しくも山分けさせてもらって銅貨一四〇枚。

 大足兎よりは全然良いけれど、魔力切れで時間はあっても狩りを続けられない。

 やっぱり俺も剣を使えた方が良いな」

「図々しく無いさ。一緒に狩りをしたのだから、半分は正当な権利だよ。

 魔石は保管が効くし嵩張らないから、変に大物の肉を売るよりは時間効率が良いよ。

 それに魔物を狩ればランクが上がるからね」


 ならば同じ効率でも牙狼(がろう)を狩る意味はあったな。ランクが上がれば報酬の良い仕事を受けられるのだから。


 ◇


 今日は魔力切れの為に、時間に余裕があっても継続的に戦う事が出来ない問題が発生した。

 今のところ魔弾(マジック・アロー)を一五発も打つと魔力切れになる。牙狼(がろう)の足を止めるほどの強さで打つと一〇発が限界だ。普通の狼より格段に耐久性が高いようだ。


 そこで俺はリデルに片手剣を借りていた。魔力が切れても継続的に戦闘を行う事が出来るように、武器が使える必要があった。

 前に拝借した剣を使っていた時は、殆ど鈍器みたいな使い方しか出来なかったので振り方の基礎だけでも習う必要がある。


「思ったより重いな」

「軽く作ると攻撃力と耐久性が下がるからね。女性の冒険者は剣より槍や弓を使う人が多いのも筋力の問題だね。特に人間族の女性は比較的筋力が弱い方だと言われている」


 まぁ、同じ体格なら女性より男性の方が筋力はあるだろうな。もっとも女性でも鍛えれば男性より筋力のある人だって多いと思うが。


「他の種族は人間族より筋力が高いのかな?」

「種族特性というのが正しいのか分からないし例外もある。

 一般的に言われているのは、獣人族は力が強く体が丈夫で俊敏性もある。代わりに魔法を使う獣人族は殆どいないね。


 魔人族は逆に魔力が強く、物理的な強さも人間族を上回る。特に戦うことに特化した種族は魔物と違って知恵もあり危険な相手になる。


 亜人族は種類が多くて今の例には収まらない。物理的な強さに寄っていたり魔法的な強さに寄っていたりで、前者はドワーフとかで後者はエルフとか。


 人間族は種族全体で見れば特出した能力が無いと言われている。ただし、魔法や剣技が得意で異種族間で戦う事になっても極端に不利という事は無い」


 なるほど、日本にいた頃のマンガやラノベのイメージとあまり変わらないな。ここでズレが大きいと初見でミスしそうだったが違いが無くて良かった。


「人間族の女性の場合、一般論で言うなら剣の腕を伸ばすより魔法の技術を伸ばした方が良いと言われている。

 例外を除いて女性の騎士はいないし、冒険者でも女性は前衛よりは後衛、せいぜい中衛という感じだね」

「例外はあるんだ」

「一五〇年くらい前の戦争でリタ・カルヴァーナという女性が、劣勢だった王国軍を救うべく私兵を率いて戦争に参加したんだ。その戦争で敵軍の一角を崩して、それが反撃の切っ掛けになったと言われている。


 リタ・カルヴァーナがその戦の勝利に大きく貢献した事に満足した国王の一言で、女性騎士団を作りその初代団長としてリタ・カルヴァーナが選ばれたんだ。


 でもリタ・カルヴァーナはそれを望まなかった。結局、不敬罪として命は取られなかったにせよ報酬も無く地元に返されたらしい」

「何故望まなかったんだろう」

「リタ・カルヴァーナは貴族だけれど黒髪だったんだ。

 女性騎士団とは言え、殆どは貴族の淑女の集まりだったからね。黒髪を持つリタが団長では上手くいかないと考えていたらしい。


 リタ・カルヴァーナが不在でも女性騎士団は設立。

 しかしリタ・カルヴァーナに軍事的才能があっただけで、女性騎士団その物が強かった訳じゃ無いから次の戦で多大な犠牲が出てね、今でも女性騎士団自体は残っているけれど形式的な物と言われている。

 リタ・カルヴァーナは死ぬまで自分の選択が正しかったのか自分に問い続けたらしい」


 一を見て全と思うなって事だろうけれど、リタ・カルヴァーナの苦悩も伺える話だ。自分が特出していた事で無駄な犠牲を出す事になったのだから。いくら自分が参加しなかったとはいえ、結果を見れば自分のせいと思いたくなるだろう。

 それにしてもリゼットも黒髪でコンプレックスを持っていたが、リタ・カルヴァーナも同じ悩みを持っていた訳か。


 俺はリデルの指導を受けて、なんとか自身を傷つけない程度には剣を振れるようになった。しかし、体格差があるとは言えリデルに比べてとにかく非力だと感じた。

 リデルは俺より一〇センチほど背が高いが、がっちりとした体型では無くどちらかと言えばスマートだ。俺がもやしっ子なのだろう。まずは筋トレが必要か。


「これは基本的な体作りが必要だとおもう」

「そうだね。覚えは早いと思うから体を鍛えれば牙狼(がろう)くらいは早い内に相手出来るようになると思うよ。

 後は流石に防具無しでは厳しいと思うから、最低限の装備を揃える必要があるね」

「そうだよなぁ」


 現状、牙狼(がろう)を狩る事が出来たのはリデルが盾役をしていてくれたからだ。一人で牙狼(がろう)を倒すのは難しいだろう。


 旅費の資金を集める為の効率としては、牙狼(がろう)を二人で狩るのも大足兎を一人で狩るのと変わらない事はわかった。

 大きな違いはランクが上がるかどうかだ。ただ、この先を考えてもランクは上げておいた方が良い。

 牙狼(がろう)を狩るのであればリデルの助けが必要だ。


「今のところ目的があって行動している訳じゃ無いから、良かったら明日も一緒してくれると僕も助かる」


 俺の躊躇(ためら)いを見越すような助け船。イケメンはだからイケメンなのか。


「ここは甘えさせてもらおうかな」

「問題ないよ、僕も色々学ぶ事も多いから」


 結局、リデルの言葉に甘える事にした。

 現在の優先事項はリザナン東部都市までの旅費の確保だ。リデルに作った借りはリゼットの問題が片付いてから返そう。


 今は何とか旅費を稼いで、可能であれば武器や防具の購入が出来れば良い。幸いリデルが予備の片手剣を貸してくれるというので、多少は狩れる数も増えてくるだろう。

 取り敢えず明日からやる事は決まった。

 後は宿に戻ってリゼットに手紙を送ろう。



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