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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第一部 第二章 王都編
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再び王都に向けて

 今日は、今回の旅行で行う狩りの最終日だ。明日はこの街を立ち、王都に戻る。

 そして朝の鍛錬で一番の興味どころはマリオンが昨日、黒豹を倒すのに使った技だ。


「教えられたとおりに魔弾(マジック・アロー)を撃っただけだわ」


 そうか、教えたとおりに魔弾(マジック・アロー)を撃っただけか。

 なるほど、わからん。

 

「マリオンもう一度使って見せてくれ」


 俺は魔力感知(センス・マジック)に集中し、マリオンが使う技を魔力の流れ面から観察する。

 マリオンの魔力が両腕に集まる……ここまでは魔弾(マジック・アロー)魔槍(マジック・スピア)と同じ流れだ。

 そこから剣を振り上げ……特に変わったところはない。

 鋭く振り下ろされると同時に魔力が剣を駆け抜け、剣の先からカマイタチのような鋭さを持った魔力が放出された。


 なんだと?!


 俺は魔弾(マジック・アロー)を左手から撃っていた。

 その時、アレンジをすることで魔槍(マジック・スピア)魔波(マジック・ウェーブ)と言った魔法を使う。つまり、魔力そのものは形を制御できる。

 マリオンが制御した形が剣のように鋭いものだったのだろう。それを剣の刃の延長として意識することで、魔力制御のイメージを掴みやすくしたと考えられる。


「ちょっと俺もやってみる」


 俺は右手に魔力を集め、右手から魔弾(マジック・アロー)を打ち出すイメージで剣に魔力を流しこむ。そして、剣を振ると同時に刃の延長として射出するよう魔力を制御する。

 

 シュン!


 同じくカマイタチの様に形を変えた鋭い魔力が五メートル先の石壁を五〇センチに渡り(えぐ)っていた。深さも五センチほどあり、十分に殺傷力がありそうだ。

 俺は自分で魔力の制御を行い魔弾(マジック・アロー)魔槍(マジック・スピア)といった形をとっていたが、その形を剣の形状がやってくれるようだ。逆に言うと剣の形状に固定されてしまうが、右手と左手を使い分けることでその辺は対処できる。


「すばらしいなマリオン、でかした!」

「べ、別に大したことないわ。教えられたことをやっているだけだから。それに直ぐ同じことが出来たじゃない」


 いや、確かに答えが分かってしまえばそうだが。その発想の転換が俺には出来なかった。


「僕もその発想はなかったね」


 リデルは攻撃面より防御面に特化して能力を鍛えていた。だから無属性攻撃魔法は教えていないので、気付かなくても不思議はないだろう。

 でも魔弾(マジック・アロー)を中心とした攻撃を使う俺が気付かないとか大丈夫か。


「とりあえず、これは練習しがいがあるとして、ただ、ちょっと危険な魔法でもあるな。射線上に味方がいないことに注意して使う必要がある」

「わたしはせいぜい剣先が幾らか伸びる程度よ。あんな先の石壁に当てるなんって想像もつかないわ」

「そこだけは先人の技と言う事で俺の凄さを思い知るがいい」

「十分感じているわ」


 少し呆れ気味だったが、全部で負けていなくて良かった。


 ◇


 鍛錬を終え、いつものように迷宮に向かうと、そこにはライナスとリニアが待っていた。


「リデル様。いつも今頃来られるということでしたのでお待ちしておりました。

 先日は兄を助けて頂いてありがとうございます。指名依頼ということで今回は報酬をお持ちしました」


 そう言ってリニアがリデルに蝋で封印された手紙を渡す。冒険者ギルドに持っていけば報酬が支払われる事になっている。

 直接頼んだとしても、冒険者に頼んだ場合はギルドを通す必要があった。これはいわば税金をとるための処置だ。


「ありがとう、使わせていただくよ」

「ヴァルディス士爵、この間の事は俺もルーファスも感謝している。

 俺達は同じような歳の君たちが、あれだけの技量を持って魔物を倒しているの見て、自分たちが不甲斐なく思えたんだ。

 だがそんな自分が許せず、やれば出来るということを証明したかった。結果はご存知のとおりだ。

 俺とルーファスが己の技量をわきまえず無理をしたことで、三人の兵士を死に追いやったことについては深く反省している。三人の家族にも謝罪も込めて相応の対応をさせてもらった。


 君たちは王都学園に入るのだろう。

 向こうで会えるのが楽しみだ」


「こちらこそ、楽しみです。ライナス様」


 ライナスが差し出す手をリデルが取り握手を交わす。

 リニアは少し名残惜しそうにしていたが、転移門が発動し、俺達は瞬時に迷宮へと降り立った。


 ◇


 しばらく魔物の大量発生などで、浅瀬では他の冒険者を見かけることが少なかったが、ここ二日ほど連続で行われた魔物討伐のおかげか、浅瀬にも冒険者が戻っているようだ。


 今日はあちらこちらで戦いの喧騒を見かける。

 一応マナーもあるので、戦闘中のパーティーは迂回しているが、狭い事もありどうしても近くを通る必要もあった。


 今は、通り抜けることすらままならない狭い通路上で戦っているパーティーがいるため、少し離れて待機している。


 パーティーが戦っているのは羽刃蝙蝠(カッター・バット)だ。三匹ほど同時に相手にしているが、守りはしっかりしているので早々に倒せるだろう。

 それよりも俺達は魔力感知(センス・マジック)に引っかかった一匹の魔物に集中する。俺達の後方から来るところを見ると、どこかの枝道からやってきたのだろう。


「そろそろ見えてもいい頃なんだけどな」


 いくら暗いと言っても魔物はもう二〇メートル近くまで迫っている、見えてもおかしくなかった。かなり小さいのか。

 魔物は更に近づいてくる、既に距離は一〇メートルを切っている。


「最大の警戒を! 敵が見えない可能性がある!」


 パーティーに緊張が伝わる。

 魔物は既に接敵していてもおかしくないが姿を表さ――


「キャア!」

「マリオン!」


 魔物は頭上から迫っていた。

 天井に張り付き、這いずるように進んできた魔物はゼリー状の体から触手のように手を伸ばし、マリオンを捉えていた。


 マリオンは藻掻くが、まるで空を切る用で埒が明かない。


「いやっ、ちょっと、だめぇ!」


 けしからん! ぷんぷん! 俺のマリオンになんて事をするんだ!

 マリオンは宙吊りであられもない格好をさせられていた。

 マンガやラノベなら衣類が溶け落ちるところだが、流石にそんなことはないようだ。あってもさせないが。


 俺は早速、魔刃(マジック・ブレード)を使いマリオンを捉えていたゼリー状の触手を断ち切る。落ちてくるマリオンをお姫様抱っこで受け止め、切られてなおマリオンに取り付くスライムを魔波(マジック・ウェーブ)で吹き飛ばす。


「ありがとう……」


 しおらしいマリオンは新鮮でとても可愛らしいな。

 さて、残りのスライムもおしおきタイムだ。


「レティ、火矢(ファイア・アロー)を頼む」

「はい」


 レティの火矢(ファイア・アロー)が発動し、天井に張り付いた粘性生物(スライム)を焼きつくす。粘性生物(スライム)はなぜかよく燃えた。オイル系の成分でもあるのだろうか。


「あ、の。もう、大丈夫よ」


 俺はお姫様抱っこしていたマリオンを立たせ、汚れを払ってあげる。

 レティが若干羨ましそうに見ている気もしたが、そうそう粘性生物(スライム)に良い思いをさせるつもりもない。


 ◇


 俺達が粘性生物(スライム)を倒した頃、前のパーティーは羽刃蝙蝠(カッター・バット)を一匹倒していた。残り二匹だが、一人負傷したのか戦線を退いている。


 その一人が鞄から何かを取り出し、傷口にかけていた。

 あれは回復薬か。

 男の傷口が淡い光を放ち始め、それが収まると再び戦線に加わっていく。


「魔法薬だね。高価なものだけれど、命には変えられないから大体の冒険者は一つ二つ持ち歩いている」


 俺達のパーティーではルイーゼが奇跡を、リデルが自己治癒(セルフ・キュア)を、俺が自己治癒(セルフ・キュア)他人に(・・・)自己治癒が使える。それでも、備えとしてはあった方がいいだろうか。

 女神様は気まぐれというしな、戦闘後に魔力不足で自己治癒(セルフ・キュア)が使えませんでしたという事も想定しておくか。


≪確かに万人の願いを叶えられるわけではないけれど、それは受け手の問題なのにぃ≫


 程なくして二匹の羽刃蝙蝠(カッター・バット)も倒され、再び一人が怪我を負っていたが、大事はなさそうだ。


 俺達はそのパーティーに挨拶し、横を抜け、先の広間に出る。

 そこは横五〇メートル奥行きが一〇〇メートルほどある大きな空間になっていて、一〇組近いパーティーがそこで魔物と戦っていた。


 それぞれが一匹の魔物を多人数で迎え撃っているようだ。たまに戦闘中に絡んできた魔物は、手の空いたパーティーが引き連れて行き、お互いをカバーしあっている。


 魔物のランク的にはFが多めでEが混ざっている感じだろうか。序盤最強という話の黒豹を相手にしているパーティーは若干苦戦しているようだ。

 助けに入るのはマナー違反なのだろうか。


 俺はそのパーティーが警戒しない程度まで近づき、助けが必要か声を掛ける。

 答えは否だった。

 それ以上は逆に邪魔になるだろうから任せることにして、俺達は別のパーティーに絡んでいた魔物を相手にする。


「助かる!」

「お互い様さ!」


 魔物は甲冑芋虫だ。相性のいいルイーゼに任せる事にした。

 ルイーゼは甲冑芋虫に駆け寄ると盾でその頭を跳ね上げ、空いた胴に強烈なメイスの一撃を繰り出す。

 堪らずに身をかがめる甲冑芋虫の頭に追撃の一撃を与え、倒す。


 同じく隣で甲冑芋虫を相手にしていたパーティーがルイーゼの戦いに目を見開いていたが、直ぐに気を取り直して目の前の甲冑芋虫の相手を始めた。


 ルイーゼが戦っている間に絡んできた羽刃蝙蝠(カッター・バット)は、レティが水波舞流(ウォーター・フロウ)で撃ち落とし、リデルが止めを刺す。


「うわぁ!」


 声が上がった方では、黒豹を相手していたパーティーが崩れ、その黒豹が隣のパーティーに襲いかかっていた。

 放って置くとどんどん崩れて部屋全体に被害が波及しそうだ。


「マリオン、黒豹を頼む」

「わかったわ!」


 マリオンは一直線に黒豹に迫り、その勢いを乗せた一撃でもって黒豹を真っ二つにする。黒豹がいくら素早くても不意を付かれれば、マリオンの攻撃を躱せないようだ。それだけマリオンの攻撃にスピードも乗っていた。

 身体強化(ストレングス・ボディ)を組み合わせたマリオンの居合い斬りのような一撃は、固い外皮を持たない魔物には有効だな。


 その後もしばらくその空間のバランサー的な立ち位置で狩りを終え、みんなに挨拶をして本日の狩りを終了とした。

 結局オレとリデルはほとんど何もしていない。状況を見て判断し、的確なところに的確な人材を配置しただけだった。


 ルイーゼ、マリオン、レティの組み合わせは相性が良かった。攻守にバランスの良い三人パーティーだ。俺やリデルがいなくても余程のことがない限り安全といえる。


 ◇


「それじゃ、無事に迷宮での狩りを予定通り終えた事と、マリオンのランクがDに、レティのランクがEに上がった事に乾杯!」

「乾杯!」「乾杯!」「乾杯!」「乾杯!」 


「今回の迷宮ではルイーゼとマリオン、それにレティの成長が見られてとても良かった。

 女の子には厳しい内容だと思っていたけれど、俺とリデルの鍛錬に根を上げず良くついてきてくれたと思う。

 その努力が成果として現れていることが俺は嬉しい」

「アキト様のお陰です」

「がんばったからご褒美が欲しいわ」

「わかった、それじゃ三に――」

「二人でお願いします」「ふたりで!」


 ルイーゼとマリオンが顔を合わせて笑い合う。

 良いじゃないか、楽しそうで。俺も二人が楽しそうで何よりだ。


 モモが膝の上から俺にしがみついて来た。珍しくモモも甘えモードのようだ。モモはみんなと話せないからな、少し寂しいのかもしれない。食事が終わったらかまってあげることを約束したら、ごきげんになった。


 ◇


「私、自分では魔法しか無いと思って、努力していたつもりでした。

 でも、皆さんの努力には遠く及びません。先生には素質があると言われながらも、私はその言葉を信じ切れずに努力を怠っていました。

 皆さんを見ていると、私はなんて諦めが早かったのだろうと思い、恥を感じます。

 アキトさん、これからもご指導の程よろしくお願い致します」

「アキトが良ければ、正式に魔法の家庭教師として報酬を支払うよ」


 報酬か、そういう仕事もあるな。何も迷宮に潜るだけが仕事でもない。


「報酬はともかく、俺が教えられることを教えるのは構わないさ」

「ありがとうございます!」


 その後も他愛もない話で盛り上がり、久しぶりにゆっくりとした食事を取ることが出来た。


 ◇


 町外れの草原に寝転がり、久しぶりにモモと二人で過ごしている。

 今日は満天の星空で明かりがなくても外を歩くのは余裕だった。元の世界よりは大きく青白い月が太陽の光を反射して輝いて見える。あの月には水か何か光を反射しやすいものがあるようだ。


 そしてモモは俺の周りを飛び回っていた。

 飛び始めた時はびっくりしたが、むしろ精霊なら飛ぶくらい普通なのかもしれない。

 いつになくごきげんなモモにはタップリと魔力をおすそ分けだ。

 なにか良いことでもあったのか、聞いてもモモはとても可愛い笑顔を見せるだけだ。


 食事中のちょっと寂しく甘えた顔はすでに無くなっている。


 あぁ、なんか俺は結構幸せなのかもしれない。

 大切な仲間がいて、みんなが笑顔で過ごせて、それをいつまでも見ていられる。


 元の世界には家族がいるけれど、俺にはこの世界で出来た仲間も家族みたいなものだ。もしどちらかを選択しなくてはいけなくなったら、俺は俺の作った家族を選ぼう。


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