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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第一部 第二章 王都編
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狩りと鍛錬の日々・4

 翌日、朝の鍛錬を終えた俺達は装備屋に来ていた。

 噛切虫との戦いでルイーゼの盾が使い物にならなくなっていたからだ。

 噛切虫はランクEの魔物だが、冒険者には嫌われているようだ。理由はルイーゼの盾と同じで、防具なり武器なりを駄目にされる事が多いかららしい。要は倒すのにお金がかかるということだ。


 とは言え、必ず避けて通れるとも限らないので、噛切虫に耐えられるだけの盾を用意したいところだ。

 リデルの盾は噛切虫の攻撃に耐えられたらしいので、鉄製の盾を俺が魔力で変異させれば良いだろう。今までの可愛らしい円盾もルイーゼには似合っていたが、今回はリデルと同じく半身を隠せる程度に大きい物にする。


 ただ、どうしても重みが出てしまう。今までの盾の三倍位は重くなるはずだ、持った感じ五キロほどある。武器に防具と合わせて一〇キロ弱か……ルイーゼの体重は四〇キロちょっと位だろう。

 どうなんだこれは?


「アキト様が選んでくださったものであれば安心です」


 ルイーゼはその盾を軽く振り回していた。

 どうなんだそれは?

 いや、まぁ身体強化(ストレングス・ボディ)の副作用で筋力が付くのは分かっていたが、身長が一五〇センチほどの女の子が大きい盾を振り回すのはすごい違和感だ。


「問題なさそうか?」

「はい、問題ありません。いざとなれば魔法もありますから」


 ルイーゼは身体強化(ストレングス・ボディ)が使える。そしてパーティーでもずば抜けて魔力量が多い。豊富な魔力量と普段から息をするくらい自然に身体強化(ストレングス・ボディ)を使う練習をしている。

 とっさの時に重さが問題になることもないか。

 それにしてもルイーゼの魔力量も増え続けているな。俺も魔力量は多いが消費効率が悪いので、ルイーゼにはかなわない。


「それじゃ今日はルイーゼが前衛で改装した装備の慣しをしよう」

「はいっ!」


 気合充分だな。

 まだその盾は魔力強化していないから程々にな。


 ◇


 ガシッ!


 ルイーゼの盾が甲冑芋虫の横っ面を殴りつける。頭を強く打たれた甲冑芋虫は脳震盪を起し、動きが止まったところへ、今度はメイスが打ち込まれる。


 二発だ。

 木の盾を補強しただけではこうは行かなかった。軽いから打撃力もないし、無理に叩けば壊れるだけだ。

 鉄の盾は防御力だけでなく、打撃力も上がっている。単純に質量をぶつけるだけだが、侮れない威力だ。


「ルイーゼさん、お強いのですね」

「はい、アキト様に購入していただいた盾のお陰です」


 いや、盾は使いこなしてこそだ。

 ルイーゼにはいつも攻撃より防御を優先的に指示してきた。それにより蓄積された技術と、小さな体を隠すほどの大きな盾、それを苦もなく扱えるだけの力。もう立派に盾役を任せられるだろう。

 そして何より、前に出る度胸が着いた。度胸というか、俺が言うとそれは大丈夫な事だと信じている危ない傾向を感じるが。


「次、行きます!」


 今度は甲冑芋虫の突進を受け止め、反撃をしていた。

 前は猪の突進を受け止めただけで転がって何処かへ行ってしまったのに、今は力をいなすことも覚えている。

 正直俺が盾を持ったところでルイーゼのようには行かないだろう。結局のところ戦いは経験だ。攻撃を避けることを優先している俺には経験でルイーゼにはかなわない。


 ゴフッ!


 ルイーゼのメイスが甲冑芋虫の頭を下から跳ね上げる。上体を大きく伸ばした甲冑芋虫はそのまま倒れ動かなくなった。

 ルイーゼ無双伝説、今ここに始まる。


「ルイーゼ、盾が問題ないのは分かった。今度はマリオンの番だ」

「はい」

「わかったわ!」


 ルイーゼの戦いを見てかマリオンも張り切っている。

 マリオンの武器はトリテアの町で買った短めのバスタードソードだ。変わったのはちょくちょく魔力を流して変異させ、普通の鉄製に比べれば丈夫になったくらいか。その分、刃を鋭く研ぎ直しているので、切れ味は上がっているはずだ。

 その剣を両手で持ち、盾を持たないスタイルは俺と同じで、基本は敵の攻撃を躱し、隙を付いて攻撃だ。


 ただ、やはり甲冑芋虫と剣は相性が悪い。

 曲面のある外皮は剣の刃が滑り、斬る突くも受け付けない。トリテアの森では冒険者泣かせで相手にされない魔物だった。普通に考えれば鈍器に持ち変えることで、身体強化(ストレングス・ボディ)も相まって甲冑芋虫を倒すことは可能だろう。


 だがマリオンは剣にこだわっている。俺とリデルも複数の武器を習うより特化したほうが良いだろうということで、マリオンの意向を汲んだ。

 だからマリオンには剣以外にも、魔弾(マジック・アロー)を始めとした無属性攻撃魔法を教えている。


 マリオンは何度かの攻防を経て剣では埒が明かないと判断してか、甲冑芋虫の背後に回りこみ、そこから背中に飛び移る。

 そして、両足で甲冑芋虫を挟み込み下半身を固定した状態から、両手を甲冑芋虫の頭部に押し当てた。

 俺が甲冑芋虫を倒す時にやる魔槍(マジック・スピア)の体勢だ。俺は何度か狩りの中でやり方を見せているが、マリオンが実際に行うのはこれが初めてだろう。


 マリオンが魔槍(マジック・スピア)の態勢に入ってからしばらくして、甲冑芋虫が大きく身を捩り、マリオンを振り落とす。実戦の中で魔力を力として発動するにはまだ速度が足りないようだ。

 マリオンは軽く受け身を取りながらも地面を転がっていく。ただ、剣は手放していなかった。前ならたやすく剣を手放していたが、大分意識するようになったようだ。


 再び剣で甲冑芋虫と相対する形になったマリオンだが、そろそろ体力の限界だろう。


「マリオン下がれ。次はレティ」

「はい」


 マリオンは悔しそうだが、仕方がない。魔物には相性がある。今のマリオンの手持ちの技では倒せなかっただけだ。


「マリオン、気落ちしている暇はない。周りを警戒するのを忘れるな」

「わかったわ」


 レティは火属性の魔法を選んだようだ。五個の火の玉がレティの頭上に浮かび上がり、甲冑芋虫に向けて飛び出す。

 五個の火の玉の内、三個が甲冑芋虫に命中し炎で以って包み込む。甲冑芋虫は身を捩るようにしばらく暴れていたが、そのまま体を燃やしながら倒れる。

 やはり威力は高い。初級の火矢(ファイア・アロー)でも十分な攻撃力を持っている。そして遠距離魔法だ。魔術師の有無がパーティーの強さに繋がる訳だ。


「マリオン!」


 移動の早い魔物が三匹、魔力感知(センス・マジック)に引っかかる。マリオンの方向に向かっていた。


「動きが早い! リデル前に! ルイーゼはレティのサポートを!」


 リデルが直ぐに反応し、マリオンに並ぶ。

 合わせてルイーゼがレティの守りに付く。


 今日から俺が指示を出すことにしている。リデルと一緒に狩りへ出る回数も減りそうだからだ。


「レティ、魔法の準備を。初手は任せる」

「はい」


 通路の奥から赤い煌めきが六つ、高さは低い。足音からして犬かそれに似たたぐいの魔物。

 飛び出してきたのは、黒い豹のような魔物だ。体長は一,五メートル程で、牙大虎と同じ用に筋肉で隆起した四肢を持っていた。おそらくスピードは相当なものだろう。


「黒豹はランクEの魔物です。鼻が利き活動エリアが広いのが特徴です。攻撃は噛み付きと爪によるものですが、動きが早くルミナスの迷宮序盤では最強の魔物と言われています」


火矢(ファイア・アロー)


 レティの魔法が具現化し部屋に突入してきた三匹の黒豹に向かって飛び出す。

 しかし黒豹はその驚異的な移動速度で全弾を躱し距離を詰めて来た。


「そんな……」

「気落ちするのは後回しだ! しっかり守っていくぞ」

「了解」

「はいっ!」

「わかったわ」


 黒豹のスピードは牙大虎とそれほど大差はない。しかし、薄暗い部屋の中で黒い魔物は見失いやすかった。それが高速で移動するのは追いかけるだけでも厳しい。


「部屋の角を背にする!」


 背水の陣ではないが、この魔物から逃げるのはまず無理だ。縦横無尽に動き回られるのも辛い。魔物の攻撃角を絞り、リデルとルイーゼで抑える。


 リデルの魔法障壁(マジック・シールド)が発動し淡い光がリデルを包み込む。

 その光に誘われるようにして黒豹の一匹がリデルに飛びかかっていくが、それは魔法障壁(マジック・シールド)にぶつかり、リデルに届かない。しかし、リデルの攻撃もまた魔物に届かなかった。


 リデルはそれに気付いてか魔法障壁(マジック・シールド)を解除した。

 魔法は便利だが、結構小回りが利かないことが多いと感じる。

 レティも背後に控えている状況では魔法を使うのは難しい。魔法の発動位置と方向指定を出来るようにするのが今後の課題かもしれない。


 次はルイーゼが狙われた。

 一瞬でルイーゼに迫った黒豹が右の前足を振るう。ルイーゼはそれをしっかりと受け止め、黒豹を近づけさせない。


 ルイーゼを攻撃することで動きの止まった黒豹にマリオンが斬り掛かる。その剣は黒豹が伸ばした右前足を肘の辺りで断ち切った。

 片足を失いバランスを崩した黒豹が地面に転がるのと、ルイーゼのメイスが黒豹の頭を打ち砕くのは同時だ。


 一撃で頭部を打ち砕けるほど魔物は柔く無いはずだが、瞬時に身体強化(ストレングス・ボディ)を使っての攻撃は流石だな。俺達の中ではルイーゼが一番身体強化(ストレングス・ボディ)を使いこなしているだろう。


 その間リデルには二匹の黒豹が向かっていたが、時には盾で、時には魔法障壁(マジック・シールド)で攻撃を躱し、全く黒豹を寄せ付けていない。


 リデルの魔法障壁(マジック・シールド)に阻まれ攻めあぐねていた黒豹に再びマリオンが斬りかかる。

 マリオンの動きも早いが、黒豹の動きは更に早い。マリオンが上段から振り下ろした剣は黒豹がバックステップをした事で届かない。


 ブシャア!


 マリオンの攻撃を避けた黒豹が首のあたりから血を吹き出し、倒れる。

 

 何が起きた?

 

 マリオンは止まらず最後の黒豹に近づき、やはり剣の間合いの外から横殴りの一撃を放つ。

 黒豹は躱すでもなくマリオンに向けて距離を詰めようとダッシュをしたが急に力が抜けたように転倒する。そこに駆け寄ったマリオンが止めを刺した。


 ……。

 状況が掴めないのは俺だけじゃないようだ。


「それで、マリオンは何をやったんだ?」

魔弾(マジック・アロー)? わたしにはこの方が使いやすいわ」


 いやいや、どう見ても弾じゃない。イメージで言えば刃だ。マリオンの剣の延長沿いに魔力による刃が発生したイメージだ。言葉にするなら魔刃(マジック・ブレード)と言ったところか。


「まぁ、詳しくは後にするとして、正直みんなが俺より強くてびっくりだよ」

「そんなことありません!」

「わたしはまだまだね」


 ルイーゼは身体強化(ストレングス・ボディ)と防御を磨いてきた。マリオンは剣技と身体強化(ストレングス・ボディ)を磨いてきた。おれは色々と八方美人をやってきた。やっぱり何か一筋にやっていた方が良かったか。

 いや、今さらそれを言っても仕方がない。今後の課題にしよう。


 ◇


「今日の収入は銅貨で三,二五〇枚です。

 レティさんの分と経費? を差し引いて銅貨二,四五〇枚が純利? になります」


 パーティーでの収支管理役が俺からルイーゼに変わった。

 今日は俺とルイーゼとマリオンの三人が中心となって狩りをしている。一日でどの程度稼げるかを掴んでおく為だ。


 予想通り銅貨で二,〇〇〇枚は大丈夫そうだ。

 ただ、ここは王都から近いといっても半日はかかるので、狩りに使える時間が少ない。これ以上は難しいだろう。

 王都学園は週休二日制をとっているので、毎週狩りに出るならぎりぎり生活費に足りるが、余裕が無いのは辛いな。


「期の始まる前には二ヶ月の休みがあるから、そこで貯めるのがいいだろうね」


 二ヶ月も休みがあるのか。それだけあるなら実質四ヶ月分あればいいわけだから銀貨で三二〇枚、銅貨で三二,〇〇〇枚か。二ヶ月の休みの間に一六日狩りに出ればいい。これなら現実的だな。


 明後日はパレードに参加するため王都に戻る。その後は入園までに一ヶ月くらい時間が空くから、そこで集中的に稼いでしまえば毎週の狩りを気にしなくても良くなるな。


「僕も時間がとれる限り協力するよ。それにパーティー貯金も余っているだろう。それを使えばいい」

「私もです」

「最悪の場合、甘えさせてもらうよ」


 どうにもならなければ、最悪は魔剣を作って売ればいい。俺の鉄製の剣は銀貨三〇枚だったが、丈夫で刃毀れがし難くなった魔剣の状態で銀貨一二〇枚になる。一本作れば丁度一月の生活費になる。

 鉄は魔力の通りが悪く、作るのに二週間位掛かるが、二週間なら問題ない。


 ◇


 夜になってから俺はリゼットと念話をした。


『それで、プールと言うところへ行ってきたのですが。

 わたし水着というものがよく分からなくて、普段着で向かったのですが何故か皆さんその……大変薄着で』


 そうなのだ。この世界のけしからん事の一つに水着がなかった。

 リゼットも当然水着の知識はなく、プールも水浴びをするところという程度で準備をしていただろう。


『友だちに勧められた水着をその場で買うことになったのですが、あの、もうなんと言いますか、布の面積が……』


 だが、それがいい。


『皆さんに似あうとは言っていただけたのですが、さすがに上着を使わせていただきました』


 なんだと?!

 それはマナー違反だと教えておく。


『でも、とても楽しい一日でした。アキトさんはどうでしたか?』

「こっちも毎日変化があって楽しいよ。今日もパーティーのみんなが強くなっていて、頼もしい限りだった。俺も頑張らないとな」

『アキトさんらしいですね。

 あ、そういえば頼まれていたものを用意しました。そちらの食材で作れるものを選定しています』

「それは助かるな。ちょっとメモをとるから待ってくれ」


 俺は頼んでおいた料理のレシピをリゼットから聞き出す。

 いくつか頼んでいたが、こちらの世界では珍しい香辛料や代替の利かない物は省いてもらった。


 揚げ物や肉料理はあらかた希望が通ったけれど、醤油や味噌に絡むものは全滅だ。デザートも難しかった。ただ、カカオは手に入りそうなので、望みを捨てるのはやめよう。今あるもので作るならチーズ系だけだな。


 このレシピはルイーゼに預けると料理になるという不思議なものだ。

 俺は出来上がったレシピ集にノリノリで飾り付けを行い、無駄に魔粉で書いた文字に魔力を流しこむ。部屋が暗くても読める魔法のレシピ集の出来上がりだ。意味は無い。


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