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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第一部 第二章 王都編
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二人の行方

 俺達五人は迷宮を進んでいた。

 はじめはレティに残ってもらうつもりだったが、結局連れて行くことにした。

 リデルの提案で打撃抵抗の強い粘性生物(スライム)が出てきた時に、レティの魔法が必要だろうと判断したからだ。


 俺には昨日はじめて魔物と戦ったレティが、これから起こる事に対してどの程度耐えられるか分からなかった。

 起こる事とはもちろん魔物の戦いもそうだが、ライナスとルーファスの二人が無事という可能性が少なく、場合によっては酷い状況に遭遇する可能性があることだ。


 ルイーゼやマリオンは様々な惨状を見てきた。そして、覚悟もある。

 レティに耐えられるだろうか。もちろんそんな事にならないのが一番だが。


 ◇


 迷宮に入る前に、ライナスとルーファスの二人が戻っていないか確認したが、まだ戻っていなかった。

 二人を探しに四人組の兵士が迷宮に入ったと聞いた。その四人もまだ帰っておらず、現在は状況が掴めていない。


 ライナスとルーファスの二人が何処にいるのかが問題だ。困ったことに俺達は迷宮に詳しくない。下手に動きまわると二次災害を起こす可能性もあった。


 俺達が昨日迷宮に潜った時は奥に進むつもりがなかったので、通常ルートではなく横道に逸れていた。

 同じように横道に逸れて狩りをしていたライナス達五人に会えたのはある意味偶然といえよう。


 ルミナスの迷宮は発見されてからずいぶんと経つ。既に浅瀬は探索しつくされ、慣れた冒険者は脇道に逸れることなく奥を目指す。

 だから昨日のように、浅瀬の魔物が退治されずに群れをなすことがあった。


 ライナスが奥に進んだか、昨日と同じように脇道に逸れているかが問題だ。

 俺とリデルは脇道に逸れていると判断した。

 昨日ランクFの魔物に襲われ、命からがら逃げてきた状態だ。より強い魔物のいる奥へは進まないだろう。


 迷宮の中は魔物の討伐隊が出た為か、出会う魔物の個体数は少なかった。

 逆に少なすぎてより奥まで進んでいる可能性もある。


 ◇


 迷宮に入ってから既に三〇分が過ぎていた。

 魔物は殆どが羽刃蝙蝠(カッター・バット)だったが、薄暗い中で襲ってくるため普段より気を使う。俺は魔力感知(センス・マジック)に頼り、早めに魔物を見つけてはリデルに伝える。


 そうしてさらに三〇分ほど進んだところで微かに人の叫ぶような声が聞こえてきた。

 声は石造りの迷宮内を木霊しているため、正確な方向が分からない。

 ルミナスの迷宮は洞窟のように穴の中を進むのではなく、幾多もの部屋が通路で繋がる構造をしている。一つの部屋には複数の通路があり、声はそのどれかから聞こえてくる。


「アキト!」

「わからない!」


 俺の魔力感知(センス・マジック)はその感知エリアが伸びてはいるけれど、それでも一〇〇メートルほどだ。植物が無いため、ノイズ的な魔力がないから人や魔物は見つけやすいが、それでも一〇〇メートル以内にはいない感じだ。


 その時、モモが俺の手を取り一方向を指し示す。


「分かるのかモモ?」


 モモが真面目な顔で頷く。

 俺はその頭を撫でて感謝し、モモの指し示した方へ進む。


 ◇


「キャーッ!」


 レティが突然俺の胸に飛び込んできた。

 俺はレティの頭を押さえ、その視界に死体が入らないようにする。


 死体は二つ。共に詰め所にいた兵士と同じ装備をしている。ライナスとルーファスではない。

 別にライナスとルーファスは仲間でも友達でもない。今倒れている兵士が二人の無茶のために命を落としたのだとしたら憤りも感じる。


 だが足も止めてはいられない。

 まだ奥から争うような物音と悲鳴とも気合とも分からない声が聞こえていた。


「リデル近い、先の角を曲がった部屋だ!

 人は三人、魔物が二匹だ!」


 俺はリデルに分かった状況を伝える。


「マリオンは僕と一緒に、ルイーゼはレティの護衛を頼む」

「わかったわ!」

「はい!」


 俺はいつものように状況に応じて遊撃だ。


 ◇


 角を曲がり、視界に現れたのはライナスとルーファス、それに兵士が二人。兵士の一人は既に倒れ、動く気配がない。

 ライナスとルーファスも無事とは言いがたかった。

 ライナスは左腕を食いちぎられたのか上腕から血を流し、顔面が蒼白だった。

 ルーファスも両足が(ひしゃ)げ、立つことも出来ずに這いつくばり、必死に魔物から逃れようとしている。


 二匹の魔物は、一瞬黒い彗星の二つ名を持つあいつかと思ったが、よく見ると甲殻系の外皮を持っていた。

 俺の知識で一番近いのは黒いカミキリムシだ。六本の足を持ち、人の体くらいいともたやすく切断出来るハサミのように鋭い口先をしていた。外皮は硬い甲羅に見え、体長は胴体部で一,五メートルほどか。


 その二体は俺達に背を向け、ライナスとルーファス、それに残った一人の兵士を追い詰めていた。


「噛切虫です!

 ランクEの魔物で噛み付かれると鉄の鎧を着ていても無駄だそうです」


 ルイーゼの説明後、リデルが飛び出し敵愾向上(アナマーサティ・アップ)を使う。しかしすでに交戦状態にあるため、敵愾向上(アナマーサティ・アップ)の効果も低いようだ、二匹の魔物はリデルに気を散らす気配がない。


 マリオンが飛び出し、噛切虫の背中に向けてバスタードソードを上段から振り下ろすが、やはり外皮は硬いらしく弾かれて手を痺れさせただけだ。


 射角も悪く三人を巻きこんでしまう為にレティの魔法も使えない。

 精霊魔法はどうしても効果範囲が広いため、混戦になると手を出しにくい。


「飛び乗って魔槍(マジック・スピア)を使う!」


 甲冑芋虫の時に行った作戦だ。

 俺は噛切虫に飛び乗ると、その頭部に手を当てゼロ距離からの魔槍(マジック・スピア)を――不意に体が浮き上がり空中に投げ出されていた。

 頭から落ちるのを避けようとバランスをとっている中で、羽を広げた噛切虫の姿が目に入る。


 相も変わらず俺は考えが甘かった。

 元がカミキリムシなら羽があるに決っている。きちんと敵の特徴を考えればこれくらいは想定できただろう。迂闊過ぎる。


 俺は背中から地面に落ち、息を詰まらせる。受け身の練習も必要だな。


「アキト様!」


 ルイーゼの声に、半ば反射するように危険を察知し、横に転がる。

 先ほどまでいた所で噛切虫のハサミが噛み合わされていた。


「ルイーゼとマリオンはアキトのサポートに、レティは僕の後ろへ!」

「はい!」

「わかったわ!」


 リデルの指示で陣形を立て直す。

 俺が噛切虫の前に投げ飛ばされたことで、丁度ライナス達三人と噛切虫の間に入ることになった。躱すことが出来ない分、状況は悪くなっていた。


 噛切虫の頭部についたハサミが執拗に迫ってくるが、横合いからルイーゼのメイスによる一撃を受け、その刃先を逸らす。

 メイスによる攻撃は有効だった。噛切虫は頭部の殻が陥没し、そこから緑色の体液を流している。


 だが魔物はタフだ。矛先を俺からルイーゼに変えた魔物の刃がルイーゼの持つ盾をあっさりと噛み砕いた。ルイーゼの盾は木製で、その表面に鉄の板を貼り付けただけのものだ。とは言え、ほとんど抵抗らしい様子も見ずに噛み砕く力はやはり脅威だろう。


「ルイーゼ!」

「大丈夫です!」


 幸い盾を手放すことで、怪我はしていないようだ。

 盾を失った今、いつものようにルイーゼの防御を期待するのは無理だ。

 俺は次の手を考える。


 リデルを見れば噛切虫の左足を斬り落とし、噛切虫の動きを鈍らせていた。

 いつの間にか俺は一撃狙いの大雑把な戦い方をするようになっていたみたいだ。

 俺達はしっかり守り、相手の動きを止め、弱らせてから確実に仕留めるスタイルだったじゃないか。


「マリオン左足を狙え、ルイーゼは右を頼む!」

「わかったわ!」

「はいっ!」


 俺は噛切虫の頭部に魔弾(マジック・アロー)を打ち込み、魔物の気を引きつつ、その頭部についた刃を躱す。

 頭部への魔弾(マジック・アロー)は有効なようだ。甲冑芋虫と戦っていた頃は弾かれる感じで効果がなかったけれど、今は威力が上がったためか、魔弾(マジック・アロー)を打ち込むことで脳震盪のような状態を誘発している。次第に攻撃も弱々しくなり、躱すことも余裕になってくる。


 マリオンが数度目の攻撃で左側の一本の足を斬り落とし、ルイーゼのメイスが関節を叩き折っていた。


 動きの悪くなった噛切虫はもう敵ではなかった。

 俺の魔弾(マジック・アロー)とルイーゼのメイスで頭部へのダメージを蓄積し、マリオンの突きが砕けた外皮を貫いて噛切虫の頭部に突き刺さった。

 魔物はそのまま地面に突っ伏して動かなくなる。


 リデルの相手にしていた噛切虫も、上段から振り下ろされた魔剣の一撃で頭部を真っ二つにされるところだった。


 結局落ち着いて対処すればそれほど驚異的な魔物でもなかった。

 ひどい戦い方をしてしまったが、反省会は後回しだ。

 まずは倒れている二人が心配だ。


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