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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第一部 第二章 王都編
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魔法の鍛錬は気持ちいい?

「そこで力を抜いて……」

「はい」

「ゆっくり入れるから気を楽にして……」

「……」

「感じるか?」

「はい……」


 別にエロい展開ではない。


「今感じたのが魔力その物だ。この力をどれだけ正確に感じ取って、制御できるかが魔法の練度に繋がる。

 ゆっくりでいい、魔法を唱えてみて」


 レティが呪文を詠唱すると魔力が流れだす。


「わかるか?」

「わかります」


 俺はレティの魔力の流れを追い、淀みの部分を補正する。


「今のは?」

「わかります」


 魔力の補正をやめ、レティの制御のままに任せる。

 しばらくは淀みのない状態を維持していたが、だんだんと乱れていく。

 俺はレティの魔力制御が効いている内に補正を掛け、正しい状態をレティに伝えては、再びレティの制御に任せる事を繰り返す

 魔力を具現化せず制御だけを繰り返し練度を上げる訓練だ。

 やっていることは身体強化を教える時と余り変わらない。魔力の制御先を肉体にするか、魔法陣として形作るかの差だ。


 ん? ということは、俺もレティの作り上げる魔法陣のイメージを模写すれば魔法が使えるんじゃないか?


「レティ、そのまま魔法を発動してくれないか」

「はい」


 レティの魔力制御は淀みのない良い状態で、今なら魔法陣もわかりやすそうだ。


 魔力を具現化する為にはその変換を行う魔法陣が必要だ。

 魔法陣は意識下に描く必要がある。描いた魔法陣に合わせて魔力を流し込めば様々な事象として具現化する。


 魔法陣その物は先人たちにより図として記載された魔法書がある。

 難しいのは意識下の魔法陣に沿って万遍なく均等に魔力を流しこむことだ。ここでムラがあれば具現化される事象にもムラが現れ、魔法陣の形を作り出せなければ魔力を消耗するだけで事象として具現化することはない。


 呪文は魔法陣に対して魔力を流し込むために必要な魔力制御をサポートする役割がある。

 魔力制御が難しいのは例えるならば、手は力を込めれば動くと言っても、力を込めるとは何かと聞かれたら、どう説明すればいいのか分からないのと同じだ。

 この辺の感覚を教え伝えることが難しいのだと思う。

 そして呪文とは、その力を込める方法を説明したものだ。


 だから呪文の意味を自分なりに理解し、魔力制御と紐付けていく必要があり、自分なりの理解という曖昧さが難しさに繋がっている。

 おそらく素質が無いと魔法が使えないというのは、この辺の理解力が関わってくるのだと思う。なぜなら魔力その物は誰もが持っていて、魔力の制御自体も訓練で誰にでも出来る様になるのだから。


 俺がレティの魔力の淀みを修正しているのはいわば答えを教えているような物だ。

 だから、リデルは初めこそ魔声門による呪文の詠唱で魔法障壁(マジック・シールド)を具現化していたが、答えの分かる今は無詠唱でも具現化出来るようになっている。


 人によって呪文が違ったり短縮できたり無詠唱だったりする理由はこの答えにたどり着いたかどうかだ。

 答えが分かれば計算式を解かずに直接答えを書けばいい。それが無詠唱だ。


 俺達のパーティーで魔法を実際に使えるのはリデルだけで、リデルが使える魔法障壁(マジック・シールド)はリデルが自身で完成させている。俺は魔声門が分からないからその点について協力出来ることがないと思っていた。

 こんなオチならもっと早く魔法を具現化する事が出来たかもしれない。


 リゼットの教えでは魔法を使うために必要なことは三つ。

 それは素質・魔力量・魔封印の解呪だ。

 この中で問題になるのは魔封印の呪いが異世界人である俺に掛かっているのかということだ。それもレティのおかげではっきりしそうだ。


 俺はレティの魔力の流れを模写する。

 レティの魔力が淀みなく綺麗に制御され、魔法陣の形をとる。次に、そこから魔力が失われるように具現化されていく。


「水波舞流」


 大きな雨粒が現れ渦を描くようにまとまり、直径五〇センチほどの流水となり、五〇メートルほど離れた岩に当たり水しぶきを上げる。

 今朝方は三〇メートルほどしか飛ばなかったのに、魔力制御の補正を掛けて上げるだけで凄い上達だ。


「凄いです!

 魔力がスムーズに力へと変換されていく感覚があります。こんな事初めて……」


 確かに凄いが感心してもいられない。

 俺もレティと同じように魔力の制御を行う……同じように行う……行おうとしたが、魔力が乱れ、制御が定まらない。

 何度かトライするがやっぱりダメだった。

 これが俺の能力不足なのか魔封印の呪いの為かわからないが、今の俺には魔力を具現化することが出来ないということだけは分かった。


 いきなり魔法を具現化出来る様になるというのも都合のいい話だろう。

 しばらくは根気よく付き合っていくことにする。


「レティ、ありがとう。色々わかったよ、すごく助かった」

「え? わたし何かしましたか?」

「あぁ、魔法を教えてくれた」

「???」


 種明かしは俺が魔法を使えるようになってからにしよう。

 まだ色々間違えていることもあるかもしれないしな。


 ◇


 今日は探索二日目の予定だったが、俺が頭を打ったこともあり、迷宮に潜るのは止めることになっていた。


 その分、魔法の鍛錬に重点を置いている。久しぶりにパーティーメンバーとレティを合わせた四人と魔法の鍛錬を行ったので、精神的な疲れが大きい。

 俺は妙に疲れるのに、鍛錬を受けたメンバーはそんな様子を見せていないのはなぜか。

 俺の魔力使用効率が悪いことは分かっていることだが、原因はそれだけなのだろうか。


「なぁ、レティ。俺が魔力制御に介入している時ってどんな感じなんだ?」

「えっ、それは……その……」


 レティは顔を赤らめて俯いてしまった。なにやら恥ずかしいことがあるようだ。

 無理に聞くことも出来そうにない雰囲気なのでルイーゼに聞くことにした。


「……」


 ルイーゼも顔を赤らめて小さくなってしまった。なぜか?

 マリオンにも聞いてみる。


「気持ちがいいわ」


 気持ちがいいのか、それは良かった。気持ち悪いより何倍もマシだろう。

 マリオンはいつも清々しいくらいはっきりという。

 正直、わかりやすくて好印象だ。


「なるほど、悪いよりはマシだな。

 俺はどちらかというと悪くなるから、みんなが平気なら良かった」

「えっ、気持ち悪くなるの?」

「あぁ、でも直ぐ良くなるさ」


 心配そうな様子を見せたマリオンに平気だと答える。


 俺も怪我をした時などにルイーゼの回復魔法を受けることがあるけれど、あれは心温まる気持ちよさだった。怪我が治っていく為でもあるのだろうけれど、癒やされていく気分は格別だな。女神アルテア様の力は実に心地よい。


≪それは幸いです≫


 ◇


 鍛錬の後は街に出た。

 よく考えたら美しい街に来ているのに、その街に出掛けていなかった。今日の狩りは休みにした事だし、折角なので俺達は街に来ている。


 迷宮都市ルミナスはその都市自体が美しく、王都から近い事からも観光の名所になっているようだ。

 そして、この街の特色なのか、あちらこちらで楽器を片手に英雄譚を歌う歌い手を見掛けた。どうやら吟遊詩人という職業に当たるらしい。その美しい声で歌と物語を聞かせて、代わりに路銀を得ているようだ。


「素敵な歌声ですね」


 レティは気に入ったようだ。手持ちの銀貨から一枚を取り出し、吟遊詩人の前に置かれた布の袋へ丁寧に入れる。いささか金額が多い気もするが、細かいお金を渡していなかった事を思い出した。


 観光者向けのお土産を扱っている店に入ると早速売り子がやって来た。主にリデルの元へ。


「あの、初めまして。私、ミーヤと言います。ルミナスへは観光で来られたのですか?」

「あ、ずるい! 私はナナ。冒険者さんですか?」

「私はアリアです。あの、宜しければお昼とかご一緒出来ませんか?」


 相変わらずの人気だ。

 リデルも軽くあしらうような事をせず、紳士に受け答えしている。だからますます女の子の攻撃が激しくなる。

 いいんだ。俺は助けない。あんな困り方なら俺も一度位してみたい。別にいじけてはいない。


 リデルは置いておいて、折角なのでお土産を探す事にした。

 最低でも一個は用意しなくてはいけない。誰に送るのかと言えば、メルティーナお姫様だ。前はちょっとした意地悪半分で、侍女にはプレゼントをしたのに、お姫様には用意しなかった。その時、別れ際に釘を刺されたので、用意だけはしておく必要がある。

 実際に会う機会はないと思うけれど、仮に会う事があった時、今度は手ぶらと言う訳には行かないからだ。流石に無いとは思うが、不敬罪とかで掴まりたくは無い。


「アキト様、何かお探しですか?」

「前に、お姫様に会った時、プレゼントを渡さなかったからな。もし次に会った時に手ぶらじゃどんな嫌みを言われるか分からないだろ。

 俺が買えるような物じゃお姫様にとってはなんの価値も無いかもしれないけれど、それでも一応誠意だけは見せておこうかと」

「そんな事はありません。アキト様が選んだ物でしたら、お喜びになると思います」


 ルイーゼの俺に対する評価が高すぎてプレッシャーを感じる。

 何時も髪飾りやアクセサリーでは芸が無いと思われてしまう、ここは流石アキト様! と思われるような一品を選びたいところだ。


「これなんか良いと思うわ」


 俺の決意が伝わらなかったのか、マリオンがさくっと一つの品を俺に手渡してきた。

 何だろうこれは……。


「銀糸のベールですね。魔除け効果があると言われています」


 ぱっと見は薄く透けた一,五メートル四方ほどの布だ。お値段も比較的抑えめで、銀貨二枚だ。魔力付与で強度を上げれば身を守る足しにはなるかもしれないな。

 結局俺は自分で選ばず、マリオンが選んでくれた物をプレゼントに使う事にした。


 ◇


 買い物を終えリデルを迎えに行くと何やらさらに人が増えていた。

 その中心には見た事のある桃色の髪をした女の子がいた。

 確かリニア・ロードゼルだったと思う。兄のライナスと優男のルーファスはいないようだ。代わりに銀髪のニーナと緑髪のマニスがいた。


 一体何事か。

 まぁ、揉めているという感じでは無いが、なんとなくリニアに関わるのは面倒そうで、リデルを助けに入るのが遅れてしまった。


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