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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第一部 第二章 王都編
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迷宮での戦い

 転移門で移動した先は石造りの広い空間だった。

 話では湖の中に出ると聞いていたが、水族館のようにガラス窓がある訳では無い為、普通に建物の中にいるのと変わった様子は無い。


 中は薄暗くはあったが、壁の一部が一定の間隔で黄色い光を放っている為に明かりの必要は無かった。ただ、それも奥に行くと無くなるようなので、本格的に進む時は明かりの準備が必要だ。

 一応松明は持っているが、松明の明かりで戦うのも心許ない。俺達はまだ暗い中での戦闘には慣れていなかった。今回は様子を見る程度で良いだろう。


 ちなみにこの空間で火を使っても一酸化炭素中毒になったりしないのかと思ったが、リデルの話では火を使っても問題が無いと言う事だった。

 理由は不明だが、この古代都市は生きているというのだから、空調のような設備があるのかもしれない。そう言えば、魔物も空気を吸うのだろうか。意外と二酸化炭素を吸って酸素を吐きだしていたりして。


 ◇


 ルミナスの迷宮での魔物狩りに挑んだ俺達は早速激戦の状態にあった。


「僕とマリオンは前に、ルイーゼはレティの守りを、アキトは向こうのパーティーをサポートしてくれ」

「わかった!」

「わかったわ!」

「はい!」


 リデルの指示で、俺とマリオンにルイーゼが定位置に向かう。


 魔物は羽刃蝙蝠(カッター・バット)だ。ランクFの魔物だが、数が多い。ざっと見ただけでも四〇匹近くいそうだ。

 初めからこんなに多い魔物を相手にしていた訳では無い。五匹程度を相手にしていたところに、大群に追われ逃げてきたパーティーと鉢合わせしてしまったからだ。


 俺はリデルの指示通りに、羽刃蝙蝠(カッター・バット)の襲撃を受け半壊気味だったパーティーの援護に向かう。

 リデルの敵愾向上(アナマーサティ・アップ)によりこっちには一〇匹くらいしかいない。

 それでも、五人パーティーの内三人が座り込んでいた。

 残りの二人が必死に剣を振り回して牽制しているが、敵も見ずに剣を振り回しているだけで、攻撃は当たる様子も無い。


 俺は駆け寄りながら魔弾(マジック・アロー)を放つ。威力よりも範囲を優先した魔弾(マジック・アロー)により四匹の羽刃蝙蝠(カッター・バット)が一〇メートルほど吹っ飛んでいく。

 派手に見えるが、浮いているのでダメージはあまりないだろう。

 そのまま駆け寄った勢いで羽刃蝙蝠(カッター・バット)の一匹を背後から斬り捨てる。


「ひっ!」

「きゃあ!」

「いやぁ!」


 俺の切った羽刃蝙蝠(カッター・バット)が座り込む三人の目の前に落ち、それを見た三人は互いに抱き合うようにして身を寄せ合った。

 どうやら怪我をして動けないという訳じゃ無いようだ。取り敢えずは一安心か。


「誰だっ!」

「助けか?」

「手を貸すから、きちんと敵を見て剣を振ってくれ!」


 俺に気付いた二人に檄を飛ばしつつ、二匹目の羽刃蝙蝠(カッター・バット)も背後から一撃で仕留める。丁度こっちに背を向けているので、ある意味切り放題だった。

 しかし、流石に三匹目に斬り掛かる頃には俺の方にも羽刃蝙蝠(カッター・バット)が群がってきた。そして、奥からは最初に吹っ飛ばした四匹の羽刃蝙蝠(カッター・バット)が向かってきている。


 羽刃蝙蝠(カッター・バット)の攻撃は飛び掛かってきてからの噛み付きと、その刃のように鋭くなった羽による攻撃の様だ。習性なのか首を狙ってくるので、攻撃自体は躱しやすかった。

 このパーティーの五人も動揺はしていても目立った怪我はしていない。多少腕や体に切り傷があるようだが、命の心配には及ばないだろう。攻撃力自体は小さいのかもしれない。


 同じ数の牙狼が相手だと流石に俺も身を守るので精一杯になりそうだが、幸いにして羽刃蝙蝠(カッター・バット)の動きは速くなかった。バサバサと派手な音を立てて俺達の周りを飛び回り、時折攻撃を仕掛けてくるくらいで、連携をしてくる様子も無い。


 俺が敵の特性を見極めている間に、四匹の羽刃蝙蝠(カッター・バット)が合流しこれで残りは七匹になる。

 一,二匹くらいは向こうの二人に仕留めてもらいたいところだが、相変わらず剣を振り回すだけで、敵も見てはいない。


 リデルの方は順調に羽刃蝙蝠(カッター・バット)の数を減らしているようだが、向こうは四〇匹近くいた。

 見た感じではリデルの魔法障壁(マジック・シールド)により羽刃蝙蝠(カッター・バット)の攻撃は全く届いてないようだが、あの数を相手にいつまで保つかは分からない。

 それにリデルが大丈夫でも他のみんなの事もある。出来ればこちらを片付けて援護に行きたいところだ。


 俺は今一度魔弾(マジック・アロー)を放つ。

 今度はさっきよりもさらに広範囲に、もう弾と言うよりは放射する感じだ。拡散するだけ威力も下がるが、初めから倒す事が目的では無いので構わない。


 魔弾(マジック・アロー)と言うより魔波(マジック・ウェーブ)と言った方が良い攻撃を受けて、羽刃蝙蝠(カッター・バット)の四匹が羽ばたきをを止め、地面に落下する。一時的に動きを止められればと思っただけだったが、羽ばたいている物が動きを止めるのだ、当然地面に落ちるな。弱い敵には効果的なのかもしれない。

 俺は地面に落ちてジタバタしている羽刃蝙蝠(カッター・バット)に止めを刺す。


 残りの三匹になれば身を守るほどの事も無く、向かってくる一匹を横に払った剣で斬り、飛び回っている二匹目を魔弾(マジック・アロー)で打ち落とす。

 最後の一匹は二人のどちらかが振り回していた剣に当たったのか羽を斬り落とされ、地面で暴れていた。


「まだ終わっていない!

 周りに警戒して防御の態勢を維持して、何かあったら知らせてくれ!」


 俺は、肩で息をし座り込もうとする二人に警戒を促して、リデルの元に戻る。

 その頃には羽刃蝙蝠(カッター・バット)の残りが三〇匹くらいになっていた。


火矢(ファイアー・アロー)


 俺が駆け戻るのと、レティの魔法が具現化するのは同時だった。

 レティの頭上にこぶし大の火の玉が五個現れ、四方八方に飛んでいく。その内の一発が羽刃蝙蝠(カッター・バット)に当たったようだ。火の玉に当たった羽刃蝙蝠(カッター・バット)は燃え上がり地面に落ちる。

 素人目にも、飛んでいる魔物に全ての火の玉を当てるのは至難の業に見えた。レティにはまだ状況に合わせた魔法の選択が出来ないと思える。


「レティ、魔法は水波舞流(ウォーター・フロウ)を中心に使うんだ。倒せなくても、当てて地面に落とせれば良い!」

「アキトさん?! あちらは終わったのですか?」


 レティが吃驚したようにこちらに気付く。

 急いで戻ってきたつもりではあるが、そこまでだったろうか。


「あぁ、こっちを倒せば終わりだ」

「レティ、俺がサポートするから、もう一度魔法を!」

「はいっ、わかりました!」

「ルイーゼ、悪いが俺も一緒に守ってくれ」

「はい!」


 俺はレティの背後に回り、その両肩に手を置く。一瞬、レティが驚いた雰囲気を見せるが、鍛錬の事を思い出したのか、羽刃蝙蝠(カッター・バット)に集中を戻した。


 レティの詠唱が始まり魔力が誘導されていくのを感じる。

 流石に朝の鍛錬で指摘したくらいでは治らないか。まだ五カ所ほど魔力制御の乱れによる淀みが感じられた。

 俺はその淀みを補正し、スムーズに魔力が流れるようにサポートする。


水波舞流(ウォーター・フロウ)


 レティの魔法が具現化し、雨粒のような水が集まり水流となって羽刃蝙蝠(カッター・バット)を打ち落とす。

 だが、射出方向を制御する事は出来ないようだ。三匹ほど打ち落とした後は羽刃蝙蝠(カッター・バット)も水流を避けるように飛び始めた。

 俺はレティの魔力制御に干渉し射出方向を曲げる事が出来ないか試してみたが、上手くいかなかった。精霊魔法自体を唱えられないのだから、そもそもどうしたら良いかもよく分かっていない。


 だったら――

 俺はレティの肩を引き体の向き自体を変える。

 突然の事にレティの魔力制御が乱れるが、それを補正しつつ羽刃蝙蝠(カッター・バット)を打ち落としていく。

 思った通り、この魔法は術者から対象に向かって直線的に飛んで行くように設計された魔法らしい。レティの体の向きを入れ替える事で、無意識に敵を正面に捕らえようと魔法の射出方向も変化する。


 それを利用し、俺は射的のように羽刃蝙蝠(カッター・バット)を打ち落としていく。レティが目を回しそうだがちょっと頑張ってもらおう。

 水に濡れ落ちた羽刃蝙蝠(カッター・バット)はリデルとマリオンが手早く止めを刺していた。


「あ……」


 レティの吐息と共にその体から力が抜け、膝から崩れ落ちるところを支える。魔力が消耗した事による貧血のような状態だろう。俺は念の為レティに魔力を付与する。

 レティの魔法のおかげもあって羽刃蝙蝠(カッター・バット)は殆ど打ち落とされ、撃ち逃した羽刃蝙蝠(カッター・バット)もマリオンが仕留めた。


 周りには四〇匹近い羽刃蝙蝠(カッター・バット)の死体があり、向こうのと合わせれば五〇匹になるだろう。

 数以外にはそれほど脅威となる攻撃でも無かったが、その数による暴力で、マリオンとルイーゼが切り傷を負っていた。


 傷の深そうなルイーゼの腕を取り、回復魔法を使用する。

 俺の回復魔法は名ばかりで、実際にやっているのはルイーゼの自己治癒能力を高めているだけだ。


「ありがとうございます」

「ありがとうルイーゼ、守ってくれて助かったよ」


 ルイーゼから笑顔の返事を受けた後は、マリオンの治療だ。

 マリオンは、ルイーゼほど深い傷は無かったが数が多かった。前衛として敵に飛び込む事が多くなる為、怪我は避けられないのかもしれない。特に今回は俺が全く攻撃面でサポート出来なかった。


「放っておいても治るわ。

 それに痛みに慣れる必要もあるからこのままで良いわ」

「なら、せめてきちんと消毒してばい菌が入らないように包帯を巻こう」


 マリオンの言う事にも一理ある様な気がした。

 例えばこの後直ぐにでも強敵が現れるというなら、マリオンがなんと言おうと怪我を治しただろう。だが、現況そのリスクは少ない。リスクを背負う覚悟が無ければ、リスクに強くなれない事も学んでいた。


「アキトさんは回復魔法が使えるのですね。

 今度、是非教えて頂けないでしょうか」

「俺のは回復魔法と言ってもちょっと変わっているけれど、試してみるのも良いな」

「はい、お願いします」


 取り敢えず、これで俺達のパーティーは良いだろう。

 後は向こうか。

 リデルを先頭に俺達は逃げてきたパーティーの元に向かった。

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