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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第一部 第二章 王都編
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迷宮都市ルミナス

 ここ迷宮都市ルミナスは建物、通り、橋、あらゆるものが石造りで出来ていた。

 街はところどころに昨日の雨が残り水たまりを作っている。その水たまりに差し込む朝日が街全体を光り輝かせ、眩しいほどに(きら)めいていた。


 この世界の例に漏れず、この街の朝も早いようだ。

 日が出ると共に周りの宿から冒険者と思われる風体の人々が現れ、一方に向かって消えていく。そちらには迷宮への入口となる転移門があった。


 ルミナスの迷宮はやはり人気の狩場だけあって、浅瀬――この場合そう呼んでいいのか分からないが――入口に近いあたりの魔物は狩り尽くされており、ランクFの魔物はほとんどいないようだ。

 俺達のパーティーはレティを除いてランクDが三人、ランクEが一人なので深くまで潜らなければ十分な戦力だ。

 今回はレティのデビュー戦でもあり、奥まで潜るつもりもない。ほどほど稼げて、魔物の様子が伺えれば良いだろう。


 この美しい街には四日ほど滞在し、その後は王都トリスティアに戻ってお姫様のパレードと誕生祭を見学する予定になっている。

 滞在中は久しぶりに魔物狩りに励むとしよう。


 ◇


 俺達はいつもの様に日の出と共に起き、朝の鍛錬中だ。

 今日の鍛錬ではリデルの頼みに答え、レティの魔力制御を指導することにした。指導というほど立派なことが出来るわけじゃないが、それでも何かのきっかけになれば良いと思っている。


「それじゃレティ、ここに座って両手をこちらに」

「はい」


 俺はレティの向かいに座りその両手を取る。小さい手だ。ルイーゼの手も小さいが、レティの手も小さいな。こんな小さな手で動いているとか、なんか不思議だ――とか言っている場合じゃない。


「最初にレティの魔力制御がどの程度なのか見てみたいから、この状態で簡単な魔法を弱めの威力で使ってくれないか」

「分かりました。それでは、昨日見ていただいた水の魔法を使ってみます」


 レティが魔声門による呪文の詠唱を始める。

 俺はレティの魔力を感じ取り、その流れを追い、どのように魔力が制御されているのかをチェックする。

 呪文の詠唱が進むに合わせレティの魔力が体内を移動し始めるが、その動きは淀みが感じられスムーズに制御されているとは言えなかった。


水波舞流(ウォーター・フロウ)


 うっごおばごごああああじゃ!


 俺は顔面に直撃した水の魔法を受けて、陸の上にいながらにして溺れていた。

 雨粒の塊のような水でも直撃を受けると意外と痛みがあり、レティと向かい合わせの状態から後ろに二転ほどして石畳の上に突っ伏す。

 指向性のある魔法で良かった。範囲魔法だったら溺れて死んでしまう。


「きゃっ、アキトさん大丈夫ですか?!」


 レティに片手を上げ無事を伝える。

 先に大切なことを伝えよう。


「レティ、人に向かって魔法を使うのはやめよう」

「そ、そうですね」


 気を取り直したところでもう一度だ。


「今度は俺がレティの魔力制御をサポートするから、自分の魔力の流れを感じながら魔法を使ってみて」

「わたしの魔力制御のサポートですか?」

「まぁ、一度やってみればわかると思う」

「分かりました。次は何処を狙えばいいです?」


 いや、狙っちゃダメだ、外してくれ。


 再びレティが魔法を唱える。少しトーンの高い声はマリオンに似ているな。

 俺はレティの中で生まれる魔力の流れ、その流れの淀みを解くように魔力制御のサポートをする。

 一箇所……二箇所……三箇所……多いな、全部で五箇所ほどの淀みを修正する。


水波舞流(ウォーター・フロウ)


 ――瞬間。俺のすぐ横を渦のような水流が走り抜け、背後の石壁をなぎ倒し、その先の湖に突き刺さって水柱を噴き上げた。


 あっけにとられる俺に、あっけにとられるレティ。

 これは怒られるだろうか。


「レティ、弱めで頼んだんだけれど」

「わ、え、あれぇ」


 レティは目をぱちぱちさせて壊れた石壁を見ている。

 さすがにあんな魔法の直撃を食らったら……あの石壁が俺の運命だった。レティはどうも威力の制御が上手く出来ないようだ。

 まぁ石壁は何とか積み直せば良い。


「今、レティは魔力制御をしていて何か感じたか?」

「何かといいますか、ほとんど誘われるように勝手に魔力が収束してすうっと魔法陣を思い描くことが出来ました。

 あれはアキトさんが何かされたのですか?」

「一応レティの魔力制御の中で淀みのあった部分を補正してみた。自分でどの辺が悪かったのかわかった?」

「なんとなくですが、どうすればいいのかという理想はわかった気がします」

「それじゃ、その感覚を忘れない内に鍛錬を続けよう」

「はい!」


 その後も、弱くと言っているのにむしろより強い魔法を使い続けたレティのお陰で、後で直そうと思った石壁の石が全部湖の中に沈んでしまっていた。


 ◇


「それで、レティは上手く魔力が制御出来なくてしょげているのかい?」

「そもそも私はそんなに強力な魔法を使えないはずなのですが……」

「アキトは魔力制御を効率的に教える事が出来るからね、それで思った以上に魔力を込め過ぎていたのかもしれないね」


 そうなのだ。最初は俺もレティが威力の制御を苦手としていると思ったんだ。だがどうやら違ったようだ。魔力制御の効率が上がった事で、今までと同じように魔力を込めていたのでは威力が上がりすぎていたのだ。

 これからはより少ない魔力量で魔力を具現化する事を目的とした練習が必要だ。なにも必要以上に強力な魔法を使う意味は無いのだから。オーバーキルは無駄でしか無い。


「まぁ、それじゃ迷宮都市ルミナスに行ってみようか」


 ◇


「ルミナスの迷宮では粘性生物(スライム)羽刃蝙蝠(カッター・バット)が、最初に遭遇する可能性の高い魔物になります。

 粘性生物(スライム)には物理攻撃が効きにくく、魔法による攻撃が効果的です。

 羽刃蝙蝠(カッター・バット)は飛行タイプの魔物で、集団で活動する点に注意が必要です。

 他には甲冑芋虫もいるようです」

「助かるよ、ルイーゼ」


 ルイーゼが嬉しそうに微笑む。

 粘性生物(スライム)をうちのお姫様達に近付けるのは何が何でも避けよう、俺の知っている粘性生物(スライム)なら大変な事になるからな。


「ここが転移門だね」

「戻る時は、飛んだ先に同じ物があると思えば良いのかな」

「転移門には双方向転移と一方向転移があって、この最初の転移は双方向転移だから直ぐにでも戻ってこられるよ」


 転移門は門といいながらも、直径五メートルほどの円状をした石畳だった。

 石畳は祭壇のように飾られ、魔法陣の描かれた部分が淡く青い光を放っている。

 祭壇の横には兵士の詰め所や救護施設が有り、冒険者の支援に当たっているようだ。すでに救護室には怪我をして運び込まれた冒険者も見えた。


 詰め所の方から一人の兵士が寄って来くる。


「迷宮都市ルミナスへようこそ。

 転移門の利用には銀貨一枚掛かりますが、利用されますか」

「お願いします」

「それでは認識プレートの提出をお願いします」


 俺達はモモ以外の五人分を提出した。

 どうやら入り口では入った人と出る人の確認をしているようだ。

 利用料が掛かるのはこの転移門の作動に利用する魔石代らしい。


「確認が取れました。

 ヴァルディス士爵様、本日は低ランクの魔物が多く出回っているようですのでお気を付けて下さい」

「ありがとう、用心させてもらうよ」


 転移門をくぐった瞬間に魔物に囲まれているといった可能性もあるのだろうか。


「転移門の奥にも兵士が待機しておりますので、そういった事が起きないようになっております」


 俺の疑問に答えてくれたのは、兵士の男だった。

 流石に危惧しすぎだった。それでも、用心に越した事は無いので、準備だけはしておこう。


「アキト、魔法陣は五分おきに輝きを増して、その瞬間発動するから分断されないように同時に乗るよ」

「わかった」


 俺達は念の為、次に光るのを確認した後で、魔法陣に乗り転移の瞬間を待つことにした。

 この転移門とリゼットの使った転移魔法は似たような原理なのだろうか。

 リゼットの話では転移魔法は古代魔法の一つらしい。この祭壇もまたアーティファクトの一つなのかもしれない。


 五分ほどして魔法陣が青い光を増し、俺達は迷宮へと静かに転移した。


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