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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第一部 第二章 王都編
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レティの魔法

 翌日の朝、約束通りリデルがレティに魔法をお披露目していた。


 レティの魔声門による詠唱により魔力が具現化し、雨粒のような水が渦を巻きながらリデルの魔法障壁(マジック・シールド)に当たり、飛び散っている。


 レティは魔術師だった。

 リデルも魔法を使えるのだから魔術師なのかもしれないが、リデルはどちらかと言うと剣士だ。純粋な魔術師とは違う。俺やルイーゼ、それにマリオンもちょっと違う。

 だから、クロイド以外の魔術師に合うのはこれで三人目になる。二人目はグリモアの町とトリテアの町で出会ったハイデルのパーティーにいた少女が、おそらく魔術師だ。


 レティの使う魔法はオークメイジが使った水の魔法ほど密度は高くない、横殴りの雨と言った感じだ。殺傷能力も皆無だろう。

 それでもきちんと魔力を具現化して、水の魔法として効力を発揮している。俺には出来ない事だ。


「お兄さま、今のが魔法障壁(マジック・シールド)ですか」

「当たりだよ。ずっと練習していた魔法だけれど、アキトに助けてもらって使えるようになったんだ」

「まぁ、アキトさんも魔法を使われるのですか」

「俺は魔法と言ってもなぁ、レティみたく具現化することが出来なくて魔力の塊をぶつけるみたいな感じだ。

 本当の魔法に比べたら威力も飛距離も低いよ」

「その代わり発動速度は素晴らしい物があるよ」

「見せて頂いても?」

「もちろん、構わないさ」


 俺はリデルの使う魔法障壁(マジック・シールド)に向かって全力(・・)魔弾(マジック・アロー)を撃ち放つ。全力だが、もちろん芯は外している。これはリデルの魔法障壁(マジック・シールド)を抜けるかどうかの実験だ。

 俺が全力で放った魔弾(マジック・アロー)がリデルの作る魔法障壁(マジック・シールド)に当たった瞬間――


 バリン!


 乾いた板が割れるような、ガラスが割れるよな、そんな音を立ててリデルの魔法障壁(マジック・シールド)が砕け散り、魔弾(マジック・アロー)はそのまま空気中に消えていった。


「アキトさん凄いです!

 私の魔法では魔法障壁(マジック・シールド)を破ることは出来ませんでした」

魔弾(マジック・アロー)魔法障壁(マジック・シールド)に対して、比較的効果が高いんだ。

 魔法障壁(マジック・シールド)は面の攻撃に対して高い防御力を誇るけれど、点の攻撃に対しては十分に効果を発揮できない」

「それではお兄様はアキトさんに勝てないのですか」

「いや、そうでもない

 リデルは魔法障壁(マジック・シールド)だけに頼らず、盾で反らしたり躱したり、結局、接近戦に持ち込まれて剣技で勝負になる。そして俺が負けるんだ」

「別に僕も毎回勝てるわけではないよ」

「まぁ、俺が勝てるのはだいたい意表をついた時だから余り自慢にもならないな」

「意表をつかれたとは言っても、それで死ぬわけだからね。そういう意味ではアキトはびっくり箱だよ」


 確かに実戦なら意表をつこうが卑怯と言われようが生き残れなければ終わりだ。

 魔物や魔人相手に騎士道もないだろう。


 ◇


「レティが使えるのは水の魔法だけ?」

「私は他に火の魔法が使えます。どちらもまだまだですが」


 水と火か……俺が最初に覚えようと思っていた魔法と一緒だな。


「レティ、火の魔法というのはどうやって覚えた?」

「そうですね……呪文を唱えるとイメージが湧いてくるので、そのイメージに従って魔力を制御する……と、教えられました。

 ですから覚えたのは呪文ですね」


 呪文を使うことで意識を誘導し、魔法陣の構築をサポートする。その魔法陣に魔力を通せば具現化して事象となる。

 魔声紋による魔法の具現化はこんな流れだったはずだ。

 俺は直接魔力を制御して魔法陣を構築すれば魔力を具現化出来ると思っていたが、そもそもどんな魔法陣を作ればいいのかが分からなかった。


 やはり呪文によるサポートを受け、魔法陣構築のイメージを学ばないと魔法を使うことは出来ない気がしてきた。

 多分、答えが分かれば使えると思うが、その答えを知るためには解き方が必要で、それが呪文なのだろう。


「呪文は本とかを読めば分かるのかな」

「呪文については基本的な概念の書かれた本があります。その概念を学んで自分にあった呪文を導き出す必要があります。

 私の呪文をそのままアキトさんが使われても多分意味は無いかと思います」


 そんな気はしていた。

 以前リゼットに教えてもらった時に、呪文は人によって異なると言われた。そして熟練すれば短く出来るとも。

 つまり相性も練度も違う人の呪文を教えてもらったところで使えないというわけだ。


「レティは呪文についての概念を誰に教えてもらった?」

「家庭教師のイズベルさんです。冒険者ランクCの魔術師でした。ですが……」

「彼女は迷宮都市ルミナスから帰ってこなかったんだ」


 迷宮都市ルミナス。歌姫ミーティアが住む町で、その中心には魔巣が存在する魔物の住む街だ。

 冒険者ランクCでも油断をすれば帰らぬ人か。


「レティが俺に教えるのは難しいかな」

「どうでしょうか、私もまだ自分でも練習を重ねている状態ですから」


 やはり王都学園にいくのが一番確実か。


「わかった、レティ、色々教えてくれてありがとう」

「いいえ、お力になれなくて」

「いや、おかげで考えがまとまったよ、何か出来ることがあればお礼をするから言ってくれ」


「アキト、僕からですまないが、レティの魔力制御を少し指導してくれないか」

「お兄様?」

「レティ、アキトは確かに精霊魔法を使えないけれど、それでもアキトの指導を受ける事で、レティはもっと上手に魔法を使えるようになると僕は思っている。

 さっきも話した通り、僕が魔法を使えるようになったのもアキトのおかげだ。

 それにアキトに教わった事は他にもある。レティにもそれを習って欲しいと思っている」


 リデルの俺に対する評価の高さは、相変わらず買いかぶり過ぎだと思うが、それとは別に俺に断る理由もなかった。


「もちろん、俺に出来る事なら精一杯やらせてもらうよ」

「助かるよ。レティ、アキトを信じてしばらく魔力制御について学ぶと良い」

「はい、お兄様。アキトさん、よろしくお願いします」

「こちらこそ、拙い指導で悪いけれど、よろしく。

 それとは別に、レティは何か希望は無いか」


 レティが右手の人差指を顎に当てて思案している。

 なんで女の子という存在は仕草がいちいち可愛いのだろう。


「それでは迷宮都市ルミナスに連れて行ってもらえませんか」

「レティ、無理を言ってはダメだよ」

「お兄様……」

「レティにもしもの事があればアキトに迷惑がかかるのだからね」


 そうなのだ。連れて行くだけなら簡単だ。だけれど、目的は魔物狩りだろう。そうなると責任をもつというのが難しい。

 迷宮と言うくらいだ、はぐれようものなら土地勘のない俺には何も出来ない。それが迷子程度の話しならまだしも、けしからん輩に囚われたりしようものなら大変な事になる。


「リデルの言うように、責任が持てないな」

「そうですか……」


 可哀想なほどしょげてしまった。けれど、こればっかりは仕方がない。たとえ俺が責任をもつといっても、責任を果たせなければなんの意味もない。


「僕が連れて行くよ」

「お兄様?!」


 萎れていた花が、今は咲き誇るような笑顔で喜びを表現している。ぐーかわ。

 ならば俺は全力で護衛しよう。


 ◇


 王都トリスティアから迷宮都市ルミナスまでは乗合馬車でおよそ半日の距離だった。

 天気は生憎の雨となり、草原特有の蒸した緑の匂いを嗅ぎながらの移動となった。

 雨は嫌いじゃない。物静かに降る雨は心が落ち着き、激しく降る雨は心が躍った。ただ、旅の途中で降る雨となれば少し憂鬱だ。

 どことなくみんなの気も落ち込んでいるように見える。


 それでも迷宮都市ルミナスが見えてくるとレティを先頭にマリオンとモモの落ち着きがなくなってきた。迷宮都市ルミナスに向かうと行った時はお澄まし顔だったが、どうやらマリオンも楽しみだったらしい。そんなレジャー施設みたいな所なのだろうか。


 ◇


 迷宮都市ルミナスは迷宮だった!

 ……と言う事は無かった。ただ、その光景は圧巻だった。


 迷宮都市ルミナスはすり鉢状に削れた大地の壁面を埋め尽くすように街が構成されていた。

 そしてその街の中心、すり鉢の底に当たる部分は湖となっており、様々な高層の建物が湖からそびえるように立っている。

 それらの建物は湖に映しだされ、まるで鏡の世界を覗いているようだった。


 壮麗なる景色と美麗なる様に誰もが言葉を飲むこの町を、湖に飲まれた街、水の都、水上都市、様々な二つ名を経て迷宮都市ルミナスと呼ぶようになった。


 水に関する二つ名を差し置いてなぜ迷宮都市と呼ばれるようになったのか。それは、この水没した街が水の中にありながら、いまだに生きていたからだ。


 迷宮都市ルミナスは旧世代の遺物で、都市その物がアーティファクトと言っても良い存在だった。

 はじめから湖に飲まれていたのかどうかは定かではない。ただ、この街は水に飲まれてなお生物が住める生活圏を維持している。つまり、水に沈んだ建物が作り出す空間には空気があり、そこには生物――ここでは魔物が生息していた。


 街は複雑に入り組み、ある時は水の中を渡り、ある時は奈落とも思える底を抜け、ある時は転移魔法陣により移動する。それはまるで迷宮を渡り歩くかのような探索となり、未だにその全てが踏破されていない。

 その為、眠っている魔道具にアーティファクトが未だに多数存在し、それを求めて多くの冒険者が集まっていた。

 そしてまた、多くの冒険者が帰らぬ街でもある。


 そんな街が俺達のたどり着いた街、迷宮都市ルミナスだ。

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