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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第一部 第二章 王都編
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王都トリスティア

 港町ウェントスを旅立ってから約一ヶ月。

 この一ヶ月はずっと右手に海を眺めながらの移動だった。この世界でもやはり海は広く、塩気が有り、吹く風も磯の香りが漂っていた。


 直近の町からは乗合馬車の予約が取れそうに無かったので、俺達は徒歩で王都を目指している。

 王都近くの主要道路と言う事も有り、俺達以外にも多くの人や荷車が街道を利用し、その数はざっと見ただけでも五〇〇人近くはいるようだ。まさに大移動と言える。

 ベルナードの町からリザナン東部都市に向かう街道も人は多かったが、全く規模が違うようだ。


「メルディナ街道は王都とエルドリア大陸最東端にある港町ディスティアを結ぶ街道で、神聖王国エリンハイムとの交易は殆どがこの街道を通っていると言えます。

 森の都トリテア、鉱山都市ガレル、ルーフェン古代都市跡地、ルミナス迷宮都市。これらから集まってくる素材、魔石、魔道具といった商品は一度王都に集められ、そこから世界中に運ばれていきます。

 アキト様がグリモアの街で狩った大足兎の毛皮も、これから行く王都にあるかもしれませんね」


 何時ものようにルイーゼの案内だ。

 こうして説明を聞くだけでもルイーゼの頑張りようが分かる。

 ルイーゼは鍛錬の時以外はこうして知識を覚える為に時間を使っているようだ。リデルもそれに付き合っている。

 マリオンは時間が空けば剣を振っている。

 俺は……剣の練習をしたり魔法の練習をしたり読み書きの練習をしたり、まぁ色々やっている。俺だけ器用貧乏になっていく気がするな。


 ◇


 季節は八月に入り、元の世界なら絶好の海日和だ。

 だがこの世界には海水浴という文化が無かった。つまり水着のお姉さんもいない。それはとても寂しい事だと思う。

 まぁ、以前メルドの町で水浴びをした時も、水着は売っていなかったしな。でも俺がいる内は諦めない。なぜならば水着は良い物だからだ。


「アキト様?」


 おや、ポーカーフェイスが崩れていたかな。


「どうしたルイーゼ?」

「いえ、すいません。なんとなく声をお掛けした方がよろしいか思ってしまいまして」


 俺の水着計画に反応するとは。


「アキト、王都が見えてきたよ」


 リデルの言葉を受け、緩やかな上り坂の向こうを見る。

 そこに見えたのは、エルドリア王国王都トリスティア、その王城エルドリオンの望楼(ぼうろう)でも一際高い主塔だった。

 ここからだと、地平線に立つ塔に見える。


「王城エルドリオンの主塔は高さ一五〇メートルほどあると言われています。

 かつてエルドリア大陸がまだ平定されていない頃、魔人族の総攻撃を受けた際に、主塔からの魔法による遠距離攻撃によって戦いを優位に進めたと言われています」


 ルイーゼの説明によると、魔道士が本気で魔法を使った場合、主塔の上から城壁の外まで魔法が届くと言う事になる。

 一〇〇〇メートルくらい届いて、尚威力が落ちないというのは物凄い。

 俺の魔弾(マジック・アロー)の射程は有効で一五メートル程度だ。一応、鍛錬により伸びてはいるけれど、その伸び量は微々たる物だ。

 どんなに頑張って魔弾(マジック・アロー)を飛ばそうと思っても、それ以上の力で押さえつけてくる感じがあり、思ったほど飛距離が伸ばせない。

 クロイドやオークメイジが使った魔法みたいに五〇メートルとかは今のところ想像も付かない先だ。


「わぁ、素敵ね」


 マリオンの言葉に思案を止め、再び前方に視線を送る。

 王城エルドリオンがその全貌を現していた。

 小高い丘の上に立つその城は、二〇近い望楼に、一〇ほどの塔と塔を繋ぐ胸壁。それらに囲まれた複数の居室らしい建物が重なり合い、重厚で荘厳な趣があった。


 ぱっと見た目は城と言うより巨大要塞というイメージだ。おそらく俺が城と聞いてイメージする、ネズミの国のモデルみたいな城は無いのかもしれない。


「王都トリスティアは人口一二〇万とも言われ、エルドリア王国最大の都市です。

 元は東のザインバッハ帝国が神聖王国エリンハイムへの進攻拠点として建設した街です。

 現在は両国の交易の中間地点として栄え、その流通量はセルリアーナ大陸一と言われています」


 俺のいた世界の首都は一三〇〇万だ、まだまだひよっこだな。

 いくらこの道が混んでいようと、朝の通学ラッシュをこなしている俺からすれば、がらがらも良いところだ。


 丘を越えると王城エルドリオンに続き、それらを囲む城壁と、城壁に囲まれる町の全てが見えてきた。

 城壁は三重に広がり、一番外の城壁のさらに外にも町は広まっている。おそらく人口の増加に対して囲いきれなくなったのだろう。


 王都トリスティアの中央にはメビナ川が流れ込み、王都全体を二分している。

 所々に緑があり、中央付近ほど区画整理された街になっていたが、外周は若干スラム的な装いも感じられた。


 王都トリスティアで目建つ建物は王城エルドリオンだけでは無く、規模こそ小さいものの、複数の居城があった。それに雰囲気的には教会と思える建物も複数有り、それぞれが贅をこらした立派な物に見える。


「ねぇ、王都には色々な国の色々な食べ物があるんでしょ。

 わたし、色々食べてみたいわ」


 マリオンの好みは俺と似ている。好物は駝鳥の肉で、フルーツが好きだ。

 ルイーゼはリデルと似ていて、比較的さっぱりした物から野菜が多い。

 モモは魔物系の肉が好物で、フルーツと野菜が好きだ。


 魔物系の肉はもしかして、魔力が残っているとかあるのだろうか。

 前に聞いた話では、魔物が死んだ時に魔力が結晶化して魔石になると言う事だったけれど、多少は残っているのかもしれないな。


 ◇


 さらに一時間ほど歩き、一番外周の東門にたどり着いた。

 やはり大陸一の流通量を誇るだけあって、門前の混みようも大陸一らしい。


 だが俺達はその列には並ばず、東門のそばまで進む。貴族特権発動によるショートカットだ。

 俺達のパーティーには名誉士爵のリデルがいて、このパーティー『蒼き盾』のリーダーになる。俺もその特権のお零れに与れるという訳だ。


 リザナン東部都市に入る時と同じで、やはり貴族用の門にいる門番は文官系の人物に見える。

 身につけている装備はサイズが合っていないし、着慣れていないのか動きもぎくしゃくしている。


「王都トリスティアにようこそ。

 私は本日の門番を務めているドリドールと申します。

 失礼ですがお名前を伺えますでしょうか」

「リデル・ヴァルディス士爵です。

 連れのアキト、他の二人は従者になります」

「ありがとうございます。

 では全員分の認証プレートをお預かりいたします」


 俺は指示に従い認証プレートを差し出す。

 何時ものように、入出のチェックがある場所ではモモに隠れてもらっている。精霊でも認証プレートを作る方法があれば良いのだが。

 大切な仲間をいない事のように装うのは心苦しい。もっとも本人は全く気にしている感じが無いけれど。


「確認が取れました。認識プレートをお返しいたします。

 ヴァルディス士爵、改めてようこそ王都トリスティアへ。

 ご存じかもしれませんが、七日後にはメルティーナ王女様が外遊から戻られ、パレードと誕生祭が予定されています。よろしければ是非ご参加下さい」

「ありがとう。楽しませて頂くよ」


 さぁ、門をくぐれば王都トリスティア。

 リデルの目的地であり、当面は俺も暮らす事になる街だ。


 ◇


 門を抜けるとそのままメインストリートになる。通りは真っ直ぐには伸びておらず、南に迂回するように弧を描いていた。その先はきっと西門に通じるのだろう。

 外敵に攻められた時に直ぐには攻め込まれないように配慮されているのかもしれない。


「人が多いわね」

「多いですね」


 マリオンとルイーゼが、早速人混みに飲まれて迷子になりそうだ。


「万が一はぐれたら東区の冒険者ギルドで待ち合わせよう」

「はい」

「わかったわ」


 出来ればはぐれないように手でも繋ぎたいところだが、流石にそんな歳でも無いだろう。

 俺は人混みに埋もれそうなモモを肩車する。モモならはぐれても大丈夫そうだが、人に覆われて何も見えないのは可哀想だ。


 通りには来週の誕生祭を前に数多くの露店が並び、はやくもあちらこちらから祝杯の声が上がっている。

 世界が変わっても祭りの雰囲気は活気があって実に良い物だ。


「今更だけれど、この人の数で宿が空いているかな」

「アキト、しばらく落ち着くまでは家に来ると良いよ」


 そう言えばリデルの実家であるアルディス家は王都に居を構えているんだった。

 だが、大丈夫だろうか。

 リデルは全く気にしていないが、本家ともなれば俺の黒髪の事もあり、リデルが良い思いをしないのでは無いだろうか。


「アキトの心配は分かるけれど、問題になる事は無いよ」

「わかった。しばらく世話になるよ。

 どちらにしても街が落ち着くまでは宿も取れそうに無いしな」


 ◇


「王都トリスティアは大きく五つの区画に別れている。東西南北を示す各区と中央区だ。

 中央区には王城エルドリオンが有り、それを囲むように上級貴族の屋敷が建ち並び、最内の城壁によって守られている。

 上級貴族でなければ入れないと言う事も無く、認識プレートを提示すれば平民でも中央区に入る事は出来きる。

 ユッタリとした空間に小さな小川が引かれ、庭園のように整備された緑の多いこの地区はエルドリア王国で最も美しい街とも言われている」


「アキトもだいぶ文字が読めるようになってきたね」

「実はいくつか読めないところを飛ばしているけれどな」


 俺が王都ガイドを読み、その内容をみんなに伝えたところだ。

 ようやく主要な単語も覚え、日常語であればなんとか読み取れるようになってきた。


 俺達はアルディス家のある北区に来ていた。

 街は広く似たような通りも多かったが、流石にこの街で育ったリデルが迷う事は無かった。

 北区に入り程なくしてアルディス家に到着だ。


 アルディス家はそれなりに大きかったが、流石にこの辺りで一番とか言うほどでは無い。ある意味必要十分な大きさと言える。

 とは言っても、学校の校庭程度の庭が有り、手入れの行き届いた庭園が造られている。入り口正面には噴水が有り、その中央にはおそらく女神を表現しただろう像がある。


「建国の勇者、その一人セリアの像。うちの家系はその末裔に当たるんだ」


 そう言えば、この国の貴族はもともと勇者が成り立ちだったな。

 リゼットも勇者の血が流れていたはずだ。


「お兄様?! いつお戻りになられたのですか」


 庭園にある花壇に囲まれたテーブル。そこから一人の少女が駆け寄ってくる。

 リデルを兄と呼んだ少女は、漆黒とも言えるほど黒い髪をした少女だった。


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