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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第一部 第二章 王都編
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夜会

 適当に望みをはぐらかそうと、お姫様付きの侍女との食事を申し出たら、その願いが叶ってしまった。

 そして、侍女との食事の場に出向いた俺の前にはお姫様がいた。

 なぜお姫様がここにいるのでしょうか。


「リリスは私の侍女ですから、その側に私がいていても不思議はありません」


 お姫様は俺の心が読めるのですか。


「読めませんよ?」


 メルティーナ王女は綺麗な女の子だと思う。

 でも俺の中で、綺麗なだけならルミナスの歌姫が圧倒的だ。中身は置いておくが。


 その点、侍女のリリスさんは大変に可愛らしい子だった。

 初めて出会った頃のルイーゼに似ている。


 ルイーゼはあれから綺麗になってきたけれど、あのままかわいい系になっていたらこんな感じかなと思うのがリリスさんだ。

 リリスさんの髪は紺色で瞳も紺色。肩のところで切り揃えた髪を後ろで束ねている。


 今はお姫様と同じテーブルに付いていることでかなり緊張しているようだ。

 リリスさんには悪い事をしてしまった。


 もちろんこの部屋に三人だけということはなかった。

 港町ウェントスの迎賓館。その一室に案内された最初から、この部屋にはお姫様と侍女のリリスさんの他に五人いた。

 一人は俺を見る目のキツそうな侍女で、残りの四人が騎士団の各々だ。


 テーブルには俺とリリスさんが対面で座り、奥にお姫様が座っている。

 距離は五メートルほど離れていて、席には座っていないが、間には騎士が二人ずつ立っている。


 一言で言うなら非常に気まずい。

 俺は今後の為に侍女を食事に誘うなと心のメモに書いておく。


 可哀想なのは俺が社交辞令で誘ってしまったリリスさんだ。

 俺と同じでお姫様と同席での食事とか考えてもいなかっただろう。

 ここは俺の責任で何とかリリスさんに楽しんでもらわなければいけない。

 お姫様はいなかったことにしよう。


「リリスさん、突然の招待に応じて頂いてありがとうございます」

「いえ、とんでもありません。

 メルティーナ王女様の恩人に当たる方のお申し出ですから」


 はい、事務的にですよね。まぁ、俺も事務的に挨拶しているしな。

 お姫様でもないし、敬語と事務的な話はやめるか。


 俺はアイテムを使うことにした。


「これは?」


 リリスさんは興味深そうにアイテムを見つめている。


「初めて会うのに手ぶらもどうかと思ったから、プレゼントを用意したんだ」

「わたしにですか?」

「もちろん」


 リリスさんはアイテムを手に取った。


「綺麗……」


 銀鎖の付いた髪飾りだ。

 物自体はルイーゼとマリオンに選んでもらい、俺が加工を施した。

 それから銀の部分に魔力を流して変異させ、魔粉を使った飾り付けをしている。

 髪飾りに付与した魔力を吸い上げ、魔粉が赤い輝きを放ち、宝石とは違った趣を見せている。自分でも不思議な色合いだと思う。特に瞬くような感じは宝石には出せない。


 ルイーゼにあげた銀のナイフはやりすぎて大変な物になってしまったので、控えめに作った。見た目だけで何の役にも立たない魔力を持った髪飾りだ。


 表からは目立たないところにyuukiとイニシャルを入れてある。リデルの案でこれから作るアクセサリーには名前を彫ることにした。


「旅の途中で購入したものですが、リリスさんの髪によく似合うと思います」


 アイテムは効果を発揮した。


 リリスさんはしばらく瞬くように光る髪飾りに見惚れていた。

 遠くからお姫様の死線――視線を感じるが、残念ながらお姫様の分は用意していない。気付かないフリを続けよう。


「アキトさんは、冒険者なのですか」

「まだ三ヶ月程度の駆け出しだけれどね」

「まだお若いと思いますが、大変ではありませんか?」


 リリスさんは一七歳くらいかな、リリスさんも若いとは思うが、それでも俺は幼く見えるということか。


「死にそうになったことが四回はあるけれど、なんとか仲間と乗り切ってきたよ」

「四回も?!」

「最近ではリザナン東部都市に向かう途中でオーク族に襲われている人がいて、助けに入ったら上位のハイオークとオークメイジまでいたんだ」

「まぁ!」


 付き合いでは無く本当に驚いているようだ。


「なんとか仲間の力もあって、オーク族は討伐出来たけれど、襲われていた人達には被害も大きかった。

 でも、その人達の中にルミナスの歌姫がいて、旅の途中で何度も歌を聞かせてもらったよ」

「ミーティア様の歌ですか。

 私も何度か拝聴しましたが、身近で聞くことが出来るなんて素晴らしいことですね」

「あぁ、いい歌だったよ。

 半年くらいしたら王都に戻ると言っていたから、機会があればまた聞いてみたいと思うね」

「わたしもお会いしたいですね」


 もし良かったらご一緒にいかがですか。

 危うくさっき書いた心のメモが無ければ言ってしまうところだった。


「実際に会うと、ステージの時の印象と全く違うからびっくりするかもしれないけれどね」

「そんなに違うのですか?」

「ステージでみるミーティアさんは壮麗で凛とした彫刻のように綺麗な人だけれど、普段はすごく人懐っこい子供のような人だったよ。

 仲間の八歳位になるモモって子とすごく仲が良くて、埃だらけに成りながら野原で転げまわっていたくらいだ」

「まぁ、意外です」


 意外だろうなぁ、俺もあれは意外だった。

 モモの顔を拭いてあげる時に、顔を並べてきたミーティアの事を思い出して少し笑いがこみ上げる。


 食事が出てきてからも、旅の話やあのイケメンは誰だとか、一緒にいた女の子は好きな子なのとか話が尽きなかった。

 初めは堅苦しい食事になりそうで辟易していたが、リリスさんのおかげで楽しく過ごせた。

 その分、遠くからは痛いほどの視線を感じたが、今日の主役は俺とリリスさんなので気付かなかったフリを続ける。


 ◇


「メルティーナ王女様のお心遣いを頂き、とても楽しい時間を過ごせました」


 楽しい食事が終わり、部屋を出る前にきちんとお礼を述べる。


「アキトはずいぶんと楽しそうでしたね」


 はい、とても楽しかったです。


「メルティーナ王女様のお陰です」

「それは何よりです……(リリスだけ楽しそうでズルいです)」


 お姫様、独り言が声に出ていますよ。


「アキトは王都を目指しているのですか」

「はい、その予定です」

「そうですか、では次は王都でお会いしましょう」

「はい」


 社交辞令ですよね?


 ◇


 宿に戻ると四人が勉強をしていた、モモお前もか!


「どうだった、お姫様付き侍女との食事会は」

「いや、実はお姫様も一緒だったんだ」

「だろうね」


 分かっていたのかよ!

 リデルは肩一瞬だけ上げて言う。


「だからアクセサリーは二つ用意したほうが良いと言っただろう」

「確かに、でももう少しストレートに言ってくれ。

 結局お姫様には手ぶらになってしまったよ」

「アキト、そこは王女様に渡さないと……」

「やっぱりそだよな。なんか意地悪されたようで、意地悪し返してしまった」

「僕は王女様に意地悪するという発想がびっくりだよ」


 俺も自分で言ってびっくりしたよ。

 通りでキツメの侍女が茹で上がっていたわけだ。リリスさんにあたらないで欲しい。


 ◇


 ルイーゼがお茶と果物を用意してくれる。

 驚いたことにルイーゼはあの魔銀のナイフを使いこなしたいた。

 やり過ぎてすごい切れ味になってしまった魔銀のナイフは、まな板を傷つけてしまうので使い物にならなかったはずなのに、まな板直前で刃を止めるという技を身に付けたようだ。

 模擬戦でもそのうち寸止めとか使い始めそうだ。


 ルイーゼは魔銀のナイフを大切そうに手入れし、片付けている。

 プレゼントした物を大切にしてくれるというのは実に嬉しい物だ。

 モモにプレゼントした服も、未だに大切そうに使ってくれる。

 俺も何かそういう物が欲しくなったが、よく考えたら四人がいるな。それで十分じゃ無いか。


 ◇


 みんなが寝静まる頃、俺は一人で港に来ていた。


 昼間の騒ぎが嘘のように鎮まり、潮の臭いを含む湿った風が吹いている。

 もうすぐ夏になるけれど、日暮れの海辺に吹く風は少し冷たかった。


 今日ここで三人の人が死んだ。

 今だって顔も思い出せない三人だ。


 初めてこの世界に来た時、人数も分からないほど酷い状態の死体を目にした。

 トリテアの町から北に向かった時は山賊に襲われ、一〇人の死体が出来た。その内の二人は俺が殺した。

 直接は見ていないが、盗賊に襲われた商隊の半数はあの場で死んだと聞いている。

 リザナン東部都市に着く前にはオーク族に襲われた傭兵が八人死んだ。


 この世界にきて三ヶ月でこれだけの人が俺の周りで死んでいる。

 その中に俺の仲間がいなかったのは救いだが、今日死んだ三人には俺が直接関わっている。

 俺が行動を誘い、その結果死んだ。


 俺は仲間に危険が及べば敵として倒すことを(いと)わないと決めた。

 でも、今日は仲間にはなんの危険もなかった。


 俺はまた間違ったか。


 三人の命がお姫様の命より軽いわけじゃない。

 一人を助けようとして他の一人を失う様なことに意味はあったのか。


「リゼット……」

『……アキト?

 どうしたのアキト、泣いているのですか?』


 気付かない内に念話を使っていたようだ。


「今日、俺のせいで三人の人が死んだ」

『アキトのせいなのですか』

「俺が人を助けようとして、協力を得るために煽ったんだ」

『……アキト、亡くなった方々もアキトと同じように、その人を助けたくて戦ったのではないのですか』


 どうだろうか。

 どちらかと言えば争い事に巻き込まれたくなくて引いていたように思えるが。


『アキトは助けたかったのでしょう?』

「助けたかったのかな。ちょっと格好付けたかっただけかもしれない」

『アキトが取った行動で助かった人はいないのですか』

「……いる」


 騎士団はサハギン族相手に善戦していたが、どんどん増えるサハギン族相手にいずれは疲弊し、小さなミスから崩れていただろう。

 結果としては二三人を助けたことになったとも言える。


『助けようと思って、助かった人がいる。それではダメですか』

「ダメじゃ……ない」


 ダメとは言えない、ダメと言ったら死んだ三人は本当に俺の言葉に従って死んだことになる。

 お姫様も言っていたように、三人は国の為、お姫様を救う為に戦って死んだんだ。


『分かっていても辛いのですね。誰かに責めてもらえれば楽になりますか』


 前に盗賊を殺した時もそうだ。俺は罰を受けることで楽になろうとした。

 今の俺もそうか、罰を受けて楽になりたいのか。


『アキト。アキトが苦しいのは私の責任でもあります。

 アキトの苦しみは私も半分受け持ちましょう』


 リゼットが言う責任というのは、俺をこの世界に召喚したことだろう。

 俺が望んだ事と言っても実行したのはリゼットだ。リゼットもまたそのことを後悔している。


「ありがとうリゼット。

 大丈夫だ。直ぐに元気になる。俺は結構気持ちの切り替えが早い方なんだ。

 弟もそんな感じだろう」

『ハルトさんは、もう少し頼りがいのある感じですね』

「それは意外な感想だな。俺が泣いていたことは黙っていてくれ」

『もちろんです、内緒ですよ』

「リゼット、幸せか?」

『みんな良くしてくれます。

 アキト、私も救われた一人です。忘れないで下さい』

「あぁ、忘れない」


 その後しばらく、他愛のない話をした。

 この世界で出来た仲間とは話せない事もあった。

 リゼットと話す機会をもう少し増やしても良いかもしれない。ただ、念じればいいのだから。


 リゼットだって慣れない世界で、懸命に生きている。リゼットなりにこの世界に戻るための方法を調べながら、俺のことを気にかけながら。

 俺もこの世界で責任も後悔も受け止められるようになろう。辛い思い出だけの世界にはしたくない。いい仲間に恵まれたんだ、楽しい思い出を増やそう。

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