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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第一部 第一章 冒険者編
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オークの襲撃・後

 マリオンの頭上に振り下ろされるオークメイジの杖を止める手段が無い。

 何か出来る事はないのか?!


「マリオン!」


 叫ぶしか出来なかった。駆け寄るのも、弓を撃つのも、槍を投げるのも何もかも間に合わない。せめて魔法が届けば。


「マリオン! 躱せ!」


 風を切る音がした後、マリオンの頭を打ち付けるはずの杖が逸れ、そのままマリオンに覆い被さるようにオークメイジが倒れていく。


 ……助かった?


 俺はマリオンが助かったことに安堵し、その理由を確かめた。

 オークメイジの額には後頭部から刺さった矢が突き出ている。誰が放った矢か、俺は周りを確認する。味方とは限らないからだ。


 矢を放った人物は直ぐに見つかった。馬車の御者台に立つフードを被った少女だ。距離は七〇メートルほどある。いい腕だ。


 念のため警戒はしつつもマリオンの元に駆け寄る。

 ルイーゼもオークを討伐して駆け寄ってきた。ハイオークの方はリデルと傭兵二人で囲うことで優勢になっているようだ。


 俺は魔力の使い過ぎで気を失うのは自己防衛反応だと思っている。それを超えて無茶をすれば死ぬんじゃないかというのが俺の考えだ。

 マリオンがどの程度魔力を使いきったのか分からないが、俺はマリオンに魔力を流し込み、とりあえずの懸念事項を払拭する。


 ◇


 その後、マリオンをルイーゼに預け、リデルの助けに向かう。


 リデルも無傷ではなかった。ハイオークのハンマーを躱し切れなかったのか、盾が(ひしゃ)げ、左腕が上がっていない。

 ハイオークは時にハンマーを大きく振るい近づく傭兵の間合いを広げ、時に小さく振ってはリデルを牽制している。


 そしてハイオークも無傷ではなかった。いくつかの深い傷を負い、それを与えたであろうリデルを一番に警戒しているようだ。

 俺はまずハイオークの足を止めることにした。リデルと二人で魔物を相手していた頃からの定番だ。


 ハイオークの背後に回った俺は、ハンマーが通りすぎた直後を狙い、身体強化(ストレングス・ボディ)から一気に間合いを詰める。そしてハイオークのアキレス腱を断ち切った後、再び間合いをあけた。


 俺がさがった瞬間、今までいたところをハンマーが通り過ぎていく。振り切ったハンマーが戻ってくるのは想定していた。巨大鰐の尻尾で油断したのは覚えている。


 ハイオークは踏ん張りが効かなくなったのか、狙い通り足を止めている。

 足を止めたとは言ってもハイオークは上半身に重厚な鎧を着込んでいるので狙える場所は少ない。特に急所はほとんど覆われているので弓による攻撃も出来なかったのだろう。


 鎧越しにダメージを与えるとしたら魔槍(マジック・スピア)を使うのがベストだが、頭は高すぎて狙えない。狙うなら心臓か。


 幸いにして四人で囲っているため、背後は取りやすかった。

 死角からの魔槍(マジック・スピア)を狙うにしても、出来ればあのハンマーも封じたいところだ。

 腕を止めるなら脇の下か、あそこは鎧が覆っていないようだ。


 俺は目の前を通り過ぎるハンマーが反転する時に動きを止める事に気がついた。

 遠心力が乗った状態のハンマーを止めるのは難しくても、止まっているハンマーを抑えこむのは出来るんじゃないだろうか。むしろ止めさせないで後押しすればバランスを崩し、体が開くな。


 俺はリデルに近づき、声を抑えて話し掛ける。

 魔人には人間語を理解する事も可能だと聞いていた。叫んで作戦を伝える訳にはいかなかった。


「リデル。俺がハンマーを止める、腕が伸びたところで脇の下を狙えるか」

「やるけれど、止められるのか」

「案がある、タイミングは悪いけれどそっちで合わせてくれ、上手く行けば余裕はあるはずだ」

「了解」


 俺は出来るだけハンマーの振り終わり地点に控え、ハンマーが振られてくるのを待つ。


 その瞬間が来た。目の前をハンマーが通りすぎる。

 ハイオークがハンマーを反転させるために止める直前、俺は全身強化からハンマーの勢いが落ちないように一気に後押しをした。


 ハイオークは止めようとしたハンマーに引っ張られる形で腕が伸びきり、後ろに倒れまいとバランスを取る為に片手をハンマーから外した。

 リデルはその片手をかいくぐり、脇の下に潜り込む形で左腕の根本に斬り付ける。


 骨や鎧がなければ腕を切り落とせていただろう一撃を受けて、ハイオークの手からハンマーが落ちた。どんなに屈強でも支えるべき筋肉が絶たれれば力が入れられないだろう。


 俺もチャンスは逃せない。予定通り苦痛に呻くハイオークの背中に近づき、手を当て、魔槍(マジック・スピア)を打ち込む。一発、二発、残りの魔力を使って三発。


 ガガハアアアアッ!


 ハイオークの息が詰まったような咆哮が耳を突いたが、止めが必要だ。

 どの程度効いているか分からないが、ハイオークが天を仰ぐように後ろに倒れてきたので、それを躱すはずが、足元がふらつき倒れるハイオークに押しつぶされてしまった。


「アキト!」

「止めを!」


 乗りかかってきたハイオークは馬鹿みたいに重かったが、多少は隙間があり身動きが取れないだけだった。


「アキト、大丈夫だ。ハイオークは死んでいる」


 何とか、助かった。

 傭兵の二人がハイオークを持ち上げ、リデルが引っ張りだしてくれる。

 思ったよりヘロヘロだった。やっぱアドレナリンが分泌されている間って凄いんだな。


「アキト様!」


 ルイーゼと気が付いたマリオンも駆けつける。


「マリオン、無事でよかった」

「わたしの事より、自分のことを心配しなさいよ! 死んじゃったと思ったんだからね!」

「まぁ、それでも無事で良かったよ」


 ちょっと涙ぐんでいたマリオンの頭を撫でて労る。


 ◇


「傭兵長のベルデルだ。助力頂き、助かった」

「ヴァルディス士爵です。先に怪我人の様子を見ましょう」


 周りを見ると一〇人いた傭兵も二人になっていた。ほとんどはハイオークのハンマーによる即死だ。

 でも、三人ほどは重症ながらも息があるようだ。リデルの腕も骨が折れているのか、あまり表情に余裕が無い。


「ルイーゼ、頼みたい」

「はい、もちろんです」

「回復魔法を使うので、怪我人を出来るだけ一箇所に集めて欲しい」

「魔法か! それは助かる。リグド、息があるやつを確認しろ」

「はいっ!」


 傭兵長とリグドと呼ばれた傭兵が負傷者の確認に当たり、俺とマリオンも手を貸す。

 生きているとはいえ、ひどい重症だ。骨が潰れ、皮膚を突き破り、手や足がちぎれている傭兵もいた。正直、回復魔法で何か出来るレベルには思えなかった。


 マリオンが離れたところで嗚咽を漏らしている。俺も慣れたわけじゃない、苦いものがこみ上げてくるが、まずはルイーゼを支えないと。

 真っ青な顔になっているのはルイーゼも一緒だ。


「ルイーゼ」


 震えている。


「ルイーゼ、俺の顔を見て」


 ルイーゼが顔を上げる。俺はその顔を両手で覆い、青く血の気の引いた顔を温めてあげる。すこしずつルイーゼの表情に色が戻ってきた。


「ルイーゼ、頼む」

「は、はい」


 ルイーゼは呼吸を落ち着かせると、静かに祈りの言葉を紡ぐ。


 リデルと傭兵の三人を薄く青い光が包み込み、俺の回復魔法なんかが及ばない速度でその体を癒していく。やはりこれは自己治癒能力とかじゃない。再生の力だな。


 腕が千切れていたところから、枝が伸びるように手が再生されていく。初めは細く小さく、徐々に大きくなり、ほぼ違和感のない大きさになるまで三分と掛かっていない。

 三人の傭兵も弱々しかった呼吸が次第に落ち着き、状態の回復が見られる。


「奇跡だ……」


 傭兵長が口にする。

 確かにこれは奇跡だ。魔法の力とは一線を画する、まさに奇跡。人の力が及ばない能力なのだろう。それはそうか、実際にそれを行っているのは神様なのだから。


 女神アルテアは巷で言われているような気まぐれを起こさず、等しく平等にリデルと傭兵の三人を癒してくれた。


≪ふふふ、これも気まぐれかもしれませんよ≫


「女神アルテア様に感謝を」


 ルイーゼが奇跡を確認し、感謝を述べる。俺も感謝しよう、ありがとう女神アルテア様。


≪どういたしまして、アキト≫


 しかし、順番に治るかと思っていたら、全員一度にとか凄いな。一度にどの程度の規模まで直せるのか後で分かりそうな人に聞いておこう。


「みなさん、僕は彼女の力を公にしていません。今はただ、命があった事のみ感謝してください」


 リデルがルイーゼの天恵について釘を刺す。どの程度の効果があるか分からないが、必用なことだろう。


「ヴァルディス士爵様、助けて頂いてありがとうございます。この事に関しましては口外しないことを誓いましょう」


 邪魔にならないように側に控えていた少女だ。今はフードを取って礼を述べている。

 やはり思ったとおり知っている少女だった。ミモラの街でリデルの祝賀会の時にちょうど歌を歌っていたミーティアさんだ。様の方がいいのかな。


「もう少し早く合流できれば良かったのですが」

「あれだけの数の魔人にハイオークやオークメイジまでいたのだ。生き残れた者がいるだけでも重畳」


 俺達が合流しなければほぼ全滅をしていたと考えると、生き残れただけでもと考えるのは正しいのかもしれない。

 でも、俺がマリオンを失っていたらそう簡単に割り切れるだろうか――考えるまでもないな。俺には割り切れない。


「ミーティア様、オークメイジへの弓は助かりました。お陰でマリオンにも大事がなく済みました」

「ミーティアで構いません……」


 そういえばまだ名乗っていなかったな。


「アキトと言います。ルイーゼにマリオン、この子がモモです」


 モモを紹介したところでミーティアの目が止まる。

 エルフにはハイエルフという半精霊の様な存在がいるそうだ。もしかして精霊と近いためモモの正体が分かるのかもしれない。

 あれ、なんかモモとミーティアが目で会話していないか。なんとなくだけれど……。


「モモさんはアキトさんが大好きみたいですね」


 それは嬉しい事だ。いや、なぜ分かる。やっぱり会話したのか。

 不思議そうにしている俺にミーティアが近づき、囁く。


「私は精霊と話せますから」


 びっくりだ。というか俺に教えて欲しい。


「残念ながら、教えることは出来ないのです」


 やっぱり表情を読まれる。だれだポーカーフェイスの練習をしておくといったのは。でも、この一言で分かった。固有の能力(ユニーク・スキル)か。


 突然、腕を引っ張られる。マリオンがご立腹だ。そんな空気でもなかったのに。


 ◇


 その後、俺達は傭兵の代わりというわけではないが、ミーティアの馬車に乗せてもらうことになった。俺達の馬車は引き返してしまったので正直なところ助かった。


 リザナン東部都市までは後三日ほど、俺達で務まるかはともかく傭兵として付いていく位は良いだろう。


「あのオーク達はこの辺によく出没するのですか」


 リデルの質問だ。もちろん俺の疑問でもある。


「この辺に魔人が出ることはない。このへんで暴れても直ぐに組織だった討伐隊が編成される。

 奴らも馬鹿ではないからな、人を襲うなら他を選ぶだろう」


「おそらく私が狙われたのだと思います」


 傭兵長の言葉にミーティアが付け加える。


「ミーティア様はもう一度襲撃があるとお考えですか?」

「恐らくは無いでしょう。この度の襲撃もずいぶんと強引なものでした」

「差し支えなければ、襲撃された理由を聞かせて頂いても?」

「お話できることは少ないのですが、ある貴族様と南の山脈に居を持つオーク族の一派に恨みを持たれております。私からすればお門違いなのですが」

「その貴族とオーク族が手を組んだとお考えですか?」


 人と魔人が手を組むとかあるのか。


「私は貴族様とオーク族に恨みを持たれているだけです」


 さすがに手を組んだとはいえないか。でも確信しているんだろうな。


「魔人が人と手を組むとかあるのか?」

「過去にそういったことは何度も起きているね。

 魔人は絶対的な悪ではないんだ。言葉を話しルールを作り一つの社会を形成している。人と同じように喜怒哀楽を持ち、欲もある。だから手を組むことも裏切ることも出来る。

 人よりは少し欲に忠実なところもあるけれどね」


 考えて見れば、犬だって躾ければある程度は望む行動をとってくれる。水族館で見かけるイルカは知能が高いというが、統率のとれた素晴らしい演技を見せてくれた。知能の高い魔人が人と手を組んだり裏切ったりとかも十分にありえるのか。

 もしかして綺麗なミーティアにフラレて逆恨みとか無いだろうな。


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