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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第一部 第一章 冒険者編
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冒険者始めました

「冒険者ギルド?

 二つ先の通路を右に入っていけばリッツガルドって酒場がある。その隣だ。」

「ありがとう」


 教えられたとおり二つ先の通路を右に入った所にそれらしい建物を見付けた。

 酒樽のマークが描かれた看板だ。おそらくここがリッツガルドなのだろう。

 冒険者ギルドと酒場は同じ建物で入り口が違うだけのようだ。


 開け放たれた扉の奥から活気のある声が聞こえてくる。

 今は感覚的に一〇時くらいだ。この時間に出掛けていないという事は近場で狩りをするか町中の依頼をこなす冒険者だろうか。

 俺も今日は町からそう遠くへ離れる予定は無かった。


 そもそも、旅立ちのはじめはまず冒険者ギルドで登録だろう。午前中は登録を済ませる予定だ。いくらハードモードでも狩りに関する多少の知識は入ると思う。


「坊主、入る店を間違えているぜ」


 冒険者ギルドに入るとテーブルに座って朝食を取っていた中年の冒険者、その内のまるで熊の様な体格で髭を生やしている冒険者が声を掛けてくる。

 絡まれたという感じでは無かった。

 どうやら酒場の入り口の方に入ってしまったらしい。


「ありがとう、間違えました」

「傷は良くなったみたいだな。若い奴は治りが早くてうらやましい限りだぜ」


 あ、ルイーゼに教えてもらった特徴と一致するな。


「もしかして僕を助けて運んでくれたのはあなた方ですか?」

「運んだのは俺らだが、介抱したのはお嬢ちゃんだ。感謝ならあのお嬢ちゃんにするんだな」

「はい、それはもちろん。

 でも、運んでくれたのはあなた方です。助かりました、ありがとうございます」


 熊髭は別にどうでも良さそうに手を振って仲間内の会話に戻った。

 どうしたものかと思ったが、お礼も言ったし、大して気にもしていないようだから俺も気にしない事にした。


 入り口から正面の壁に、付箋のように貼り付けられた紙が目に入る。


「これが依頼かぁ」


 うん、全く読めない。辛うじて数字と思える物が分かる程度だ。

 まぁ、読めない物は仕方ない。覚える必要があるけれど、取り急ぎは食の確保だ。


「坊主には少し早いんじゃ無いか」

「うーん……無理の無い依頼を頑張ってみるよ」


 狼に殺され掛けたのを助けられたし、心配してくれているんだと思う。


「よし。冒険者登録をしたいんだけれど、どうすれば良いかな」

「向こうの奥にあるカウンターの、胸のでかい方の女に聞きな」


 男の指した方にはカウンターが有り、そこに二人の女性が座っていた。向かって右の女性の方の胸が大きいと思う。茶髪ロングの美人さんだ。

 熊髭にお礼を言ってカウンターに向う。


 俺が胸の大きい女性の前に立つと、左のカウンターの女性の顔がちょっと引きつっているように見えたが気にしない事にした。


「今日はどのようなご用件でしょうか」


 事務的だけれど、ピシッとした感じがちょっと良い。


「えっと、依頼を受けたいのですが、それにはギルドに登録する必要がありますよね?」

「そうなりますが、冒険者ギルドへの登録は一五歳からになっています」


 なんだとっ!

 あ、もう誕生日を過ぎたから一五歳だ、童顔だが問題はないはずだ。


「はい、十五歳になりましたので登録に来ました」


 受付の美人さんは少し思案したようだけど十五歳と認めてくれた。

 後で分かった事だが、生活費を稼ぐ為に子供が年齢を偽って登録する事は良くあるらしい。そういう子は魔物を狩る訳では無く野ウサギや魚と言った獲物を売る為に登録するので、生活の為と黙認されているようだ。この世界で子供が狩りをするのは普通の話だった。


「ではこちらのギルド規約を読んで頂いて、誓約頂けるようでしたらこの用紙に名前とパーティー名、それから持っている技能を書いてください」


 ギルド規約が書かれているだろう用紙を受け取るが、全く何が書いてあるか読めない。


「こちらで代読致しましょうか」

「お願いします」


 どうやら俺の思いを汲んでくれたらしい。


 ギルド規約には次のようなルールが書いてあった。

 1、冒険者はその国の法を遵守する事

 2、冒険者は依頼の報酬から十パーセントを税金として納める事

 3、冒険者はS・A・B・C・D・E・Fのランクに分かれ、該当ランク以下の依頼のみ受ける事が出来る

 4、冒険者は例外なくFランクから始まり、討伐実績に応じてランクが上がる物とする(討伐実績内容については別項)

 5、冒険者は他の冒険者の死体・遺体を発見した時、冒険者プレートを回収しその状況をギルドに報告する事(ただし、自身の安全を最優先とする)

 ……

 以降は常識的なマナーに関して書かれているが、特に問題となる事も無かった。


「代書しますか?」


 もちろんお願いした。


「名前は『アキト』でお願いします。所属のパーティーと技能はありません」


 偽名も考えたが、何かあった時にリゼットに気づいて貰えるように本名にした。


「それではこちらの認識プレートに手を乗せてください。少しピリッとしますが害は無いので大丈夫です」


 言われるままに認識プレートに手を置く、ちょっと強めの静電気みたいな刺激があった。


「この認識プレートは町に入る時の認識票にもなりますので、無くさないでください。再発行は銀貨一枚になります」


 これは銀貨一枚か。宿四泊分だな。


「ありがとう」


 俺は認識プレートを受け取るとようやく冒険者としてのスタートを感じた。


 その他、ランクの上げ方を教えてもらった。

 ランクの上げ方は単純で魔物を倒す事。町のお使いみたいな方法で上げる事は出来ないらしい。そういった要件は冒険者ギルドでは無く商業ギルドの方で取り扱っているそうだ。


 魔物が死ぬと魔力が結晶化される。その時に発生する事象変化を、認識プレートに埋め込まれた特殊魔晶石が検知して特殊魔晶石の色が変わるようだ。


 色は魔物の持つ魔力量によって蓄積量が変わり、蓄積が進むと特殊魔晶石の色が無・白・青・緑・黄・橙・赤と変化する。その色に合わせてF・E・D・C・B・A・Sのランクに振り分けられていた。


 ちなみに魔物を倒す為の貢献度が少ないと特殊魔石は反応しないと言う事だ。

 それに魔物の持つ魔力量が現在のランク以下だといくら倒してもランクは上がらないらしい。効率よく上げるには同等か強い魔物を数多く狩る事になる。


 魔物も冒険者ランクと同じようにランク付けされていて、自分の技量にあった討伐対象が分かりやすいようになっている。魔物を倒し続けても色が変わらないようだったら、そろそろ次のランクの敵を倒せるようになったという目安らしい。


 魔物を倒す為の貢献度が関係する為、強い人と一緒に戦っていても、全く敵対行動を取っていなければランクは上がらないようだ。強い人に付き添ってもらって安全を確保しながら上げる事は出来そうだけど。


 ランクを上げると-2ランク以下の依頼を受けられなくなる。だから強い人の助けを受けてランクを上げると、実力に見合わない依頼をこなさなくてはいけなくなる。自分で自分の首を絞める結果になるようだ。


 若くプライドが高い冒険者の中には見栄を張る為にお金で傭兵を雇い、助けてもらいながら強引にランクを上げる人がいるらしい。

 ちなみに一般的な冒険者が一人で狩れる限界はランクD位までと言われている。いくら一人でランクCの魔物を倒せたとしても、ランクCからはパーティーで無ければ依頼自体を受けられない仕組みになっていた。


 特殊魔晶石は冒険者ランクを示す以外にも宣伝的要素があるみたいだ。

 人によっては特殊魔晶石を武器や防具に装飾品として埋め込む事で自分の力を誇示する。元の世界からすれば自慢のような行為だが、この世界ではきちんとした理由の元に行われている行為だった。これは自分の実力を示す事で、より有利な依頼を受ける為の生存競争になっていた。


 誰だって依頼をするのであれば成功率の高い冒険者に依頼したいだろう。成功率の高い人とは即ち魔物の討伐実績の高い人だ。特殊魔晶石は冒険者の能力を分かりやすい形で示している。


 同じような理由で二つ名を持つ冒険者も多かった。

 冒険者には平民が多く姓を持たない、あるいはありふれた姓の人が多かった。例えば『トーマス』さんが優れた冒険家であっても20人も30人もいてはどの『トーマス』さんか分からなくなる。ここで『疾風のトーマス』とか二つ名があれば分かりやすいという訳だ。決して中二病を発症している訳じゃ無い。……多分。


 最後に俺は冒険者ルールにあった一つの義務を果たす事にした。


「そうでしたか。ここ最近見掛けないとは思っていたのですが残念な事です」


 初めてこの世界に来た時に見付けた死体から装備品と荷物を拝借した時に、さっきもらった冒険者プレートと同じ物があった。


 俺は死体を発見した時の状況と、必要に迫られて装備品と荷物を拝借した事を伝えた。もし返せと言われても、服だけは何とか貸して欲しかった。


「申し上げにくいのですが、亡くなられた方の装備品は遺品として回収させて頂きます。ただ、服は事情もありますのでお持ちください」


 遺品として回収しないと装備品目的で冒険者を襲う盗賊に死んでいたから(・・・・・・・)と言う理由を与える事になるらしい。確かに、死人に口なしだ。殺して奪い取られても分からない。ここは服だけでも良かったと思う事にしよう。

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