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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第一部 第一章 冒険者編
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狩りと鍛錬の日々・3

 リデルが名誉士爵を授爵した翌日。

 俺達はいつもどおり鍛錬に励み、今日の狩りの予定を話し合っていた。

 リデルが貴族になったからといって、突然何かが変わることもなく、街の出入りでちょっと融通がきくようになったくらいだ。貴族だと優先的に身分確認してくれるので出入りで待つような事が少なくなる。


 とはいっても、ここに来るまで出入りの門を持つような町はトリテアの町だけだったし、あそこは冒険者なら認識プレートをかざすだけでほとんど素通りだ。商業都市カナンならば石壁で囲まれた町のため東西南北を飾る大門があったらしいが、俺達は商業都市カナンを通らなかったので、結局町の出入りで並ぶといったことはなかった。


 ミモラの町には後四日滞在する。ここでは旅の疲れを休め、ゆっくりする予定だ。

 ただ、ゆっくりと言っても適当に魔物狩を行うのは変わらない。

 それでも、旅の足を止めて一日に決まった距離を移動しなければならないという制約から解き放たれるだけでも、十分に気分が開放的になる。


 それに、滞在する理由はもうひとつあった。

 ミモラの町からリザナン東部都市へは乗合馬車を利用する予定だが、五人分の空き待ちをする為にしばらく時間が必要だった。それらの要因を見合わせて五日の滞在としていた。


 滞在期間中には近隣の魔巣で狩りを行い、路銀の確保と魔物の特性を調べておく。ここは冒険者向けの店も揃っているため、装備の見直しを行うのも良いだろう。


 巨大鰐の素材を売る必要もあるし、売上の半分は熊髭たちに冒険者ギルド経由で送る予定だ。

 リゼットに最後の手紙を送るのも忘れない。到着予定は約二週間後。


 グリモアの街を出てから大分掛かってしまったが、この世界では予定通り着く方が珍しいらしく、大抵は遅れるそうだ。

 待つ方もまたそれくらいは想定しているのが普通なので、あまり問題ないらしい。


 乗合馬車でさえ二〇日の予定とは言っても三〇日くらい掛かることもあるようだ。

 逆に早くなることは殆ど無いらしいが。


「ミモラの町から魔物の遭遇地点までは徒歩で一時間ほどとなっています。

 外周の魔物はランクFとランクEが中心なのは他と変わりませんが、ランクDの魔物も若干交じるようです。それ以上の魔物は移動でなければ外周には現れません。


 トリテアの町と違って森に深く切り込んだところにある街ではありませんので、ランクCと言った強敵は無視してよろしいかと思います。

 魔物は獣タイプが多く、以前出会った牙大虎が魔物に変異しランクDとしてこの辺りでは最も危険視されています。

 ただ、その素材は高く売れるので、高ランクの冒険者が常に散策しているため、しばらく凌いでいれば直ぐに応援が来るようです。


 需要が多いのは駝鳥でランクEの魔物ですが、魔物には珍しく人を無視して逃げ出すため討伐は困難と言われています。

 他の魔物はカシュオンの森とだいたい似ているようです。

 一角猪に凶牛と言った魔物も出現するようです」


 俺はルイーゼの説明を聞く。聞いているうちに忘れそうなほどの事を良く覚えきったと感心する。

 もう、俺以上に詳しくなっているのは確かだ。負けてはいられない。いずれリデルもルイーゼも自分の生き方を始めるのだから、俺が自分で覚えないといけないことだ。

 マリオンにも何か目的があるようだし、リザナン東部都市についたら支度金と合わせて奴隷を解放しても良いだろう。


 今のパーティーは一時的なものだ。

 俺自体もこの世界に長くいるとは限らないが、それでもルイーゼとマリオンが自分の意志で生きていける力が付くまでは残りたいと思う。

 そういう希望が叶うかどうかはわからないが。


「アキト、ルイーゼにいくつかの本を買いたいんだよね」

「もちろん構わないさ。夕方にでも買いに行こう」


 本は必要だろう。特にこの世界の攻略本があれば最高だ……まぁ、ギルドが配布している冊子がそれに当たるのだろうけれど、ちょっと初心者には不親切なんだよな。


「今日は外周で軽く魔物を狩って、課題がどの程度クリア出来ているか確認しよう。

 本格的な狩りは明日以降に回して早めに戻り、本を買って、夜は祝賀会だ」

「了解」

「はい」

「わかったわ」


 モモが小枝を出してビシッと戦闘ポーズを取る。この小枝も久しぶりだな。

 そういえばモモも戦い方を覚えたいのだろうか。見た目が幼女なので遊びで鍛錬に参加していると思っていたけれど、精霊だし幼女に見えて実年齢は凄いとか。そもそも年齢という概念があるのだろうか。


「精霊に年齢があるのかは分かっていないけれど、少なくても人の知る限り寿命というものはないようだね。

 モモも見た目は幼い子供だけれど、人と同じ概念で年齢という言い方をするならば数千歳という事もあるんじゃないかな」


 リデルが俺の疑問に答える。

 もしかしてモモはものすごく知的だったりするのかもしれない、話せないだけで。

 でも普段の行動を見ていると、どうも俺の妹が小学校低学年だった頃と同じ感じなんだよなぁ。まぁ、精霊の事を人と比較してもしかたがないか。


 ◇


「マリオン、しばらく攻撃は無しだ。

 盾を持たないなら、その剣と動きだけで一角猪の攻撃を躱し続けるんだ」

「わかったわ!」


 一角猪の攻撃は直線的だ。躱すのは決して難しくはない。

 しかし頭にある角は注意する必要がある。あれで刺されると致命傷になりかねない。俺も一角猪とマリオンの動きに注意して、必用なら魔弾(マジック・アロー)をいつでも撃てるように待機する。


 マリオンは順調に躱している。

 筋がいいのか俺より器用な感じを受ける。


「アキト様」


 もう一匹の一角猪がこちらに気付き向かって来た。しばらく前から近くをうろちょろしていたのは魔力感知(センス・マジック)で気がついていた。

 こちらに向かってきても脅威になりえないので放置していたのだが、丁度いい。


「マリオン、二匹目が来る」

「わ、わかったわ!」

「ルイーゼは待機」

「はいっ!」


 一角猪が連携をするのは見たことがない。その点では牙狼(がろう)ほどの脅威ではない。

 ただ、体重一五〇キロほどの魔物が二方向から突進してくるのだから、危険度は倍では済まない。躱したところを狙われるからだ。

 マリオンも躱すのが徐々に遅れだし、バランスを取れなくなっている。


「マリオン、攻撃を許可する」

「?!」


 返事の余裕も無くなっている感じだが、指示は聞こえたらしい。

 守り一辺倒から攻撃を繰り出すようになった。


 躱し際に頭、首、胴体と傷を与えていく。どれも浅い傷で一角猪の動きが衰える感じはない。むしろ怒りでより動きが激しくなっているようにみえる。


 マリオンはまだ身体強化(ストレングス・ボディ)が使えない。それでも、きちんと刃を立てて力が篭っていれば一角猪は倒せるはずだ。


「ルイーゼ介入しろ。魔法と攻撃は無しだ」

「はいっ!」


 攻撃はあくまでもマリオンが主体だ。

 ルイーゼの魔力も俺より多いとはいえ無限ではないので、自力も上げていく必要がある。

 ルイーゼが介入したことでマリオンの動きに余裕が出てきた。

 

 昔は一角猪の突進を受け止めると吹っ飛んでいたルイーゼだけれど、今は真正面から受けずに突進の力を上手くいなす事が出来るようになっている。

 以前にも猪の突進を受け止めていたくらいだ、身体強化(ストレングス・ボディ)を使えば耐え凌ぐ事も出来るだろう。

 一角猪は変異した魔物とはいえ、魔法が使える状態であればルイーゼの防御に心配はなさそうだ。


 しかし魔法を封じている今は、二匹の突進を受け続けるのがきついようだ。たまに躱す必要があり、躱すことでマリオンに不意打ちのような状況が発生する。


 なんとか正面からの体当たりを躱したマリオンだが、弾かれて吹っ飛ぶ。

 体が軽いせいもあるのか結構派手に吹っ飛んだので驚いたが、マリオンもまともに当たったのではなく自分で飛んで勢いを殺していたようだ。


 ルイーゼとマリオンが再び陣形を立て直し、攻撃に転じる。

 ルイーゼが一角猪の突進を止め、マリオンがその首元に剣を突き立てる――が、鎧蜥蜴の時と同じだ。

 一角猪が首に剣を刺したまま暴れ、その勢いでマリオンが剣を手放してしまう。


 マリオンは手首を抑えて呻く。

 手首を傷めたのか。


「ルイーゼ、倒せ、魔法を使ってもいい!」

「はいっ!」


 俺はマリオンのフォローをしつつも、基本的にはルイーゼに任せる。

 守りながらの戦いを覚える必要があるからだ。

 ルイーゼは背後にマリオンを庇っている為、躱す事は出来ない。


 一角猪の突進は身体強化(ストレングス・ボディ)を使い耐えしのいだ。

 突進を受け止めた場合、一角猪には脳震盪が起こるのか隙が出来る。

 そこをルイーゼのメイスが打ち付け、一角猪は頭を砕かれて倒れる。


 残り一匹。一対一になれば今のルイーゼが遅れを取ることはないだろう。

 程なくしてルイーゼが二匹目の一角猪も倒し、戦闘状況が終息した。


 ◇


 俺はマリオンの手を取り、様子を伺う。

 マリオンは痛みに顔を歪めるが、骨が折れていた場合はそのまま回復魔法を使うことは出来なかった。

 おそらくその性質上、変に折れた状態で治ってしまうと思われるからだ。まずはきちんと骨が付くようにしなければいけない。

 それにどれだけの痛みがともなおうと。


 幸いにして捻挫で済んだようだ。

 医学の知識があるわけでは無いので、正確には分からないが、痛みがあるだけで指先まできちんと動いている。


 俺は回復魔法を使い、マリオンの手を治療する。

 魔力がマリオンの体を通り、その自然治癒能力を向上させる段階で温かみのある淡い光で満たされていく。


「あ、ありがとう」

「よし、違和感はないか」

「全くないわ、すごいわね魔法」

「あぁ。でもいつでも回復出来るとは考えず、基本は怪我をしないようにすることだ。

 まぁ、俺が言っても説得力がないかもしれないけれど」

「そんなことないわ」


 俺はマリオンの手を引き立たせる。

 転がりまわっていたせいで頭まで葉っぱだらけだ。それを取り除き、今の戦いの反省点を上げる。


「マリオン、もう分かったと思うが敵を突いても直ぐに剣を抜くのを忘れるな。鎧蜥蜴に続いて二度めだ。

 力が弱くてもダメージを与えやすいから突くこと自体は効果的だけれど、一角猪の外皮なら切るだけでも十分ダメージを与えられる。

 どんな体勢からでも獲物に対して真っ直ぐに刃を立てるように意識すること。

 後は思ったとおりに剣が振れるように反復練習と、刃があたってもブレないように腕の筋肉をつけること。

 この辺を目標に朝の鍛錬メニューを組み直そう」

「わかったわ」

「僕からすると、本来は槍を勧めたいところなんだけれどね。どうしても剣でなくてはダメなのかい」

「命令なら槍を使うわ。それでも剣の練習はさせて欲しいの」


 どっちがいいだろうか。槍の練習をしつつ剣の練習をするのと、剣一本で行くのと。普通に考えればどちらか一方だが。


「あくまでも僕の考えだからね。そこまで拘るなら剣一本で行こう。

 その代わり、アキトが言ったメニューはこなしてね。女性には大変だと思うけれど、剣を使うなら必要なことだから」

「もちろんよ。必要ならなんだってするわ」


 マリオンの腕も太くなるのか……仕方ないか。メイスや槍と違って、剣は刃を立てて支える筋肉も必要だからな。


 ◇


 一角猪や凶牛といった見慣れた魔物に集中して、狩り兼実戦練習を終えた俺達は、宿で軽く水浴びをし汗を流した後、街に繰り出した。


 冒険者というのは本当にすぐ服がボロボロになる。転げまわっているのだから当たり前といえば当たり前だが、この消費が意外と馬鹿にならなかった。

 どおりでランクの低い冒険者はいつも継ぎ接ぎだらけの服を着ていたわけだ。


 さすがに貴族となったリデルにそれはまずいし、付き添う俺達も、ボロを着ているわけにも行かないだろう。適当な服をまとめて買っておくことにした。

 俺はいつもの様に自分のセンスで服を選んだが、無言でルイーゼとマリオンに取り上げられた。

 代わりになんかちょっと自分のイメージじゃない服を押し付けられたが、ここは逆らうところじゃないと本能で察した。

 何故かリデルの選んだ服は交換されなかった。何処が違うのか。


 服屋を出た後は約束の本屋だ。本屋は上級街にしか無いので、そちらに向かう。

 初めて見る本屋は、本屋と言うよりは本があると言った感じだった。元の世界のビルまるごと本屋みたいなのまでは期待していなかったが、これだけ立派な街なのだからもう少し本屋らしい物はないのだろうか。


 それでもいつくかの本は目的にあったようで、購入することにした。大体は地理的なものと歴史的なもの、それから各貴族の紋章が乗った本だ。


 紋章といえばリデルも紋章を作る必要があるらしい。作るなら盾のイメージは外せないな。色は付けられないので、なにか青いイメージの湧くもので飾り付けだな。

 まぁ、俺が作るわけじゃないので、考えても仕方がないのだが。


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