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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第一部 第一章 冒険者編
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夢への一歩

 四日後。俺達は昼過ぎにミモラの町へ到着し、冒険者ギルドに来ていた。

 魔物の拠点以外で魔物を発見した場合は、状況報告の義務があったからだ。


 ミモラの町は雰囲気的にはトリテアの町に似ているが、森の中の狭い立地に作られた町とは違い低く広い街だった。

 魔巣の森に接する町特有の雰囲気で、冒険者が中心となって出来た街らしく綺麗に区画分けされてはいない。宿屋、商店、鍛冶屋、装備屋、食料店と言った店が混在し、雑多な街を形成していた。


 ただ、街の北側だけは上級街になっているのか、そこだけ全体を覆うような石壁でくくられている。

 もともと石壁の内側だけの街だったらしいが、人が増え区画整理を進めた結果、富裕層が集まって上級街となったようだ。


 先に到着していた熊髭達が簡単な説明はしておくと言っていたので、受付で巨大鰐の件だと告げると直ぐに取り次いでくれた。


 応対してくれたのはギルドマスター補佐の男性だ。銀髪を短くし、しっかりとした体格をした壮年の男で、装備をしていなくても剣一つで十分に戦えそうな偉丈夫だ。


「出向いてもらって悪かったな。俺はこの街のギルドマスター補佐をしているラスターだ」

「パーティー『蒼き盾』のリデル・ヴァルディスです。

 隣がアキトその隣が冒険者ではありませんが共に旅をしていますモモです」


 この場には俺、リデルとモモ以外にも、ルイーゼとマリオンがいる。でもこういう場では奴隷の紹介は省かれる。奴隷がどれだけ活躍したとしても、それは所有者の功績になるからだ。


「リデル、早速ですまんが報告を頼む」

「はい」


 魔物との遭遇から、討伐までの状況をリデルが詳しく報告をする。


 ◇


「わかった。魔物が街道に出る前に討伐することが出来てなによりだ。

 帰りに下で討伐報奨金を受け取るといい」

「討伐と言いましても僕達はほどんと逃げていたようなもので――」

「構わんさ。その活動に見合った分の配分だと思えばいい」

「わかりました。ありがたく頂戴いたします」

「それから面倒ついでで悪いが、ボールデン男爵様が面会を求めているので会ってもらうことになる」


 うへぇ、貴族か。また絡まれそうだなぁ。


「安心するがいい。ボールデン男爵様は貴族とは言っても元は冒険者だ。髪の色など気にするようなお方ではない」


 顔色を読まれたようだ。恥ずかしい。ポーカーフェイスの練習はしているんだけれどな。


「分かりました。時間はお任せいたします」

「連絡を入れる。今夜の宿は決まっているか」


 決まっていないと答えたところで、ラスターから宿の紹介を受ける。ギルドマスター補佐の紹介だ、悪いところではないだろう。

 俺達はお礼を言って退席する。


 ◇


 受付では巨大鰐の討伐報酬として銀貨二五枚を受け取った。

 ランクCの討伐料は最低でもランクDの倍だ。ランクDの魔物だった巨大熊の時が銀貨二二枚だったことを考えると、銀貨五〇枚程度になるだろう。そこから逆算するに、おそらく熊髭達にも同じくらいは支払われている。

 実際に討伐したのは熊髭達なので俺達よりも多いかもしれないが、そうであれば遠慮せずに済む。

 なんにせよここ最近は路銀も減る一方だったので、助かる。


 ◇


 紹介された宿は上級街に続く主要道路沿いにあった。新しくはないが、丁寧な作りのせいか古さを感じない。

 受付の女性にギルドマスター補佐の紹介で来たことを告げるといくらか安くしてくれたようだ。それでも五人で一泊銅貨一〇〇枚になるので高めだ。


 俺達はこの街に五日ほど滞在する予定なので、先に支払いを済ませておく。

 滞在の目的は平たく言ってしまえば慰労と狩りの為だ。さすがに旅の疲れも溜まってきたので、少し落ち着きたかった。

 リザナン東部都市まではここから乗合馬車で七日。ここで休んでおけば一気に進める距離だ。


 ◇


 ラスターからの使いが来たのは宿についてから二時間ほど経過してからだ。

 ちょうど日も暮れ始め夕食時になる。目上の人と合うので汗を拭き、それなりに小奇麗な服装をしてはいたが、これで良いのかどうか。

 似たような服を着ているのにリデルとマリオンは品格があるし、ルイーゼは清楚な趣だ。

 俺だけ村人って感じじゃないか。なんか釈然としないものの、ボールデン男爵を待たせるわけには行かないので、宿を出た。


 当然といえば当然だが、ボールデン男爵のお屋敷は上級街にあった。

 上級街に通じる門には門番がいて、通行人を監視しているが、余程おかしな装いでもなければ止めることはないようだ。村人の俺でも問題はなかった。


 教えられた場所は上級街でも一番奥にあり、さすがこの辺りを治めるボールデン男爵のお屋敷という感じで大きかった。

 この世界にきて見た建物のどれよりも大きい。

 男爵というと貴族の序列で言えば下の方だと思ったが、それでもこれだけの屋敷を構えることが出来るのだろうか。


「えっと、ボールデン男爵様は領地持ちの貴族になられる方で、ミモラの町がランクAの魔物に襲われた時、仲間と共にその魔物を討伐。

 元の領主様は町を防衛せずに逃亡したことからお家取りつぶしとなり、その代わりとしてボールデン男爵様がこの地を治めることになったようです」


 ルイーゼがリデルの方を見て確認を取る。


「それで正しいよ、ルイーゼ。

 補足するならば、領主が変わっただけで、それまで治めていた人達はそのまま残ってボールデン男爵様の臣下になっているから、領地の運営自体は問題なく引き継ぐことが出来た。

 ただ、魔物に荒らされた後を治めるのは大変だったようだけれどね」


 その大変さを考えるだけでも胃が痛くなりそうだが、幸いにして自分のことではないので良かった。


 そのボールデン男爵のお屋敷自体は高さ二メートルほどの石壁で囲まれ、その周りには幅二メートルほどの堀があった。

 堀は川の水をそのまま引いているようで、泳いでいる魚が見える。

 獲ったら怒られるだろうか。しばらくお魚を食べていないな。


 門番に招待状を渡すと、直ぐに案内の女性が現れた。裾の長いワンピースにエプロンを付けた使用人の女性で、金髪ロングを後ろでまとめたなかなかの美人さんだ。


 俺達は案内されるままにお屋敷の扉をくぐる。高さ三メートル、片側の扉だけでも幅二メートルはある扉の前に立つと、使用人の女性が何かを囁くことでその扉が開き始めた。魔法で開閉する仕組みのようだ。鍵よりは防犯性が高いのだろうか。


 玄関ホールは贅を尽くした作りになっていた。それでも派手さはなく統一された色調で落ち着きがある。金よりも銀を多く使っているからだろうか。

 絨毯も赤ということはなく、落ち着いた灰色が基調色で何かの毛皮を集めて作られたのかもしれない。


 玄関ホールに入り右奥の待合室に通された後、使用人の女性はしばらくお待ちくださいと言い残して部屋を出て行く。


 待合室も玄関ホールと同じように贅を尽くされていたが、この部屋には調度品が多く飾られていた。

 おそらく贈り物なのだろう。調度品の下には目立たない程度に送り主の名前が彫られている。どれもこれも貴族らしい名前が多い。

 この部屋には送り主の見栄が集まっているのかもしれない。


 しばらくして、先ほどとは別の女性が現れる。


「メイド長のリズナと申します。これよりお館様のもとにご案内させて頂きます。

 誠に申し訳ございませんが、ルイーゼ様とマリオン様につきましては別の者がご案内いたしますので、今しばらくこの場でお待ちいただけますでしょうか」


 まぁ、なんとなく予想はしていた。貴族が奴隷と一緒に食事をするということもないだろう。

 俺は二人にすまないと伝える。

 二人とも全く気にしていないというより、さも当然といった感じだ。

 むしろ緊張しないで済むのが嬉しいとも感じる。そうだよな。俺だって呼ばれなければわざわざ会いたいとは思わないし。


 案内された先では既にボールデン男爵とその夫人らしき人が席についていた。

 テーブルマナーはほとんど分からないが、多分上座に婦人が、その対面にボールデン男爵で、その両隣にいかにもお嬢様といった感じの年頃の娘さんが座っている。


 ボールデン男爵の家族は確かに良い物を着ていると思うが、豪奢という感じではなく、良い物を無用に飾り立てず、素材の良さとアクセントで魅せるものにしていた。

 ボールデン男爵は金髪で四〇歳位。夫人は銀髪を巻き上げた細身の女性でまだ二〇代に見える。


 待つことになると思っていたので、出迎えられたためちょっと焦る。焦るが、落ち着け、俺にはリデルがいるじゃないか。リデルに任せておけば良いだろう。


「リデル・ヴァルディスと申します。本日はお招きを授かり光栄に思います」

「アキトと申します。同じくお招きをいただきまして、ありがたく思います。

 この子はモモと申しますが、言葉が話せませんので挨拶はお許し下さい。」

「ボールデン男爵だ。それに妻のアウラーデ、娘のエニスとクリスだ。お前たち挨拶を」


 ボールデン男爵の両隣の女の子が立ち上がる。


「エニス・ボールデンです。よろしくお願いいたします」


 母親譲りの銀髪を腰まで伸ばした、おしとやかな雰囲気の少女だ。

 俺たちより少し年が下に見える。


「クリス・ボールデンです。以下、お見知り置きを」


 こちらは父親と同じ金髪のセミロング。

 ウェーブのかかった髪を持つ柔らかい雰囲気での少女だ。

 恐らく妹だろう、姉より一つか二つ若いと思われた。


 二人はモモに興味津々のようだ。


「堅苦しい挨拶はここまでだ、今日はこの地方の特産品を用意した楽しんでくれ」


 俺は夫人の左に、リデルは夫人の右に案内され、席に座る。モモはエニスの隣に案内された。


 情けないことにリデルと離れて座ることで妙に心細い。

 仕方ない、ここは完全なアウェイだ。俺のような一市民が場をこなせる所じゃない――が、食事は美味しかった。

 やっぱり貴族様は美味しい物を食べていらっしゃる。


「これは美味しいですね」


 思わず言葉がもれる。

 慣れない言葉遣いだけれど、俺だって敬語は無理でも丁寧に話すくらいなら出来ると思う。


「こちらは北の森に生息する駝鳥の肉を、蒸した後に味付けをして焼き上げたものでございます」


 メイド長のリズナさんが料理の説明をしてくれた。


 モモも美味しそうに食べている。モモは野菜が大好きだが肉類を食べないわけじゃない。燻製や干し肉のようなものは食べないが、きちんとした料理なら食べる。

 少し口の周りを汚していたが、エニスが汚れを拭いてくれた。お嬢様にさせてしまって良かっただろうか。


「飛べないくせに動きが早くてな、倒そうとするとなかなか厄介な魔物だが、肉はこの通り旨い」

「主人は今でも駝鳥の肉が食べたくなると自分で狩りに行かれるのですよ」

「市場になかなか出回らないからな、待つくらいなら自分で取りに行ったほうが早い」

「ボールデン男爵様は、元は冒険者だったと聞きましたが」


 リデルの言葉にボールデン男爵は少し不満そうな顔をする。


「俺は今でもそのつもりだがな。妻のアウラーデも一緒に戦った仲間だ」

「お父様はランクAの冒険者ですわ。とてもお強いのですよ」


 クリスが誇らしそうに笑顔で教えてくれる。

 確かにランクAの冒険者にはあったことすら無い。

 トリテアのギルドで昇級試験の相手をし、圧倒的な強さを見せてくれたバルカスでもランクBだ。ランクAとなるともう、強さの想像がつかない。


「主人は書類仕事に追われて魔物狩りに出られないのが不満なのよ」

「まったく、貴族なんてものはお固く口うるさいだけだ。金さえあればこんな肩書邪魔にしかならん」

「ごもっともです。俺もお金さえあれば冒険者のままで十分です」


 思わずボールデン男爵を身近に感じてしまい、本心を言ってしまった。


「だろう。俺も甘い誘惑に誘われなければ……」


 ずいぶんとぶっちゃけた貴族様だ。


「お父様、私は冒険者にはなれませんわ」


 エニスが頬をふくらませてちょっと拗ねたようだ。


「なに、お前たち二人には俺とアウラーデの血が流れているんだ、その気に慣れば直ぐにランクDくらいまでは行けるぞ」

「あなた、二人に私みたいに行き遅れと陰口を言われたいのですか」

「そんな事はないが、いや。いつまでいても面倒を見るぞ、遠慮せずずっといるが良い」

「あなた、皆さんが困っていますよ」

「ん、これは失礼」


 その後も和気あいあいと食事が進み、この場にルイーゼとマリオンがいないのが残念だ。


 ◇


「さて、本題だ」


 食事が終わり、夫人とお嬢様二人が退席した後、ボールデン男爵と今回招かれた本来の目的を聞くことになった。


「リデル、君はアルディス男爵家の者で間違いないか」

「はい、今は継承権を放棄して家名を名乗ってはおりません」

「それは重畳」


 ん、なんで重畳なんだろう。


「リデル。貴殿に名誉士爵の位を叙爵する用意がある」


 叙爵?!

 リデルも反応に困っているようだ。そもそも、男爵に叙爵の権利があったのか。


「もちろん、断っても構わない。

 自分で言うのも何だが、面倒が増えるだけかもしれん。冒険者としてやっていくというなら無用なものだろう。

 それに一代限りの名誉爵位だし、年金が出るわけでもない。

 なのに貴族の付き合いは求められるという、どうにも良いところが見当たらない爵位だ。

 だが、もし貴族を目指しているなら、助けになるだろう」


 リデルの目的は王国騎士だ。王国騎士は当然、全員が貴族になる騎士爵だ。名誉付きとはいえ、士爵の位はリデルにとって王国騎士になるための近道なのは間違いない。


「大変もったいない申し出ですが、理由をお聞きしてもよろしいでしょうか」

「無論だ。とはいえ、それに見合うだけの功績を上げたからという理由しか無いがな」


 爵位を受けるほどの功績を上げていたのか。知らない間に地道な努力をするとはさすがイケメンだな。


「思い当たらないという顔だな」

「私は王国騎士の登用試験を受けるにあたって、必要な実戦経験を得る為に旅に出ましたが、それもまだ二ヶ月程度のことです」


 リデルが自分では意図していないさりげない行動が評価されたということか。


「気付いてないのか。ならば教えよう。

 巨大熊討伐による人命救助、ホブゴブリン討伐による人命救助、毒大蛇討伐による被害の防止、トリテアの北部山脈を根城にする盗賊の討伐にその情報を持ち帰った功績、メビナ砂漠での人命救助、リザナン街道沿いに現れた巨大鰐の討伐。

 十分どころか有り余る功績だ」


 あれ、不可抗力で巻き込まれたのが殆どじゃ無いか。


「お言葉を返すようですが、どれも私一人の力ではなく、中には逃げ帰ったことも含まれております」

「謙遜の必要はない。全ては結果が大事なのだ。報告はきちんと受けている。

 毒大蛇から逃げたとは言っても結果的には止めを刺していた。巨大鰐から逃げたと言っても、その討伐に大きく貢献したことは事実」


 すごいな冒険者ギルド、きちんとそういうことを把握しているのか。ただ報告を聞いていただけじゃないんだな。


「納得がいかないか」

「いえ、決してそんなわけでは。ただ、これで良いのかと」

「普通に生きていてはその内の一つすら達成することも出来ない。

 そして、狙ってもそうそう功績を立てるなど出来ない。

 もっとも、どの戦いも楽ではなかっただろう。運が良かったのか悪かったのか、いずれにしても十分な功績は受けている、必要なら受け取れ」


 受け取れ、リデル。断る理由はないだろ。


「先程も申しましたように、この功績はパーティーあってのものです。

 アキトにも同様の処遇が頂けるのでしょうか」


 俺のことはどうでもいい、と言うか俺はまずい。あまりこの世界で目立つ地位に立ちたくない。目立つのはまだしも、地位までついてきたら身動き取れなくなる。


「残念だが、この功績はリーダーのリデルに属する。リデルがそれを望むのならば爵位を上げ、自分の力で叙爵するんだ」

「それではもう――」

「リデル、目的を忘れるな。俺はリデルが名誉士爵になることを望む」


 いつかリデルに恩が返せればとずっと思っていた。旅に出てからも助けられてばかりだった。

 でも、無駄じゃなかった。何度も死にかけながら繋いできたこの道は無駄じゃなかった。


 リデルが俺の目を見つめてくる。そしてボールデン男爵に向かって――


「ありがたくお受けいたします」

「では部屋を変えよう。暫し待つがいい」


 ボールデン男爵は部屋を出て行く。叙爵の準備をしに行くのだろう。

 俺は予想以上に興奮していた。


「騎士になれよ」

「ここまで助けてもらったんだ、必ずなる」

「助けてもらったのは俺だろ。何度も危険な目に遭わせるし、迷惑ばかりかけた。何もわからない田舎者を連れてここまで来たのはリデルの力だ」

「まったく。アキトは自分を過小評価し過ぎだよ。

 何度も言うけれど、迷惑なことなんて無い。僕にとってプラスになることばかりだった」


 お互い嬉しさをかみしめているところで、今度は鎧を着た兵士が迎えに来た。


 ◇


 連れて来られたところは謁見の間だろうか。

 ボールデン男爵が奥に立ち、その右側に騎士らしき壮年の男性が、左側に政務官だろうか初老の男性が控えていた。


「略式で済まないがこれよりリデル・ヴァルディスへの叙爵を行う。

 リデル、前へ」


 リデルが進みゆく。

 そして、ボールデン男爵の前に立ち、片膝を突いて頭を下げる。

 それを見てボールデン男爵が隣に控える騎士から装飾の施された剣を受け取る。

 おそらく儀式用の剣なのだろう、実用的ではない麗美な剣だった。


「リデル・ヴァルディス、汝に王国の剣を授ける。これよりヴァルディス士爵を名乗るがいい」


 リデルが頭を下げたまま両手で剣を受け取る。


「我、ヴァルディスは国王のため、民のため、この身を剣とし国に尽くすことを誓います」


 リデルが宣誓を言葉にすると立ち上がり。ボールデン男爵に一礼後、身を翻して戻ってくる。

 そのまま退出を促され、謁見の間を出た。


 そこにはルイーゼ、マリオン、モモが控えていた。


「リデル様おめでとうございます」

「リデルさま、おめでとうございます」


 普段はあまり名前を呼ばないマリオンも、この時ばかりは名前を呼んでいる。


「ありがとう。みんなのおかげだよ」

「この後は何か必要か?」

「立場的にはこれで正式に名誉士爵で間違いないよ。

 後は一年以内に王都に向かい、王様の前で同じ宣言をする必要がある」


 一年とはまたずいぶん悠長な気もするけれど、こちらとしては問題ないな。

 リザナン東部都市に着けば俺の旅の目的は終わる。状況さえ良ければリデルと共に王都まで旅をするのも良いだろう。その時はリゼットも一緒のはずだ。


 俺達は謁見の間に案内してくれた騎士とともにボールデン男爵の館を出る。

 もちろん儀式用の剣は返却した。


 本来なら祝賀会と行きたいところだが、既に夕食を済ませてしまった。

 後のお楽しみだな。

 ルイーゼとマリオンも同じ食事を頂いたらしく、デザートの話に花が咲いていた。

 みんなが楽しそうに微笑み、危険もあったけれどそれも報われ、少しずつでも確実に前に進んでいる、そんな実感が涙を誘った。

 良かった、本当に良かった。

 何度も死にかけながら生き抜いて良かった。


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