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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第一部 第一章 冒険者編
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ベルナードの町

 翌日の夕方、俺達五人とウォーレン達三人はベルナードの町にたどり着いた。


 特徴的なのは、商業都市カナンから東に伸びて東部都市リザナンに向かう街道と、砂漠から伸びて王都に向かう街道が丁度町の中心で交差しているところだ。言わば町が街道によって大きく四つに分けられている。

 それに合わせて北東が居住区、北西が商業区、南東が工業区、南西が旅人や商人に向けた宿屋街や露天のある雑居区になっていた。


 今夜はウォーレンの館に泊まることになっている為、雑居区は素通りし商業区に向かう。

 気楽に身内だけでとも思ったが、ウォーレンに風呂があると言われ、俺は誘惑に負けて一晩やっかいになる事にした。


 ウォーレンの館は思った以上に大きかった。結構な大商いの様で、夕暮れの店ではせわしなく使用人が働いていた。

 通りに面しているところだけで三〇メートルほどの店になっていて、その隣には集荷場なのか、やはり三〇メートルほどの間口に荷馬車が出入りしていた。


 使用人の一人がウォーレンに気付き、挨拶をした後、別の男を連れてきた。


「ウォーレン様、お帰りなさいませ」

「バウレン、今夜は私の客が泊まっていく。五人で女性が三人だ」

「畏まりました」

「食事の前に風呂の用意を。用意が済んだら客人を案内して欲しい」


 バウレンが恭しく頭を下げて奥に去って行く。


「リデル君、アキト君。私は少し店の様子と集荷物の方を見てきます。

 後ほど食事の時にでもお会いしましょう。

 ローレン、お客様のお相手を」

「分かりました、お父様」


 砂漠ではちょっと頼りなかったが、さすがにホームではてきぱきと行動をしている。

 俺達はお礼を言って、ローレンの案内について行く。


 案内された部屋は左右に扉が有り、そこが寝室になっている様だ。

 寝る時以外はお互いの寝室に通じるこの部屋で寛いでいられる。

 部屋はそれなりに生活感がある作りで、所々に観葉植物が置かれ、調度品も下品なほど高価そうな物ではなく、品の良いおとなしめの感じだ。

 一言で言えば、実に快適な空間だ。

 さすがに冒険者向けの宿とは全く違うな。埃に汚れた服装でソファーに腰掛けるのはどうかと思ったので、テーブルを使わせてもらう。


「どうぞ、果実水です。

 水とタオルをこちらに用意致しましたのでお使いください。

 お風呂の用意は一時間ほど掛かりますので、それまでこちらでお寛ぎ下さい」


 流石は客商売の家の娘だろうか、ごく自然におもてなしを受けた。

 緊張してどじっ子な所を見せるかと思いきや、完璧にこなされてしまった。


 ローレンが部屋を出たところで、ようやく一息が付けた。

 やっぱりなんとなく緊張していたのだろう。みんなも似た様な物だった。


「ここからリザナン東部都市までどれくらい掛かるかな」

「商業都市カナンからで約一二日。ここからだと一〇日と言ったところだね」

「グリモアを出てから二六日、トリテアを出てから一一日か。そんな前でも無いけれど、もうグリモアの町で魔物を狩っていた頃が懐かしいよ」


 あの頃は大足兎を相手に大立ち回りだからな。


「はじめてアキトに会った頃より、今のマリオンの方がきっと強いよ」

「だよなぁ」

「えっ、そうなの?」

「今のマリオンなら牙狼(がろう)くらい一人で倒せるだろう。俺はリデルの後ろに隠れて、隙見て倒していたくらいだ」

「私も牙狼(がろう)を倒せずに逃がしてしまいました」


 そんな事もあったなぁ。魔物が逃げるのを初めて見たのはその時だった。


「後にも先にも、魔物が逃げていくのを見たのはあの一回だな」


 ルイーゼが顔を赤くしてしまった。


「それって何年くらい前の話?」

「うーん、二ヶ月くらい前だな」

「二ヶ月? 冒険者ランクDだったわよね?」

「たしか三,四週間くらいでランクEになって、その後マリオンと出会った頃にランクDになったな」

「なんでそんなに早くランクDに」


 やっぱり一般的に早いほうなのか。


「そうだなぁ、なんか不運が重なった結果としか言いようが無いんだけれど。

 最初は巨大熊だろ、次にホブゴブリンだろ、その後毒大蛇だ。

 毎回死に掛けながら、逃げる様に倒してきたらランクDになってた」

「マリオンが驚くのも無理は無いね。

 普通に魔物狩りをしていたら早くても一,二年は掛かるからね」


 こうやって改めて聞かされると異様に早い気もするな。

 これにはきっとモモの力も影響があると思う。

 例えば凶牛なんか本来であれば人を集めて荷車を用意し、一匹倒しては街に帰るしか無い。

 一日に一匹しか狩れないし、四,五人で倒す事になるから貢献度も下がるだろう。


 俺達はモモがいるので、連続で倒して持ち帰る事が出来る。持ち帰る事を考えないで済むから二人で貢献度も分けあっている。


 モモの力はこういった所でも確実に効いていた。


「まぁ、ランクDと言っても実戦経験が圧倒的に少ないから、マリオンも知っての通り、毎回何かある毎に死に掛けるよ」

「そ、そうね。確かに生きた心地がしなかったわ」


 マリオンと出会ってからでも、盗賊に襲われ、牙大虎に襲われ、その後もまた盗賊にと散々だったな。


「俺はランクEくらいの魔物だったらリデルとルイーゼの三人で問題ないと思っていたんだ。

 けれど、複数の魔物に襲われたり突発的に強敵と戦う事になったりで、実際には三人では限界だった。

 だからマリオンがいてくれて良かったよ」

「わたし、何も出来ていないわ」

「そんな事無いさ。

 ルイーゼが死に掛けた時、率先して襲ってくる獣を倒してくれたし、ウォーレンも助けたじゃ無いか。十分助けられているよ」

「そう、良かったわ」


 マリオンがそっぽを向くが、その瞳に涙が貯まっているのは見えた。


「俺の勘は余り当てにならないみたいだけれど、マリオンは強くなれるよ。

 覚えは良いし、女性の割に体も強い。模擬戦でも意外と必死で躱しているんだぜ」

「と、当然よ」


 ツンデレ属性は持っていないと思うが、強がりも可愛い物だな。


 丁度お風呂の用意が出来た様なので、先にルイーゼとマリオンに勧めたが、怒られた。

 リデルも後からで良いというので、結局俺が一番風呂をいただく事にした。


 ◇


 お風呂は岩を積み重ね、間を石灰の様な物で塞いで水漏れがしない様に作られていた。

 お湯を温めるのは焼けた石を入れる様だ。

 湯温は三八度くらいか。(ぬる)めだけれどその分じっくりと体を休める事が出来た。

 やっぱり水浴びとは全然違うな。

 もしこの世界に住む必要が出来たらお風呂は絶対に作ろう。


 俺とリデルがお風呂を頂いた後は、命令してルイーゼとマリオンにもお風呂を勧めた。

 もちろんモモも一緒に連れて行ってもらう。

 こうして俺は地道にお風呂好きの理解者を増やすのだ。

 何せ俺達のパーティーは民主主義だからな。同調者は多いほど言い。


 ◇


「それでは無事に帰還できた事をリデル君率いる『蒼き盾』の方々に感謝して、乾杯!」


 俺達はウォーレンさんと奥さんのリーレンさんそして娘のローレンの三人を交えて夕食を頂いていた。


 料理はやはり香辛料をふんだんに使った味のある物で、肉類が二種に魚料理と野菜に果物が出ている。

 リデルにはワインの様なアルコールが用意された。

 俺も用意してもらったが、残念ながら味の方は好みに合わなかったので諦めた。


 奥さんのリーレンさんは、黒髪の女性だった。この世界に来て自分以外に初めて黒髪の人に出会う。結婚するくらいだから黒髪に悪い感情も持っていないのだろう。

 というか、やっぱり貴族か一部の冒険者くらいじゃないのか黒髪に拘るのは。

 リゼットは貴族で、殆ど軟禁状態だったからその事には気が付かなかったのかもしれない。


 貴族が血統に拘るのはこの世界でも一緒なのだろう。

 貴族には黒髪がいない。貴族は勇者にまつわる家系なので、上位魔人を連想する黒髪の存在は本能で放置出来ないのか。

 そんな本能があったらむしろ呪いの様な気もするけれど。


「マリオンさん、主人を庇って怪我をされたそうですね。

 傷も残ってしまった様で、同じ女性としてなんとお詫びをしたら良いか」


 リーレンさんからは社交辞令ではなく、本心からお詫びの気持ちがにじみ出ていた。


「そんな、傷跡くらい大したことありません。お気になさらないでください」


 確かにマリオンはそれがどうしたと言うくらい気にしていないが、周りは結構気にするんだよ。俺も気にするし。


「ありがとう、そう言って頂けるとたすかるわ。

 お詫びと言ってはなんですが後でプレゼントがあるのよ、楽しみにしていてね」

「ありがとうございます」


 偶に思うが、マリオンは妙なところで堂々としているな。それに仕草に品がある。

 マリオンの過去を詮索する気は無いけれど、気にはなるな。


 ◇


 食後はルイーゼ、マリオン、それにモモがリーレンさんに呼ばれ何処かへ連れて行かれた。さすがに取って食われる事は無いだろう。


 しばらくして戻ってきた三人はそれぞれが違ったアクセサリーを身につけていた。

 ルイーゼは銀細工に青い宝石で飾ったカチューシャを、マリオンは金の鎖に赤い宝石の付いたネックレスを、モモは花に見立てた緑の宝石が輝くチョーカーだ。

 素人の俺には分からないが、どれも安い物には見えない。


「ルイーゼは髪の色によく似合って可愛いよ。マリオンは大人っぽくて魅力的だ。モモは帽子とお揃いで愛らしいな」

「あ、りがとうございます」


 ルイーゼが頬を染めて俯いてしまう。最近余りよく顔を見るタイミングが無いな。なんか見ようとすると伏せられてしまう。

 それでもいざ戦いに入るときりっとして格好良いんだけれどな。


 自分でも似合わないと思うけれど、俺はきちんと褒める事にしたのだ。

 俺が恥ずかしいとかはどうでも良い、リデルに褒められて喜ぶのを見て、俺もきちんと伝えようと思っただけだ。

 モテたいんじゃ無く喜んでもらいたいんだ。


 モモが飛びついてくるので、受け止めて頭を撫でる。


「プレゼントとして頂きました、よろしかったでしょうか」

「一度は断ったのよ、でも何度も断るのも失礼かと思って」

「後で俺からもお礼を言っておくよ。折角だから大切にすると良い」

「はい」

「もちろんよ」


 ルイーゼは質素だし、マリオンはそんな事より強くなるのが優先って感じだ。

 可愛い物も必要なんじゃ無いかと思っていたのは俺の空回りかと思ったが、やっぱりそれなりに嬉しいみたいだな。

 今度、アクセサリーに合わせた服も買ってあげよう。


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