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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第一部 第一章 冒険者編
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鍛錬の様子

 朝食はバナナだ。メルドの特産品で安く一杯売っていた。

 俺はリデルとマリオンが呆れるほどバナナを買い込んでいる。バナナは栄養があって消化が良く、朝食に最適なんだぞ。

 ルイーゼは何時もの様に俺のすることを否定しない。こういう時はルイーゼとモモが俺の味方なので、常に多数派に位置するから意見を通しやすい。

 言わば独裁状態だな。


 ◇


 朝食の後は何時もの様に鍛錬を行う。

 魔法の鍛錬も普通に行ったが、他人から見てこの瞑想の様な姿は何をしているのか分からないだろう。

 実際ウォーレンさんにも質問を受けたが、魔力制御の練習と言うことで納得してくれた。

 本当にやっているのはもっと複雑なことだが、正直魔法を知らない人に説明するのが大変なのと、自分の能力がイレギュラーっぽいので理解されない可能性が高いというのも理由だ。

 魔法の鍛錬とか見る機会はそうそう無いだろうから、誤魔化しはきくだろう。


 砂漠を越える前に、俺は魔力制御の一環として片手から魔力を流し、盗賊から奪った剣を通してもう片方の手に魔力を流し込むことに成功した。

 これを利用することで、より魔力制御に関するコツを伝えやすい様な気がしたので、今日はマリオンに集中して鍛錬を行う。


 マリオンはまだ身体強化(ストレングス・ボディ)の魔法が使えない。今のところ魔力という力を感じることが出来る程度だ。

 今日はその認識力を高めることにする。


 マリオンと向かい合って座る。俺はあぐらでマリオンは女の子座りだな。

 マリオンの両手を取り、おさらいとして魔力について講義する。

 リデルやルイーゼにした様に、魔力が体内でどのように感じられるかと言うことだ。

 マリオンは同じ事でもきちんと話を聞き、その一言一言を理解しようとする。


 次に俺は両手に取ったマリオンの右手に魔力を流すと同時に左手から魔力を吸い出す。

 右手から流れ込む魔力はマリオンの体内を通して俺の手に戻ってくる。きちんと循環する様だ。

 盗賊から奪った剣より素直に魔力が流れるのを感じる。

 人の体は魔力を通しやすいのかもしれない。


 これは考えようによっては魔法に掛かりやすいという事じゃないだろうか。

 自分の魔力制御能力が高ければ他人に操られると言うことは無いだろうけれど、弱いと出来てしまう気がするな。

 実際に今はマリオンが俺の魔力制御を受けている様な状態だ。

 もしかしてこのままマリオンの体を身体強化(ストレングス・ボディ)の要領で動かすことが出来るのだろうか。


 俺は試しにマリオンを立たせてみようとマリオンの魔力を制御したが、上手くいかなかった。

 巡回させている魔力は右手から左手へと抜けていく形で、マリオンの足腰にまでは影響を与えられない様だ。


 なら腕なら出来るだろうか――出来た!


 マリオンの右手が静電気に触った時のように俺の手を放す。そこで魔力の制御が切れた。

 俺はちょっと意地悪をする様に、俺の手に触るのは嫌かと聞いてみた。

 マリオンは首を横に振って否定する。


 改めて手を繋ぎ、俺は再び同じようにマリオンの右手の魔力を制御して動かす。

 今度も同じようにマリオンの手が弾かれた様に俺の手を放す。

 流石に二度目だとおかしいと思ったのか、マリオンが無言で睨んでくる。

 確信が持てないからか言葉にはしない。


 流石にからかい続けるのも可哀想なので種明かしをする。


「今のが魔法だよ」


 不満そうに睨んでいたマリオンが、今度はそれほどかと思うくらい嬉しそうな笑顔をして両手を胸の前で握りしめる。

 マリオンの魔法への拘りが強いのは分かっていたが、魔法を使いたいという理由以外にも何かあるのかもしれないな。


「マリオン、今の感じを忘れないうちに続けるよ」

「うん、わかったわ」

「自分で意図しない感覚を受けたらそれが魔力の制御されている感覚だ。

 自分で意図的にその状態を作り出す様にするのが次の目標になる」

「どれくらい掛かる?」

「毎日繰り返して二週間くらいかな。個人差については分からないが、リデルとルイーゼの結果からしてそれくらいだろう」

「問題ないわ、続けましょう」


 俺はその後しばらく続けたところで魔法の鍛錬を終了する。


 ◇


 次は模擬戦だ。


 今日はちょっと趣向を凝らして、何時もの総当たり戦ではなく二対二を行うことにした。

 マリオンがパーティーに入ったことで、戦闘時の陣形に変化が出た為だ。


 強敵と思われる時は俺とリデルが前に出て、ルイーゼとマリオンが後方。危険の少ない敵の場合は俺とルイーゼ、リデルとマリオンに別れる。

 組み合わせで分かる様に攻撃寄りの俺とマリオン、防御寄りのリデルとルイーゼが上手く別れる様にする。


 今日の模擬戦は当然強敵なので、俺とルイーゼ、リデルとマリオンの組み合わせで行う。

 初めての試みなので、攻撃魔法は無しだ。身体強化(ストレングス・ボディ)も攻撃魔法とした。


 武器は木製だが、もちろんまともに当たると怪我をする。

 最近の俺達は回復魔法も何とか使える感じなので、最初の頃の様に遠慮気味な打ち込みではなく、結構本気でやっている。

 ただ、頭だけは攻撃を避ける様にしていた。頭の場合はちょっとした事で大事になるかもしれないからだ。

 もっともだからこそ頭への攻撃にも慣れないといけないのだろうけれど、それは何か頭を守る防具を用意してからだな。


 リデルとルイーゼが対峙し、俺は一歩下がってルイーゼの横に控える。模擬戦開始だ。


 リデルの敵愾向上(アナマーサティ・アップ)が発動する。魔物にとっては挑発的な魔法だが、人にとっては心身沈静(リラクセイション)になるが、これから戦おうと言う時にこの魔法は意外とやっかいだった。

 なんか拍子抜けする様な感じになる。


 もちろんそれが狙いなので、リデルが間合いを詰めてくる。

 ルイーゼには心身沈静(リラクセイション)の効果が作用しないのか、直ぐに俺のカバーリングに入りリデルの前に盾をかざす。

 メイスは右手に少し引いた状態で持ち、腰を落として攻撃に備える姿は安心感があった。

 実戦に入るとリデルほどの安定感は無いが、それでもランクEの冒険者としては十分だと思う。


 俺も見ているだけではない。

 マリオンには悪いけれど、まずは弱いところを突かせてもらう。

 マリオンは向かってリデルの左側に控えている。

 逆側ならリデルの剣を警戒する必要が無いが、左側だとマリオンを攻撃している最中、リデルに攻撃される可能性もあった。


 俺はルイーゼから離れリデルの剣の範囲を迂回しマリオンの後ろに回る。

 マリオンはその場で俺の攻撃を警戒しているだけだ。あっさりとリデルとマリオンを包囲する形になった。

 二人で包囲というのも変だが、俺とルイーゼで挟み込むこの状態は既に有利だ。

 俺とルイーゼは向かい合っている為、お互いの行動がよく分かり連携しやすいが、リデルとマリオンは背を向け合っているので連携しにくい。


「マリオン、俺を簡単に後ろに回すとこうなるぞ」


 俺は今の状況をマリオンに理解させる。


「マリオン、アキトに連携されると崩れるからルイーゼと一対一の状況を作るんだ!」


 リデルの指示でマリオンとリデルが入れ替わろうとするが、ルイーゼがリデルの方に回る。俺もそれを見てマリオンの方に回り、入れ替わりを阻止する。


 阻止した直後、マリオンが動揺している隙に俺は間合いを詰め、マリオンが避けにくそうな胴を横に払う様に剣を振るう――


 ガスッ!


 俺の剣はリデルの盾で受け止められた。

 ルイーゼに対しては剣先を向けて牽制している。


 しかしルイーゼもそこまでは甘くない、リデルの視線が逸れると、リデルの剣を盾で退け空いた胴にメイスを打ち込む――


 リデルは自分の剣が払われた直後にはルイーゼの攻撃を察して、一歩下がってルイーゼの攻撃をやり過ごす。


「相変わらずリデルは頭の後ろにも目があるんじゃ無いか」

「あれば後れを取ることも無いんだけれどね」


 盗賊との争いで背後から切られた時のことだろう。


「マリオン、離れるよ!」


 今度はリデルとマリオンが横に別れた。必然的に俺とルイーゼも別れる。


「マリオン! こっちだ!」


 別れた直後にリデルがマリオンを呼び戻す。

 釣られてマリオンを追いかけたが、今の一瞬でルイーゼがリデルとマリオンの二人を相手にする事になった。

 内側にいる二人の方が俺よりも移動距離が少ないのだから当たり前だが、俺はそこまで気が回らなかった。


「うへっ」


 俺は思わず間抜けな声を出しつつも直ぐにマリオンを追う。

 今回の模擬戦は攻撃魔法無しだ。有りならマリオンの背中に魔弾(マジック・アロー)を打つところだが、今は追う以外に手が無い。

 俺が行くまでに出来る攻撃はせいぜい一手だろう。


 ルイーゼはリデルとの間に盾を構えるが、マリオンが横合いから剣を振るう。

 下がって避けようとするルイーゼを、リデルが盾で押し込む事でバランスを崩す。


 一度は攻撃を躱されたマリオンだが、続けて直ぐに二撃目を繰り出す。

 ルイーゼは体勢を崩した状態でさらに下がって避けた為、その場に尻餅をついた。

 模擬戦ルールでルイーゼは戦闘不能となる。


「マリオン、アキトを挟み込むよ」


 わわわ、やばい。


 とりあえずリデルは直ぐに倒せないから、先にマリオンを――思いっきりリデルに読まれていた。

 俺がマリオンに向かうと、直ぐにリデルの攻撃が仕掛けられる。

 リデルの攻撃は意外性こそ無いけれど、反撃しにくい様に狙ってくる為、躱すだけになる。


 そこにマリオンの攻撃だ。腕力は俺より劣るが、両手でしっかりと持って振ってくる剣は重みがあるので、受けると反撃しにくい。

 それでいて防御はリデル任せに気前よく突っ込んでくるので無視も出来ない。


 とにかく躱して勝機を見付ける。

 二人の攻撃を同時に食らわない様にリデルとマリオンのどちらかが重なる様に立ち位置を変える。

 そして躱し、入れ替わりながらもマリオンが前に来た時だけ攻撃に転じる。


 マリオンが無造作に振ってきた剣を俺の剣で受け止め、力任せに押し返す。

 マリオンはバランスを取ろうと蹈鞴(たたら)を踏むが、広げた手がリデルの行動を阻むのを見て、俺はマリオンの足を払う。

 俺の剣にばかり意識が行っていたマリオンは、足を払われると背中から地面に倒れ咽せる。

 マリオンは戦闘不能だ。


「マリオン、アキトの攻撃を避ける時は常に全身に警戒するんだ」

「わ、わかったわ」


 リデルの言葉に悔しそうな顔でマリオンが応える。


 さて、魔法無しでリデルを打ち崩すのは困難を極める。

 今も盾をしっかりと構え、剣を中段に持った姿からは隙が見付けられない。

 リデルの攻防は良くも悪くも盾ありきだ。

 俺はリデルが盾を取り落としたのを見たことは無い。つまりあの盾をどうにかしないとリデルには勝てないと言う事だ。


 木の剣でいくら盾を叩いても、破壊する事も出来なければ取り落とすことも無いだろう。

 そもそもリデルが盾を持っていないとしても、剣技だけで勝てるかと言うとそうでも無い。

 リデルはきちんと剣の訓練を受けていたので、見よう見まねで覚えた俺に比べると洗練されていて無駄が無い。


 つまり早い――


 俺はリデルの剣を屈むだけでは躱しきれないと判断し、木の剣で頭上に軌道を反らす。

 上半身を狙い横に振られた剣だ。


 後ろに下がって避けていては埒が明かない、飛び込む為に敢えて屈んで避けたんだが、そこに直様リデルの盾が横殴りでやってくる。


 俺は、盾は身を守る物だと勝手に思い込んでいたけれど、こうして攻撃にも使われると殊の外やっかいだ。

 面で向かってくる為に避けにくいし、角度を付けてくると棍棒で殴られる程度の衝撃はある為、洒落にならない。


 今回は面を使って殴ってきた為、右腕を上げて肩と腕全体で盾の攻撃を受け止める。

 当然右手に剣を持つので反撃は出来ない。

 それを見越したかのようにリデルの剣が迫ってくるが、密着しているので剣の柄で突いてくるだけだ。


 俺はその手首を取り、その場で回る様にしてリデルを背にし、引き上げた腕を巻き込む様にしてリデルを腰に乗せて宙に浮かした。

 まぁ、体育の授業にある柔道で習った背負い投げだ。しかし、綺麗にリデルが宙を舞うことは無かった。

 俺はリデルを背負ったまま地面に突っ伏していた。


「アキト、怪我は無いかい」

「怪我は無いけれど、顔を打って不細工になっていないか心配だ」


 リデルが俺の手を取り引き起こす。


「初めて会った時と変わりないよ」


 それはどう取れば良いんだ。


「アキト様は初めてお会いした時から素敵ですよ?」


 ルイーゼの言葉に疑問系が入っている様に聞こえるのも気のせいか。


「それ以上顔を打ちたくなかったら、突拍子も無い事をするのは止めることだね」

「いや、あれが決まれば今頃リデルは目を回していたはずだ」

「どうすれば決まるのか分からないけれど、僕より上背の高い人は大勢いるし、当然体重も多く、装備まで含めたら今と同じ結果が見えるのだけれど」


 そうだった……この世界で戦おうって人の多くはくそ重たい鎧を着ているんだった。

 道理でさっきも潰れた訳だ。


「よし、今のは無しにしよう」


 リデルが苦笑し、マリオンが呆れた雰囲気だが気にしたら負けだ。


「アキト君達は随分と実戦的な練習をするのですね」


 模擬戦を黙って見学していたウォーレンが感想を述べる。


「俺達は未熟だから、実戦で起こりえることを想定して練習しておかないと、本番で取り返しの付かないことになるからな。実際に何度も死に掛けたし」

「その経験がその年で冒険者ランクDという素晴らしい成績に至る訳ですな」


 冒険者ランクはSまであるが、大半の冒険者はランクCで生涯を終える。

 一部の優秀な者がランクBとなり、その中でもほんの一握りがランクAになれる。

 ランクSの冒険者は世界的に見ても一〇〇人もいないと聞いていた。


「ランクDになったのはオマケみたいなものなんだ。瀕死だった魔物にたまたま止めを刺しただけだしね」


 一応、特殊魔晶石の反応には貢献度が関係してくるらしいので、ランクDは近かったのかもしれない。


「瀕死であろうと、蓄積してきた結果であることに違いはありません」


 わざわざ否定はしない。実際それくらいの自惚れはあった。


「もしよろしければ、うちのローレンも参加してみたくて堪らないらしく、相手をして頂けませんでしょうか」


 ローレンの相手をするのは構わなかった。

 むしろ昨日はその気があるならして上げても良いと思っていた。


「ローレンが武器を使う経験は?」

「自衛の為に槍の使い方を教えている程度で、もちろん実戦の経験はありません。

 そちらのルイーゼさんにお相手してらもらえれば満足でしょう」

「あ、あの。もしよろしければリデルさんにお願い出来ませんか!」


 顔を赤らめてローレンが希望を言う。

 言った後、ハッとした感じで俯いてしまった。


 イケメンリデルの格好良さに気付いてしまったか。

 そうだろう、気付かない女の子がいたらおかしい。


「構いませんよ。僕が相手させて頂きます」


 リデルも紳士だからな、見た目は子供とはいえローレンは女性だ。リデルは断らないだろう。

 そもそも断る理由も特にないしな。


 リデルとローレンの模擬戦はもちろん戦いにはならない。

 リデルがローレンの槍を受け、その扱い方や体の裁き方を丁寧に教えていく。

 ローレンもリデルの教えを聞き、直ぐに反復練習をする。

 変に自信を持って無謀な行いをしない程度には賢い子だと思う。


 鍛錬の後は軽く休憩を挟んでからベルナードの町を目指して北進だ。


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