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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第一部 第一章 冒険者編
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閑話:出会いは石だった

 今度の春休みが明ければ高校一年になる俺は、会う機会が少なくなる同級生と別れを惜しむように放課後の時間を使い、普段とは違う寄り道をして、普段より遅く家路に着いた。


 季節は冬の終わり。

 暗い庭先で梅の木も花を咲かせていたし、あと一ヶ月もすれば桜も花咲くだろう。その頃に俺は一五歳になる。みんなより大分遅い誕生日だ。


 そのせいもあってか、友達の中では一人身長が低く一六五センチほどだ。体重も五五キロ程度なので、高校生になっても小柄な方だろう。

 それは年頃な男としては少し憂鬱な事でもあったが、まだ成長期は残っているので期待はしている。


 俺は玄関の扉を開ける前に(つぼみ)が開き始めた白い梅の花を見た。

 普段なら気にもとめなかったけれど、目の端に薄らと青い光を放つ何かに気がついたからだ。もし月明かりが出ていたら気が付かなかっただろう。


 ……蛍?


 最初に思い浮かんだのは蛍だった。

 こんな時期にこんな場所でとも思ったが、他に庭先で発光するような物が思い当たらなかった。


 光源を確認するように、いや、どちらかと言えば誘われるように木の枝に近づくと、青く光るそれは蛍ではなく人工的な加工が施された石だと分かった。

 綺麗だったからという訳でも無いと思うが、特に警戒する訳でもなくその発光する石を手に取る。

 石は何かノイズのような音を響かせていた。耳鳴りかと思ったが、そういう物では無いようだ。

 なんとなくノイズを聞き取ろうと石を耳に当ててみた。


『…この………か』


 確かに何らかの音が聞こえる。

 しかし、音が聞こえるだけで、言葉として認識できる物ではなく、音楽としても認識できない。

 俺は石を強く耳に押し当てて、その音に集中してみた。


『…だれ…か、近くにいませんか…』


 なっ?!

 焦って耳から手を離すと石がこぼれ落ち地面に転がっていく。

 それでも石は青く発光を続け、(またたく)くように光を放っていた。


 大半の人間は自分の理解を超える状況が発生すると、その事象から逃げるかその事象の原因を追及すると聞いた事がある。

 中には動じず放っておく人もいるが珍しいだろう。

 この場合の俺は原因の追及をする方だった。

 なぜ原因の追及をするのか、それは単純に分からない事が怖いからだ。ホラー映画で怖くても目が離せない、あれと同じような物だ。


 再び石を取り上げ、耳に当てる。

 先ほどと同じようにその音を聞き取る事に集中する。


『…のですね、お願いです返事をして頂けませんか』


 なっ?!

 石が再び手からこぼれ落ち地面に転がった。二度目だ。

 確かに聞き取れた。空耳とかではなく明らかに人の声だ。

 とりあえず危険性はないと判断したところで少し落ち着ついた。


 再び拾い上げた石を耳に当てたところで、思いが言葉となっていた。


「石が言葉を話すとかあり得ないだろ」

『わぁ、聞こえた、本当に人の声だ』


 ?!

 流石に今度は落とさなかったが、独り言に返事が返ってくるとは思わず、かなり焦ったのは確かだ。

 石が言葉を話すという現実が非現実過ぎて、理解が追いつかなくなる。


『はじめまして。私はリーゼロット・エルヴィス・フォン・ウェンハイムと申します。

 貴方様のお名前を伺ってもよろしいでしょうか』


 石に自己紹介されたのは日本でもいや、世界でも俺だけだろう。しかも敬語だ。俺より礼儀正しい石だな。


「お、俺は、結城(ゆうき)彰人(あきと)


 答える自分も自分だと思ったが、会話が成り立つのかを確認したかった。


『アキトさんですね。私の事はリゼットと呼んでください。

 お話が出来て良かったです。

 もう何方かに声が届く事を諦めようかと思っていたところです』


 俺は石と話す自分を客観視して、そりゃ諦めるだろと考えた。

 何故、俺は石と話しているのか、まさか黒歴史の誕生だろうか。


彰人(あきと)でいいよ、リゼット。

 それと敬語はいらない。出来れば普通に話して欲しい」


 フレンドリーな俺様にはフレンドリーな会話が必要だ。ぶっちゃけると敬語とか話せない。


『わかりました、アキト』

「しかし、何で話す事が出来るんだ」


 疑問がそのまま言葉として出てしまった。


『もちろん、魔法のおかげです』


 もちろん(・・・・)魔法のおかげなのか。

 いつの間にか石も魔法で話すのが普通という時代になっていたのか。そもそも石が意思を持って話すとかどんな冗談だ。

 もしかして世の中に存在する物は、全て人には伝わらないだけで意思を持っているという事か。


 俺は馬鹿か、違うだろ。そもそも魔法という時点で違う。

 普通に魔法が発達しているような世界は魔法に頼るだけ科学が遅れているはずだ。

 少なくても俺の知識にあるゲームやラノベの世界じゃそれが普通だ。

 例外もあるが王道はあくまでも魔法が主であって、今の日本にはその欠片も存在しない。

 つまり、魔法は一般的じゃない。


「そもそも何で日本語を話せるんだ」


 再び疑問が声に出てしまう。隠し事の出来ない男とは俺の事だ。


『ニホン語というのは恐らくアキトが話している言葉だと思いますが、私がアキトの言葉を理解出来るのも、アキトが私の言葉を理解出来るのも、意識を伝達する魔法のおかげです』


 これも魔法か。まぁ石に石語とか話されても困るからな。


「ん? 意識を……って事は、考えている事が伝わるって事か」

『考えている事とは少し違います。伝えたいと思って言葉にする意識が必要ですから。

 ただ考えただけで伝わる訳ではないので安心してください』


 なるほど。

 頭の中が桃色になったところで、それが伝わる訳ではないと。

 さすがに何でもかんでも考えた事が伝わるようじゃ色々困る。色々……とね。

 逆に考えると尋問とかには良いのかもしれないが。


『それに波長が合わない人とは話す事が出来ません』


 波長ってなんだ。気が合うみたいな物か。


『でも、波長が合う人と話をしていると、いずれお互いの言葉を理解して話せるようになるから便利ですね』


 それは便利すぎる。

 上手く使えば、俺の英語の成績がネイティブ並みに上がりまくりじゃないか。

 中学校に入ってなかなか伸びなかった英語が得意科目とか良いな。


 それは置いておいて、つまり俺はこの石と波長が合うと言う事だな。

 どうせなら犬とか猫だったらもう少し違う世界が見えたのに。

 石はどうしたって石だろ。特技は波長の合う人と話せて青く発光するくらいか。夜道を照らすには光量が足りないな。

 そして、俺の特技は石語が話せます……か。黒歴史がどんどん増えていくな。


『アキト。あなたの事を教えてもらえませんか』

「余りプライベートな事じゃなければかまわないけど。

 その代わり同じ事を質問させて欲しいな」

『えっ、同じですか……うーん、そうですよね。

 ……なんか恥ずかしいけど、わかりました。』


 恥ずかしい事を聞くんじゃねぇよと思わず突っ込みそうになったが、堪える。


『それじゃまずは、あなたの住んでいる所の事から教えてください』


 こうして俺は庭先で梅の木に向かって独り言を呟くという不名誉な印象を妹に与える事になった。


 ◇


 結論から言うとリゼットは石ではなかった。石どころか貴族の伯爵御令嬢様だ。


 まぁ、当たり前か。

 いくら魔法が存在すると言っても、石は石だ。魔法があると想定した上で落ち着いて考えれば一種の携帯電話のような物と思いつくべきだった。

 石が話し掛けてくると言う非現実的な状況で冷静に考えられなかったみたいだ。


 そしてリゼットのいる世界は俺が住んでいる世界とは違うと言う事がわかった。

 これも当たり前かもしれない。この世界において魔法は存在してないのだから。


 俺はリゼットとの会話の中で様々な事を学んでいく。リゼットとの会話は楽しかった。リゼットにとっては現実でも俺にとってはゲームかラノベの世界の話だ。俺が夢中になっていくのにはそれほど時間が掛からなかった。

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[気になる点] 『でも、波長が合う人と話をしていると、いずれお互いの言葉を理解して話せるようになるから便利ですね』 言ってること変じゃない? 主人公とリゼットは初遭遇で普通に会話してるよね? お互いの…
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