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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第一部 第一章 冒険者編
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砂漠での鍛錬

 もう一泊この町に留まることになった。目的は砂場での活動に少し慣れておく為だ。

 ここメルドの町から北上するにあたり、砂漠の端を横切ることになる。行き当たりばったりでは一日程度の間とはいえ不安もあった。


 ◇


 今日も朝食はルイーゼとマリオンが準備してくれている。

 パンにサラダと、オレンジのような果実を絞って水に混ぜた飲み物だ。

 なんだかんだ言っても女の子に食事を作ってもらうのは嬉しい。

 もちろん眺めているのも眼福だが、その間に少し現状を整理しておく。


 リデルとルイーゼの怪我はもう完全に癒えている。リデルはまだしも、刺されて失血の多かったルイーゼの回復力は俺の回復魔法だけの力とは思えなかった。

 ルイーゼには回復魔法の天恵だけでなく、他にも天恵があるのかもしれない。

 それとも天恵とは一つの奇跡を指す言葉じゃないのだろうか。

 これについてはリデルも詳しくは知らなかった。なんにせよ元気になって良かった。


 ただ、一つ気が付いた事がある。

 昨日、水浴びをしている時にチラッと見えてしまったのだが、ルイーゼもマリオンも結構傷跡だらけだった。

 女の子が傷跡だらけというのも可哀想なので、回復魔法を使ってみたが傷跡は消えなかった。


 俺の回復魔法は自己治癒能力を促進するものだから、傷跡があったとしてもそれは治った結果であって、怪我ではないから消えないようだ。

 でも、ルイーゼの刺された傷は綺麗に治っている。刺された傷は俺の自己治癒(セルフ・キュア)で治ったのではないのかもしれない。

 ルイーゼの奇跡で直してもらった俺の腕や足の怪我も傷は消えていた。単に俺の回復魔法の能力が低いだけなのか、奇跡の力か。


 ルイーゼもマリオンも傷跡の事は全く気にしてないと言っているが、俺はちょっとヘコんだ。

 気を使って鍛錬や狩りで身が入らない方が困ると言うので、俺もここは踏ん張ることにする。


 俺が今使える魔法は魔弾(マジック・アロー)身体強化(ストレングス・ボディ)自己治癒(セルフ・キュア)の三つだ。

 魔弾(マジック・アロー)をアレンジした魔槍(マジック・スピア)もあるが基本的には同じと考えている。

 練習中なのは同じく魔弾をアレンジした盾のような魔法だ。魔槍と違って薄く広く魔弾を展開し、敵の攻撃を弾き飛ばすのを目的としている。


 でも未完成だ。

 今のところは面の攻撃は耐えられても、剣で打ち込まれると耐え切れない。せいぜい威力を弱めるくらいだ。

 そして槍や弓といった突属性の攻撃には全く歯がたたず、実戦では使いどころがない。

 この魔法を使うくらいなら攻撃その物に魔弾を当てた方が確実だ。


 それでも練習しているのは可能性の問題だな。

 何かが分かるかもしれないし、思わぬ使い道があるかもしれない。


 三つの魔法のうちリデルは身体強化と自己治癒を覚えている。高い防御力に二つの魔法ってなかなか反則だと思う。

 ルイーゼは身体強化を使いこなせるようになってきた。


 リデルとルイーゼは俺よりも魔力量が多い。特にルイーゼはかなり多い。

 俺もまだ魔力量は伸びていると思うけれど、その量が二人に劣るようなので、魔力制御の精度を上げて無駄を減らす方向でカバーしている状態だ。

 二人はこのへんの効率がいいのかもしれない。


 今のところマリオンの魔法については未知数だ。

 身体強化を教えているが、実際に効果として現れるのは一ヶ月くらい掛かるだろうから、諦めずに練習するように言っておいた。

 本人もすぐに使えるようになるとは思っていないので大丈夫だろう。


 体力面では常に重い鎧と盾を持ち、体格も良いリデルの能力が一番高い。

 反射神経もよく、模擬戦では魔法無しだと有効打をとれたことがない。

 魔法ありで何とか互角といったところだ。


 最近は俺も色々とあり、この世界に来た頃とは比べ物にならないほど体力も力も付いている。

 ルイーゼが怪我をした時に背負って歩いたのは二日間だったが、あれで足腰とバランス感覚がずいぶん鍛えられた。

 普段は荷物をモモに任せてしまいがちだけれど、やはりある程度は自分で持つようにした方がいいのかもしれない。

 それとも、俺も鎖帷子あたりを着たほうがいいだろうか。あれだけで二〇キロ近くあるからな。


 ルイーゼも初めて一緒に狩りに出た時に比べれば格段に体力がついた。

 この間、重い水瓶を持ち歩いているのを見てびっくりした。

 呼吸をするように自然と使えるように身体強化の練習をしているようだ。

 模擬戦も初めは三分と持たなかったのに、今では俺の方が息切れするほど攻めても、腕が上がらないといったことは無くなっている。

 今ではルイーゼの防御面にも信頼できるくらいだ。

 ランクF程度の魔物ならきちんと盾役をこなしてくれるだろう。

 体重の軽さから大きめの魔物の突進などで不安があるかと思ったが、身体強化で上手く対処出来るようになってきている。


 マリオンは女の子としては体力も力もある方だと思うが、ルイーゼには両面で負けている。

 でも体格で一回り違うため、素の体力なら直ぐにルイーゼに追いつくだろう。

 性格的にはルイーゼより積極的で、倒される前に倒せという雰囲気だ。

 盾は持っていないので、実際に防御面は剣で受けるか避けるかしかなく、防御に回るようではジリ貧になる。

 マリオンにはゆっくりと狩りを指導する時間が取れなかったので、しばらくはマリオンに重点を置くことにした。


 ◇


 食事が運ばれてきたので、ありがたく食べることにする。

 ちょっとはしたないが、食事を取りながらここしばらくの方針を話す。

 特に俺がマリオンの鍛錬と実戦に重点を置くといったところで、マリオンは目を丸くしていた。


「不満は早めに申告するように」


 貯めこむ前に解消だ。便秘は良くない。

 マリオンは首を横に振って不満がないことを示した。

 不満ではなく、そこまでしてくれる事に驚いていたようだ。


「この街の近くには魔物が出ることがないけれど、砂回虫(サンド・ワーム)という害虫がいるらしいからそれを狩るのもいいと思う。

 鍛錬が終わったら試してみよう」


 ◇


 砂場での鍛錬は非常に困難なものだった。

 まず足が沈む。足が沈むからバランスを崩しやすい。

 それから滑る、踏ん張れない。

 俺はまだ身軽だからいいけれど、リデルはだいぶ苦労しているようだ。

 さすがにこの状況での模擬戦は俺の全勝に終わった。

 前の件で俺は足腰が強くなっていたしバランス感覚も上がっていた。多少体勢を崩されても問題なかった。


 同じ身が軽い者同士でもマリオンにはきついようだ。ルイーゼに全く歯がたたない。

 ルイーゼも楽ではないようだが、重い鎧は着ていないので、立ち止まって防御している分にはマシなのだろう。


 軽く模擬戦をしたところで各々の課題を明確にする。

 リデルに隙はないように見えたが、防具を着た上でのバランス感覚を身につける必要が出てきた。

 ルイーゼは足腰の鍛錬を増やす必要がある。

 マリオンについては今のところ一通り課題があるけれど、俺が狩りを始めた時と同じで基礎体力と体幹強化が必要そうだ。


 その後は俺とマリオン、リデルとルイーゼに分かれて鍛錬を行う。

 リデルとルイーゼは難しいことはせず、砂の上でお互い押し合う事でバランスと足腰の強化を行うようだ。

 斜面を利用しリデルが下、ルイーゼが上という形で上手くバランスを取っている。


 俺はマリオンに体幹強化メニューを組み、一緒にそれをこなす。

 その後はひたすら模擬戦だ。

 マリオンの攻撃は素直で真っ直ぐだ。ある意味躱しやすい。

 でも単純に最短距離で間合いを詰め、最短処理で攻撃を繰り出す為、意外とスピードはあった。

 油断するとひやりとする面もある。

 マリオンにはスピードの乗った攻撃が合うのかもしれない。フェイントや技巧的なことは後回しで良さそうだ。

 あくまでも最初の対象は魔物なのでそれほど難しい技術は必要ない。


 ◇


 朝早いとはいえ日差しも強くなってきたので、水分の補給を忘れないように心掛けながら鍛錬を終える。

 女の子組も汗と砂でホコリまみれだ。

 最近は面白いのかモモも鍛錬に参加している。俺もモモ用の鍛錬メニューを考えて指導しているが、あくまでも遊びの延長だと思っている。モモを戦いに参加させるつもりはない。

 幸いにして動物も魔物もモモには全く反応しないので、巻き込みさえ気を付ければいいだけだ。

 でも相手が人間や魔人になってくるとモモを無視するとも限らないので、危ない時は精霊界に逃げてもらうことにした。

 もしモモが精霊とバレることになったとしてもモモに怪我をされるよりはマシだ。


 ◇


 鍛錬の後は汗と埃を流すためにベーレ川で水浴びをする。

 体が冷えない程度に軽く済ませ、その後は宿に戻って勉強だ。

 日差しの強い日中に外で動くのは止めておいた。

 砂回虫(サンド・ワーム)退治は日が傾いてから行う。


 勉強では俺とマリオンが文字の読み書きを学び、文字を覚えたルイーゼはリデルにこれからの道中に必要な知識を習っている。

 軽めの昼食をとった後は乾いた風を感じながら軽く昼寝をして過ごす。

 鍛錬の疲れもあって短くてもしっかりとした休みがとれた。


 ◇


 日が傾き始めてから俺達は宿を出てメルドの町東側の砂丘に来た。


 ここで、前もって切り分けておいた牙大虎の肉を砂の上に放置して暫く待つ。

 血肉に誘われてやってきた砂回虫(サンド・ワーム)は七匹だった。


 魔物のランクで言えばランクF程度で、数匹まとまってきたところで今の俺達には全く脅威はない。

 しかし、魔物や動物の強さは環境によって変わる。

 砂回虫もこの砂場に限っては自由に動き回れる分、俺達も油断してはそれこそ足元を掬われる事態になる。

 その事を最初に忠告して戦闘に入った。


 砂回虫は胴回り約五〇センチ、直径で言うと一五センチ超えたくらいだ。

 砂の中から蛇のように胴体を伸ばし、頭なのか口なのかわからない部位が一メートルほどの高さにあった。

 砂の中にどの程度本体が隠れているのかわからないが、砂の盛り上がり具合からしてそう長くもなさそうだ。せいぜい三メートル無いくらいだろう。


 砂の中の移動は意外と早く俺達が小走りする程度の速度は出せるようだ。

 出会ってから逃げようとしても厄介かもしれない。


 砂回虫の攻撃は噛み付いて砂の中に引きこみ窒息させるのが主で、巻き付いてきたり毒を吐いたりという攻撃はない。

 噛み付かれることさえ注意すれば問題なく倒せる動物だ。


 俺とルイーゼ、リデルとマリオンで攻防に分けたペアを作る。

 俺はルイーゼに砂回虫の相手をさせ、側に控えてチャンスを待つ。

 正確にはいつでも砂回虫を倒せそうだったが、ルイーゼがしっかりと守っている間は手を出さないことにした。


 七匹の砂回虫のうち三匹目がルイーゼに寄って来たところで防御が遅れがちになってきた。

 盾だけでは捌ききれなくなり、体を使って避け始める。

 それでも砂に足を取られ、上手く避けきれず攻撃を受けそうだったので、ここで俺も攻撃に入る。


 ルイーゼが躱しきれない砂回虫のおそらく首を、下から上に振るった剣で斬り飛ばす。

 剣は思ったほどの抵抗もなくサックリと砂回虫を切り裂いた。

 さすがリデルの鎖帷子を切り裂いただけある、すごい切れ味だ。


 砂回虫は気味の悪い液体を吹きながらその場に倒れる。切っても蜥蜴の尻尾切りのようなことはなく、確実に死ぬようだ。強さ的には問題ない。


 リデルの方には四匹の砂回虫が向かっているが、砂に足を取られようと砂回虫レベルではリデルの防御を抜くことは出来ないようだ。

 リデルの影からマリオンが飛び出し砂回虫に一匹に剣を突き刺していた。

 突き刺す攻撃では致命傷になりにくいのか、砂回虫は直ぐに死ぬということはなく、暴れた勢いでマリオンが剣を手放してしまう。

 マリオンは何とか自分の剣を取り返そうとするが、暴れる砂回虫に近寄ると自分の剣で怪我をする危険もあった。


 リデルがマリオンの剣を刺したまま暴れる砂回虫に止めを刺す。

 倒れ落ちた砂回虫から剣を回収しようとマリオンが飛び出すが、それを狙って別の砂回虫がマリオンに襲いかかる。

 そこにリデルが割り込みマリオンを庇った。


 マリオンは焦って思考が短絡的になり過ぎるようだ。今後の課題だな。

 ルイーゼの時は攻撃をさせないで、守ることを優先させていたから、自ずと余裕も出来たのかもしれない。

 マリオンには攻撃を優先的に覚えさせようと思ったけれど、それは間違いだったか。

 やはり基本は防御があって、その上での攻撃じゃないと良くなさそうだ。

 俺も間違いばかりだな。


 ちょっと思考が逸れた間にルイーゼは砂回虫を一匹倒していた。残り一匹ならば時間の問題だろう。

 砂回虫にメイスはあまり有効打を与えているとは言いがたい。ルイーゼにもメイス以外の武器を教えた方がいいのだろうか――と思った瞬間、砂回虫の胴体が弾けた。

 ルイーゼが身体強化で強打をしたようだ。やっぱりメイスでいいかもしれない。

 しかし、なんで弾けたんだろう。

 水分が多そうな敵だから、強打したことで内圧が高まり破裂したのか。

 敵に合わせて最適な武器を選ぶというのも必要な知識だな。


 ◇


「わざわざ延泊をして砂場での戦闘を経験した意味は大きかった」


 みんな一様に頷く。

 今は戦闘の汚れを水浴びで落とし、宿に戻って食事をとった後だ。

 休む前に今日感じたことを伝えておく。


「マリオンには俺の考えが間違っていた結果、危険な目にあわせたと思う」

「あれは私が――」

「いや、やっぱり基本は大切だと思ったよ。

 マリオンにはしばらく攻撃より防御の練習をしてもらう。それには俺が全面的に協力する」

「わかったわ」


 特に不満はなさそうだ。


「それから、ルイーゼが砂回虫(サンド・ワーム)を倒すのを見ていて思ったけれど、魔物や動物には効果的な攻撃があるといまさら思い出した。

 思えば甲冑芋虫を倒した時とか、敵に合わせて有効な手段を取っていたけれど、思いつきでやっていただけだから、今後はそれを意識したいと思う。

 砂回虫に関しては突属性の技――つまり剣や槍で突く、弓といった攻撃は効き目が悪く、斬属性の技――これは切る系統の攻撃で効果が高かった。

 あとルイーゼのメイスによる打属性の技も効果があった。

 こういうことを今後は意識して戦いに備えたいと思う」

「毎日が課題だらけで、楽しいものだね」

「何もない人生よりは素敵ね」

「精進します」


 モモのドヤ顔はちょっと使いどころが違うと思う。

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