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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第一部 第一章 冒険者編
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メルドの町

 メルドの町はグリモアの町やトリテアの町とはガラリと雰囲気の変わった町だった。

 建物の多くは白レンガと粘土で建てられ、日除け代わりに植えられた緑の木と合わさって作り出されるコントラストの美しい町だった。


 街を行き交う人の衣装もどことなく異国情緒に溢れ、男女ともに少し薄着に見える。

 着丈も短く、晒された腕や足は良い色に日焼けしていた。


 ルブナンの村からそれほど移動していないにもかかわらず、一気に気温が上がり、おそらく三五度くらいはあるだろう。

 木陰にいる分には乾いた風が心地よいが、フル装備で移動するのはきつそうだ。

 特に鎖帷子を着るリデルには酷だろう。


「メルドの町はエルドリア大陸のほぼ中央、メビナ砂漠の西に位置し、砂漠越えをする人達の入り口として利用されているそうです」


 リデルではなく、ルイーゼの説明だ。

 ルイーゼはここのところ、向かう地域の情報を自分なりに覚えようとリデルに聞いているようだ。

 今までリデルがしてくれた事をルイーゼがするように話し合って決めたらしい。

 俺も任せっきりにならないようにしよう。


「綺麗な町だな」

「はい」

「綺麗ねぇ」

「この街の産出物が石灰と白レンガで、安価では無いのだけれど、この町では木材より手に入りやすいからね。

 だから、どの家も白レンガと粘土で作られている」


 屋根や天井もレンガなのかと思ったら、そこだけは流石に木が使われていた。

 この世界では二階建てだろうと三階建てだろうと、屋根や床は木で作られている。床までレンガや石材を使う技術が発達していないのかと思ったが、単に高価なだけで一般的には普及していないだけらしい。

 富裕層の家や強度の必要な一部の橋などには石材による床や橋が作られているようだ。


 そんな白レンガで作られた町の北側にある繁華街、その一角にある宿に部屋を取る。

 予定ではここから砂漠には入らず北上して、商業都市カナンから東に延びてくる街道に合流するつもりだ。

 そこまでは徒歩の移動となり、道中は野営も必要になる。

 街道に合流した後は一路東に進み、いくつかの町を越えてリザナン東部都市に着く。

 予定より一週間ほど遅れそうだ。後でリゼットに手紙を送ろう。


 宿は大部屋しか無かった為、久しぶりに四人で一部屋になった。

 ここ最近は野営とかで四人一緒になる事も多かったので、今更気にしすぎるのも変な気がした。


 部屋は二階で、かなり質素な作りだ。部屋の中には二段式のベッドが二つ、後は窓があるだけだ。

 まさしく寝るだけの(いさぎよ)い部屋だな。

 窓からは白いレンガの建物越しにべーレ川が見え、景観は悪くない。


 ◇


 一息ついたところで俺達は街に買い物に出る事にした。

 食料品関連はルブナンの村で買い込んでいたが、替えの服や日用品はまだだった。

 特に服はここ数日の戦いや野営で血の跡や破れなどで酷い有様となっている。

 不思議と誰も気にしていないが、俺は気になる。

 なぜなら元の世界では毎晩お風呂に入り、毎朝シャワーを浴び、朝と晩には着替えている位なのだから。

 それでも綺麗好きという訳でも無い、普通の話だ。

 だからこの世界に来て一度もお風呂に入っていないのは正直我慢ならないところだ。

 まぁ、無い物は仕方ないのだが。


 でも俺は見てしまった。川辺で水浴びをしている人がいるのを。

 お風呂とまでは言わなくても水浴びでも良いじゃ無いか、俺は思いっきり水に浸かって体を浮かせたいんだ。

 ということで、俺は買い物が終わったら水浴びをする。誰がなんと言ってもだ。


 それから今日はこのパーティー初めての給料日だ。

 俺はリデルと決めた通りに二人で銀貨二〇枚を受け取り、ルイーゼとマリオンには銀貨五枚を渡す。

 モモにも銀貨二〇枚で良いのではとリデルは言ったが、正直モモがお金を使うとも思えなかったので必要な分は俺が出す事にした。


「あ、あの。私までよろしいのでしょうか」

「わたしも別に無くても構わないわ」

「多くは出せないけれど、これはリデルと一緒に決めた事だから良いんだ。

 必要な物もあるだろうから、それは自由に使ってくれて良い。

 もちろん何に使ったのかとか聞く事は無い」


 実際、俺には気付かない部分で女の子には必要な物もあるだろう。

 遠慮して不便を抱えているより良いはずだ。


「ありがとうございます」

「ありがとう」


 給料を支払ったところでいよいよ街に出る。


 まずは衣料品だ。俺は真っ先に水着を探すが、売ってなかった。

 店員に聞いてみたら言葉が通じなかった。

 いや、言葉は通じたな。水着がどういった物かを説明したが理解されなかった。

 仕方が無いので、この町の人が着ているようなトランクス風パンツを購入した。


 女の子組は離れたところで……下着かな、あれこれと選んでいるようだ。

 モモが必要なのかどうか分からないが、モモにも欲しいものあったら持っておいでと言っておいた。


 俺が支払いを済ませると、奥から何か布の塊がやってきた。

 どうやらモモが色々と抱えてきたようだ。

 あれが欲しいものだろうか。見たところ下着にも見えるが、やはりモモにも必要だったか。


 俺がそれを受け取ろうとしたところでルイーゼとマリオンに物凄い勢いで奪われた。

 モモのでは無く、二人の下着だったか。

 二人が背を向けてしまったが、首筋が赤くなっているところを見ると恥ずかしいのか。


 正直ただの下着には興味が無かった。下着は身につけてこそ価値がある。

 などと言う事はもちろん口にしない。

 俺はモモの手元に残ったワンピースを購入してモモにプレゼントする。


 次に街を散策する。

 そして俺は胡椒が売っているのを見付けた。トリテアの街でも売っていたが高くて諦めていた。

 でも、ここは安くはないが買える。片手で摘まむ程度の量で銅貨一〇〇枚だが、これは俺が生きる為に必要な物だ。買うしかあるまい。

 ちなみに今日の宿は四人で銅貨七五枚だ。高いよ胡椒。あと塩も買っておく。

 この二つがあれば俺の食生活も充実した物になる。明日からの野宿では肉が美味しく食べられるぞ。幸いにして猪の肉があるしな。

 そう言えば牙大虎の牙と毛皮、それに肉もあるな。羽無し鶏の肉もあるはずだ。

 そう考えると今度は野菜が欲しくなるな。

 結局野菜と果物も追加で買い込み、衣類と合わせて銅貨三五〇枚。でも後悔は無いぞ。


 買い物の後、俺はいそいそと宿に戻りこの街風の衣類に身を包む。

 そして言う。


「俺はこれから水浴びに行く」

「それじゃ僕も一緒しようかな」


 返事はリデルだ。ルイーゼとマリオンは顔を見合わせている。

 一応聞いてみるか。


「ルイーゼとマリオンも来るか?」


 もちろんモモは連れて行く予定だ。

 ここに来る船にいた時から水遊びをしたくてたまらなそうだったからな。


「あの、ご一緒させて頂けますか」

「わたしも行きたいわ」

「ではみんなで行こう!」


 水辺はパラダイスだった! とは言わない。

 なぜならば女の子が水着を着ていないからだ。みんな、薄手のワンピースを水着代わりに水辺で髪や体を洗っていた。

 仕方が無い、この世界にピチピチの水着なんか無いんだ。

 俺がお金持ちになった暁には二人に水着を開発してプレゼントしよう。


 なんにせよ久しぶりに水に浸かった気分は実に爽快だった。

 そう言えば水泳って全身運動だって聞いたな。

 俺はクロールで泳ぐ、泳ぐ、泳ぎまくる。

 いつの間にか注目を浴びて、その泳ぎ方を教えろと言われた。

 俺はもちろん教える。

 ルイーゼとマリオンにも教えようと思ったが、二人は水を怖がって泳ぐほど深いところまでは来なかった。


 調子に乗って泳いでいたら物凄い脱力感に襲われてしまった。

 水の中で鍛錬というのも良いかもしれないな。明日の鍛錬で試す事を提案しよう。

 足場が良いとばかりは限らないから、こういった水場や砂漠で鍛錬をしておくのも一つの備えだろう。

 もう一泊してその辺を試してみるか相談してみよう。


 ◇


 メルドの夜は意外と活気があった。

 この街も夜は早いかと思っていたが、むしろ日が暮れてからが本番という感じだ。

 どうやら暑い日中は余り活動せず、日が暮れてからが本番だったらしい。

 それでも明かりは貴重な為、日が暮れてから三時間ほどらしいが。


 俺達は雰囲気の良さそうな店に入り夕食を取る。

 この店からは砂漠が一望出来て、地平線まで続く砂漠と、同じく地平線まで続く星空に満たされている。

 夜の海という感じてとても神秘的だった。


 オープンテラスのテーブルに座り、水泳でだれた体を慈しむ。

 昼間の熱気はまだ残っている物の、乾いた風が心地よく、とてもまったりしてしまう。

 ここまでユッタリとするのは何日ぶりだろうか。


 肉と果物中心の料理も絶品だ。

 塩胡椒以外にも色々と味付けの工夫がされているようだ。

 俺の旅には料理人が必要なのかもしれない。


「料理人を連れての旅なんって貴族か大商人くらいだね」

「仕方ない、落ち着いたら自分で覚えるか」

「アキトは料理に関してだけは貴族並の要求をするよね」

「美味しい物を食べる為に生きるのも良いと思っている」

「それも良いね」


 本当なら元の世界のレシピを手に入れたいくらいだ。

 でも、この世界の料理にも美味しい物は多い。それを探すのもまた楽しみだ。

 結局今日は休みのような一日だったが、こういう日も偶には必要だな。


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