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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第一部 第一章 冒険者編
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ルブナンの村

 盗賊との戦いから二日後。


 朝に森を出て昼近くにはベーレ川の畔に着く。ここからは川沿いに北上すればルブナンの村だ。

 俺達はそこで休憩と合わせて食事を取っていた。


 昨日は小雨に降られ酷く憔悴したが、朝には雨も上がり、昼近い今は少し暑いくらいだ。

 それでも時折吹く風は心地よく、歩き続けて火照った体を冷やしてくれる。


 森を抜けた後は身を隠すのが難しくなる為、最悪盗賊との遭遇も考慮していたが、追撃はないようだ。

 やはり、追われていたのではなく偶然だったのだろうか。念のため、岩場に身を隠し警戒は怠らない。

 こちらが見付かりやすいのと同時に、こちらからも見付けやすいので襲撃があっても見逃すことはないだろう。


 大怪我をし意識を失っていたルイーゼは昨日の夜に目を覚ましている。

 刺された時に比べればずいぶんと顔色も良く、普段と変わらない程度には回復していた。

 それでも出血した体力が戻りきっていないので、俺が背負ってここまで移動している。


 いくらルイーゼが小柄と言っても人一人を背負って森を抜けることが出来たのは、偏に自己治癒(セルフ・キュア)のおかげだ。

 負荷で痛む足を自己治癒(セルフ・キュア)で直しながら無理やり歩いてきた。お陰で俺の足腰はずいぶんと鍛えられたと思う。

 トリテアの町を出た後と比べても見違えるほど逞しくなっていた。

 これくらい逞しくなってくると自慢というより引かれる可能性があるな。


 リデルの方の回復も順調だ。俺がルイーゼの治療と移動のために魔力を使っていたから、リデルは自分で怪我を直している。はじめは四苦八苦しながらの自己治癒(セルフ・キュア)だったが、俺がサポートをすることで、ゆっくりながらも効果が出ている。

 リデルは器用だし勘も良い、いずれは自分でも出来る様になるだろう。


 マリオンはこの二日間、率先して邪魔な動物を排除してくれた。何度か猪の体当たりを受け怪我をしていたが、大したことはないと治療を断るくらいだ。

 もちろん大したことが無いようには見えないが、怪我が直ぐ治ると思うのも危険かもしれないので、マリオンの判断に任せた。

 怪我が元でさらなる大怪我をしないように注意を払うことは忘れない。


 それにしても盗賊との戦いからマリオンの中で何かが変わったようだ。

 鬼気迫るというのか、何かあり余る気持ちをひたすらぶつけるように戦っている。

 一度理由を聞いてみたが、答えたくなさそうだったので命令まではしていない。

 時折、防御という言葉を忘れているのかと思うほど攻撃的だったが、得意な面を伸ばし不足は仲間が補えばいいかと思っている。

 いずれそれでは通じない日が来るだろうけれど、親にも若いうちは得意なことを伸ばせと言われていた。そして、躓いたら助けてやるとも。だからおれもマリオンが躓けば助けてやろう。


 ルイーゼの体調が戻るに連れて、モモの表情にも笑顔が戻ってきた。

 今は川辺で小魚を追い掛け回している。やはり仲間が元気なのはいい。


「アキト、これは読めるかい」


 リデルに差し出された紙を手に取る。

 この世界には紙があるけれど、コピー用紙のようにきっちりしたものではなく一枚一枚が手作りのような粗さを持った紙だ。それでも、なかなか高価なものでもあった。


 その紙には文字が書かれている。俺は文字を覚えているところで、その紙に書かれたいくつかの文字はまだわからないものだった。


「まだ、読めない文字があるな、でもこれはあまり良いことが書かれてないと思う」

「これは、あの冒険者達が持っていたもので、要約すれば冒険者と盗賊が裏で繋がっていたことを示す内容と、盗賊のアジトを示す地図が書かれている」


 繋がっていた?

 あの冒険者が盗賊から利益供与があったとして、盗賊の方は冒険者から何を手に入れるんだ。


「盗賊は冒険者を通じて、荷物の多い日や腕のたつ冒険者が乗らない日を情報として入手していたようだ」

「あの冒険者が殺された理由は?」

「理由自体は書かれていないけれど、状況から察するに口封じか、利害関係の不一致か。

 どちらかの可能性は高いと思うけれど、あの冒険者が怖気づいたというのもありそうだね」


 盗賊が同じ手を使いたいなら、それを知っている冒険者が裏切るのは邪魔と言う訳か。

 変わりならいくらでもいるのかもしれない。

 逃げる時、盗賊が無理に襲ってこなかったのも、あの時はまだ冒険者が仲間だったからか。


「でも、冒険者がこの書類を誰かに預けていたら殺しても意味がないような」

「その為に人と接触する前に片を付けに来たのだと思う。

 それが無駄になるかどうかはその時点では分からないしね」

「僕はアキトやルイーゼ、そしてマリオンとモモに謝罪をする。

 軽率な判断で危険に巻き込んで、すまない」


 リデルが頭を下げる。

 あの状況からここまで読むのは無理だ。

 それにリデルの性格ならなんとなく助けに入るとも思っていた。

 それを受け入れ実際に飛び出したのは俺も同じだ。


「謝るなら俺も同じだよ。

 リーダーの命令は無視したし、リデルなら助けに入るだろうと思っていたのに止めなかった。

 結局は俺も助けたかったんだと思う。

 挙句、あの場を任されたのにルイーゼとマリオンに指示も出さないで飛び出してしまった。

 結果としてルイーゼに重症を負わせたのは俺の責任だ。俺も悪かった」

「リデル様、アキト様。

 私たちのことはお構いなく。むしろ何も出来なくて申し訳ございません」

「わ、わたしも全然構わないのよ。

 ルイーゼ以上に何も出来なかったわ、むしろ罰せられるのは私の方よ」


 みんなで頭を下げ合う。


「よし、この件は俺達がまだまだ未熟だということで、反省しよう。

 反省はするけれど、引きずるのは駄目だ」

「そうだね」

「はい」

「わかったわ」


 その後、この件に関してどうするかを話しあった。


 結論としてはルブナンの村からトリテアの町の冒険者ギルドマスターに手紙を送ることになった。

 自分たちで持っていくという手もあったが、俺達なら無事に届けられるという物でもない。地の利に慣れた人に預けたほうが早くて確実だろう。

 ルブナンの村には冒険者ギルドはないが、商業ギルドがあるらしいので、そこで頼むのがいいかもしれない。

 事が事なので、商業ギルドのメンツにかけて確実に物証を届けてくれるだろう。


 ◇


 ルブナンの村は休憩した場所から川上に三キロほど進んだ地点にあった。

 予定通り日が暮れる前に到着出来たことにひと安心する。


 この村は漁業を中心に栄えているようで、陸路でトリテアの町へ、水路で商業都市カナンに向けての流通経路が出来ていた。

 村は思ったより人も多く活気がある。

 おかげで、宿もそれなりにあり、簡単に見つけることが出来た。


 宿をとった後はルイーゼを休ませ、マリオンとモモを護衛につける。

 実はモモは俺の場所にすぐ来る事が出来る。前から、もしかしたらとは思っていただけれど、モモは俺の言葉を理解する事は出来るが、話すことが出来ないので確認に手間取っていた。

 精霊は何処にでもいる、それは何処にでも繋がっているということだ。

 精霊界という特殊な世界を通じモモは移動する事が出来る。

 モモにはルイーゼの側にいてもらい、有事の際には俺の元に知らせに来るようお願いした。


 ◇


 それから俺とリデルは厄介事をさっさと済ませるために商業ギルドへ向かった。


 商業ギルトでは例の手紙、それに冒険者と盗賊から取ってきた認識プレートや遺品を渡し、俺達が見たことを告げる。

 事が自分の手に余ると判断したのか、商業ギルドの受付はギルドマスターを、ギルドマスターは何故か村長を呼び、再度詳細を話すことになった。


 どうやらあの盗賊による被害はこの村の流通にも影響が出ているようで、近々近隣の町と協力して討伐隊を出す予定だったらしい。

 しかし拠点がわからず準備が進まなかった。

 俺達が持ち帰った情報と合わせて、トリテアにいる盗賊と通じた冒険者を洗い出すことが出来れば、盗賊を一掃することも出来ると息巻いていた。


 そんなに簡単に盗賊と通じた冒険者が見つかるのかと思ったが、乗車履歴と盗賊の襲撃記録から追っていけばおそらく見つかるだろうということだ。

 そう多くの冒険者が盗賊の手下になっているわけではないだろうから、何度か同じ冒険者が繰り返しているはずだと。

 確かにそうかもしれない。

 裏切りは死というなら、嫌でも続けている可能性はある。


 話がまとまったところで、村長から銀貨入りの袋を渡された。情報料と口止め料とのことだ。

 お金はあって困るものではないので、ありがたく頂いておく。その方が向こうも安心だろう。ちなみに袋には銀貨五〇枚が入っていた。

 それと船を使うならその料金を出してくれるそうだ。

 料金はともかく、村長の名前で手配してくれるなら楽でいい。


 ◇


 商業ギルドを出た頃には日が暮れ始めていた。

 ここはトリテアの町とは違って夜は早いのだろう。

 昼間賑やかだった通りも人が閑散としていた。


 宿に戻る前に鍛冶屋によってリデルの鎧の修理を依頼する。

 そういえばリデルの鎧を切り裂いた武器を回収していたが、商人ギルドに差し出すのを忘れていたな。


「盗賊の持ち物は討伐した人に所有権があるから問題ないよ」


 リデルに聞いてみたところ問題ないらしい。

 欲しい物を盗賊に奪わせて、その盗賊を討伐した場合の所有者は誰になるのだろうか。


「もし元の所有者が明確ならば、正当な代価と引き換えに返却を要求することは出来るね。

 ただそれが犯罪行為によって奪われたのであれば代価は必要ない。

 僕達の場合は所有者が名乗り出てくるまでは持っていても問題ないし、面倒ならば売却してしまう手もある」


 明日リデルの防具を引き取る時に鍛冶屋で鑑定してもらうか。

 防具の出来上がりは夕方だった為、ルブナンの村にはもう一泊することになっていた。


 ◇


 翌日。日中はここ数日で消費した食料の買い足しと、俺とマリオンの二人で鍛錬をし時間を有効に使う。

 ルイーゼは旅立ちの前にできるだけ休ませておく。リデルも似たようなものだ。

 真面目な二人だから暇ならば勉強をしているだろう。


 夕方になってから、再びリデルとともに防具屋に来た。


「鉄が七、ミスリルが三と言ったところか。魔剣ではないが細身の割に強度を出せるなかなかいい配分だ。

 これ以上ミスリルが多くなると逆に軽くなるからな。

 魔剣なら軽くても威力を出せるからミスリルだけで作っても問題ないが、まぁ値段も考えて夢の様な武器だな」


 俺は鍛冶屋で盗賊が使っていた剣を鑑定してもらっていた。なかなかいい武器のようだ。

 リデルの武器はこの間の中背男との戦いで刃が欠け、少しヒビも入っていた。

 良い物があればついでに買っておこうと思ったが丁度良い。


「リデル、これを使うといいんじゃないか」

「遠慮なく使わせてもらうよ。ただ、はじめはアキトが使ってくれないか」


 言いたいことが分かったので、俺の剣をリデルに手渡す。

 上手く行けばミスリル鉱の混ざった魔剣になる。しばらくは意図的に魔力を流し込んでみよう。


 ◇


 ルブナンの村について三日目。

 俺達は準備が整い、船に乗ってメルドの町へ向かう。

 話し合った結果、商業都市カナンへは寄らないことになった。今の位置からだと寄るだけ遠回りになるからだ。当初の予定とは変わるが、まぁ良いだろう。


 ベーレ川は川幅一〇〇メートルほどの川で、流れは穏やかだった。

 その為か船の乗り心地は良く、乗合馬車よりも快適だ。


 船は小さく俺達五人が乗るとほぼいっぱいだ。

 帆はなく行きは櫂を漕いで進み、帰りは流れに身を任せるそうだ。


 川に落ちた時のことを考え防具はつけていない。女の子組は街着を着ている。

 天気もよく日差しも強かったので麦わら帽子を買って渡しておいた。焼けた肌も健康的で良いが、お肌に悪いからな。

 モモは俺が飾り付けたいつもの帽子をかぶっている。


 そのモモは、船から身を乗り出し川の水面に手を浸している。

 念のため腰を支えてあげるが、それが面白いのか更に身を乗り出す。もう膝から先が水の上だ。精霊は泳げるのだろうか。


 不意に思い立って質問をする。


「みんな泳ぎは?」

「僕は泳げるけれど、得意とはいえないね」

「わたしは残念ながら泳ぎは……」

「わたしも無理」

「まともに泳げるのは俺だけか。今後船の旅が増えるなら浮き輪でも用意しておくか」


 思ったよりも船の旅が快適だったので、使えるところでは使うのが良いと考えていた。


 朝、ルブナンの村を発った船は昼前にメルドの街に着く。

 俺達は送ってくれた船頭にお礼とわずかばかりの謝礼をして別れを告げた。


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