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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第一部 第一章 冒険者編
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マリオンと猪

 土の匂いに草の匂い。この世界に来た頃に一人で草を集めて布団代わりに野宿をしたな。

 あの時に比べれば、近くに人の気配を感じるだけ寂しくない。


 盗賊に追われ、周りには危険な動物もいるのに、思ったより深く眠ってしまった。

 それは俺だけでもないようだ。

 特に女の子組には厳しい一日だったろうけれど、一言も泣き言を言わなかった。

 泣き言を言っても状況が変わらないとはいえ、気丈なものだ。

 もしかして俺の心が弱かったりするのだろうか。


「アキト様……おはようございます」


 ちょうど向き合う形になっていたルイーゼが顔を赤らめて朝の挨拶をする。

 寝ている顔を覗き見ていたと思われたかもしれない。

 考えに耽ってないで見ておけば良かった。


「おはよう」


 俺は仕切りなおしに、挨拶をしてゆっくりと体を起こす。

 そして意識を覚醒させ、周りの音に集中する。


 鳥の声、少し離れたところに川、獣の唸るような声はとりあえず聞こえてこない。


 次に大気中の魔力に集中する。

 森の中なので多くの植物が持つ魔力で(あで)やかだ。

 魔力の不規則な流れは感じられない。近くには人や獣はいないようだ。


 そうこうしている内にみんな起きてきたようだ。

 モモはまだ眠たそうなので、そのまま寝させておく。


「まずは現在地の確認と目的地の設定、それにルートか」


 俺の議題に対して、リデルが地面に簡単な地図を書く。


「現在地はだいたいこの辺りだね。

 東と南に見える山脈の位置関係から大体あっていると思う」


 地理も覚えないと、一人じゃ迷うだけだな。


「山脈を北に迂回して抜けるか、一旦トリテア方面に戻って宿場町に向かうか」


 命をかけてまで急ぐ必要はないと思うが。


「森を南東に抜けて、川沿いを南下したところにあるルブナンの村から船を使うというのもあるね」


 船か。盗賊を避けるならそれが良さそうか。

 もし宿場町に戻っても、そこから馬車には乗れない。乗るにはトリテアまで戻る必要がある。

 理由は単純にトリテアからの乗合馬車が満席だと考えられるからだ。

 この辺の宿場町で降りるくらいならはじめから歩くし、乗る人が少なければ単純に馬車の数が減る。

 一人や二人ならともかく五人で乗るのは難しいだろう。


「水路のが安全か」

「水路を選ぶなら、場合によっては商業都市カナンには寄らずに東岸へ渡って、そこから北上する事もできるね」


 北の山脈迂回路は盗賊のテリトリーの可能性が残っている。

 宿場町経由でトリテアに戻っても、無いとは思いたいが再び山脈越えで襲われるようでは話にならない。


「複数の経路が選べるルブナンの村を利用するのが良さそうだな」

「森を抜けるには何の障害がなくても丸一日掛かりそうだね。

 途中魔物との戦闘も考えて二日の行程でペースを考えよう」

「わかった、そうしよう。隊列は昨日と同じで良いか。

 二日で移動するなら時間の余裕もあるだろうから、適当な動物がいたらマリオンに少し体を動かしてもらおう。

 大丈夫だとは思うけれど、食料も確保しておきたい」


 盗賊もわざわざ森を探索してまで俺達を追ってくる理由がないだろう。

 出会い頭と言うのは警戒するにしても、追手の心配はもう無いと考えていい。


「わかったわ、まかせて」


 マリオンはやる気だ。昨日の牙大虎との戦いも参戦したそうだったしな。

 マリオンが実戦でどの程度動けるかも見ておきたい。


「それじゃ行こう」


 モモは魔物の気配には敏感だが、動物は分からないようだ。

 分からないのではなく、動物では危険かどうかの判断がつかないのかもしれない。


 俺も魔力の変動を見るくらいで、それが危険かどうかはわからない。

 それに俺がわかるのは前より伸びたといっても半径五〇メートルほどだ。隠れ潜んでいるような大きい動物でなければ目視や音で判断した方が早かった。


 この世界では意外と動物を狩って食料にするという事は多くない。家畜を別とすると野うさぎや鳥と言った小動物が獲物の中心で牙大虎を狩るような人は少なかった。

 なぜなら、あんな危険な動物を狩るくらいなら、もっと楽に狩れる魔物がいるからだ。

 魔物の場合は素材や魔石も普通の動物より高く売れた。

 おそらく牙大虎と凶牛を相手にした場合の稼ぎは凶牛の方が高いだろう。

 それでいて危険度が桁違いに高い牙大虎を狩るのは物好きとしか言えない。


 幸いにしてこの森の食物連鎖で頂点に位置するのが牙大虎らしいので、あれ以上の危険は少ないといえた。

 牙大虎が複数同時に現れるということも考えられるが、牙大虎は縄張り意識が強く同族でも獲物とみなし争っている為、個体数は少ないようだ。


 初めに見付けた獲物は普通の猪だ。一角猪のように角はないが、その突進力から生まれる体当たりと、短くても強靭な牙と顎による噛みつきは油断できない。


 手頃とは言い切れないがルイーゼとマリオンに戦ってもらう。

 ルイーゼが盾役をしてマリオンが攻撃役だ。

 猪ならルイーゼの防御でも十分に耐えられると思うが、問題は体当たりに対しては躱すしか無いところか。

 ルイーゼの三倍近い体重が加速を伴って体当りしてくるのだから正面から受け止めるのは無理があるだろう。


「マリオン、隙があると判断したら攻撃を!

 ルイーゼは猪の攻撃がマリオンに向いたらその隙を逃すな!」

「わかったわ!」

「はいっ!」


 ルイーゼはリデルのように敵愾向上(アナマーサティ・アップ)は使えない。

 だから猪の注意を引き続けるには攻撃を仕掛けるしか無いが、その間にマリオンが攻撃をすると猪の注意がマリオンに移る。

 マリオンは盾を持っていない。だから基本は避ける事になる。

 お互いの連携が上手く噛み合わないと攻防がバラバラになり猪を倒すどころか痛手を負うのはこちらだろう。


 そして、状況はそうなりつつあった。


 猪は縦横無尽に体当たり狙い突進を繰り返し、それをマリオンは転がりながら躱す。

 たまに猪の体がカスるので、見ている方もヒヤヒヤだ。


 埒が明かないと思ったのかルイーゼが猪の前に出る。


「ルイーゼ!無茶はするな!」

「はいっ!」


 分かっていないだろう。ルイーゼは突進する猪に盾を構えて動かない。

 俺が魔弾(マジック・アロー)で猪を気絶させようかと思った時、ルイーゼの魔力が制御されて力となるのを感じた。


 ガスンッ!


 ルイーゼが猪の突進を盾で受け止める、ルイーゼはそのまま二メートルほど後ろに吹っ飛ぶが猪もまた脳震盪気味なのか足下がおぼつかない。


「マリオン!」


 マリオンの剣が上段から猪の頭部を激しく打ち付ける。

 猪は頭から血を吹きながら倒れ、しばらくして動かなくなった。

 やはり片手剣より重めの剣を両手でしっかりと振り切れば威力が大きい。

 マリオンを攻撃役としてみるならバスタードソードは合っているようだ。


 ルイーゼは既に体を起こしていた。

 ふっとばされただけでダメージはたいしてないようだ。

 ルイーゼの身体強化(ストレングス・ボディ)もだいぶ発動が早くなってきた。過保護だったか、ルイーゼを少し侮っていたかもしれない。


「二人とも、お疲れ様」


 ルイーゼに手を貸し、引き上げる。

 葉っぱだらけだったのでそれを払ってあげて、二人を労った。


「やったわ」


 マリオンは腰に手を当てて鼻高々だな。


「ほら、血抜きと皮剥が残っているぞ」

「うえっ」


 マリオンが変な声を上げるが、俺は気にせず短剣とロープを手渡す。


 猪を近くの枝に吊るし上げるのにルイーゼとマリオンでは体重が軽すぎた為、それには手を貸す。

 その後、首を切って血抜きをし、皮を剥いでいく。

 マリオンはそこで朝食を戻していたが、最初はそんなものだろう。

 俺も人のことは言えないので、水とタオルを渡して労うが、作業は続けさせた。

 ルイーゼはもともと慣れていたのもあり、平気そうだ。


 その後、二度猪を狩ったところで昼食にした。

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