旅立ちの準備
朝目を覚ますと、久しぶりに全身が筋肉痛だった。
昨日は身体強化を使い自分の能力を超えて模擬戦を頑張った。それでも軽くあしらわれて俺だけ試験官を一人も倒せなかったが。
リデルは元々の堅牢さに身体強化、敵愾向上、魔法障壁と地味に使える魔法を増やし続け、実戦でも使用可能レベルになっている。
ルイーゼは実戦での使用こそまだ無理としても初撃に身体強化を使った一撃は、昨日みたいな戦いには有効だ。
魔力量は既に俺を上回っているので、解呪して魔法が使えるようにしてあげたい。
その上、女神アルテア様の天恵を受けている。
白黒魔法を併せ持ったハイブリッドとかラスボスかと言わんばかりだな。
そう言えば回復魔法の奇跡しか無いのかな。
それでも凄い事だけれど、もし仲間の危機を救えるのならば、条件なども合わせて知っておきたい。
というか、いままで無頓着すぎた。
◇
この世界の朝は早い。東の空が白く霞んできた頃に動き始め、日が昇りきる頃には殆どの人が活動を開始している。時間で言うと朝の五時くらいだ。
まどろみの中で自己治癒を使い、筋肉痛を治してベッドを降りる。
既に起きていたルイーゼやリデルの動きもなんとなくぎこちなかった。
特にルイーゼは隠し切れていない、動きが偶に止まったり、ゆっくりしたりとなかなか面白い。
俺に見られていると気が付いたルイーゼが顔を紅くして俯いてしまった。
朝は何時もルイーゼがお茶を入れてくれた。
今日はその準備をマリオンに教えている。
俺はマリオンに続きを促し、ルイーゼを呼んで椅子に座らせる。
そしてその背後に立ち、両肩に手を添えて白く細いうなじに目を止める――いや違った。
「ルイーゼ、気を楽にして」
何時もの鍛錬でしている事だ。
ルイーゼは直ぐに魔力を受け入れる準備をした。
俺はそれを確認してから身体強化の鍛錬の要領でルイーゼの魔力を導き、自己治癒の手助けを行う。
この方法が使えるのは手を当てた近辺だけだ。
魔力をただ流し込むのではなく制御するとなると効果を及ぼす範囲が限られた。
肩から背中、そして上腕の筋肉痛を解消して上げたところで終わりとする。
足腰に手を当てるのは憚れたし、ルイーゼもきっと望まないと思う。
しかし全身筋肉痛だな……あれ、全身って事は部位強化じゃなくて全体強化を使ったのか。
ルイーゼ、着実に身体強化を身につけているな。
背中に手を合わせながら考え事をしていたら、ルイーゼの鼓動が伝わってくるのが分かった。
鼓動は早い。釣られて俺も鼓動が早くなりそうだったのでそこまでとする。
「ありがとうございます」
ルイーゼが伏せていた頭をさらに下げる。
マリオンは何をしていたのか分かっていないようだ。
リデルは少しだけ羨ましそうな目をしていたが、リデルは自分で練習するチャンスじゃ無いか。練習はいつでも出来るが、自己治癒なので怪我をしていないといまいち効果を実感しにくく、その分魔力の制御が難しくなる。
滅多に怪我をしないリデルなので練習のチャンスが少ないのだからこういう時に練習すべきだ。
「それも一理あるね」
リデルはお手上げのポーズをした後、瞑想に入る。
マリオンの入れてくれたお茶は濃かったが、朝なのでそれでも美味しく感じられた。
◇
軽い食事の後は朝の鍛錬だ。
朝の鍛錬は六時から始めて一〇時までやっている。
鍛錬のメニューがだんだんと増え、その分、狩りの時間が短くなるかと思いきや、グリモアの町と違って門を出れば直ぐに魔物の住むカシュオンの森だ。移動時間が少ないので、狩りに充てられる時間はそれほど変わっていない。
むしろ、グリモアの町が日の入りと共に活動を停止するのに比べ、日が落ちて尚、活動が活発になるトリテアの町では、時間を有効に使えるだけ出来る事が多かった。
鍛錬のメニューは俺が考えている。
最初にストレッチをしながら瞑想し、魔力制御の練習をする。
これは二人一組でやりたいところだが、今までは三人だった為にちょっとロスがあった。これからは四人なので、俺が慣れないマリオンをサポートする事でロスが減った。
魔力制御の練習は主に身体強化が中心で、自然と使いこなせるようになるまでは続ける予定だ。
身体強化は俺達が使える魔法で、今のところ魔物に対する最も有効な魔法だからだ。
俺だけに限れば魔弾や魔槍もあるが、リデルやルイーゼは攻撃魔法をまだ使えない。
ルイーゼは呪いの影響もあって仕方が無いけれど、リデルは防御重視との兼ね合いで防御魔法を優先的に練習しているようだ。
ちなみに、寝る前にも魔力を使い切るまで身体強化の練習をしている。
マリオンも解呪はしていない。奴隷になるくらいだから当たり前か。
解呪しなくても使える魔法がある事を教えた時の喜び様は少し異常とも思えた。
なにか魔法が使えない事でトラウマでもあったのだろうか。
いずれにしてもマリオンにも教えていくつもりだ。
ストレッチと魔力制御の鍛錬を終えた後は模擬戦だ。
模擬戦をする以前は走る事もあったが、模擬戦で十分に動くので、省略している。
模擬戦は基本総当たりで、三人だったので六試合を行っている。
これからは四人なので一人一試合増えるが、運動量的には慣れて来たので、丁度頃合いかもしれない。
当面はマリオンの様子を見ながら調整していく。
マリオンは自己アピールしていたように冒険者だった事がある為、剣を振るう事に関しては動きが良かった。
俺が初めて剣を振ったのに比べれば上出来だろう。
マリオンが前線で近接アタッカーをする様になれば、俺は今まで以上に遊撃として弓なり槍なり魔法でサポートが出来そうだ。
マリオンの課題は今のところ体力面のようなので、ルイーゼの防御面の鍛錬と合わせる事にした。
ルイーゼが力の続く限り防御を続け、マリオンが力の続く限り打ち込み続ける鍛錬で、俺が最初にルイーゼに対して行っていたやつだ。
ただ打つだけでは練習がもったいないので、様子を見ながらアドバイスを行っていく。
ルイーゼのアドバイスはリデルが担当し、教え子同士の鍛錬に熱くなってしまった。
体を動かす鍛錬が終わった後は、頭を使った鍛錬だ。
マリオンには初日なので多めのアドバイスになる。
剣を振る時に手打ちになっていて力が乗っていない、全力で打ち込みすぎて防御された時に隙が大きい、空振りした時に体勢を崩している、疲れてきても倒れるな。
自分に出来ない事も教えるのはやりにくさを感じるけれど、命に関わってくる事なので、知っている事はきちんと教える。
「いままで、教えてくれる人はいなかったわ。
殆どの人は見て覚えろと言うだけで、そもそも練習をする事も無かったのよ。
ましてや奴隷に時間を使うのは無駄と考えるのが普通だったわ」
「逆に、今までよりも厳しいかもしれないけどな」
「いいわ。こういう厳しさなら耐える価値があるもの」
マリオンは男前だった。
この後は主に俺とリデルの反省会だ。内容は主に昨日の模擬戦について。
リデルが倒した一人は、その切っ掛けを作ったのがルイーゼだったらしい。
ルイーゼが試験官の一人を白線の外に追いやった攻撃は流石に無視出来なかったようで、試験官の一人がルイーゼを気にせざるを得ない状況になっていた。
試験官二人の攻撃を凌ぐのはリデルにも辛かったらしく、ルイーゼが参戦しなければ討ち取られるのも時間の問題となっていた。
ルイーゼがリデルと合流するまでは一分と掛かっていない。
その間に防御の堅いリデルが追い詰められていたのだから流石ランクCの試験官と言ったところなのだろう。
「私はリデル様と合流した後、すぐに戦闘不能にさせられましたのでお役には立てませんでしたが」
「そうでも無いよ。ルイーゼのおかげで、一瞬だけ背を向けた試験官を戦闘不能に出来たのは確かなのだから」
その後は俺が知っている通り、俺が軽くあしらわれ、リデルが一対二になった時点で終了だ。
「あの試験官は強かった。
力があるとか、スピードがあるとかじゃ無くあれが経験と言うんだろうな。
隙があるように見えて、攻撃したら実は誘われていたとか、明らかな有効打だと思ったのに耐えて反撃してくる。
打つ手が無くなってそれこそ素手で殴りかかったり蹴り飛ばしたりしたけれど、まったく勝てる気がしなかった」
「魔物はそもそも剣で襲ってきたりしないからね。すぐれた冒険者ほどトリッキーな攻撃に対する適応能力が高いんだね」
確かに魔物の攻撃は突く・蹴る・噛む中心だな。なんか俺、退化してないか。
「まぁ、アキトの戦いをじっくり見られた訳じゃ無いけれど、ちょっと獣という印象はあったね」
「アキト様はお強いですよ」
獣的な意味でですよね。
「まぁ、昇級試験は勉強になった。
バルカスさんの戦い方は一つの指標になると思ったよ。許されるなら色々と習いたいくらいだ。
用事が片付いたらこの町に戻ってくるのも良いな。
それ以外でも、暇があればその町での昇級試験を見ておくのも良さそうだな」
模擬戦とは言え、冒険者は昇級に向けて必死だ。それなりに実戦に近い意気込みでの戦いが見られるのは良い事だろう。
◇
鍛錬の最後に、俺達はいくつかの秘密を持つパーティーである事をマリオンに話す必要がある。行動を共にする以上隠しておけないからだ。この秘密については他言無用を約束させている。
秘密の一つはルイーゼが天恵持ちである事。
ルイーゼが人の意思に左右されず、自分の判断が通せるようになるまでは隠すつもりでいる事を伝える。
天恵持ちは珍しいが、いない訳じゃ無い。マリオンはそれほど驚いていなかった。
天恵持ちの子供が大人達に翻弄される様子を知っているのか、どちらかと言えば同情的な様子も見せていた。
二つ目の秘密には驚いていた。
モモの事だが、マリオンは普通の女の子だと思っていたらしい。まぁ、そう見えるようにしているので、作戦が成功しているとも言える。
三つ目は俺の特殊な魔法事情についてだ。
これは上の二つほど隠し通すつもりでも無いが、わざわざ宣伝する気も無い。自分でもどういった事になるのか想像が出来ないのと、この世界の人間で無い事がバレた時のリスクを考えると隠して置いた方が良いだろうと判断した。
これらについては基本スタイルとして隠していく事を説明した。
◇
鍛錬を終えた後、何時もなら早めの昼食を取って狩りに出るところだ。
でも今日は買い物に出ていた。
リデルはトリテアの町を出る前に防具のメンテナンスを行う為、鍛冶屋に行っている。
俺一人で女の子組三人を連れて歩くのは何かあった時に不用心なので、モモはリデルに預かってもらう事にした。
一瞬モモが離れる事を嫌がるかと思ったが、そんな事も無かった。精霊は何処にでもいる。それは多くの精霊がいると言う事ではなく、望めばこの世界の何処にでも現れる事が出来るという意味だ。モモにとって距離は関係ない事だった。
俺とルイーゼ、それにマリオンで出向いてきたのは雑貨屋だ。
必要な物については遠慮せずに用意するようにと命令する。
銀貨一〇枚を預けたので使い切るくらいで丁度良いはずだ。
前にルイーゼの買い物に付き合った時は、ルイーゼが遠慮しまくっていたので視線を追って必要そうな物を買っていたが、おかげでいらぬ失敗もした。
今回はルイーゼに任せよう。
マリオンは気前の良さに驚いていたが、別に気前が良い訳じゃ無い。必要な物は最初に用意しておけば効率が良い、ただそれだけだ。
必要な物が無いという煩わしさや、その都度用意する為に店に寄るのは面倒だ。
その点、こういうデパート的な店は良く出来ている。あちこち行かなくても必要な物が殆ど一軒で揃うのは楽で良い。
ルイーゼとマリオンが下着のコーナーに消えるのを見て、俺は別の物を探す事にした。
道中は乗り合い馬車での移動になるからたいした物は必要ないと思っていたが、この世界では荷馬車が襲われる事が多いと感じた。
だから、最低限の救護セットに野営セット、それからロープや松明と言った物は用意しておいた方が良い。
使わないにこした事は無いが、用意していないのは心許ない。
俺が野営セットを集めているところで女の子組が戻ってきた。
手にはそれぞれ大きめの袋を抱えている。必要な物はきちんと買っているようだ。
今日はモモがいないので、一度宿に戻り荷物を置いて、再び街に繰り出す。
今度は鍛冶屋兼装備屋だ。おそらくリデルもいるだろう。
――いなかった。
「ギルムいるかい!」
鉄を打つ音が耳に鋭く響き、その音に体が反応してしまうのに慣れない。
一つ一つの音は周期的だが、複数の人数で打っているせいかそれが不協和音になり、聞いていると不愉快になる。近所に店を持つ人は大変だな。
しばらくしてギルムが店の奥、暖簾を避けるようにして顔を見せた。
奥はそのまま鍛冶場になっていて、熱気が漏れてくる。
「アキトか、リデルなら今はいないぞ」
リデルは防具のメンテナンスに時間が掛かるようで、先に買い物を済ませに出たようだ。
リデルの買い物とはアデレさんへのプレゼントになる。お世話になったので、何か贈ろうと話して決めた。
選ぶのはリデルが良いだろう。
「いや、俺はこの子に装備を用意しに来たんだ」
「ふんっ。若いくせに手が早いの」
「仲間だよ。それより、銀貨五〇枚以下で一通り揃えたいんだ。革で補強した服と片手剣を見せてくれ。ついでにメイスも見せて貰えないか」
「アキト様?」
「メイスはルイーゼ用だ。流石に木製のメイスをいつまでも使っているのは良くないからな。重くはなるけれど、今なら使いこなせるよ」
「いえ、私達の装備より、アキト様の装備を調えられた方がよろしいかと」
マリオンもコクコクと頷いている。
「マリオンには早く実戦に慣れて貰いたいから装備は必要だ。
ルイーゼのメイスも身を守る為に今までのでは不足なんだ。
マリオンが前に出てくれる事で、俺も今までみたいな無茶は減るだろうから後回しで問題ない」
ルイーゼはなおも心配そうにしているが、お金は有限だ。
俺も今の装備で良いとは思っていないが、必要最低限の装備はパーティーに行き渡る。
それに、道中は本格的な狩りをする訳じゃ無い。路銀が心許ないので多少は魔物狩りも必要だけれど、マリオンが増えた事で狩り自体も楽になるだろう。
「片手剣ならこの辺じゃの、少し軽めだが体に合わない物を手にしても良い事は無いからの」
俺の使っている剣が刃の部分で六〇センチくらいだ。ギルムが用意したのはそれより短くて五〇センチくらいか。中には三五センチくらいのもある。
扱いきれるなら剣はある程度長い方が良い。そのまま魔物とも間合いの差になるからだ。
木が生い茂っていたり狭い洞窟だったりすると剣の長さが邪魔になるので、短い方が良い。
結局、使い分けるのが本当は一番良いのだろう。
「マリオン、盾はあった方が良いか」
「もし選べるならあの剣がいいわ」
マリオンが示したのは刃の長さが七〇センチくらいあるが、片手でも両手でも使える様に柄の部分が長めになっていた。
バスタードソードという割には刃が短い気もするが。
「あれは折れたのを打ち直したから短くなっておる。
買い手が付かなかったが娘さんには丁度良いかもしれぬの」
そう言う理由か。
マリオンはギムルから受け取った剣を両手で構えるように持ち直し、その握りや重さを確認している。なんとなくマリオンには良さそうに見える。
「使いやすいわ」
なら武器はそれでいいか。
防具はパンツスタイルとローブスタイルがある。
ルイーゼはローブスタイルだが、マリオンは――
「こっちね」
悩む事も無くパンツスタイルを選んだ。
ルイーゼのメイスは俺が選んだ。ルイーゼが俺に選んで欲しいというので、そうした。
「餞別代わりだ、全部で銀貨四五枚じゃな」
この町を出る事はリデルから聞いていたようだ。
俺はありがたく気持ちを受け取り、お礼を言う。
今生の別れでも無い、この町は魔物狩りをするには快適だし、また会う事もあるだろう。
◇
リデルとモモが来たところでリデルの防具を受け取り、宿に戻る。
マリオンの服は襤褸とは言わないが、ただの布としか言えない状況だ。
前回は俺の気配りが足らずルイーゼには気の毒な事をした。
今回は服も買ってある。俺は女の子組に着替えをお願いする。
もちろんモモにも新しい服を用意してある。
ルイーゼは薄いピンクのワンピースを選択したようだ。
前回俺が買って上げた二着の内の一着で、フリルは少なめだけれど、その大人しい感じがまたルイーゼには似合っていた。
マリオンは髪より少し明るめの赤いブラウスに麻色のスカートを履いている。
なんとなくパンツスタイルじゃ無いかと思っていたが、予想は外れたようだ。
モモは薄緑色で丈の短いワンピース。頭には俺のお手製の髪飾りで、ブラウニー特有の葉っぱを偽装している。
室内で帽子というのも行儀の面で良く無さそうだったから、作っておいた。
これもモモのお気に入りの一つになっている。
そんな女の子組に対して俺とリデルも街着に着替える。
モモの手を引きながら夕暮れのトリテアの町を歩き、何時もと違う少し洒落たお店に足を運んだ。
この店はリデルが見付けておいてくれた。女の子受けしそうなお店で、どちらかと言えばトリテアの町には似合わない気もしたが、それなりにこうした店の需要はあるようだ。
店内はそれなりに人が入っていて、賑やかだった。
貴族や冒険者が少ない為か、俺の黒髪で影口を言うような人が無いのは助かる。
自分はともかくゲストにまで嫌な思いはさせたくない。
◇
アデレは赤く裾の長いワンピースを着て登場だ。細身だが胸の周りだけボリュームが有り、女性的な色気を感じる。
「今日はお招き頂きまして、ありがとうございます」
「こちらこそ、お誘いを受けて頂いて光栄です」
リデルがアデレの椅子を引いて座るのを助ける。
俺は全く気にしてなかったが、やっぱりテーブルマナーは学んでおくべきだな。自分以上に、周りの人に恥をかかせてしまう。
会食の前に俺は新しい仲間としてアデレさんにマリオンを紹介する。
共に旅をする仲間という言葉に、共に行く事を言い出さなかったアデレさんは少し悲しげな表情を浮かべた。
それも一瞬だ。俺が、アデレさんにそういう思いをさせてしまうかもしれないと考えていたから気が付いた程度だ。
トリテアの町に来て二週間、短いけれどそれなりに色々な事があった。アデレさんとの話題にも事欠かず、終始楽しく過ごせたと思う。
最後に、用意していたプレゼントを渡す。
「これは僕達からアデレさんへのプレゼントです」
リデルの差し出すプレゼントに、アデレさんは口元に手を当て、驚きを隠す。
「短い間でしたがとても楽しい日々でした。
またトリテアに来る事があれば会いに伺います」
「私の方こそ、とても楽しい毎日でした。素敵な思い出をありがとうございます」
アデレさんはそう言うと涙を流し、別れを惜しむ。
頃合いなのでリデルにアデレさんを送ってもらう事にした。
女の子組は俺が護衛して帰路につく。
トリテアの町の喧騒もしばらくは見納めだ。露天を見ながら最後の夜を楽しんだ。
◇
翌日。
俺達五人は馬車に乗ると、これから五日を掛けて商業都市カナンに向かう。
道中は宿場町がある程度で、魔巣も遠い為に狩り場もないし魔物の心配も無い。
久しぶりにゆっくりと考える時間が取れそうだ。