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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第一部 第一章 冒険者編
32/225

ルイーゼの成長

 翌朝、俺は全身筋肉痛でヒィヒィ言いながらなんとかベッドから起き出した。


 全身強化で動けるのは約三分だった。仕事が終わったらさっさと星に帰るのも良いかもしれない。カップ麺なら食べ頃だろう。


 これが長いか短いかは分からないが、俺が全ての力を使って三分戦っても倒せない魔物がいたら、どちらにしても勝てないだろう。そう考えると長いとも言える。


 俺は軋む体に何とか言う事をきかせ、部屋に備え付けられたテーブルまでたどり着き、椅子に座る。


「アキト様?」


 ルイーゼが朝食を用意していた。この宿は狭い為か食堂が無く、食事は各部屋に届けられる仕組みになっていた。だからルイーゼが用意と言っても、それをテーブルに並べているだけだ。


 リデルも起きている。既に朝食は済ませていた。窓際の椅子に座り、冒険者ギルドで買った冊子に目を通している。


「おはようアキト」

「おはよう、リデル、ルイーゼ。モモもおはよう」


 挨拶がてら隣に座るモモの頭を撫でながら魔力をお裾分けする。モモは目を細めて気持ちよさそうにしている。


「あの、アキト様。回復魔法をお掛けしましょうか?」


 ルイーゼは、機械みたいにぎこちない動きで歩いてきた俺を見て、笑いを堪えているようだ。

 あれ、この世界では、機械らしい物をまだ見ていないな


「頼むよルイーゼ。女神アルテア様に感謝を」


 素直に感謝の気持ちが出てくる。

 俺の中で女神アルテアは絶世の美女だ。荘厳知的な大人の女性で慈愛に溢れる素晴らしい神様だ。腰まである長い銀髪に藍色の瞳が儚げで、頭上には銀細工の冠の様な物が浮いている。背中には羽もある気がするな。


「女神アルテアに感謝を」


 バカな事を考えている間にルイーゼの祈りが終わる。


 そして再び意図せず魔力が動き出す感覚だ。以前、狼に襲われた時そうした様に、今度もまたその魔力の流れを受け入れ、補助し、慣れて来た所で増幅する。


 体中の筋肉痛が治っている。一瞬だった。


 あぁ、女神アルテア様ありがとう。

 いつかお会いしたら何なりとご命令ください。


≪その言葉、確かに聞き届けました≫


 ん?


「アキト様?」

「ん、あ。ありがとうルイーゼ。回復したよ」


 ルイーゼが微笑みながら女神アルテアに感謝をする。


 ◇


 今日の鍛錬では、ついにルイーゼも身体強化(ストレングス・ボディ)を使える様になった。

 今はまだ実戦レベルじゃ無いが、体を魔力だけで動かせる様になると、そこからは意外と早いのがこの魔法の特徴だった。


「ルイーゼ、よく頑張った」

「ありがとうございます、アキト様」

「明日からの鍛錬では魔法を発動するまでの時間を短くしていく事を中心にしよう」

「はい」


 ルイーゼも満面の笑みだ。余程嬉しかったのだろう、珍しく手がグーの形になっている。

 最近のルイーゼは力不足を意識しすぎて焦りの様な物を感じたから、魔法が使える様になってきたのは良かった事だと思う。


 ルイーゼが力不足なのは仕方が無い事だ。本当なら牙狼(がろう)や一角猪を相手にしているのが丁度良い頃なのに、俺の都合で旅に連れ出しホブコブリンや相性の悪い甲冑芋虫との戦いになってしまった。


「アキト、少しルイーゼにも実戦的な戦いが出来る様な魔物にしよう。

 勘は戦いの中で掴んだ方が良いからね」

「何か適当な魔物はいる?」

「昨日のお昼に出た食事の肉。あの羽無し鶏がランクFで丁度良いね。

 場所は昨日、甲冑芋虫を狩った辺りの沼地にいる。

 みんな甲冑芋虫を避けるからあの辺なら狩られないで残っているんじゃ無いかな」


 俺達は鍛錬を終えると、早速、羽無し鶏を狩りに出た。


 ◇


 道中では二匹の甲冑芋虫を狩った。


 一度、昨日考えていた身体強化(ストレングス・ボディ)による剣の一突きを試してみたが、甲冑芋虫の殻は球面をしていた為、刃が滑って力を加えられなかった。まぁ、思い付きだったしな。


 しばらく歩き、水辺が見えてきたところに羽無し鶏がいた。

 ただし三匹が固まっている。


 あのウッルッルーと聞こえる変な鳴き声が羽無し鶏だったのか。

 甲冑芋虫と戦っている時も鳴き声だけは聞こえていた。

 体長は胴体部で七〇センチくらいだろうか。首と嘴が長く、その名前の通り羽が無い。羽は無くても羽毛はある様だ。


「アキト弓で狙ってみるかい。外したとしても僕が引き受けるよ」

「よし、やってみるか。

 ルイーゼはリデルが敵愾向上(アナマーサティ・アップ)を使った後に身体強化(ストレングス・ボディ)して思いっきり叩いてくれ。

 時間は掛かっても良い」

「はいっ!」


 いつになく気合いが入っている。今までは殆ど防御ばかりさせていたからな。


 俺は弓を構え、矢を弦にあてがう。

 ん、弓の威力を上げるにも身体強化(ストレングス・ボディ)すれば良いんじゃ無いか。

 思いついたら早速だ。俺は何時もより強く矢を引き絞り……放つ!


 矢は普段より明らかに早いスピードで放たれ、羽無し鶏を軽く飛び越し二〇メートルほど先の水面に波紋を付けた。

 そうか、威力が上がるんだから今までより射出角度を落とさないと駄目だったか。


「アキト、今のはちょっと面白かったよ」

「試しにもう一度だけ」


 俺は再び身体強化(ストレングス・ボディ)して矢を放つ。

 さっきと同じスピードでさっきとは違う射角だ。今度は三匹の羽無し鶏の内、一匹の胴体を貫いた。

 なかなかの威力だ。


「お見事」


 リデルは仲間をやられた怒りで向かってくる羽無し鶏に敵愾向上(アナマーサティ・アップ)を使う。


「ルイーゼ」

「はい!」


 ルイーゼがメイスを右斜め上に構え、一拍おいて振り下ろす。

 余りスピードは出ていない。

 羽無し鶏の羽毛に遮られ、余りダメージも与えていないようだ。


「ルイーゼ、強化するのは手先だけじゃ駄目だ。最低でも肩までは同時に強化するんだ。時間は掛かっても良い」

「はい、アキト様」


 ルイーゼは再びメイスを構える。

 今度は長い集中時間をおいてからメイスを振るう。

 先ほどとは違い、明らかにスピードの乗った重そうな一撃だ。

 それが羽無し鶏の胴体に当たる。今度は明らかなダメージを与えていた。


 羽無し鶏もルイーゼの攻撃に対し反撃の体勢に入っている。

 ルイーゼは身体強化(ストレングス・ボディ)後の脱力感で防御の態勢が取れていない。


「ルイーゼ、盾を!」


 間に合わなそうならば介入するつもりだったが、ルイーゼの防御は十分に羽無し鶏に通用した。

 羽無し鶏は基本的に嘴での攻撃だけだ。牙狼(がろう)と同じようにその頭さえ盾で押さえつけていれば脅威にはならない。


「そのまま防ぎながら、攻撃出来るか」

「やります!」


 しばらくの攻防をした後、ルイーゼの攻撃が羽無し鶏の胴体をとらえる。

 羽無し鶏はそのまま転がる様にしてジタバタしていたが、直ぐに動きを止めた。


「ルイーゼ、次」

「はい!」


 ここは勢いだ。多少息が上がっている感じはするけれど、敵が全滅するまでは戦いが終わらない。これが動物なら逃げていく事も多いけれど、魔物が逃げていく事は少ない。


 しかしここでハプニングだ。


 ルイーゼの一度目の攻撃を躱した羽無し鶏が、ルイーゼに体当たりをしてきた。

 あれでも四〇キロくらいはあるだろう。

 ルイーゼは盾で防ぐものの、そのまま後ろに倒れ込む。羽無し鶏がルイーゼに覆い被さり、微妙に許せない構図を取っている。


 俺は魔弾(マジック・アロー)で羽無し鶏を吹っ飛ばす。

 頭を狙ったので一撃だった。


「ルイーゼ、大丈夫か」

「は、はい」


 ルイーゼは葉っぱだらけになりながら身を起こす。

 頭に葉っぱが乗っている姿はモモに似ているな。


「特に痛みは無いか?」


 俺はルイーゼの手を取り、引っ張り立たせて怪我の確認をする。

 ついでに頭や服に付いた葉っぱを払う。顔も汚れていたが、それはモモにもらったタオルを濡らして拭き取る。


「大丈夫です。ありがとうございます」


 ルイーゼは頬を染め上げる。

 しまった、妹やモモにする様にしてしまった。


 ◇


 その後、休憩を挟んで羽無し鶏を狩り、帰り際の駄賃で甲冑芋虫を狩って、本日の稼ぎは銅貨二,七五〇枚となった。


 ランクE冒険者の一月あたりの収入は大体銀貨一〇〇枚らしい。ランクFで銀貨三〇枚だ。

 俺達は二日で銀貨五八枚ほどを三人で稼いでいる。一人頭一日九枚だな。このペースで行くと休みを入れても銀貨二五〇枚くらいになる。なんか改めておかしい気がするな。


 モモに狩った獲物を運んでもらうだけで、俺達の稼ぎがインフレを起こしている。


 俺達は獲物のばらしを専門の業者に頼んでいる。自分たちでバラすより専門の業者に頼んだ方が良いからだ。

 牙狼(がろう)とか一角猪とかの小さい獲物ならまだしも、凶牛や甲冑芋虫クラスになるとバラすだけでも大変な肉体労働だ。その上、魔物の襲撃に備えなくてはいけない。


 だから運び屋という商売が成り立つ。

 ただ、運び屋なら誰でも良いという訳では無い。魔法鞄の有無で大きく変わる。結局大量に荷物を運べなければ人を多く雇うしか無い。それだけ稼ぎも減る訳だ。


 俺の一番のチート能力はモモと知り合えた事だな。


 ◇


「おい、お前。何故無視する!」


 それは面倒だからだ。

 声を掛けてきたのはグリモアの町で出会った五人組だ。名前すら知らないのに、妙に絡んでくる奴らだった。


 目を合わせず人違いですよと言う雰囲気のまま冒険者ギルドを出ようとした俺は、目の前に割り込んできた男と目を合わせてしまう。


 俺はもう一度、無視して先に進もうとしたが、そこで肩を掴まれた。


「お前、巫山戯(ふざけ)ているのか」

「いきなりアキト様の肩を掴むなんって、失礼ですよ」


 ルイーゼが言う。


 リデルはこの件に関してはノータッチだ。ここでも一歩引いて様子を窺っている。流石に大事になりそうなら動いてくれると思うが。


 モモはいつかの様に小枝を持って戦闘態勢だ。


「君は悔しくないのか、こんな黒髪の男に服従させられて。俺は見過ごしてはおけない」

「私が望んだ事であって、貴方の考えには同意しかねます」

「おい、お前はなぜなにも言わない!」


 俺が何か言った所で、収まるのか。正直人目もあるし、事を荒立てたくない。

 むしろ、このまま黙っている方が大事になるのか。


「もう一度言う、決闘だ」


 前に断ったのはグリモアの町を出れば会う事も無いと思ったからだ。だが現実には会ってしまった。

 何かしらの落としどころが必要なのだろうか。俺にとっては関わり合わないというのがベストなんだけれど。


 実際にこの男以外の三人はどうでも良いという感じだし、残り一人の女冒険者もリーダーの男がルイーゼを気にしている事が気に入らない様だ。

 だったら四人で止めてくれれば良いのに。


「もう一度言う、お断りだ」


 ノォ!

 俺は何度でも言える。

 ここで決闘を受けようものなら、それこそテンプレじゃ無いか。

 あれ、テンプレなら受けるべきか。


 俺の返答に、リーダーの男は顔をタコの様に真っ赤にさせていた。


 まぁ、今更だな。

 俺はそれ以上構わずに歩き始めた。肩を掴まれているが、それすら退(しりぞ)けずにどんどん歩く。リーダーの男が引き戻そうと手に力を入れても、身体強化(ストレングス・ボディ)を使い構わず歩き続ける。


 予想外の力強さだったか、リーダーの男が(つまづ)き、転ぶが気にしない。

 そのまま冒険者ギルドを出ようとした所で周りの気配が殺気立つ。


 あのリーダーの男が剣を抜いていた。


 それは無茶だろ。

 何でここまで拘るんだ。俺が黒髪だからなのか。

 それともルイーゼと魔物の実戦訓練が気に入らないだけでここまでするか。


「お前が悪いんだ!」


 本当にリーダーの男が斬りかかってきた。

 一瞬、背中に寒い物が走ったが、リーダーの男はそれほど早くない。十分に躱せ――


「アキト様!」

「ルイーゼ、止まれ!」


 ルイーゼがリーダーの男に体当たりをした。

 危なかった、マンガやラノベだったらルイーゼが斬られている所だった。流石にルイーゼも盾を構え、剣先が当たらない様に体当たりをしている。


 というか、俺はルイーゼに何をさせているんだよ。


「何故君が」


 リーダー男は唖然としている。


「ルイーゼ、怪我は?!」


 俺はルイーゼを立たせると怪我の確認をした。

 斬られてはいないけれど肘と膝を擦りむいていた。


「何事だ!」


 警備兵遅いよ!


「突然この男に襲われました」

「何を……くっ」


 何をも何も、事実以外の何物でも無いじゃ無いか。証人も多すぎて両手に余るぞ。


 五人組冒険者の残り四人もリーダーの男が取った行動に驚いている様だ。しきりに俺達は関係ないと手を振り、首を振っている。


「経緯を聞きたいので、君にも同行を願おう」

「わかりました。でも先に彼女の手当てをさせてください」

「それは担当の医務がいるから任せて欲しい」


 専門家がいるならそれに任せよう。俺の手当てよりはマシだろう。


「アキト様、申し訳ございません」

「ルイーゼが気にする事は何も無いよ。リデル二人を頼む」

「わかった」


 流石にリデルもリーダーの男が取った行動には驚いている様だ。


 ◇


 調書は一緒に取られた。

 こういうのは普通別々な気もするけれど、リーダーの男から直接どんな言い訳をするのか聞く機会を得られたと思う事にした。


 リーダーの男の言い分は、俺が無理矢理奴隷にしたルイーゼに魔物を焚き付けて虐待した。

 一度は注意をしたが、今日同じ事をしていたので再度注意をした。

 だが聞き届けられなかった為に私刑を行うつもりだった。


 ――と言う事らしい。

 私刑が許されるのか?


 俺はこの世界の法律までは知らない。せいぜい常識の範囲で行動していれば問題ないだろうと思っていた。

 でも私刑が許されるなら個人の不評を買っただけでまずい事になるだろ。


「私刑は決闘を除いて許されていない」


 良かった、どうやら私刑は無い様だ。


「奴は卑怯者だから決闘は受けない」


 受ける理由が無いから受けないんだ。

 まぁ、卑怯と言われてもデメリットだけの決闘なんって受ける気も無いが。


「ではアキト、君の言い分を聞こう」

「全てその男の妄想ですね。ルイーゼは俺の奴隷ではないし、虐待もしていない。

 彼女は俺のパーティーの仲間で一緒に狩りをしているし、狩りの中で実戦訓練もしています。

 訓練は俺とパーティーリーダーの二人でサポートしながら安全を確認の上で行っています」

「嘘だ!」


 お前が言うな。


「事実は本人に確認してください」

「わかった。彼女に確認を取ろう。

 双方の言い分は記録した。しばしここで待つ様に」


 おいおい、二人きりにするんじゃ無いだろうな。と思ったが、流石にそれは無かった。代わりの警備兵が入ってくる。


 リーダーの男は真っ直ぐ俺を睨んでいるが、俺はさっさと視線を外す。見つめ合っても良い事は何も無い。

 一五分ほどして、最初の警備兵が戻ってきた。


「ハイデルの言い分には、いささか本人の意向と食い違いがある様だ」


 リーダーの男がなお一層俺を睨み付ける。何故この男はルイーゼを守るような事を言いながらルイーゼの言葉を信じようとしない。


「アキトは何も手を出していない。

 よって今回はハイデル、お前に三日間の独房入りを命ずる」


 この警備兵はきちんと公平な判断が出来る様で良かった。

 リーダーの名前はハイデルなのか。

 ハイデルは警備兵の声には聞く耳持たずと言う感じで俺しか見ていない。


「アキトはこれで帰ってくれて良い」

「わかりました。お騒がせいたしました」


 主にハイデルがな。

 俺はさっさとこの場を離れるべく席を立つ。


「アキト、俺はお前を許さない」


 いい加減、理不尽な絡まれ方をし続けるのも腹が立ってきた。


「お前が許せない本当の理由を言え。そしたら決闘を受けるよ」


 ハイデルは一層眉を吊り上げたが、その後俺から視線を反らした。やっぱり別の理由があるのか。


 ◇


「アキト様!」


 冒険者ギルドの入口ホールに戻った俺をルイーゼが迎える。

 モモは未だに小枝を構えていた。

 俺はモモの頭を撫でて、もう大丈夫だと伝える。


「ルイーゼ、大丈夫だから。モモも心配してくれてありがとう」


 ルイーゼの肩を叩いて心配ないと告げる。


「アキト、彼は?」

「三日間の独房入りだとか」

「それくらいはしておかないと、周りも静まらないだろうね」


 何もお咎め無しでは、今後同じような事が起きた時に示しが付かないだろう。


「アキトが調書を取っている時、僕は残った四人に話を聞いていたんだ」


 残った四人というのはハイデルのパーティーメンバーの事か。


「それで何かわかった?」

「彼はバイバッハ名誉男爵の嫡男でハイデル・バイバッハ。

 今年成人した事を切っ掛けに冒険者になった。

 理由は僕と同じで実績を積む為だね。同じような境遇の仲間四人とね」


 爵位を継げない可能性の高い貴族は、次に目指すのが王国騎士団だ。

 王国騎士団に入るには幾つか方法があるけれど、ある程度の実績を残すのが手っ取り早いらしい。実績とは各種魔物・魔人の討伐における戦闘能力の向上だ。


「初めはここトリテアの町で魔物狩りを始めたけれど、この辺の魔物は彼らが相手にするのは厳しく、実績らしい実績が残せなかった。

 ハイデルは焦っていたようだね。

 父親はハイデルが王国騎士団に入れないようであれば爵位を失う事から、ハイデルにはかなり厳しく当たっていたみたいだ」


 リデルの話では、名誉爵位は一代限りの物で、継承出来ないらしい。

 ただし、嫡男が爵位を得た場合は名誉爵がはずれ、継承権が与えられる。

 ハイデルが王国騎士団に入ると名誉士爵位が得られる。つまり、それでバイバッハ家は爵位継承権が得られる訳だ。


「そこでグリモアの町で初心者でも稼げるという噂が立って、ここを離れてグリモアの町に拠点を変えたらしい」


 その噂の元は俺達か?


「グリモアで比較的安定した狩りを続けていた所に、今度は冒険者になったばかりの初心者が巨大熊を討伐したという話が広まって、しかもその初心者は黒髪だったと言うね」


 その噂は俺達か。


「ハイデルの父親はそれが痛く気に入らなかったらしく、それまでにも増してハイデルに厳しく当たっていたらしい。

 ハイデルは再び大物狙いでトリテアの町に戻ってきたは良いけれど、そこで耳にしたのは……」

「ホブゴブリン討伐か」

「討伐もあるけれど、実際には人命救助だね。

 これは実績としてかなり大きく見られるからハイデルはその場にいなかった事が悔しかっただろうね。もちろん僕はその恩恵を受けられた訳だけど」

「人命救助。それでルイーゼに拘っていたのか」

「それが一つ。もう一つはルイーゼ自身に興味があるみたいだね」


 それもか。

 だから一緒にいる女冒険者は何時も不満そうな顔をしていたのか。


 ネタが分かればただの逆恨みだが、親のエゴで振り回されているのは気の毒とも思えるな。王国騎士団に入る為の実績が作りたかったのに、独房に入る実績を作ってしまったのは取り返しが付く事なのだろうか。


「完全な逆恨みだけれど、恨みはやっかいだよ」


 形が無い物を敵にするのは本当にやっかいだ。

 この流れだと、俺はハイデルの親にも恨まれていそうだ。


「アキト様、私のせいで申し訳ありません」


 ルイーゼが肩を落とす。


「ルイーゼに問題は無いよ。もちろん俺にも無い。相手が悪かっただけだ」

「はい……」


 しかし、俺はずっとこうして絡まれ専門で生きていくしか無いのか。

 いっその事、隠れ潜む様に生きるより文句の付けようも無いくらい大物になる方が建設的じゃ無いか。


 いずれにしてもリゼットに会ってからだな。俺がこの世界の人間では無いとバレる可能性があるかどうかを確認してからじゃ無いと迂闊な事は出来ない。それこそ魔女狩りのような異端裁判とかに巻き込まれてはたまった物じゃ無い。


 そうだ、出発したけれど少し予定が遅れているとリゼットに手紙を出そう。


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