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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第一部 第一章 冒険者編
3/225

初めての実戦

 俺は困っていた。


 たかが兎、されど兎。三時間ほど追いかけて、まだ一匹も狩る事が出来ない。

 とにかく奴はすばしっこい。音にも敏感らしく、近付くのもなかなか難しい。

 なんとか近付いても魔弾(マジック・アロー)を打つ前に気付かれ、逃げられてしまう。


 あれを剣で倒そうとか思っていたのは誤りだ。というか、これは罠とかの出番だろ。

 とは言え、無い物は仕方がない。


 俺は次の獲物を見付け近づき過ぎない位置で立ち止まる。

 その距離およそ五メートル。

 威力を保ちつつ魔弾(マジック・アロー)の届くギリギリの距離だ。

 遠すぎると当たってもダメージにならず、そのまま逃げられてしまう。


 五度目の挑戦。

 左手を引き絞り、魔力を集め兎に向かって解き放つ。


 ――瞬間。

 何かに弾かれるように兎は五メートルほど吹っ飛んでいった。

 そして、しばらく痙攣していたがそのまま動かなくなる。どうやら衝撃で首の骨が折れたようだ。


「ふぅ、やっと一匹」


 体長二〇センチほどの兎で、俺のイメージしている兎より後ろ足が大きく目立つ為、大足兎と命名した。


 ◇


 その後は同じように狩りを続け、五匹目の大足兎に魔法を打った瞬間意識が遠くなった。

 魔力切れだろうか、精神的な気怠さが襲ってくる。無理をすると気を失いそうだ。

 限界付近でどんな体調になるのかわかったので次からは気をつけよう。


 現時点で魔弾(マジック・アロー)が打てるのは一〇回程度だ。

 リゼットは、魔力量自体は鍛錬で増やす事が出来ると言っていた。具体的に鍛錬が何を示すか分からないが、体力と同じで魔力を限界まで使ってから休む事にした。


 日が暮れる前に火の用意と食事の準備をする。

 しかし、相も変わらず考えが甘かった。


 兎の肉を食べるにしても、きちんと捌かないといけない。知識としては血抜きをして皮を剥ぎ、内臓を取って水洗いと言うくらいは分かる。

 でも、血肉を見た瞬間、昨夜の惨状を思い出してしまった。しかも、今度は自分で肉に刃を突き立て解体しなければいけない。

 背中に寒気が走るが、それでも頑張ってなんとか捌いた。こんなに頑張っても誰も褒めてくれないのが悲しかった。


 そして、火は起こせるようなったが薪がなかなか集まらなかった。

 草原とは言っても林の様な物は其処ら彼処にあるので直ぐに手に入るかと思ったが、小枝ばかりで直ぐに燃え尽きてしまう。もしかして炭とか用意しないといけないのだろうか。

 幸い小枝はそれなりにあったので、それを燃料に倒木を燃やす事にした。薪と言うには大きすぎるが仕方が無い。火力が強い分、もし危険な動物が近寄ってきても武器として使えると言い訳をしておこう。


 焼き上がった兎の肉は、二日ぶりの食事だった。

 見た目はなかなか美味しそうに出来ている。

 大草原でバーベキュー風なのも風情があって良い。満天の星空に月も出ていて、なかなかに幻想的だ。


 しかし、余り美味しくなかった……。

 肉はまぁ、多分悪くないと思う。調味料がなかったからだろう。せめて塩だけでもあれば良かったが。塩気の無い食べ物って食べにくいな。

 そうか、塩が無いと人間死んでしまうんだよな。どれくらい取らないでいると駄目なんだろう。まさか人に会う前に塩が無くて死んでしまうとかあるのか……想像出来ないな。


 味はともかく、お腹は膨れた。昨夜は空腹で殆ど眠れなかったし、今日は歩いた上に狩りで疲れた。

 草を敷いただけの地面だけれど、昨日とは違って、直ぐに眠りについていた。


 ◇

 翌日。

 幸いな事に今日も快晴だ。今の状況で雨に降られるのはきついので助かる。


 俺は昨日に続き、北に向かいつつも大足兎を狩っていた。

 しかし、何で俺は兎を五匹も狩ったのだろう。

 一匹で二食分くらいの肉の量が取れるのに。生肉がそんなに日持ちするわけが無く、かといって燻製とか作る知識も無い。

 試しに遠火で水分が飛ぶまで炙ってみたが、これが燻製だとは思えない。出来ればこれを食べなければいけない事態にだけはならないで欲しい。


 ともあれ、気を取り直して歩く事にした。

 ひたすら歩く。

 歩きながら魔力の制御を練習し、兎を見付けては倒す。肉が目的では無くどちらかというと毛皮だ。

 村なり町に着いた時、少しでもお金に出来る物があった方が良いと考えた。

 肉は古くなった物から捨てる事にした。もったいないが、今は計画的に動く事にした。


 ◇


 その結果がこれだよ。


 俺は狼に追われていた。

 兎の毛皮を乾燥させる為、木にぶら下げ歩いていた。道中、兎の肉をいくつか捨ててきた。さぞかし良い臭いに思えたのだろう。三匹も寄ってきたよ。


 狼とか初めて見たが、犬とは全く違った。主に殺気立っているところが。唸り声からして危険な気がしてならない。

 あぁ、でもドーベルマンよりはマシに見えるな。ドーベルマン好きのおじいちゃんのお陰でちょっとは狼が可愛く見えてきたよ。よく見たらモフモフじゃないか。


 グルゥゥ!


 俺は狼の前に兎の毛皮を投げ捨てて逃げた。兎の毛皮が囮になってくれるか分からなかったが、戦うにしてもどうせ邪魔だった。

 幸いにして狼は兎の毛皮に夢中のようだ。

 俺はとにかく走った。頑張った。でも、狼は早かった。やっぱり毛皮じゃ満足しなかったらしい。せっかく開いた距離が見る見る間に縮まる。


 絶対に追いつかれる。


 このまま走っていても力尽きて追い付かれるだけだ。だったら余力がある内に迎え撃った方が良いのか。どっちが正解だ。


 結局、戦う事にした。


 前方の小高い丘を駆け上がる内に追い付かれると判断したからだ。

 なら、最初の一匹は魔弾(マジック・アロー)で確実に仕留める。三匹相手は分が悪い、多くても二匹までだ。それでも優位とは思えないが三匹よりはマシだ。


 俺は先頭で走ってくる狼に狙いを定める。狼は三匹だが、二〇メートルほど間隔が開いている。同時には来ない。


 追い付かれるまでの間に作戦を考える。


 一つそのまま止まらずに飛び掛かってくるなら、一匹ずつ魔弾(マジック・アロー)で仕留める。


 二つ直前で停止して警戒してくるなら、こちらから迎え撃って仕留める。


 三つ……。

 俺は先頭で飛びかかってきた狼に魔弾(マジック・アロー)を撃ち込む、空中にいる方が狙いやすかった。


 一匹目を処理して直ぐ、右手の剣を足下に向かってきた二匹目の顔に向かって突き出す。

 剣の振り方とか分からなかった。だから、槍の様に突き出して刺されば良いくらいの考えだ。

 幸いにして勢いを止めきれなかった狼は俺の突き出した剣先で頬の辺りを切り裂いていた。


 そして三匹目が飛びかかってくる。右手も左手も余裕が無い。屈んで躱す。

 と言うか本当に三つ目の、連携してくる(・・・・・・)に当たるとか。


 三匹目が頭上を越えるのを感じた時、右足に激痛が走った。

 二匹目の狼に膝の上を噛み付かれていた。熱さと痛みが同時に襲ってくるが、転移魔法ほど痛くは無かった。


 噛み付いて動かない狼の首筋に剣を突き立てる。火傷するような痛みはあるが、それよりも俺の足に噛み付いている狼をどうにかしなければと言う思いが大きかった。


 俺を飛び越えた三匹目が今度は首筋に噛み付こうと、再び飛び掛かって来た。

 辛うじて右手でカバーするが、その右手に噛み付いてきた。右足に続いて右手にも激痛が走った。


 狼と言っても中型犬くらいの大きさがある。まともに飛び掛かられた俺はそのまま地面に倒れた。

 右手に食らい付いた狼が、俺の右腕をもぎり取らんばかりに暴れ出す。右腕の感覚がどんどん抜けていく。

 俺は焦る心を気力で押さえ込み、全力の魔弾(マジック・アロー)を狼の頭に打ち付ける。同時に魔力切れだ。スウッと意識が遠のき、俺は気を失うのだと分かった。


 最後に狼が倒せたのかどうか、今の俺には分からなかった。倒せたとしても気を失っている内に失血で死んでいたとか嫌だな。


 あれ……なんかハードモード過ぎないか。お約束のチート能力はどこ行った……。

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