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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第一部 第一章 冒険者編
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反省会

 初めて訪れるトリテアの町は、四方を高さ三メートル、厚さ三十センチの石壁で覆われた要塞の趣があった。


 カシュオンの森に囲まれるこの町は、魔巣から出てくる魔物や逃げる冒険者を追って出てくる魔物、そして魔人による被害が避けられない為、対策として四方を石壁で囲んでいる。

 唯一の門には常に警備兵が常駐し警戒をし、場合によっては冒険者の救援活動も行っているようだ。


 冒険者に対する待遇が厚いのもこの町の特徴であり、その待遇の良さに冒険者が集まってくるのもこの町の特徴だ。


 トリテアの町は三方を魔巣に連なる森に囲まれた特異性から、エルドリア大陸でも魔物の狩場として名を馳せていた。

 町を出て数分も歩けば魔物の徘徊する森に出るアクセスの容易さと、魔物から取れる素材の売買が盛んで、北の商業都市カナンとの交易も盛んだった。


 特に魔巣の近くまで切り込んだ森にいるランクC、さらにはランクB相当の魔物から取れる素材は高額で取引がされている。そして、それらを持ち帰る冒険者への待遇を良くする事で囲い込みを行い、結果として更なる税収を期待出来た。


 一言で言えば稼ぎやすく活気がありお金の回る良い町になっていた。


 当然お金が回れば商人も増え物流も活性化し仕事も増える。

 エルドリア大陸で求人倍率が二倍を超えるのはここトリテアの町と、ルーフェン古代都市跡地があるドライデンだけらしい。王都でさえ一倍に満たない。


 そういった事情もあり、トリテアの町は人口も増えすでに町というより一つの都市になっていた。この町にはおよそ五万人が住むらしい。


 その割に町自体は狭く、雑多な印象を受ける。

 唯でさえ狭い通りには商店以外にも露店が並び、食料だけでなく装備や魔法具、何に使うのか見当も付かない怪しげな素材が売られている。


 グリモアの町では平屋かせいぜい二階建ての建物だけだったが、トリテアの町ではほとんどの建物が三階建て以上になっている。横に広がる事が難しいために縦に広がっているのだろう。それでも地下という考えは一般的ではないようだ。排水を考えたら地下というのは簡単には使えないのかもしれない。


 建物はほとんど木造建築だ。回りは森なので木材ならいくらでもある。

 今も森を切り開いて町の拡張を続けており、日々街は大きくなっている。

 常に危険が伴う町の外の開拓には犯罪奴隷が宛がわれるようで、雰囲気の悪い人らを連れた警備兵の姿も見えた。それほど厳重でもないのは奴隷紋という戒めがあるからだろう。


 ◇


 時間はまだ夕刻だったが、そろそろ今夜の宿を探しておく必要があった。

 トリテアの町は常に人が溢れていて立ち止まるのも難しい。色々な店が無秩序に並んでいる雑多な街で宿を探す事は困難を極めた。

 これでも案内所を利用したのだが、とても機能しているとは思えなかった。

 言われた所へ行くにも細い路地を何度も入り、ついには居場所を見失ってしまう。


 出来れば大通りに面して、安全性も高そうな宿をとりたかったが、妥協する事にした。


 決めたのは雰囲気の妖しいところに近いが、古臭い外装の割に内装は比較的綺麗な四階建ての宿だ。四階建てなのに横に狭い為、部屋数はそれほど多いとは思えない。お値段は一部屋一泊銅貨で百二十五枚。四人で利用するとはいえグリモアの町の五倍だ。物価が高いとは聞いていたが、二部屋もとっていたらすぐに資金が尽きてしまう。どちらにしても同じ宿には空きが無かったが。


 ちなみに四人のうちの一人はモモだ。はじめは隠れてもらう事も考えたが、一緒に出歩いているのに宿にいないでは不自然だ。かといっていつも隠れていてはモモの魔力も消費するし、何より俺達がモモをいない子として扱うのが不本意でもあった。

 モモはもう立派なパーティーの仲間なので、それ相応の待遇を与えるべきだ。


 結局四人で一部屋を借りる事にした。

 貴族のリデルには(いささ)かなじめないかもしれないが、我慢してもらおう。

 むしろ一緒のルイーゼの方が居た堪れない。

 幸いにして部屋は大きかったので、グリモアの町で買っておいた布で部屋の一角を覆えば多少はマシだろう。ルイーゼは気にしませんというが、俺が気にするのだ。

 俺とリデル、ルイーゼとモモに別れて使う事にする。


 ◇


 戦い、生還を喜びあったら、今度は反省会だ。


 今回は特に反省すべき点が多かった。多いといっても課題として認識している事がそのまま問題として発生しただけで、今回のような事を想定しておくべきという事には気付いていた。だから、一度に全ては無理でも追々片付けていこうと思っていた。


 ただ、その課題が想像以上に早すぎるタイミングで問題となり、身に降りかかってきたとなれば話は別だ。それも死に掛けた。時間が有限である以上は全てを同時に対応するのは難しいが、優先度をつけて早急に対応が必要と判断したら旅を中断してでも、課題の解決に取り組む必要がある。何せ命が掛かっているのだから。


 まず、今回の流れをまとめると、馬車での移動中にコボルトに襲撃された。コボルトは迎撃可能な魔人の為、俺達は救援に向かう。ここまでは良い。


 その後すぐにホブゴブリン一匹とゴブリン二匹の襲撃に遭う。この時点での判断はリデルにあった。魔物の脅威レベルを俺には判断出来ないからだ。


 リデルの判断は迎撃だ。


 理由は二つ。

 一つ目は俺達が逃げれば馬車に乗っていた人達が襲われただろう事。

 二つ目はリデル自身がホブゴブリンを抑えれば迎撃も可能と判断した事。


 想定通りに俺がゴブリンをリデルがホブゴブリンを相手にしていれば、あれほどの接戦にはならなかったと思う。


 ここで起きた問題は相対する魔人が想定と逆になってしまった事だ。

 魔人は知能が高い。俺達を見て何かを判断したのかもしれない。

 リデル頼みで守る事を疎かにしていた俺は、この時点でテンパっていたのかもしれない。


 この後の対応には間違いは無かっただろうか。


 俺はルイーゼをリデルのサポートに回した。

 正確にはリデルの背後を守りつつ、リデルの守りを受ける為に。俺ではホブゴブリンからルイーゼを守りきれないと判断した。それはおそらく間違っていない。


 ホブゴブリンとゴブリンを合流させない為に、俺がホブゴブリンを相手にしたのは間違いだろうか……間違っていない気がする。

 あそこで合流させていたらリデルも持ち堪えられなかっただろう。


 そうなると、ここまでは変化する戦況に合せた対応が取れたと思う。

 残るは俺がホブゴブリンと真剣勝負をする必要があったのかどうかだ。

 これは無かったと思う。

 あくまでもゴブリンとの合流を阻止出来れば良かったのであって、倒す必要は無かったはずだ。


 もしホブゴブリンが俺を無視して背中を見せるなら、その時に攻撃すれば良い。背中からならいくらでも戦いようがあったはずだ。


 それじゃなぜあの時に俺は真剣勝負に挑んでしまったか。

 ぶっちゃけ恐怖心に負けたんだと思う。怖くて目が離せなかった。怖くて倒してしまいたかった。

 矛盾しているようだが、逃げる選択が無い以上は倒すしかないと思考が視野狭窄に陥っていた。倒さなければ自分が倒されるのだから。


「途中までの状況判断は悪くなかったと思う」


 リデルもそれについては同意する。


「でもリデル達を待たずにホブゴブリンとの戦いを始めてしまったのは良くなかった。

 あそこは牽制だけにすべきだったと思う」

「そうだね。圧倒出来るだけの格差が無いのであれば一人で戦うのはリスクが大きい。

 アキトなら魔法で牽制しつつ距離を取れたと思うよ。ホブゴブリンは巨大熊ほど早くは無いのだから。

 アキトは魔物や魔人についてもう少し詳しく知る必要があるね。敵を知る事はそれだけ戦いに余裕が出来るし、無理な戦いであれば避ける事も出来る」


 そう、俺は魔物や魔人といった敵対する可能性のある相手に対しての情報がなかった。だから分からない不安から怖いという気持ちも増幅されていた。


「魔物や魔人の事はリデルに教わるとして、それ以外にも何か情報をまとめたような本とかは無いのかな」

「魔物ランクの載っている情報なら冒険者ギルドで購入できるよ」


 そんな身近なところで購入出来たのか。当たり前といえば当たり前の気がするけれど。そう言えば最初は物を買うという発想が無かったな。一日の利益が銅貨十枚とかいう世界だった。


「それじゃ、それはすぐに手に入れるとして。

 後はなんか、後一人か二人ほど仲間が欲しいところかなぁ」

「都合よく旅に付き合ってくれる人は簡単には見つからないね。

 そういう場合は戦闘奴隷を使うのが大半だから」


 奴隷か。普通に選択肢として出てくる世界なんだよな。

 ルイーゼも奴隷だけれど、ほとんど形式的な事で俺は奴隷だとは思っていない。そんなに深く考える必要は無いのか。


「この町には奴隷商人も多いから、アキトが必要と思うなら見ておくと良いよ。

 今度はアキトがきちんと主人を務めてね」

「そうなるよなぁ」


 出来ればそれは勘弁願いたい。

 戦闘をメインにするのだから男、それもかなり年上になるだろう。多少稼げるようになったとは言っても俺はまだ子供だ。良くは思われないだろう。せめて俺が成長するまでは、その選択肢は無いと思って良いな。


 奴隷と聞いて複雑な表情をする俺にルイーゼが気を遣う。


「アキト様、余り難しく考える必要は無いかと思います。

 必要だから奴隷を使う、それが普通です」


 やっぱり普通なのか。


「余りお勧めは出来ないけれど、傭兵を雇うという手もあるね。

 僕達の場合は護衛になるのかな」


 護衛か。

 昨日の商隊にも護衛がいたな。ゴブリン相手には遅れをとっていなかった。案外ありかもしれない。


「お勧めできない理由は?」

「奴隷は奴隷紋によってある程度行動に制限を加える事が出来るけれど、傭兵にはそれが出来ないからね。

 いざとなったら雇い主を囮に本人が逃げてしまう事も話に聞くよ。

 罰則はあるけれど、結局のところ死ぬよりは良いからね」


 やっぱりそれがお勧めできない理由か。


「とりあえず、この件に関してはこの町を出るまでに考えておくよ。

 それと今日の戦いで分かった事なんだけれど、魔人は魔物と違って知能が高く、こちらが躱しにくい攻撃を仕掛けてくる。それに躱したところを狙われたり、攻撃の隙を突いてきたりするから、俺達も魔人戦に慣れておいた方がいいと思う」


 リデルは知識としては分かっている事だと思うが。まぁルイーゼもいるし意識合わせにいいだろう。


「そこで、朝の鍛錬メニューに模擬戦を入れようと思う」


 ここにきて魔法の練習に模擬戦と朝の鍛錬というか午前中の鍛錬に近いくらいのボリュームになってきた。


「そうだね。魔人の動きは人の動きに近いから練習になると思うよ。

 アキトとの模擬戦か。ちょっと興味あるね」

「俺はリデルの防御を抜ける感じがしないけれどね。

 もちろん手加減はするけれど、ルイーゼも一緒にね」

「わかりました」

「それじゃ、反省もしたし。問題点も明確にした。足りない事もやっておく事も決めた。

 今日はお開きにしよう」

「了解」

「はい」


 明日はリデルの装備を作成しに鍛冶屋に行く。作成にはしばらくかかるので、その間にこの辺りの狩り場について情報を集めよう。

 冒険者ギルドに行って魔物や魔人の情報を手に入れる事も必要だ。鍛錬もするし、道中の傭兵なり護衛も考えないといけない。模擬戦も頭を使う事をメインにやるから作戦を立てないと。


 なんかやる事が多くて考えるだけで目が回ってきたぞ。


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