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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第一部 第一章 冒険者編
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ルイーゼと身体強化魔法

 俺とルイーゼ、それにモモは再び町外れの草原に来ていた。

 目的はルイーゼから回復魔法を学ぶ為だ。


「ルイーゼ先生。今日は俺に回復魔法を教えて欲しいんだ」


 先生と呼ばれたルイーゼが首を傾げる。首を傾げる理由が分からず俺も首を傾げる。モモも首を傾げる。


「私の回復魔法は神聖魔法ですから、お教えする事は出来ないのです」


 なんだと?!

 神聖魔法ってなんだっけ、あれか。確か生まれ持っての素質で使える魔法。魔封印の呪いすら関係が無い、神に授かりし力。天性の物で、教えたからと言って使える物ではない。


「それじゃ、俺には使えないのか……」


 うーん、覚えられれば仲間が怪我をした時に便利かと思ったが。


「アキト様にも天恵がある可能性もありますので、使えないとは限りませんが」


 きっと使えないだろうな。なにせこの世界ほど、現実的に神様がいる世界じゃ無いからな。元の世界からこの世界に来た時、魔力を感じたように神力の様な物は感じなかった。


 あれ、待てよ。なんか忘れているな。


「物は試しに回復魔法を掛けてもらって良いかな」


 ルイーゼは返事をすると、呪文を唱え始めた。


「水は生命の源・魔力は力の源・肉体は二つの源を宿す・……」


 初めてルイーゼの回復魔法を受けた時、これが呪文だと思っていたけれど違ったのか。

 ルイーゼの回復魔法は神聖魔法なので呪文では無く祈りだ。ルイーゼ自体は魔法が使えず、ただ神に祈る事で奇跡を起こす。


 あれ……と言う事はルイーゼには身体強化(ストレングス・ボディ)も使えないんじゃ無いか。さっき違和感があったのはこれか。

 確かリゼットが、この世界に生まれた人間は全員が魔封印の呪いを受けていて、それを解呪するまで魔法が使えないと言っていた。封印の解呪には特殊な魔道具が必要で、それは高価な物で有り平民がおいそれと買えるような物じゃ無いという話だったな。


 俺は魔封印の呪いが及ばない異世界の人間だからともかく、ルイーゼが解呪しているとは思えないな。

 リデルは前に魔法を練習していると言っていたし、貴族だから解呪も出来たのだろう。


「……・彼の者に再生の喜びを…。身体回復(ヒーリング)


 ルイーゼの祈りが終わると俺の体がほんのりと光を放つように見えた。前は気が付かなかったけれど、少し青みのある光は神々しい輝きにも見える。


 効果は直ぐに現れた。

 体の細胞が活性化してかすり傷だけでは無く、肉体的な疲れも癒やされていく。これはなんだろう。神様が俺の魔力を間接的に制御して自己治癒能力を向上させているのか。俺の意図に関係なく魔力が細胞に染み渡り、その活動を促進しているのが分かる。


 あ、神聖魔法系回復魔法はここまでが奇跡で、実際に体を癒やすのは自分の魔力と自己治癒能力なのか。これなら、奇跡の部分を俺が実行する事で回復魔法も使えそうな気がしてきた。流石に他人の怪我までは治せそうに無いが。

 上手く出来たらこれはリデルにも教えられるな。


「ルイーゼありがとう、色々分かったよ」

「色々ですか」

「うん色々とね。只まだ仮定の段階だから実証が出来たら教えるよ」

「はい」

「それからルイーゼに確認なんだけれど、俺はルイーゼが回復魔法を使う時は、精霊魔法系聖属性の魔法か水属性の魔法を使っていると思っていた。だから確認しなかったけれど、ルイーゼは魔封印という言葉を知っている?」

「はい、わたしは魔法が使えないと思います」


 知っているし使えないと言う事は、ルイーゼはまだ解呪していないと言う事だ。ルイーゼの生い立ちを考えれば解呪の為の魔法具を買うのも難しい事だろう。


「あれ、知っていて身体強化(ストレングス・ボディ)を教わったのは何で?」

「解呪しなくても使える魔法かと」


 解呪しなくても使える魔法だと?!

 えっと、なんだっけ。解呪しないと魔法が使えない……違うな、解呪しないと魔法の具現化が出来ない。具現化って言うのは魔力を力ある形に、即ち六大精霊にちなんだ光・闇・火・水・風・土属性の事だ。

 リゼットは魔法が使えないと言ってないな。


 俺は自分で魔法だと思って魔弾(マジック・アロー)を使っていたが、そもそも元の世界でもメジャーな魔法である、ファイアーボールやウィンドカッターと言った魔法を使おうとしていた訳で、結果的に上手く具現化が出来ないだけだと思っていた。


 クロイドは言っていた。魔法は失敗しても魔力を失うと。失った魔力がどうなるかというと霧散する。その霧散する力を集めたのが俺の魔弾(マジック・アロー)だ。

 普通は魔力を制御して力を放出する位なら、精霊魔法の具現化をした方が簡単だという。でも、俺はそれが出来なくて魔弾(マジック・アロー)という形になっている。

 魔法については俺が独自でやっているので、いつかきちんと習う事が出来ればファイアーボールだって使えるだろうと、漠然と思っていた。


 あれ、もしかして俺も魔封印の呪いを受けているんじゃ。そしてルイーゼははじめからそう思っていて解呪しなくても使える魔法だと思っていたと。


「アキト様?」

「あ、ごめん、驚きのあまり自分の知識を整理していた」

「アキト様は解呪されていましたか?」

「した事は無い」


 まさか元の世界にまで呪いが及ぶとかどんだけ強力なんだよ。

 いや待て、俺。そんな強力な呪いがある訳無いだろ。多分。


「ルイーゼは解呪しないで使える魔法って他に知っている?」

「噂ですが、解呪して無く奇跡でも無いのに怪我の治りが異様に早いとか、目や耳と言った感覚が非常に優れている人。他にも生まれた時からの記憶がある人とか食欲が尽きない人とか。

 普通とは違った能力を持つ人は魔法の影響だと言われています」


 一部只の病気が混ざっている気もするけれど、怪我の治りが早いとかはさっき俺が自分で自己治癒能力を向上させればと考えていた事と一致する。


 つまり俺が解呪していないから魔力の具現化が出来ないと決まった訳じゃ無い。たまたま解呪しなくても使える魔法だったという可能性がある。

 身体強化(ストレングス・ボディ)は自分の内面に働きかける魔法だから、解呪なしで使えても不思議は無い。なぜなら魔力を具現化している訳では無いから。


 元の世界にまで届くような、強力な呪いの可能性は低いだろう。そもそも呪いを掛けたのは誰なんだ。


 ◇


 その後はルイーゼが身体強化(ストレングス・ボディ)の鍛錬をしたいというので手伝う事にする。


 俺はルイーゼと向き合って座るとその両手を取る。前は肩に手を当てていたけれど、どうも体の末端から魔力を流し込んだ方が分かりやすいみたいだ。


 鍛錬自体は簡単だ。俺が握ったルイーゼの両手に魔力を流しては止める。その変化をルイーゼが感じ取り、自分で同じように魔力を制御する。


 魔力を流す、そして止める。


「魔力の流れが止まったのは分かる?」

「はい、分かります」


 もう一度ルイーゼの両手を取って魔力を流す。


「魔力が流れ出したと思う。この魔力の流れを覚えて、自分で魔力が同じく流れるように制御するんだ」


 毎回同じ事を言っているが、無言でいるのも耐えがたいので繰り返す。


 俺はゆっくりと魔力の出力を絞っていく。なんとなく今までは唐突に魔力を止めていたけれど、少しずつ絞っていくようにした方が良いのかもしれない。

 俺が魔力を少し絞ると、それを補うようにルイーゼが魔力を制御する。今のところ順調な上だ。


 上手くいった所でまた絞る。さっきより難しいのか、抜けた分の魔力を補うのにしばらく時間が掛かった。多分感覚的に何時もの半分くらい魔力を絞っている。


 さらに魔力を絞る。これで四分の一位になった。

 目を瞑っているルイーゼが顔をしかめる。可愛い顔が台無しだ……いえ、悪くないです。そんな顔も可愛いのは何故だ。


 三分ほどが過ぎた所でルイーゼは魔力の制御を失い、魔力が霧散した。


「今のは結構良い線だったと思うな」

「……はい。自分でも少しは感じ取れるようになってきたと思います。

 よろしければもう一度お願いします」

「焦らなくても大丈夫、まだリデルも上手く出来ないから。

 直ぐにルイーゼが出来るようになったらリデルが焦るよ」


 リデルもまだ身体強化(ストレングス・ボディ)は使えるようになっていない。リデルはこの一週間で感覚的な事は掴めてきたようだけれど、実戦の中で使うのはまだ練習中だ。魔法に慣れていないルイーゼはもう少し掛かるだろう。


 俺は再びルイーゼの手を取り、魔力を流す。


「魔力の流れを感じながら指を動かす。指を動かす事で魔力の流れに変化が現れる。それが感じ取れたら今度は自分で魔力を制御して同じような流れを作るんだ」


 ルイーゼが指をピクピク動かしては難しい表情をしている。


「あっ」


 ルイーゼの艶っぽい声が漏れる。向かい合い手を取り合っている状態でそんな声を聞かされたらドキドキしてしまう。なぜならば健全男子だから。


「……動いた……と思います」

「続けて」


 感覚を掴むのが早くないか。いや実はルイーゼが天才という可能性もある。何せ天恵を授かるくらいだ。あれ……神聖魔法を使えると言う事は、ルイーゼは聖女なのか? 何か他に条件が合ったかなぁ。


「なんとなく、感じだけは掴めたと思います」

「そしたら道中の暇な時に練習してみると良いよ。その内、全身を制御出来るようになるから。

 ただし、やり過ぎると酷い筋肉痛になるので気をつけるように!」

「はい」


 ルイーゼはにっこり笑ってコクッと頷く。いちいち行動が可愛すぎる。


 そう言えば、この体は皮下脂肪で目立たない程度だけれどヤセマッチョに近い体型になってきた気がする。身体強化(ストレングス・ボディ)で高負荷筋トレしているような物だから当然なのかもしれない。引き締まったウエストに駄肉の無い体は元の世界でもいい感じだと思う。ただ、この世界ではマッチョが多いんだ。吃驚するほどに……。


「そうだ、今思ったんだけれど、神聖魔法が使えるルイーゼは聖女になるの?」

「私は教会には入っていませんので聖女の資格は持っておりません。母には、自由に生きたいのであればこの力を使うなと言われていました。私が神聖魔法を使える事を知っているのは、今ではアキト様とリデル様のお二人だけです」


 教会に入るのが条件だったか。そんな事もリゼットに言われていた気がするな。どうも元の世界の感覚からすると教会と言っても関わる事が無かったからなぁ。

 日も暮れてきたので今日の鍛錬は引き上げ、活気の出始めた街へ入っていく事にした。

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