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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第一部 第一章 冒険者編
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狩りと鍛錬の日々・2

 一週間が過ぎた。

 俺はルイーゼと一緒に基礎体力強化メニューを毎日欠かさず行っている。その後はリデルが合流し、俺が先生役で身体強化(ストレングス・ボディ)魔法の練習だ。

 リデルはこの一週間で身体強化(ストレングス・ボディ)魔法が使えると言う事は無かったが、魔力制御の鍛錬を続けた事が良かったのか、初めて魔法が使えるようになっていた。


 使えるようになった魔法は、精霊魔法の聖属性にあたる敵愾心を向上させるものだ。

 始めに聞いた時、敵愾心を向上させてどうすると思ったが、どうやら便利な使い道があるらしい。

 本来は人をリラックスさせる魔法らしいが、これを魔物に使うとリラックスどころか敵愾心を煽る事になるようだ。魔物を落ち着かせようとしてこの魔法を魔物に使った所、意図に反して魔物が暴れ出した事がこの魔法に別の使い道を与えた。


 つまり、盾役であるリデルがこの魔法を使えると言う事は、それだけ敵の注意がリデルに向き、他の人が自由に動けるようになると言う事だ。

 ルイーゼが前衛に出ていても、今までより安心かもしれない。そうするとルイーゼをカバーする必要が減る分リデルの負担も減る。そして敵がリデルに首ったけになる分、俺も弓で狙いやすくなる。良い事ずくめかと思ったが、この魔法を使った魔物は憤怒状態になり、凶暴さを増すようだ。

 あれ……強敵に使いたいんだけれど、むしろ強敵には使えないんじゃ。


「使うタイミングは選ばないといけないね。どうしても魔物の気をこちらに引きつけないといけない時や、一気に仕留めたい時なんかに使えるかな。

 後はルイーゼの練習とかにも良いね。弱めの敵を引きつけておいて戦い慣れしてもらうとかね」

「そういう使い方もあるか」

「僕はまだ戦闘中に魔法が使えるほど集中出来ないから、初めの一手としか使えないけれどね。

 それでも僕はアキトに感謝しているよ。魔力制御の鍛錬を始めてから、明らかに魔法制御の練度が上がったと感じている。魔力その物も以前より認識出来るようになった。その結果として魔法が使えるようになったしね」

「俺もリデルに教えられる事があって良かったよ」


 リデルは順調なようだ。


「私はまだ何も……」


 ルイーゼはまだ変化を感じられないようだ。リデルには魔法を練習してきた経験がある。ルイーゼには無いのだからこれは当然の事だと思う。


「ルイーゼは全くの初心者だから、俺は二,三ヶ月くらいの時間をかけて覚えてもらうつもりだよ。むしろ今使えるようになっていたら俺やリデルの立場が無いくらいだ」


 それを聞いて安心したのか、ルイーゼはホッとした顔を見せる。どうも俺は、何時もルイーゼに緊張状態を強いている気がする。なんだろう、何処か他人行儀なところが抜けきらない。奴隷紋とかの影響があるのだろうか。後で奴隷商人の所で聞いてみるか。


 ◇


 今日の狩りはリデルの魔法を試す事にした。


 開いている狩り場を見付けて牙狼(がろう)の姿を確認する。

 近くには昨日見掛けた五人組が狩りをしていたが、邪魔になるような距離では無いので良いだろう。


「それじゃリデル、魔法を」

「分かった」


 リデルが呪文を唱える。魔声門による魔法の具現化だ。

 リデルの覚えた魔法は、本来、精霊魔法系聖属性に分類される魔法で魔法名は心身沈静(リラクセイション)。でもこれを魔物に使う時は同じ魔法でも敵愾向上(アナマーサティ・アップ)に変わる。人に使うと無害でも魔物に使うと害のある魔法はこのように別名に区別されるらしい。


 この魔法は範囲効果があるらしく、発動者を中心に広がる。リデルの今の魔法制御だと半径二,三メートルと言った所だ。範囲効果があると言う事はきちんと距離を考えないとリデルに魔物が集中してしまうな。

 この辺の魔物ならリデルが後れを取る事は無いけれど、クラウドコントロール――戦況を優位に進める為の行為――するのに俺も使えるようになっておきたい、後でリデルに教えてもらおう。


「ルイーゼ」

「はいっ」


 ルイーゼはリデルが押さえた牙狼(がろう)の横に回り、その頭をめがけてメイスを振るう。

 牙狼(がろう)は小回りがきくけれど、攻撃手段は噛み付くだけだ。牙狼(がろう)の頭を押さえるように盾をかざしていれば比較的安全な魔物と言える。牙狼(がろう)の脅威は群れで現れる事があるだけで、単体であればルイーゼでも直ぐに倒せるだろう。


 敵愾向上(アナマーサティ・アップ)魔法もきちんと効果を発揮しているようだ、ルイーゼがいくら攻撃を加えても牙狼(がろう)はかたくなにリデルへの攻撃を止めない。ダメージが蓄積しても逃げようともしないようだ。ルイーゼはきちんと牙狼(がろう)に止めを刺す。


「ルイーゼ、どうだ?」

「はい、やれます」

「僕が思ったよりも効果が出ていると思う」

「それじゃもう少し続けてよう」


 流石に一戦だけじゃ何が発生するか分からない。


「わかった」

「はい」


 俺はモモが見付けてくれた牙狼(がろう)に弓を構え……矢を放つ。距離は七五メートルくらいだ。俺の弓が届くギリギリ。もちろん当たる事を期待した訳じゃ無い、牙狼(がろう)をこちらに気付かせる為に撃った。


「驚いたね。僕は最近アキトがただ者じゃ無いと思うようになっているよ」

「素晴らしい腕だと思います」


 俺が当てるつもりすらなく放った矢は、風に煽られながら軌道を修正して牙狼(がろう)に命中していた。牙狼(がろう)はそのまま倒れ、動く気配が無い。


「まぁ、そういう事で」


 俺は次の獲物をモモに見付けてもらって、同じく矢を放つ。今度はさっきよりも近いのに外れた。二人の表情は敢えて見ない。


 リデルが魔法を使いルイーゼが倒す。これを五回繰り返した所で、今度はルイーゼ一人で戦ってもらう事にした。もちろんリデルの魔法と俺の弓で万全のサポート体制を取る。

 ルイーゼも盾を持っているので、教えた通りに牙狼(がろう)の頭を押さえつけるように盾を操れば怪我をする事は無いだろう。


「ルイーゼ、攻撃はしなくて良いから、教えたように盾で自分の身を守るんだ」


 慣れない内から攻撃をしようとして防御に隙が出来るのはよろしくない。まずは確実に守れるようになってからで十分だ。攻撃するのは俺やリデルがいる。


 何度か牙狼(がろう)を抑えきれなかったルイーゼが圧力に負けて押し倒される事も合ったが、きちんと盾で体を守っていたので噛み付かれるような事は無かった。

 疲れの限界も見えてきた所で俺は牙狼(がろう)に止めを刺した。一〇分近く防戦をしていたのでこれ以上はミスも出る可能性があった。


 端から見れば男が二人で女の子に魔物を(けしか)けていたようにも見えたかもしれない。だから、こういう事も想定する必要があったのに、考えが及ばなかった。


「お前達!

 いくら何でもこれは看過出来ない。それ以上続けるなら俺達が許さない」


 あの五人組の冒険者だった。誰もが怒りの様子を見せている。特に一人だけいる女の冒険者……なのか、金髪碧眼ドリル髪をしたお伽噺のお嬢様かな。そのお嬢様は怒りで般若のようになっている。


 リーダーらしき男が前に俺に向かって出てくる。

 俺より頭一つ分大きい、一七五センチ近いか。雰囲気は一五,六歳に見えるけれどもう少し上だろうか、歳に合わない厳つい顔をしている。装飾まで付いた銀色の剣に、革をベースに所々鉄で補強された防具。俺の装備の数倍はお金が掛かっていそうだ。惜しむらくは体に馴染んでない事だろうか。


 俺も彼らを見掛けるようになったのは最近の話なので、リデルの言う初心者でも狩りやすい狩り場で魔物狩りを始めた冒険者だと思う。

 剣に装飾として施されている特殊魔晶石の色は少しだけ白く濁った透明をしていた。冒険者ランクで言うとF。この間までの俺と同じだ。

 ちなみに俺とリデルは巨大熊を倒した事で冒険者ランクEに、それからも狩りを続け、今は白かった特殊魔石も少し青みがかっている。


「女の子に魔物を押しつけ、(あまつさ)え弓で脅すとはどういう事だ。答えによっては容赦しない、決闘だ!」


 リーダーの言う事は誤解がある物の、誤解しているなら理解の出来る言葉だ。まぁ、決闘はどうかと思うが。


「えっと、誤解させたのは悪かったけど」

「言い訳をするつもりか!」


 あれ、答えによってはと言って無かったか。答えを聞くつもりも無いのか。

 リデルは面白そうに見ている。ルイーゼはどうした物かとオロオロしていた。モモは……何時もと変わらない。

 取り敢えず言い訳はさせて貰えないらしいので黙っていた。


「なぜなにも言わない!」


 ?!


 いけない、あまりの事に思考が停止していた。

 俺はこの世界の人間では無いから、出来るだけ争いは避けたい。それに俺は出る杭は打たれるという言葉を知っている。そして埋没している方が幸せを感じるタイプだ。出来るだけ穏便に済ませたい。


 相手の男も言っている事はちぐはぐだが、その原因となったのは俺達の行動だから、俺も怒るほどの事は無い。


「私が狩りの練習をしていただけです。お二人は私が危険になった時、助けてくれる為に側で守っていてくれました。誤解を与えた事については申し訳ありません」


 さてどうした物かと思っていた所でルイーゼに助けられた。俺、ちょっと情けなくないか。


「それは本当ですか?」


 リーダーがルイーゼに確認を取る。何故俺じゃ無い。

 五人組パーティーの一人がリーダーに耳打ちをする。


「自分と同じような歳の女の子を奴隷にして、(あまつさ)え魔物狩りを強要するなど許しがたい事だ」


 強要はしてない、それに奴隷だって訳ありだ。


「この決闘受けてもらう」

「俺の話は聞いてもらえないのか」

「お前の話を聞く価値は無い」


 駄目だ……なんか、駄目な気がする。決闘、しないと行けないのか。どんなルールだ、まさか怪我とか死ぬとかそこまでするのか。


「冒険者同士の決闘ルールは気を失うか降参するまでで、相手に回復の見込めない怪我や死なせてはいけない」


 リデルが教えてくれる。いや、教える前に止めてくれ。だけれど、リデルは初めから変わらず面白そうにこちらを見ている。

 開始早々、降参すれば良いのか。


「彼は勝負にルイーゼの使役権を要求するだろうね」


 俺の考えを先回りしてリデルが言う。


「何とか回避出来ないの」

「もちろん、決闘は必ずしも受ける必要は無いよ。それで諦めてくれれば良いけれどね」


 あのリーダーはなんか諦めそうに無いなぁ。でも、俺が勝てるという保証も無いんだよな。受けて負ける方がデメリット多すぎる。そもそも勝ってもメリットが無い。

 仮に勝ってこの場を凌いだ所で、あのリーダーに絡む気があるならまた揉める事になる。幸いにして来週にはこの町を離れるのだから、受けない事のデメリットにもならないだろ。


「わかった、この決闘、俺は受けない!」


 俺は言い切った。メリットが無くデメリットだけの戦いをする理由が無い。

 リデルは笑い、ルイーゼはポカンと、モモは何故か喜んでいた。

 もちろんあのリーダーは顔が真っ赤になっていたが。決闘の強要は出来ないのだから良いだろう。


 ◇


 まだ狩りに使える時間は合ったが、場所を変えるのも時間の無駄なので今日は早く上がって体を休める事にした。今日はルイーゼも無理をしたから、かえって良かったかもしれない。

 俺はどうも自分のペースで物事を進めてしまうようだ。その分ルイーゼへの負担が大きくなっているかもしれない。


 町に戻る途中で、俺とリデルはリザナン東部都市行きの予定を確認した。

 路銀も順調に貯まった。俺とルイーゼの乗合馬車代に、道中の宿代。多少余裕を見ても十分と言えよう。


 リデルは装備が体に合わなくなってきたので新調するそうだ。その為にグリモアでは無く馬車で三日進んだトリテアの町へ行く事を考えていた。装備屋や鍛冶屋が多く、質の良い物が出回っているらしい。どうせなら俺も見ておいても良いかもしれない。


 トリテアの町はグリモアの町から東に位置する。リザナン東部都市へ行くには少しだけ寄り道だ。リデルはその先にある商業都市カナンで合流を考えていたようだが、ここでの準備も整ったし数日早く出ても全く問題なかった。


 トリテアの町もカシュオンの森近くにあるので、リデルの装備が出来るまでの間も狩りに出る事は出来る。または、ゆっくり旅を楽しんでも良いかもしれない。


「それじゃ、明後日の馬車でトリテアに向かおう」

「それじゃ僕は旅の支度と連絡に、家に戻るよ」

「明日は狩りに出ないで体を休めよう」

「それが良いね。ルイーゼもゆっくりしてね」

「はい、ありがとうございます」


 町に戻ると同時にリデルとは分かれる。

 何時もより早めに戻ってきたので夕食までも時間が空いてしまった。特にする事も無かったので、前から考えていた事を実行に移す。


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