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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第一部 第一章 冒険者編
23/225

新たな旅立ちに備えて

 俺達パーティーはリザナン東部都市へ行く事が決まった。

 とは言っても、直ぐには出発出来なかった。ルイーゼの支度金に出費したのと、ルイーゼの旅費として銅貨三,〇〇〇枚ほど追加で稼ぐ必要があった。


 今度は一人じゃ無い。だから高価な乗合馬車を使わないで徒歩でもリザナン東部都市まではいけるかもしれない。

 前は生きていく為の知識も無く地理も不明だったから諦めたけれど、それについてはリデルやルイーゼがいるから大丈夫だろう。

 体力的な問題もこの世界に来てから毎日鍛錬に狩りにと体を動かしていたので、休憩を挟みながら一日歩く事は出来た。

 リデルも可能だろう。貴族様を歩かせるというのは置いておいて。

 ルイーゼにはまだ辛いと思う。ルイーゼ自身はそれを口にしないだろうけれど、まだ無理だろう。


 そう判断し、出発は二週間後とした。

 予定が決まった所で俺はそれをリゼットに伝える為に手紙を送った。自分では書けないので相変わらず代筆になる。代筆だとなんとなく格好付けるのが恥ずかしいから業務連絡みたいな手紙になってしまった。


 旅に出る前に、俺は以前から考えていたリデルへのプレゼントを実行する事にした。

 自分で使っていて特に問題が確認出来なかったから。将来的な事が分からない点については一応断りを入れておく。判断はリデルに任せよう。


 ◇


 俺達パーティーは俺が何時も鍛錬に使っている草原に来ていた。

 ここは街道から外れ小高い丘に囲まれた場所で、何かをしていても目立たないし、遠目に見ても体を動かしているように見えるだけだ。

 鍛錬する姿を見られるのが恥ずかしいという理由だけで選んだ場所なので他意は無い。


「最近、アキトには驚かされてばかりだからね。何をプレゼントしてくれるのか楽しみだよ」

「もちろん今日も驚かせてあげよう」


 俺は剣を抜き、軽く振って握りを確認する。以前のような無様な振り方では無く、リデルに習った基本の型だ。習ったのは本当に基本中の基本、その一つだけだがこれで俺は魔物を倒してきた。


 俺は正面中段の構えから剣を真上に振り上げ、上半身の捻りとバネそして蹴り足で勢いを付けて振り下ろす。

 その一振りは空気を切る小さな音だけ残し、剣が地面に当たる手前で止まる。振った剣を地面に叩き付けないようになるまでが大変だった。


「見事だね。その型に関してはもう僕に注意すべき点が見つからないよ」


 リデルのお墨付きを頂いた。だがこれは体慣らしの余興だ。

 俺は近くの枯れた立木に向かう。今までに何度も剣の刃を立てる練習に使ってきた枯れ木で、その表面には削られたような跡が出来ている。直系二〇センチはある枯れ木は削られてはいても折れてしまいそうな弱さは感じられない。


 初めはモモが嫌がるかなと思ったが、特に気にしていないようだった。それもそうかモモは家の精霊だ、元々木を切り倒して作られた家に住まうのだから。


「驚くのはこれからだよ」


 俺は立木に向かい、先ほどと同じように剣を正面中段に構える。この型から出せるのは唐竹割りと袈裟斬りだ。先ほどは唐竹割りをしたが、今度は袈裟斬りを行う。


 剣を正面中段に構えた体勢で全身の魔力を感じ取る。振り上げた剣は右斜め上。

 俺は全身の筋肉に指令を出し、同時にその動きをサポートさせる為に魔力を流し込む。身体強化(ストレングス・ボディ)された俺の体は爆発的な加速を持って剣を振り切り残心する。


 ドバッン!


 映画やマンガのように綺麗に切れる訳じゃない。どちらかというと破壊されたという感じの音を立てて枯れ木が支えを失い、そしてゆっくりと倒れ、軽い地響きと音を立てる。

 今の一振りは全力だった。

 ちょっとオーバーキル気味だけれど、驚くのはこれからだと言った手前、失敗したら恥ずかしいので頑張った。

 この一撃なら巨大熊の腕を切断出来たと思うが、戦闘中はここまで集中する事が出来ない。だいたい半力で使えれば良い方だ。


 俺は成功した所で、改めて三人を見る。

 リデルは驚き、ルイーゼも驚き、モモは蝶々を追いかけ回している。


「今、目の辺りにしても信じる事が難しいよ。

 アキトの体格でここまでの威力が出せるのは考えられない事だと。

 でも実際にそれを実現している事でその考えが間違っていたと考えを改めさせられる」


 リデルを吃驚させよう作戦は今回も成功したようだ。ルイーゼに至っては驚きのあまり放心状態だ。


「リデルへのプレゼントはその秘密を教える事だ」


 リデルには教わる事ばかりだった俺が、一つだけ逆に教える事が出来る。これはなんか凄く嬉しい事だった。ようやく対等になれたというか、追い付いたというかそんな感じだった。


 ◇


「今のが魔法だったと言うのかい。僕には剣で切りつけたようにしか見えなかったけど」


 実際に剣で切りつけたので、それは合っている。

 俺はリデルに身体強化(ストレングス・ボディ)魔法について概要を説明した。

 どうもこの世界では自分を強化する魔法というのがメジャーでは無いようだ。クロイドも一切使っていなかった。

 回復魔法がレアで、強化系魔法もレア、防御系魔法はどうなのだろう。少なくてもクロイドは使っていなかった。

 この世界の魔法は歪な気がする。

 マンガやラノベのように怪我をしたら回復魔法で即回復、そして戦闘に戻ると言った事は無理なのかもしれない。作戦はいのちだいじに(・・・・・・・)で行こう。


「強化魔法はとても魔力制御が難しくて戦闘中に使う事が出来ないと言われている。

 それだけの魔力制御が出来るのであれば、初めから攻撃魔法として使ってしまった方が良いからね。

 特に前衛は敵との近接戦闘がメインだから魔力制御している暇が無い。それこそ息をするように自然に使えないと実戦では使えないだろうね。

 これが強化魔法について僕の知っている知識だったけど。もしかして巨大熊の腕を切りつけた時に使っていた?」


 リデルの前でたった一度だけ使った時の事を違和感だけで覚えていたのか。


「リデルが言うように実戦では今みたいに全力で使う事は出来ないんだ。でもサポート的に使うのは可能だよ」

「なるほど、それであの威力が生まれた訳か。

 正直あの時はアキトの攻撃力に吃驚(びっくり)していたんだよ。巨大熊の腕は体毛と厚い皮膚、そして筋肉で守られているからね。

 魔剣でも聖剣でも無い只の剣で、右腕が使えなくなるほど深手を負わせるのは難しい事だからね」


 魔剣だけじゃ無くて、聖剣というのもあるのか。


「あの時はあの一瞬だけだったからな、巨大熊に隙が出来たのは。

 今しか無いと思って必死だったよ」

「その隙を見逃さなかった事も、しっかりとダメージを与えた事も素晴らしい事だよ」


 そう、俺は褒めて伸びる性格だから、もっと褒めてくれて良い。


「僕は魔力制御が苦手だからね。自信は無いけれど、知識として知っておくだけでも役に立つから、ありがたく教えていただくよ」

「あの、もしよろしければ私も一緒に聞いていてもよろしいでしょうか」


 ルイーゼは相変わらず堅いけれど、教えるのはもちろんだ。むしろルイーゼの力を借りた方が教えやすかった。


「もちろん、ルイーゼにも覚えて欲しい」


 ルイーゼがもし使えるなら身を守る上で有効な手段になるだろう。


「これは俺の経験から教える事になるから一応注意して欲しい。もし異常が見られるようなら使うのは止めるように。俺自身は問題が無いけれど、他の人も同じとは限らないからね」

「了解、無理はしないよ」

「はい」


 とりあえず注意喚起喚起だけはしておく


「それじゃまずはリデルから始めるけど、その前に座ってリラックスした状態になって欲しい」


 リデルは草原に座り込むと、片膝だけを立てて寛ぐ。俺はリデルの後ろに回ってその肩に両手を置く。


「まず身体強化(ストレングス・ボディ)は魔力を制御して自分の体を動かす訳だけど、人の体はそもそもどうして動いているのか。

 単純に言えば筋肉が動くからだけれど、それじゃ筋肉は何故動くのか。

 筋肉も結局の所は栄養、つまり俺達が食べた物の力を使って動いているんだ。

 その筋肉を動かす為の力に栄養だけで無く魔力を使うのがこの魔法の特徴だ」


 二人が言葉だけでも理解出来ているか確認する。ここまでは大丈夫なようだ。

 医学的な知識は無くても食べなければ体に力が入らないという事は自然の分かるのだろう。


 俺は以前リデルが魔法は苦手で練習中だと言っていたのを聞いて、ずっと疑問だった。

 魔法の無い世界から来た俺が限定的とは言え魔法が使えて、魔法の存在する世界で育ったリデルが苦手としている。その原因は何か。


 自分なりに考えて分かったのは、この世界の人間は生まれた時から魔力を持っている。だから魔力を意識的にコントロールすると言っても魔力その物を感じられないのでは無いかと。

 俺も筋肉を動かす栄養と言ったところで、その栄養自体を自分でコントロールしている訳じゃない。それをコントロールしろと言われても理解出来ないだろう。リデルが苦手としているのも多分そう言う事だと思う。


 俺は元々魔法の無い世界からこの世界に来たせいか、召喚された時の激痛の中で自分の体に今まで存在しなかった力を明確に感じる事が出来た。

 その力が魔力であり、ゲームで言えばマジックポイントとしてそこにある事が自然であるように認識出来た。自分で認識出来る物を制御するのは慣れれば出来るものだ。


「でも、魔力その物がどんな力で、どうすれば魔力で筋肉を動かせるのかは分からないと思う」


 俺が魔力を明確に認識出来たのはその特殊性からだ。この世界に住んでいる人間にとっては難しい事だろう。


「そこで俺が今からリデルに魔力を送り込む」

「えっ」


 流石にこれは理解出来なかったらしい。だが俺には出来るのだ。なぜならばモモに毎日魔力をあげているからな。出来る理由までは分からないが、やれば出来る。そう、俺はやれば出来る子なんだ。


 説明するより体感した方が早いだろうと、俺はリデルに魔力を送り込んだ。

 実はどういう感覚なのか自分では分からなかった。自分で自分に魔力を送り込むのは出来なかったから。でも、想像は付いた。


「これは……」


 リデルの肩に置いた俺の手から淡く紅い光が発光したり何かに吸い込まれるように消えたりを繰り返していた。順調にリデルに魔力が送り込まれているようだ。


「肩から何かの力を感じるね……両腕にその力が行き渡っているのが分かる」

「腕を動かして、力を込めたり抜いたり、その過程で今感じている魔力がどう変動するかを覚えて。覚えたら実際に今感じている魔力を常に意識するように練習あるのみ。

 直ぐに魔力で体を動かす事は出来ないと思うけれど、同じ事をしばらく続けるから」


 リデルが俺の言葉通り腕を動かし、力を入れたり抜いたりしている。リデルの魔力の変動が俺にも感じ取れた。魔法を練習しているだけ合って、以外と習得は早いかもしれない。


「次はルイーゼの番だ」

「はい、お願いします」


 俺はリデルと同じようにルイーゼの後ろに回りその肩に手を置く。リデルとは違って細く白い肩にうなじが目に入る。やっぱり女の子の体は細いな。意識したら心拍が上がってしまった。手を伝ってルイーゼに感づかれませんように。


「それじゃ始めるよ、魔力の流れに集中して」

「はい」


 リデルに教えた事を繰り返す。ルイーゼは回復魔法が使えるのだから、もしかしたらリデルよりも習得が早い可能性がある。


「これを狩りに出る前に練習する。狩りの最中は忘れてもらっても構わない。

 直ぐに出来る訳じゃないから、狩りの最中は変に意識する方が危険だ。

 寝る前に布団でリラックスしながら、今の感じを思い出して再現出来ないか試してみるくらいで丁度良いと思う」

「了解、やってみるよ」

「はい。私もやってみます」


 横を見るとモモも同じように座っていたので、最後にモモにも魔力をお裾分けしてあげた。モモは何時も良い笑顔だ。


 ◇


 その後は路銀を稼ぐ為、何時ものようにカシュオンの森に来ていた。

 最近はカシュオンの森の浅瀬で冒険者をよく見掛ける。腕の良い冒険者は浅瀬にはいないので、今見掛ける冒険者は俺と同じくランクEとかランクF位の駆け出しなのだろう。


 サラサさんに教わったマナーでは、狩りの最中は他の冒険者達と距離を取ると言う事だ。

 なんでも狩りの初心者を狙った盗賊もいるらしく、近づくといらぬ警戒心を与える事になるらしい。

 確かに俺も狩りで魔物に集中している時は、他のパーティーが近づいてくると自然と緊張していた。


 今見える冒険者は真新しい防具に身を包んだ男が四人に女が一人の五人組だ。女性の冒険者がいるパーティーは自分たち以外に始めて見掛けた。歳は俺達より少し上に見える。一番若い人でリデルと同じくらいか、おそらく一五歳前後だろう。


「最近はアキトが活躍しているから、僕達と同じような初心者がカシュオンの森で魔物狩りを始めたみたいだよ」

「えっ、俺が関係するの」


 俺はいったい何をした。


「魔物狩りを始めた初心者でも月に銅貨三,〇〇〇枚は稼げるという噂が立っているからね。

 それを聞いてカシュオンの森は初心者向けで攻略しやすいと。そう思った人たちが集まってきているらしいよ」

「そういう事か……」


 実際はもっと稼いでいるけれど、噂に尾ビレが付いて大事になるよりは良いだろう。


「実際カシュオンの森は魔物の配置が良いからね。贅沢しなければ浅瀬でも十分生きていくだけの稼ぎが出来るのは意外と珍しいんだ」

「その割には今まで余り人を見掛けなかったなぁ」

「冒険者になろうとする人の多くは南西部にあるドライデンを目指すからね。

 ドライデンは始まりの都と呼ばれていて、セルリアーナ大陸で最も古い都市だと言われている。

 近くには魔巣に飲み込まれたルーフェン古代都市跡地があって、未だに古代都市の一部が発見され続けている。

 そこから発掘される多くの魔法具や純度の高い魔石と言った財宝が、冒険者になろうとする人たちの憧れになっているんだ。

 ただ、人が多いだけあって浅瀬は殆ど刈り尽くされていて、初心者が始めるには難しい狩り場になっているんだけれどね。

 それでも毎年のように現れる一攫千金の冒険者に続けとばかり、多くの冒険者が古代都市に入り、また多くの犠牲者も出している」


 なるほど。同じ冒険者になるなら稼ぎの良い所で、実際に稼いでいる人がいる所ではじめるか。確かに俺も選択肢があったならそうしたかもな。


 ◇


 五人組の冒険者も牙狼(がろう)三匹を相手に危なげなく戦っている。こちらから近づく理由も無い為、俺達は何時もより少し西側で狩りを始めた。


 当面、狩りの目的は路銀稼ぎが中心だ。

 昨日はルイーゼの覚悟を見る為に頑張ってもらったけれど、冒険者になる気持ちに変わりなかった。ならば、それが日常になる事にも慣れてもらうしか無い。変に休んで戦いの勘が鈍るのも怖い。昨日と同じペースで狩りを進めよう。


 魔物が牙狼(がろう)と一角猪の時はルイーゼに前に出てもらう。この二匹が相手ならリデルはルイーゼを守りきれる。

 凶牛は突進と後ろ蹴り以外に頭を振るう事があるので、ルイーゼには下がっていてもらう。


 俺は牙狼(がろう)と一角猪の時は練習もかねて弓を持つ。五メートルの距離なら外さないし、乱戦になっても味方に当てる事も無い。

 しかし、一〇メートル離れると牙狼(がろう)には当てられない。的が小さすぎるし、動きが素早い。凶牛なら当てられるが動き回られると外す事もある。


 魔弾(マジック・アロー)があるのに弓を練習しているのは魔力の節約もあるけれど、将来的な陣形を想定している。三人で前衛をすると視界が狭まり周りの警戒を怠る可能性がある。今のところルイーゼは弓を使えないので、俺がその役をする。ルイーゼにも弓を練習してもらって、周りの警戒だけでもお願いするのも良いだろう。


 いずれにしても三人全員で前衛というのはちょっと問題があると考えた。もし、今後何かの切っ掛けでパーティーメンバーが増えた時、全体を見て戦況を把握するのがどんどん難しくなっていく。


 リデルが全体を把握するのは難しいだろう。

 魔物の注意を引きつけ、仲間をカバーし、時には複数を相手にする状況もあり得る。

 弱い魔物なら俺が一匹を受け持つ事も可能だけれど、あくまでも基本は全員で一匹を相手にする事だ。


 ……あれ、もしかして伏兵的な魔物がいたらこのままじゃまずい?

 戦闘中に突然魔物に出くわすパターンもきちんと考えておかないと、パニックになってやばいかもしれないな。


 そう言えばこの間、熊髭達と行った討伐依頼では、想定外の遭遇戦になった。あの時は予備の戦力だった俺とリデルがいた。予定外の強敵と接戦を繰り広げていた熊髭達が無事だったのも、俺達がもう一匹の魔物を相手にしていた事も少なからず理由の一つだろう。


 そう考えると、戦闘には殆ど加わらないで優先的に状況を監視している今の俺の立ち位置は、以外と悪くないのか。

 今のところルイーゼに攻撃面でのサポートを期待するのは難しい。俺が攻撃に全力で加われないとなると、魔物を倒すのはリデルだけになってしまう。結果的に戦闘時間が長引き、それだけリスクも高まる。

 うーん、分からなくなってきた。まぁ、これは相談だな。


 ◇


 銅貨八七五枚。今日の狩りの成果だ。

 路銀は今のところ銅貨三,五〇〇枚弱。あと銅貨一,五〇〇枚くらいあれば最低限は貯まる。

 その他に、身の回りの品で旅に必要な物を買い集めて、装備も見直しをする。それでも二週間は待たずに準備が整いそうだな。


 リデルと分かれた後、俺とルイーゼそれにモモの三人は夕方の街へ買い物に出ていた。すこし日常品を買い足す必要があった。


「ルイーゼ、必要な物があったら遠慮無く言ってね。一緒に稼いだお金だからルイーゼが使う事になんの遠慮もいらないから」


 それでもルイーゼは遠慮しそうなので、ルイーゼの視線を追って、必要そうな物は俺が買ってしまう事にした。

 勢いでポイポイ買っていたら掴んだ服が下着だった時の気まずさは、始めてルイーゼに会った時に裸を見られ事以上だ。

 俺は気まずさを押し殺してモモの分もお願いした。子供過ぎて余り気にしていなかったが、モモは下着を着ていなかったから。


 値段も分からないので適当に銅貨二〇〇枚ほどをルイーゼに渡して、俺は服屋の外で待つ事にした。


 ここは中央通りで、時間は夕方。一日で一番活気に溢れる時間帯だ。

 道ばたには露店が並び、主に串に刺した肉を売っている。朝は燻製や携帯食などを売っていたお店だが、時間帯で売る物が変わるのだろう。

 他にも酒場から溢れて路地に椅子とテーブルを持ち出して早くも酔っ払っている人や、今日とれた野菜を売る人、川魚を売る人、そしてそれらを焼いて売る人など、様々な店が並んでいる。主に食べ物ばかりだが。

 そのせいか、この辺にも肉の焼けた良い臭いが漂ってくる。ケバブみたいな店が目に付いたので、俺は二人分を購入した。モモは余り肉を食べないので、野菜とフルーツを買っておく。


 この世界の味付けは殆ど塩と野菜中心の香辛料だ。砂糖や胡椒は殆ど使われていない。醤油、味噌、マヨネーズ、タレ、ケチャップ……全て存在しない。思い出したら生きていくのが辛くなってきた。料理ならまだしも、調味料の作り方とか全く知らない。

 召喚のフラグをコツコツ立てている時にこういう事を勉強しておくべきだったんだな……次は抜かるまい。


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