新しい旅に向けて
続編のお知らせように、追加投稿させて頂きました。
後書きに続編のお知らせがあります。
俺たちは馬車を引く馬を買に来ていた。
そして金額の交渉を終え、購入した馬が目の前にいる。
この馬はサイのような太く短い足を持つロバで、後ろ足が四本あった。
もはや馬なのかサイなのかロバなのかわからない状態だが、店では馬として売られていて、馬種は短足馬と言うらしい。
少し残念なネーミングだと思う。
短足馬はエルドリア王国でもリザナン東部都市へ向かう道中で見たことがあるので、初めてでは無い。
性格は大人しく草食で、速度は出ないが馬力は相当にあるという荷馬車には最適な馬だった。
ただ短足馬だけあり馬よりは遅いので、馬を想定した間隔で宿場町が用意されている街道ではあまり使われていない。
せいぜい開墾や畑を耕すのに使われることがある程度で、荷馬車と併用が効かないから人気が無いと言っても良いだろう。
俺たちは引く物がちょっと特殊で重くなる為、馬を二頭用意するつもりだったが、愛嬌もあるので短足馬を一頭にする。
セバスチャンの時は名前を付けてしまった為に、別れてから寂しい思いをした。
だから今回は名前を付けるのを辞めようと思う。
「雰囲気からニコラはどう?」
「似合っていると思います。
ニコラ、今日から貴方の名前はニコラです。これからよろしくお願いしますね」
どうやら名前が付いたようだ。
これからよろしくなニコラ。
笛の音みたいな独特の鳴き声でニコラが応えた気がする。
俺はニコラの頬に手を当て、僅かにある魔力を活性化させる。
普通の動物は魔力保有量が少なく、怪我や病気になった時に回復魔法の効きが悪くなる。
だからこうして体内にある魔力を感じさせることで、少しずつ増やせればと思っていた。
セバスチャンの時は一日の終わりに自己治癒を掛けてあげると、疲れの取れる効果が上がっていく感じだったので無駄ではないと思う。
魔力の活性化自体は気分の高揚を伴うので、ニコラもどことなくご機嫌に見えた。
次に、ニコラが引く荷車を買いに行ったが特注品の為、制作に一ヶ月ほど掛かると言われてしまった。
ここ港町パッセルの近くには魔物の狩り場が無い為、一ヶ月を過ごすには少々退屈だった。
だからここでは荷車だけを買い、適当な品物を積んで北のクリミナ山岳にあるバレンシアの町を目指すことにした。
そこには魔物の住むバレンシア遺跡があり、同名の大きな町もある。
バレンシアで狩りをしつつ荷車――移動型『カフェテリア二号店(仮)』が出来上がるのを待つのも良いだろう。
俺とルイーゼが厨房で頑張り、マリオンが接客と配膳、モモがマスコットだ。
失敗する理由は見当たらないな。
港町パッセルには仮の身分証で入った為、商業ギルドに行って認識プレートを新調している。
冒険者ギルドの認証プレートだと、もしかしたら居場所がバレる可能性もあったので止めておく。
ただ、冒険者ギルドは力を持ちすぎないように国ごとに独立して管理され、その情報も隠された戦力として隠蔽される傾向がある。
だから正式な申請が無い限り俺たちがエルドリアの冒険者だとは伝わらないはずだ。
その申請も貴族の私情が入っているもので、リゼットの話からすれば却下されるだろう。
もっとも、国を出た記録がないので国外にまで手を伸ばすとは思えなかったが、そこは念の為という程度だ。
それとは別に、どちらにせよ商売を始めるなら商業ギルドに入る必要があった。
王都で『カフェテリア』を開いた時は、店舗アドバイザーのエマに直ぐに潰れると信用が下がると言うことで、名目上はウォーレンの店になっている。
働いているメルもリルもウォーレンのところから来ているし、実質一階部分はウォーレンの店と言ってもあながち間違いでは無い。
ウォーレンに迷惑が掛からないのかと思ったが、あの規模の大店になるとむしろ新しい事業は率先してやらないといけないらしく、それが失敗に終わっても問題ないらしい。
でも今回は流石に頼れないので、自分で登録することにした。
エマには話せなかったが、実際のところモモがいる為に赤字になる心配はまず無かったので、今回も問題は無いだろう。
何せモモがいれば在庫になると言うことが無いのだ。
仮に残っても、食べ物であればいずれ自分たちで食べれば良いのだから。
モモに格納して貰うことで食品が腐らないというのは、それだけでも凄いことだった。
資金の方は、支援物資として用意していた食材の大半をここで売り払うことで捻出する。
元の仕入れ値が原価に近かったので、中々良い利益が出ていた。
この辺では珍しい食材も多かったのも良かったのだろう。
金貨三〇枚分ほど残っていたが、いくらか残しても金貨四〇枚ほどの売り上げになっている。
実はこの一回の取引だけで商業ギルドランクがFからEに上がっていた。
商業ギルドのランクは、利益に関係なく売買で発生した時に納めた税金の総額で決まる。
赤字でも税金さえ納めているなら良い商人と言うことなのだろう。
もちろん国や商業ギルドにとっての良い商人であって、お店の運営が火の車とかは関係が無い。
赤字なら税金を納めないで良い国に育った俺には随分と厳しく思えた。
それと冒険者ランクと違って商業ランクが上がるのは俺だけだ。
ルイーゼやマリオンがランクを上げる為には自分で店を出さないといけない。
とはいえ、別にルイーゼとマリオンのランクを上げる必要も無いので、問題ないだろう。
当面の目標は旅をしつつこの国を知り、資金を稼いで魔法大学あるいは同程度の魔法が習える場所へ通うことだ。
前回の旅では夜盗などに襲われるリスクを避ける為にテントを使わなかったが、今回は用意した。
流石に今の俺たちが夜盗に後れを取ることは無い。
そもそも、そんな力がある夜盗なら普通に魔物を狩っていた方が稼げる。
『カフェテリア二号店(仮)』を始めるのは単に俺の趣味なだけで、お金を稼ぐなら俺も魔物を狩った方が早い。
それに、いざとなれば空間転移で逃げられるし、魔力感知も夜襲を許さない程度には広く拾えるようになっていた。
さらにモモも害意に気付くので、まず問題にならないだろう。
実は家をモモに格納して貰うという手もあったのだが、お金があったとしても悪目立ちしすぎるので止めておいた。
運転資金である金貨四〇枚からニコラと荷車用に金貨一〇枚、それから『カフェテリア二号店(仮)』用の改良費に金貨一〇枚、残りを仕入れに回す。
買うのは塩と香辛料が中心で、日持ちが良く原価割れしにくい初心者お薦め商品になる。
初心者向けだけあって利益は少ないが、モモに頼らずに稼げる道も確認しておきたい。
それに自分達の商売でも香辛料は大量に使うので、結局荷車一杯になるまで買い込む。
馬車周りの買い物が一通り済んだところで、次は装備のメンテナンスと新調をする為に装備屋に向かう。
星月剣と王国栄誉勲章はリデルに預けてきた。
俺から送られてきたという名目で返上して貰う為だ。
持っていても王国の紋章が入った物を使うわけにはいかなかったので、一層のこと返してしまい俺の意思表示とした。
これくらいの不平不満を伝えるのは良いだろう。
星月剣は手元に無くなったが、黒曜剣があるので俺の武器は問題ない。
防具も今の軽装鎧をメンテナンスすれば十分だ。
マリオンは防具を一新する。
今まではリデルの父親から下賜された軽板金鎧を使っていたが、戦いのスタイルが変わってきたので、ドラゴンのなめし革をベースとした物に変える。
一級品の素材だが、かつてのマリオンはそれを手にする立場にいた。
少し赤みを帯びた革製の防具はマリオンの放つ魔力を受けて、見た目から想像する以上の強度を誇る――とは言え、鉄製というわけでもないので過信は禁物だ。
マリオンは盾を持たないので、あくまでも攻撃は躱す方がメインになる。
だから動きやすさを重視した結果少し色っぽい装備になったが、それは露出が多いというわけではない。
むしろ露出は少ないが、肌にピッチリとしたボンデージ風の装備がただでさえスタイルの良いマリオンの体を締め上げ、どことなく蠱惑的な雰囲気を感じるのは俺が異世界人だからだろうか。
武器は王城で手に入れた二本一対の魔剣ヴェスパで十分だろう。
ただ、刀身が五〇センチほどと短いので長い物を別に用意するかと聞いたが、それよりも弓を欲しがったので程度の良い物を用意した。
以前のマリオンは剣に拘っていたが、それはドラゴンを倒す為に魔剣を使えるようになる為だった。
事を成した今となっては、得意とする弓を使うことに躊躇いは無いようだ。
装備の新調が必要なのはルイーゼも同じだ。
武器はこの間制作した聖鎚があるので問題ないだろう。
問題は防具の方だった。
ルイーゼがメインで使っていた装備は、盾と鎧の胸当てに大きな穴が空き、補修出来ないと言われた。
装備屋のおじさんは誰かの遺品だと思ったらしく、何とかしようとしてくれたが、直しても強度が保てないと意味が無かった。
ルイーゼが使っていたのは王国薔薇騎士団が纏っていたスカート調の軽装鎧で、よく似合い可愛らしいので似たような物にしたかった。
だが、常に敵の攻撃を凌ぐルイーゼには有り金全部をはたく勢いで、ミスリル鋼を素材とした重板金鎧を用意する。
その上にリデルも使用していた陣胴服を用意し、厳めしさを和らげた。
もちろん防具としてもきちんとした物で、銀糸の織り込まれたそれを俺が魔力付与で強化し、対物理性能もあがっている。
まぁ、布には変わりないので気休め程度とも言えるが。
下半身はモモ当て、ヒザ当て、スネ当て、靴ときてミスリル製のハイブーツと言った感じだ。
腰当てがスカート調になっていてるが、中は革製のショートパンツの為スカートが翻っても安心だ。
ドラゴンの鱗を加工しさらなる防御力アップを目指したいが、残念ながらドラゴンの素材は加工出来る人が限られここでは加工出来なかった。
ただ一つだけ困ったことがあった。
魔力で強化した際に青水晶の様な深みのある色合いになってしまった。
まぁ、考えればわかることだったが星月剣と同じだな……。
流石に目立つので、予備品としてマリオンが使っていた軽板金鎧を調整し、普段使いとして貰う。
俺を含めて全員の装備を新調したところで、最後に街着を買いにいく。
「マリオンはワンピース、ツーピース、パンツのどれが良い?」
「パンツスタイルが良いわ」
俺は幾つかの商品を漁り、ジーパンぽい厚手の生地で出来た紺色のパンツと麻色で短めのワンピースを選ぶ。
素朴だが素敵なお姉さんと言った感じだ。
「私はワンピースでお願いします」
ルイーゼにはうっすらと青みがかったワンピースを選ぶ。
所々濃い青の差し色があり、シンプルで上品に見える。
「アキト様、ありがとうございます」
「大切にするわ!」
自分達で選ぶと良いと言ったのだが、選んで欲しいと言うことなので頑張った。
俺もだんだんこういうことにも慣れ、二人にも満足して貰えて何よりだ。
モモにも薄い若草色のワンピースを用意している。
背中にある大きなリボンが天使の羽のように見えて可愛い。
モモももちろんご機嫌だ。
最後に自分の服を選んで貰う。
俺も学習するのだ。
自分が選んでも却下されるとわかっているなら最初から任せれば良い。
「アキト様、良くお似合いです」
「とても素敵だわ」
飛び込んでくるモモを受け止め、抱え上げる。
「ありがとう、俺も大切にするよ」
三人の笑顔に囲まれ、俺も自然と笑顔になる。
これで馬車に商品に装備と身の回りの物、全ての準備が整った。
明日からは俺たちの新しい旅が始まる。
続編投稿予定完了のお知らせ。
異世界は思ったよりも俺に優しい??
http://ncode.syosetu.com/n0603dh/
本日(2016/05/04 19:00)第一章全話投稿予定です。
また、下記がまだの方はお読み頂ければと思います。
異世界は思ったよりも俺に優しい? サイドストーリー編
http://ncode.syosetu.com/n9369df/




