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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第一部 第一章 冒険者編
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閑話:ルイーゼ

 怖くて何も出来なかったあの日、私を救ってくれたのは私と歳も変わらぬ黒い髪の少年でした。


 あの男は私に巨大熊の囮になれと命令しました。

 私の何倍もあるような巨大熊を前に何が出来るというのでしょう。

 恐ろしくてその場を逃げ出しましたが、直ぐに息苦しくなりその場に蹲りました。

 あの男の命令を無視した為、奴隷紋が作用して首を絞め始めたからです。


 そんな私の都合は巨大熊に関係ありません。

 苦悶の中で私を獲物として捕らえる巨大熊と目が合いました。

 恐怖で心が固まったのを覚えています。


 そして、怖いにもかかわらず、巨大熊が襲いかかってくる様から目が離せませんでした。

 太い腕が振り上げられ、今まさに振り下ろそうとしていた巨大熊の体に、矢が一本、そして二本、三本と次々と刺さるのが見えました。


 その攻撃を受けて、巨大熊は私から新たに現れた少年に向かっていきました。

 巨大熊は体に刺さった矢を物ともせず少年に襲いかかろうと、その巨体に似合わぬ早さで走って行きます。

 とても少年に倒せるとは思えません。

 私を助けようとしてくれたのはとても嬉しい事ですが、それで命を失うと思うとなんて愚かだろうと考えてしまいます。


 ですが、巨大熊が今まさに少年に飛びかかろうとした所で、横から金髪の青年が割り込みその突進を防いでいました。

 私に戦いの事は分かりませんが、あの巨大熊の突進を青年が止めたのは賞賛に値すると思います。

 だって、自分の倍以上の大きさで、体重だけなら何倍もありそうな巨大熊の突進を止めたのですから。


 いつの間にか奴隷紋による処罰が止まっていました。

 私は大きく呼吸を繰り返し新鮮な空気を吸い込みながら考えました。

 あの男が処罰を止めたのは何故か。

 答えは簡単です、巨大熊が別の目的を見付け、私の命が無事とわかったからです。

 生かしておけばまだ使い道がある、そんな所でしょう。


 結局、巨大熊は少年と青年の二人に打ち倒されました。

 私と殆ど変わらない歳の二人が怪我もせずに鮮やかに倒していました。

 私は恐怖で動く事も出来ませんでした。

 あの二人との違いはどこにあるのでしょう。


 突然、腹部に激痛が走り、痛みで呼吸も出来ず、再び土の上に(うずくま)りました。

 あの男に蹴られたという事が分かりましたが、これが私の現実です。

 仮に私が巨大熊を倒せたとしても、この男からは逃げられません。

 それが奴隷になった私の運命ですから。


 そう、私は運命だと現実を諦めましたけれど、それは突然に変わりました。

 私は今あの男の奴隷から解放されました。

 私を助けてくれた少年が私を欲しいと言ったことで。

 あの男は渋々ながらそれに答えたのです。


 そこで私はようやく少年が見知った人間であると気が付きました。

 初めてその少年を見掛けたのは、その少年が右腕と右足に大きな怪我をして死に掛けていた時です。

 正直、目の前で巨大熊を倒した少年とは雰囲気が全く違いました。

 でも、よく見れば顔は全く変わっていない事に気が付きます。

 何故私は最初にこの少年がアキトさんだと気が付かなかったのでしょう。

 気が付いた今となってはそれが不思議です。


 ですが再び私は絶望に陥りました。

 私を助けてくれたアキトさんは、私を奴隷から解放すると言いました。

 家も身寄りも無く、お金も仕事も食べ物も、何も無い私が奴隷から解放された所で結局は直ぐに奴隷に逆戻りです。


 私は縋りました。

 救ってくれたアキトさんの行為に甘えようとしたのです。

 ですがアキトさんは続けて言いました。

 見捨てる訳じゃ無いと、きちんと仕事を見付けて生活が出来るまで面倒を見ると。

 なぜ、ただの奴隷にそこまでしてくれるというのでしょう。


 アキトさんは冒険者です。

 戦えない私は足手まといにしかならないでしょう。

 無理について行けばせっかく助けてもらった命なのに、あっけなく死んでしまうかもしれません。

 だから仕事を見付けると言ってくれたのでしょう。


 私は願いました。

 一緒に行かせてくださいと。

 不安もあったのです。

 また誰とも分からぬ人の元で仕事をすることに。


 それに私と同じ歳頃のアキトさんが強くあるように、一緒に行けば私も強くなれるのではないかという打算もあったと思います。

 もしアキトさんが命の危険に晒された時、私にも助けられる事があるのでは無いかと思います。

 幸いにして、私には一つだけ秘密にしている事、アキトさんだけが知っている力があります。


 優しくしてくれたアキトさんの側で、たった一度だけこの身をもって救う事が出来たら、ただ嬉しい事でしょう。


 次の日、私は冒険者になりました。


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