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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第二部 第二章 マリオン編
202/225

不死竜エヴァ・ルータ

本日8話投稿分8話目です。


2016.01.04

一部変更しています、詳細は後書きに


2016.01.11

変更前

 魔剣ハート・ブレイカー

変更後

 魔剣ソウル・イーター

 不死竜が上位魔人を倒した?

 俺たちを巻き込まずに?


「ごほっ」


 状況理解が追い付かずに思考停止していた俺の耳に、ルイーゼの咳き込む声が届く。

 おかしい、自動再生オート・リジェネレイションが働いた様子が無い。


「い、ままで…あ、りがと……ご、ます」

「止めてくれ。諦めるな!」

「アキト、これを直ぐに!」


 俺はリゼットから受け取った回復薬をルイーゼの傷口に振りかける。

 リデルの回復魔法と同等の効果では効かないかもしれない、それでも何か出来ることを。


 くそっ、何故あの時上位魔人を倒したと思った!

 女神アルテア様、どうかルイーゼを救ってください。


『人の子よ』


 それはまるでエコーが掛かったような声だった。

 指向性が無く、どこから聞こえてきたのかわからない。


「リデル!」

「わからない!」

「わかりません!」


 聞こえたのは俺だけじゃ無いのは確かだ。


『案ずるな。我が名はエヴァ・ルータ。

 我の代わりに我が子を救ってくれたことに礼を言おう』


 我が子?


『その前に、そこの娘は闇の血に侵されている。

 我が血を飲ませるがよい。

 ただ飲めば猛毒であるが、量を間違えねば闇の血を中和できるであろう』


 俺にはそれが嘘か本当かわからなかった。

 それでも、上位魔人を一撃で葬り去った不死竜が、俺たちをわざわざ騙す理由もないとも思った。


「竜の血が猛毒というのは本当でしょう。

 ただ、竜の血が猛毒なのは闇の力を打ち払う為と言われています。

 元々闇の力を持たない人が服用すれば毒ですが、闇の力に侵されているというルイーゼならばあるいは……」


 リゼットも確証があって言っているわけでは無かった。

 ただ知識として知っている事を教えてくれただけだ。

 だが、その答えは不死竜の言葉に信憑性を与えるものでもあった。


 俺はどんどん顔が青白くなっていくルイーゼを一度だけ抱きしめてリゼットに託す。

 他に方法は無く、時間も無い。

 今唯一の望みがあるとすれば、不死竜を信じることだけだ。


「血を頂こう」

『来るがよい』


 綺麗な竜だった。

 少し赤みを帯びてきた日に照らされ、白銀色の鱗がまるで黄金のような輝きを放っていた。

 四枚の羽を器用に畳み、寛ぐように横たわる姿はまるでこの城を住処とした主のようでもあり、ヴィルヘルムを一望できる展望台にいることからこの島の主にも見えた。

 君臨することが当たり前のような圧倒的な存在を前に、不思議と怯えは無かった。


 不死竜の視線が誘導する先、胴の胸元で、恐らく心臓があたると思われるところに一本の黄金色の剣が根元近くまで刺さっていた。


『魔剣ソウル・イーター。

 我が命を蝕む、かの魔人が用いし武器なり』


 不可視の刃が武器というわけじゃ無いのは、本命がここに残されていたからか。

 最初は強さに合わない大剣を使っていると思ったが。


「抜いて欲しいのか?」

『それは我が死ぬまで決して抜けぬ。さぁ、急ぐが良い』


 俺は水筒を空にし、魔剣から滴る竜の血を受ける。


『一滴を飲ませ、一滴を傷口に垂らし、様子を見ながら繰り返すが良い』

「わかった」


 俺は戻ると、不死竜に言われた通り、ルイーゼの口に一滴の血を流し込む。

 しばらく変化の様子を見せなかったルイーゼだが、何も変わらないと思った瞬間、苦しむように喉に爪を立てて藻掻き苦しみ出す。

 俺はその手を押さえルイーゼに声を掛けるが、その声が届いているのかわからない。


『猛毒と言ったであろう。続けるのだ。止めればそれだけ長く苦しむことになる』

「アキトはルイーゼを押さえるんだ。僕がやろう」


 リデルがルイーゼの胸元にある抉られた傷に竜の血を一滴垂らす。

 何処に力が残っていたのかと思うほどの抵抗が更に激しくなる。

 ルイーゼの溢れ出る涙と声の無い苦しみに、不死竜の言葉への信頼が揺らぐ。


『続けるがよい』


 何度か繰り返した時、ルイーゼの体から力が抜けていくのがわかった。

 死を思い立たせる状況に心が恐怖で支配される。


「ルイーゼ!」

「ルイーゼ、気をしっかり持ってください!」

「ルイーゼ、生きるんだ!」


「不死竜エヴァ・ルータ、他に手は無いのか?!」

『……一つだけある。だが代償が必要だ』

「俺に出来ることなら何でも用意する」


 不意に魂魄が何かに引き寄せられ、俺が抗う中、リデルとリゼットが崩れ落ちる。

 竜眼?!


「リデル! リゼット!」

『案ずるな。今のは試練だ。

 汝だけが器となれる事が証明された。

 その娘を救いたくば、我が子の内に浸すが良い。

 だが、その代償は我が転生の秘術を受け入れることだ』


 器? 我が子の内? 転生の秘術を受け入れる?


「意味がわからない、それは直ぐの話か?」

『あれを見よ』


 不死竜の視線の先にあるのは、残された魔力反応の弱い魔物だった。

 それが竜の子か。

 俺はルイーゼを抱えてそこに向かう。

 無造作に置かれた一メートル四方近い箱は、装飾が施された豪奢なものだったが、既に雨風にあたり風化していた。

 その箱は上が開いており、覗き込むと黄金色の丸い物が収まっていた。


 これが竜の卵か。


「我が子の内というのは、この卵を切り開いてその中に入れろと言うことか?」

『その通りだ』

「それでルイーゼは助かるのか?」

『その娘は闇の血が抜けるまで持たぬ。

 だが、我が子の内に浸すならば闇の血を打ち消し、肉体の再生も可能であろう』


 ルイーゼが助かる。


「その代償が俺の命か?」

『命では無い、命の器だ』

「違いがわからない、俺は死ぬのか?」

『直ぐでは無い。長い時間を掛けてゆっくりと自我を失っていくだろう。

 人の子の一生が何度か過ぎるくらいの時間だ』

「仲間と一緒に俺は生きられるんだな?」

『約束しよう』

「わかった、代償を支払う。代わりにルイーゼの命は助けてくれ」


 ルイーゼが助かり、俺はみんなと一緒に生きられる。

 その先のことを今から考えるのは贅沢だろう。


 俺の言葉を不死竜が受けると、竜の卵が魔力で満たされ、上部に小さな人であればそのままいられるくらいの穴が空いていた。

 竜の卵の中は黄金色の液体で満たされ、とてつもない魔力の密度を感じた。


『生まれた姿で我が子の内に寝かすといい』


 俺は言われた通りにルイーゼの武装を解除し、衣類を脱がせ、下着を取り払う。

 胸を中心にびっしりと血糊がこびり付き、白い肌は赤くただれ、傷の中心だけが毒にでも侵されたように青黒くなっていた。


「ルイーゼ、必ず助かる。目を覚ますのを待っているからな」


 俺はルイーゼを抱え上げ、膝を抱えるような体勢で竜の卵を満たす黄金の液体の中へ沈めていく。

 胸の傷が浸かる時に泡立つような反応があったが、それも次第に治まり、ルイーゼが完全に浸かりきると、初めから穴が空いていなかったのではないかと思うほど綺麗に蓋がされていた。


 半透明になっている竜の卵からはうっすらとルイーゼの様子が見え、表情は穏やかに見えた。


「これで助かるんだな?」

『時間は掛かるだろうが、問題ない』


 助かるなら待つことに不満は無い。


『我が子は我が転生の器であった』

「だから俺がその器になることが代償なのか」


 何故俺が転生の器となることが代償なのかようやくわかった。


「それで転生の秘術とやらは直ぐに行うのか?」

『我が命は既にこの魔剣に捕らわれ長くは無い。

 既に子は無く、今行うのが良いだろう』

「始める前に、幾つか質問させてくれるか」

『それくらいの時間は十分にある』


 色々聞くべき事が多かった。

 何故上位魔人だけを倒したのか、何故ここに来たのか、何故俺たちを助けたのか。


「あの上位魔人とは知り合いというか、因縁の仲なのか?」

『かの魔人は我が子を盗み出した者なり。

 転生の秘術を前に休眠期にだった我の元に突然現れ、不覚を取った代償がこれだ』


 不死竜は忌々しそうに胸に刺さった魔剣を睨み付ける。


『だが、かの魔人の誤算は我がまだ死なずに生きている事であっただろう。

 用意周到に我が住処を調べ、我に気付かれずに住処まで来たことは賞賛に値するが、我が力を見誤ったことは嘲罵(ちょうば)してやまぬ』


「あの上位魔人に敵対する理由があるのはわかったが、俺たちを助ける理由は無かっただろう」

『眷属たる者を打ち倒し、我が子への転生を阻んだであろう。

 もし、転生が済んでいた場合、時間の失われた我にはもう一度転生の秘術を行う時間が出来なかった。

 故に助けるには十分な理由でもあった』


「俺たちがドラゴンを倒すのに、そんな目的があったわけじゃ無い」

『であろうが、それはどうでも良いことだ。

 結果として我は人の子の行いにより我が子を取り戻した』


「ここを知っていたなら、もっと早く来られなかったのか?」

『我とて全知全能では無い。

 ここがわかったのは我の知覚範囲で眷属たる者の魂が消滅したことを感じたからだ。

 だが実際に、かの魔人がいた事は偶然とも言えよう。

 我は眷属たる者がこの島に集まるのを知り、可能性に掛けたにすぎぬ』


「上位魔人はここで何を?」

『かの魔人の目的は恐らく転生の秘術を得ることであろう』

「そんな事が出来るのか?」

『恐らく無理であるが、死の理から解放される事を望む者は多い。

 それは人の子であれ闇の子であれ変わらぬ』


 不老不死を求めた話は、元の世界にも多く残っている。

 寿命を持つ限り、その思いは変わらないのか。


『かの魔人は何度も転生の秘術を見ることで、転生の秘術に関する知識を少しずつ得ていた。

 大きすぎる器に、我が眷属の魂が足ることは無い。

 故に何度でも試すことが出来たであろう』


「竜の卵は何年か前にこの国に持ち込まれた物だと聞く。

 誰が、何故ここをえらんだ?」

『推測なら出来よう。

 我が子をここに運ばせたのは、ここが島であり、近くに魔力の満ちた森があるからであろう。

 邪魔をされず、餌を得やすいとなれば、裏で人の子を操り運び込ませるくらいは手間では無かろう』


「でも肝心のドラゴンがいなければ、転生の秘術の実験なんか出来ないだろう。

 この島にはドラゴンが住んでいなかったはずだ」

『より大きな器を得ることは我が眷属にとって最大の誉れなり。

 我が子を、我が眷属を引き寄せる餌として用いるなら、誘い出すことは容易い』


「最後に、知っていたら教えて欲しい。

 あの上位魔人は俺の国、エルドリア王国で魔人族を扇動し大きな戦を起こそうとした。

 それも転生の秘術に関わってくると思うか?」

『その行いに意味があるならばそうなのであろう。

 その先を知りたくば、我の死後、我が心臓を貫きし魔剣の出所を追うとよい。

 かつては人の作りし剣なり』


 上位魔人に手を貸した人間がいると言うことか。


『さぁ、話は終わりだ。

 約束を果たして貰うぞ』

「わかった。その前に、心の準備をさせてくれ。

 転生の秘術を受けると何が起こる?」


 出来れば異世界転移魔法のように強烈な苦痛を伴うのは勘弁して貰いたいんだが。


『人の子として生きたいのであれば自我を失わぬよう、器に食らい付くが良い。

 それが出来ねば、今この場で汝の肉体は砕け散り、我が物となるであろう』

「最初に聞いた時より条件がきつくないか?」

『転生の秘術とは器を残し命のみを消し去り、代わりに我が命を吹き込むものなり。

 汝は我が命を受け入れ壊れぬだけの器を示した。次は汝が命を失わぬよう励め』

「何かコツとか無いのか」

『その器を失いたくない理由を求め続けるがよい』


 俺が俺でありたい理由。

 そんなのいくらでもある。

 やり残したことが多すぎるからな。


 もし失敗した時のことを考えると、ルイーゼの無事を確認するまでは伸ばせないだろうか。

 でも、みんなが無事だと分かり、心配事が減ると俺でありたい理由も減ってしまうか?

 みんなに止められたら不死竜と約束を違えることになる。

 みんなは戦うと言ってくれるかもしれないが、あの上位魔人を一撃で屠る力を示した不死竜を前にしては、戦いにすらならないだろう。


「約束を果たす。誰もいない今が丁度良いな……あ、最後に質問がある。

 あの卵から魔力を少しだけお裾分けして貰うのは構わないか」

『好きにするがよい。癒やすには十分すぎるほどだ』


 前回この世界に戻れなくなった時はルイーゼがいたからモモとの縁が切れないで済んだ。

 もし俺が転生の秘術を受け入れることに失敗したとしても、モモにはみんなの所にいて欲しい。


 モモ、ルイーゼを助けてやってくれ。

 モモはドラゴンが怖いみたいだから姿を現すことはなかったが、でもきっと思いは伝わっているだろう。


『結果はどうであれ、この場にいる者に危害は加えずに去ることを約束しよう』

「わかった、やってくれ」


 竜眼の経験から、恐らく異世界転移魔法を受けた時のように肉体と魂魄が別れるような症状が起こるのだろうと考え、自分自身の肉体を感じる為に強く手を握り、自我を保つ為に俺が俺でいる為の明確な目的を持ち、その時に備えた。


 そして、その時が来た瞬間、俺は抗うことも出来ずに意識を失った。


第二部第二章 完 となります。

後日、短いエピローグを載せる予定ですが、本編は一区切りとなります。


2016.01.04

修正前

 そして、その時が来た瞬間、あっさり自我を失った。


修正後

 そして、その時が来た瞬間、俺は抗うことも出来ずに意識を失った。


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