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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第二部 第二章 マリオン編
201/225

上位魔人

本日8話投稿分6話目です。

 激闘の末、ドラゴンの討伐は成った。

 だが、上位魔人が好き勝手にここへ転移してくるようでは本末転倒だった。


 上位魔人の転移はリゼットの空間転移とは全く異なる物だから、発動条件の見当が付かない。

 自由に転移できるのだとすれば、ここで倒さなければヴィルヘルム王国にとって、いつか爆発する爆弾を抱えているような物だろう。


「リゼット! マリオンとレオに下がるように伝えてくれ! 守り切れない!」

「わかりました」


 振り向けばリデルが取り落とした剣を取りに、ルイーゼを振り切って飛び出すところだった。

 リデルの腕は再生していたが、失った血は戻らないと聞いている。

 激しい痛みだった為か魔闘気も失われていた。

 それでも怒りだけは収まらない。

 駆けるリデルの目に信念の様な物を感じた。


 上位魔人がゴーレムの腕を弾き飛ばし、胸の前で見えない球体を掴むように両腕を固定する。

 聞き慣れない言葉で呪文のようなものを唱えると、両手の間に闇色の球体が出現した。

 そしてその闇色の球体をゴーレムに向けて解き放つと、次第に大きくなり一メートルほどの球体になる。

 それはけして早くは無いが、その巨体故に躱しきれなかったゴーレムの胴体にぶつかると、まるでそこには何も無かったかのように通り過ぎていく。

 今まで目にしてきた精霊魔法とは全く異なる様子を見せたその魔法は、ゴーレムの体を球状に抉り、全く抵抗を受ける様子も無く突き抜けていく。

 後に残ったゴーレムが体を支えきれずに崩れ落ちると、その岩の欠片は魔力の残滓が霧散して消えていくようにして無くなっていく。


 恐ろしいまでの威力だった。

 あまりにも地味な魔法過ぎて、脅威を感じなかったのが逆に怖い。


「次は貴様らだ。

 人の計画をぶちこわしておいて生きて帰れると思うな」


『アキト。空間転移を使います。

 ですが動けなくなりますので、お二人をこの場へ頼みます』

(わかった!)


「リデル、ルイーゼ。 飛ぶ(・・)ぞ!」

「アキトは行ってくれ、僕は残る!

 この魔神だけは倒さなければならないんだ!」


 上位魔人がリデルに向い不可視の剣を振るう。

 それを多重障壁(マルチプル・バリア)で受け、止まった刃先にルイーゼがメイスによる渾身の一撃を繰り出す。

 ガラスの割れるような音を立て、不可視の剣が破壊されるのが魔力感知で見て取れた。

 刃先が見えなくても、多重障壁を打ち砕いた時に飛び散る魔力の残滓から場所を特定したのだろう。

 瞬時に行動に入ったルイーゼの戦闘に対する勘も相当に磨かれていた。


 いくら上位魔人でも魔力が無限と言うことは無いはずだ。

 あれだけ密度の高い不可視の剣と先程の地味だが強力な魔法は、それだけで俺の魔力量を大幅に上回っていた。

 こうして一つずつ潰していけば活路も見いだせるとは思うが、それだけの余裕がこちらにあるか。

 上位魔人に焦りは見えない。


 もし叶うならここで全てを終わらせたい。

 リデルを止めながら上位魔人の攻撃を受けつつ飛べるのか?

 リデルを置いていくという選択肢はない……無いのか、俺は間違えているか?

 どちらにしろまだ呪文が終わるまで時間が掛かる。なんとかリゼットから気を逸らさないと。


 俺が背面から牽制の魔弾を放つと、上位魔人は首を傾けるだけで躱す。

 魔力感知?!

 俺に出来るのだから、これだけ魔力を扱うのが上手い上位魔人に出来ないとは思えない。

 一瞬だけでも良い、俺を見失ってくれれば……出来るか。

 賭け事は嫌いだが!


 この世界の人間は誰でも魔力を持っている。

 そして誰でも、体内に貯めた魔力を緩やかに放出している。

 それは体内に貯められた濃い魔力が空気に溶け込むような物で自然現象なのだろう。

 俺はその魔力を感じ取り、魔力保有量や個体差を知ることが出来る。

 恐らくこの世界で言う気配というのも魔力を感じ取っているだけだと思う。


 だがその放出は意識して止めることが出来る。

 息吹による魔力回復を効率よく行う際に、体から漏れる魔力も意識すれば止められることがわかっていた。


 俺はチャンスを待つ。

 俺が上位魔人の隙を窺う様子を見せた時、リデルが呼応するように動いた。

 リデルの右手に魔力が収束する。

 それに上位魔人が気付いた瞬間を狙い、俺は身体強化を切り、誰でも自然と零している魔力すら放出を止める。


 リデルが再び振う連続突きに合わせて、気配を消した俺の姿を確認したくなったのは、上位魔人が戦いの中で常に状況把握のため魔力感知を使っていたからだろう。

 感じていた気配が消える瞬間に、戦慄あるいは恐怖するのは人も魔人族も同じだったらしい。

 それによって作られた時間は僅かだったが、リデルの突きが再び上位魔人の心臓を捉える。

 それは魔闘気に阻まれるが、上位魔人も無視できない威力を孕んでいる攻撃だ。


 タイミングを合わせて俺も背後から無手で袈裟斬りの体勢に入っていた。

 上位魔人は俺を無視し、リデルの突きが魔闘気を突き破るのに備えて動き出す。


 これに失敗したら、後はリデルを気絶させてでも逃げる!

 瞬時に現れる星月剣の手応えを感じると同時に、抑えていた魔力を解き放ち全身強化、合わせて飽和し溢れ出すほどの魔力を星月剣に乗せ、振り下ろす。


 攻撃が上位魔人に触れる瞬間、一瞬だけ魔闘気の抵抗を感じたが、それを抜けると後は大きな抵抗もなく剣を振り抜けた。

 同時にリデルの突きが上位魔人の心臓を貫き背中に貫通する。

 上位魔人は右肩から左脇までを俺に切断され、その場に崩れ落ちた。

 その表情は驚愕とも苦悶とも思える表情で歪んでいた。


 急激な魔力の消費で目眩を起こすが、なんとか星月剣から魔力を回収してやり過ごす。

 リデルも剣を支えに片膝を突いて激しく呼吸をしていた。


「アキト、空間転移を発動します、集まってください」

「わかった、いったん出直そう」


 俺とルイーゼでリデルに肩を貸し、リゼットの元に合流する。

 この時の俺は上位魔人を()だと思っていた。

 だから勝手に戦いは終わったものと判断していた。


 背後から迫ってくる魔力の塊。

 それは空間転移を発動しようとしていたリゼットを狙っていた。


 驚きに見開かれるリゼットの瞳に、信じたくない光景が映っていた。

 それは上位魔人その物だった。

 振り向く俺が見たのは、切断されたはずの上体がまるで磁石が引き合うようにくっつき、貫かれた心臓が脈打つように鼓動し、平然としている上位魔人だった。


 俺はリゼットの前に立ち、魔盾を展開する。

 だが魔力不足から十分な強度を得られなかった為か、上位魔人の伸ばした手刀の様な攻撃に打ち砕かれる。


 躱せない?!


 視界を栗色の髪が覆い、次に鉄を穿つ音、そして肉を穿つ音が続く。

 衝撃で俺の方に吹っ飛んでくるのはルイーゼだった。

 俺は口から血を吐きながら崩れ落ちるルイーゼを受け止める。

 鎧を貫いた上位魔人の手刀はそのままルイーゼの胸を貫き肺にまで達していた。

 ルイーゼは血が肺に入り激しく咳き込み、苦痛の表情を浮かべる。


「ルイーゼ!!」


「この肉体にこれだけの傷を負うのは一〇〇年ぶりか。

 久しくない感覚を思い起こさせてくれたことに感謝し、殺してやろう」


 上位魔人が腕を振うと、それだけでリゼットの意識下に描かれていた魔法陣が消し飛ぶ。


 何故生きている?!


「アキ……ト様……に……げ、ごふ」


 リデルが回復魔法(ヒーリング)を使用するが、傷が深すぎた。

 ルイーゼは恐らくその身に大きな怪我を負った時、自動再生オート・リジェネレイションが働くはずだ。

 ルイーゼの持つもう一つの天恵と思われる能力はかつて一度だけ発動している。

 その時も背中に大怪我を負った時だった。


 リデルがとっさに盾を掲げる。

 上位魔人の振り上げた腕には不可視の剣が握られていた。

 俺も魔盾を展開するが、殆ど盾の役割を果たしていなかった。

 意識が途切れそうになるところを何とかつなぎ止めるが、不可視の剣を防げる案が何も思い付かなかった。


 上位魔人が腕を振り下ろそうとした瞬間、激しい振動と音、それらが何か爆発したかのような衝撃となって俺たちを襲う。

 小石と共に風が吹き抜け、俺はルイーゼを抱え込み、何が起きたのかひたすら状況の確認に追われる。


 そして目に映ったのは全長二〇メートルはあろうかという竜だった。

 それは全身が白銀の鱗で覆われ二対四枚の翼を持つ不死竜エヴァ・ルータ、この島に来る時に見た姿その物だった。


 その不死竜が巨大な口を開くと膨大な魔力が収束していく。

 ブレス?!

 この角度で放たれれば躱す術は無かった。

 リデルの魔法障壁が展開されるが、正直耐えられるレベルじゃ無い。

 せめて俺に魔力が残っていれば強化できたが。


 リゼットが再び空間転移魔法を唱える。

 それが間に合うことは無くても、今出来る事をしようとしていた。

 だが、既に二回も召喚魔法を唱え、空間転移も一度は強制的に魔力を飛ばされたリゼットも、殆ど魔力が残っていない、間に合ったとしても魔法は具現化しないだろう。


「貴様が何故ここに!」


 上位魔人の声と不死竜のブレスが放たれるのは同時だった。

 それはまるでビームの様に収束された青白いブレスで、放たれた瞬間には着弾しているような高速のブレスは、上位魔人だけを狙い撃ちしていた。

 そして魔闘気をものともせずに貫くと、上位魔人を包み込むように太くなり、全てが白く染まった後には何も残っていなかった。


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