パーティー始めました
翌日、俺とルイーゼはリデルと会っていた。
昨夜リデルと話し合ったように、ルイーゼの主人になって貰う為だ。これについてはルイーゼの同意を取ってある。
「もちろん、出来るだけ面倒は俺が見るから建前的な話で良いんだ」
「まぁ、僕も反対しなかったし、奴隷を雇う事自体は良くある事だからかまわないよ」
「良かった、助かるよ。
そのお礼という訳じゃ無いけれど、リデルは騎士になる為に冒険者をやって実績を作っているだろ。俺じゃ力不足かもしれないけれど、手伝える事があれば何でも言ってくれ」
リデルは良く一緒に狩りに出てくれるが、本来の目的は王国騎士になる為の実績作りだ。ついでにきちんとした剣の指導を受ける為の資金稼ぎだと聞いている。ならばこれを手伝うのが良いだろう。
「アキトが力不足だと思った事は無いよ。この間の巨大熊だってアキトがいなかったら倒せなかったと思うね。おかげでこの辺じゃ結構有名になっているんだよ」
有名というのは疑問だけれど、リデルの足を引っ張ってないだけでも俺には十分だ。
「それじゃこのまま狩りで実績を上げていけば良い実績が出来るかも?」
「その可能性は高まるだろうね」
「いいね、いいね。それじゃ今更なんだけれど、きちんとパーティーを組もうよ」
「今更だけれど、それも良いね」
今までは俺が慣れるまでのサポート的な立場だったから、パーティーを組みたいというのはなんとなく図々しいかと思った。でも、足手纏いになっていない今なら良いだろう。それにこれからはルイーゼも増える。きちんとした活動をしている事も実績になるだろう。
◇
決まれば早速と、俺とリデルはルイーゼを連れて奴隷商人の元にやってきた。
まずはリデルを主人にして、それから冒険者ギルドでパーティー申請だ。
「確かに書類は確認しました。
ではルイーゼさんの所有権をリデル様に変更致しますね。手数料は銀貨一枚掛かりますがよろしいですか」
俺は頷き、銀貨一枚を渡す。
「では手続きを始めます」
奴隷商人はルイーゼの首輪に手を添えると魔声門を使って呪文を唱え始める。首輪が青白く光り、直ぐに収まる。
「これで手続きは終了しました。リデル様は指示言語をご存じですか」
指示言語というのは初耳だったが、その字面から奴隷に対して強制力を持つ指示を行う言葉なのだろう。ただの指示ならわざわざ指示言語とは言わないはずだ。
「ええ、わかります」
「それでは説明を省略させて頂きます。
これからも何かご要望の際は是非当店をご利用ください」
奴隷商人はとても愛想が良かったが、俺は進んで利用したいとは思えなかった。
「リデル様、アキト様、精一杯お仕え致しますのでよろしくお願いいたします」
「ルイーゼ、こちらこそよろしくね」
リデルは曇りの無い笑顔で改めて挨拶をした。イケメンは挨拶一つをとっても絵になるな。
◇
次に三人で来たのは冒険者ギルドのリッツガルドだ。
受付で胸の大きい方のお姉さんの名前はサラサさんだ。もうお馴染みとも言える仲になっている。
「サラサさん、今日は冒険者登録を一人とパーティーを結成しましたので申請をします」
サラサさんはルイーゼを見て一五歳にはなっていないと見抜いただろう。でも黙認してくれた様だ。一人よりはパーティーの方が安心と思ってくれたのかもしれない。
「アキト君もついにパーティーを組む事にしたのね。
初心者とは思えない実力があるのにパーティーを組んでいなかったから、ちょっと心配していたのよ」
実はパーティーを組もうとした事はあった。何人か、同じような初心者に声を掛けてみたけど、みんな断られた。そんな俺を見かねてサラサさんが理由を教えてくれた。原因は俺の髪が黒いからだった。そう言えば、リゼットが迫害とも言える扱いを受けていたのは黒髪だからだったな。
俺はこの世界に来てから生きるのに一生懸命になっていたし、リデルや熊髭達が普通に接してくれていたから、そんな事をすっかり忘れていた。でも、実際に俺に絡んでこなかった人に自分から声を掛けてみると随分とぞんざいに扱われていた。それを気にすると流石に俺でも傷つくので気にしないようにしていたが。
「おかげさまで無事にパーティーを組む事が出来そうです。サラサさんのおかげですね」
リデルは当然ながら、サラサさんにも随分と色々教わった。リゼットは博識で世界の事、魔物の事、魔法の事と色々知っていたが、庶民の生活に必要な事は余り知らなかった。
俺も元の世界にいた時は興味のある事ばかり聞いていたので、知識が魔物や魔法の事に偏ってしまった。だからただ日常を過ごすのに必要な知識が乏しかった。なにせこの世界には電気もガスも水道も無い。その代わりになる物が何か想像で補っていたが、失敗ばかりだった。水が飲みたくて井戸の水をそのまま飲んだらお腹を壊したし、大足兎の肉をレアで食べようとしたら怒られた。
そんな失敗や疑問をサラサさんは笑いながら聞いて、正しい方法を教えてくれた。リデルと同じようにサラサさんがいなかったボッチの俺は未だにお腹を壊していただろう。
「嬉しい事を言ってくれるわね。
それじゃきちんと仕事をしましょうか。まずはこちらの申請書に冒険者として登録をする人の名前と技能をお願いね。代筆が必要なら言ってね。
パーティー名は三人分まとめてこちらで変更するから教えてくれれば良いわ」
ルイーゼは名前が書けるようだ、用紙に自分の名前を書き入れている。技能欄は俺と同じく未記入だ。
「そう言えば技能欄には何を書けば良いの?」
「技能欄は、一言で言えばアピールポイントを書くのよ。自分が得意としている事を書くのが普通ね。
ここに書かれた情報を元に、仕事を紹介する事があるし、逆に、特定の技能を持った人を紹介して欲しいって話もあるわ」
なるほど、個人情報保護法なんか存在しない世界だ。もっとも、必要としなければ書かなければ良いのだから問題ないか。
「技能欄は書き直しが出来るけれど、人の記憶までは消せないから隠しておきたい技能は書かない方が良いわ」
それはそうか。技能欄から消したら人の記憶まで消えるとか恐ろしい。いくらアピールポイントとは言ってもブラウニーと友達ですとか書かない方が良いだろう。もちろんルイーゼの回復魔法についても秘匿事項だ。
「それじゃルイーゼさんの登録はこれで大丈夫よ。パーティー名とリーダーはどうする?」
俺はこっそりとパーティー名を決めていた。
「パーティー名は『蒼き盾』、リーダーはリデル・ヴァルディス!」
「えっ」
リーダーは俺が勝手に決めた。リデルもこれには意表を突かれたようだ。いつも俺の行動を見越しているのでたまには良いだろう。
リデルにはパーティーを率いて魔物と戦ったという実績も役にたつはずだ。
ちなみに蒼はリデルのパーソナルカラー、盾は俺がリデルに持っているイメージだ。
流石にリデルも何かもの申したいという感じだけれど、理由がリデルの為だから複雑な心境だろう。