表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第一部 第一章 冒険者編
2/225

旅立ちの朝

 日差しの心地よさに目が覚めた。

 視界に入ってくるのは、どこまでも続く森。森から流れる川は、そのまま反対側の森に消えていた。

 川辺には小動物がいて、鳥のさえずりも聞こえてくる。

 昨日の惨状が嘘のように長閑な光景にしばし呆けていた。


「綺麗だな」


 元の世界も綺麗だと思う景色はあったが、この世界もまた綺麗だった。


 洗濯した服は臭いが取り切れていないが、我慢する事にした。裸で人に会うわけにも行かない。これで見た目は村人という感じだろう。


 ぐぅう~。


 昨日、吐けるだけ吐いてしまったので空腹だが食べる物はなかった。

 川の水は見た目が透明で綺麗だ。最悪、川の水は飲めるかもしれない。

 でも、こんな所で病気になったらそれこそ死ぬかもしれないので、ギリギリまで飲むのは止めておこう。


 さて、どっちへ向かうかだが……森はないな。

 町があるとしたら森の中より森の外で、それも川の近くだろう。

 俺は川沿いに北に――朝日が昇ったのが東なら北に向かっているはずだ――向かう事にした。


 三時間ほど川沿いを歩いた後、ようやく森を抜ける事が出来た。

 そこは見渡す限り草原で何も無かった。何も無いというのは言いすぎか。平野では無く小高い丘の連なりで余り先の方までは見通せなかったし、所々に木々や岩盤が見えている。


 魔物は例外を除いて魔巣を中心とした生存圏から出てこないと聞いていた。

 この草原はなんとなく魔巣と付くような雰囲気がない。ただの直感でしかないけれど、小動物を普通に見掛けるくらいだから多分魔巣とは関係ないのだろう。


 道すがら今後の予定を考える。

 まず、最大目標はリゼットとの合流だ。その目標を果たす為に現在地を知る必要がある。その為には町なり村なりに出て、人に会う必要があった。

 人に会う。これが当面の目標だな。


 それから食糧の確保だ。

 分かりやすい食べ物があれば良いけれど……フルーツや穀物っぽい物は見当たらない。あっても、毒とかあったら怖いな。動物が食べていそうな果物や植物なら大丈夫か。


 もしくはちらほら見掛ける兎の様な生き物を捕まえて食べるか……火がないな。流石に生食はまずいだろう。

 拝借したお金があるので、人のいるところに行けばそれでしばらくの間は凌げるかもしれない。いくらあるのか分からないが。


 しかし、いくら歩けども町や村といった人工物が全く見えてこない。せめて道があれば希望も持てるが、それもない。

 やはり食糧確保の手段は考えておいた方が良いかもしれないな。となると、やっぱり火が必要か。


 昨日は枯れ葉に火を付けようとして失敗した。枯れ葉よりもっと燃えやすい物があれば良いのか。

 服を細かくほどけば燃えるかもしれないな。

 または綿っぽい何かがあれば……あった。綿花みたいな植物が普通に生えていた。


 早速それを集めて鉄の棒を擦り合わせる。昨日の苦労はなんだったのかと思うほど簡単に火が付いた。火の確保は出来そうだ。

 火が確保出来るなら後は肉か魚だな。

 どちらが簡単に捕まえられるかだが……見えるだけ兎の方がマシか。

 持っている武器は拝借した剣とナイフ。近付くことが出来ればなんとかなるか。


 ◇


 なんとかならなかった。


 まず剣の間合いまで近付けない。なんとか近づいても剣を振るう間に逃げられてしまう。

 気配を消すってどうやるんだ。マンガの主人公は普通に出来るが、俺には出来ないらしい。

 結局、今日は食べ物を手に入れる事が出来なかった。

 不安もあったが川の水を飲んで空腹を凌ぐ。今のところお腹を下す事はなさそうだ。


 なんかこっちに来る前はリゼットに助けてやるとか偉そうな事を言ったけれど、自分一人食べていくのも大変だな。会った時に謝ろう。


 魔法が使えれば遠距離から攻撃出来て倒せそうだけど。

 リゼットに聞いた話では、たしか魔法を使うには三つの方法があったはずだ。


 一つ目は魔法具を使う方法。

 魔石と呼ばれる燃料があれば誰にでも魔法を使う事が出来る道具だ。


 二つ目は魔声門と呼ばれる方法。

 魔法を使うには、魔力の具現化に必要な魔法陣を魔力制御によりイメージする必要がある。その制御とイメージをサポートするのが呪文で、呪文を使って魔法を発動する方法を魔声門と呼んでいたはずだ。


 三つ目は無詠唱と呼ばれる方法。

 呪文の詠唱をせずに魔力の制御能力だけで魔法陣を作り上げ、魔力を具現化する方法。


 俺に出来そうなのはどれか……。

 リゼットの教えでは魔法具を使うのが初歩で、次に魔声門による呪文の詠唱があり、上級として無詠唱があると聞いている。


 しかし、今の俺には魔法具を用意出来ない為、初歩は無理だった。

 次の魔声門に関しては、知識としては聞いて分かっているが呪文は覚えていない。単純に呪文が長いのと概念がよく分からなかった。

 残るは上級と言われる無詠唱による魔法だが、正確な魔力の制御が必要になる。

 魔法を使った事も無いのにいきなり正確な魔力の制御と言っても難しいか。


 難しいのは確かだけれど、転移魔法でこの世界に来る時、俺は確かに自分の身に宿る新しい力として魔力を感じていた。

 そして、その制御もある程度感覚として分かった。

 手を動かすほど簡単では無いけれど、慣れれば無意識で出来るような力だ。


 元の世界にいて手を動かすのに必要な事はただの意思だが、根本では意思により力が制御されている。魔力の制御もそんな感じと思えた。

 そして、知識としてはリゼットの教えがある。

 これを合わせる事で、なんとかなりそうな気がした。


 ◇


 俺は無詠唱魔法の練習をする事にした。

 基礎は習っている、素質があれば使えるはずだ。


 息を整え、目を閉じる。

 目から入ってくる情報を遮断する事で集中しやすくなると思った。もちろん実戦の中では全く役に立たないが、魔法を発動するという感覚を掴むまではこの練習方法がいいと思う。


 この世界では体の一つ一つの細胞が活性化し生まれ出るエネルギーを魔力と呼んでいる。

 もっともこの世界には細胞という概念が無い為に、初めはリゼットの言っている事を理解出来なかった。リゼット自身も説明するのが非常に難しいと言っていた。


 俺はこの世界に来た時、新たな力として体に魔力が宿るのを感じた。

 そして、その魔力が細胞体から生まれ出ているという認識が出来た。

 今まで持っていなかった別の力が体に存在すると明確に分かるのは助けになるはずだ。その魔力を意思の力で制御し具現化すればいいと考えている。


 体内の魔力を意識する……魔力が全身を伝わる感覚を思い出す……。

 しばらくすると、どう言葉で表せば良いか、敢えて言葉にするならアドレナリンが分泌され肉体が活性化して力が漲ってくる。


 なんかここまでは上手くいっている気がする。

 続けて魔力を左手の拳に集めるように誘導する。

 五分くらい掛けて四苦八苦しながら、魔力を静から動の状態に移行するコツが分かった。

 さらに五分程掛けて魔力を左手に集中する事が出来た。


 俺は手近な木に向かって左手を構えると、打ち抜くようにして拳を突き出す。

 同時にイメージする、魔力が左腕を抜けて飛んでいく姿を。そして、そのイメージを実際に魔力の制御で実現する。


 突き出した拳から見えない魔力が走り、五メートルほど無色の陽炎のような軌跡を残しながら、木の幹に当たって激しい衝撃を与えた。

 さすがに砕け散ったりはしなかったが人に当たれば気絶くらいはさせられそうだ。

 正式な魔法の名前が分からないので、適当に魔弾(マジック・アロー)と呼ぶ事にした。


「よし、多分こんな感じだ」


 魔力の制御を無意識で出来るようになるまでこれを続けよう。

 取り敢えず、準備時間は必要だけれど実戦投入だ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ