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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第二部 第二章 マリオン編
199/225

ドラゴン討伐戦、再び・前

本日8話投稿分5話目です。

「これでみんなの応急処置は終わったか」


 俺は周りを見渡し、状況を確認する。

 大怪我をした者はいないため回復薬で十分だったが、疲れは大きく残っているのが目に付いた。


「アキトさま。

 わたし宝物庫に行ってくるわ。持って行きたい剣があるの」


 マリオンがそう言って星月剣を手渡してくる。

 そう言えば奉納された魔剣があると言っていたな。


「俺も付いていこう。リデル、ここは任せた。

 魔物の反応はドラゴンと小さいのだけだ。

 あれだけの戦いで介入してこなかったから、落ち着いた今なら問題ないと思うけど、一応警戒だけは頼む」

「了解。ルイーゼも連れて行くと良いよ」

「ルイーゼ、頼む」

「はい」


 宝物庫は謁見の間からそこそこの距離があり、複雑に枝分かれした先にあった。

 明かり取りの小窓から光が差し込むおかげで何とか現在地を把握できるが、似たような石壁が続く通路は夜に歩くと迷いそうだ。


 本来なら守衛がいるだろう場所には、もちろん誰もいない。

 マリオンは素通りして奥の両扉の前に立つ。

 石の壁に埋め込まれた鉄の扉は重厚さがあり、押すにも引くにもそれらしい構造が見当たらず、その中央に魔石のような物が埋め込まれていた。


 マリオンがその魔石に手をかざすと一瞬だけマリオンの体を光のような物が走り抜け、消えると同時に鉄の枷が外れるような音が響く。

 次に僅かな振動をともない、シャッターのように扉が上に引き上げられていった。


 宝物庫の中は質素な造りに比べて、置いてある品物は豪奢な物ばかりだった。

 ただの箱一つとっても金銀で装飾され宝石がふんだんに使われているのを見ると、自分がメルティーナ王女様に贈っていた物がシンプル過ぎる気がしてきた。


 マリオンは装飾品や硬貨の詰まった箱などには見向きもせずに一点を目指して歩いて行く。

 その先には剣先をクロスさせるようにして壁に掛けられた二本の短剣があった。

 少し赤みがかった刀身を持つその短剣は初めて見る素材で作られているようだ。

 多分鉱石系だと思うが、それ以上は詳しくないので分からない。

 ベースが何か分からないが魔力感知(センス・マジック)はその短剣が確かに魔剣であることを示している。


「魔剣ヴェスパと言うらしいわ」

「お伽噺に出てくる剣ですか?」

「そうらしいけれど、私はその話を知らないのよね」

「ルイーゼは知っているのか?」

「エルドリア王国の勇者が使っていた剣で、厄災をもたらした上位魔人の側近の一人を討ち取ったとか。

 その時、心の臓に刺さった剣が赤く染まったと書かれていました。

 詳しくは分かりませんが、二本一対の魔剣で、片方の剣がもう片方の剣を引き寄せる特性を利用して倒したそうです」


 上位魔人の側近というならそれなりの魔力を持った魔人だろう。

 その存在に対して決定打を与えられるなら十分な威力を持った武器のはずだ。

 赤く染まったというのは気になるが、星月剣も青水晶のようになった。

 恐らく魔力による変異を起こす素材なのだろう。

 心臓は最も魔力の濃い場所だ。

 魔物が死んで魔石になる時も心臓の辺りに集約されて行くのが分かる。

 そこに剣を突き立てたなら変異する可能性はある。


「今まで使っていた剣に比べると刀身が短いけれど使えそうか?」


 マリオンは魔剣を取り、一本を腰に下げ、もう一本の握りを確認する。

 手に馴染んだところで軽く素振りし、幾つかの型を取りながら使い勝手を確かめる。

 なんかその型が俺よりも様になっていて、ちょっと悔しい。


 刀身は短いが、今のマリオンにとってその長さは欠点では無くむしろ長所かもしれない。

 短いことで扱いやすく、必要な時は不可視の刃を使えるマリオンだからとも言えるが。

 流石に二刀流と言うことは無く、一本だけで済ませるようだ。


「問題ないわ。

 前に見た時はもっと大きい気がしたんだけれどね」

「背が伸びて大人らしくなったからじゃ無いか」

「そ、そうね。前に見たのは一〇年くらい前だからそうかもしれないわ」


 今の発言に照れる要素があったのか。

 少し上気した顔を隠すように背けたマリオンを見て、俺もまだまだと感じた。


 ◇


 当初はリデルたち防御パーティーがドラゴンの手前にいる魔物を押さえる予定だったが、それはギエーガとサラマンダーによってすでに討伐されていた。

 よって、ドラゴン戦には全員で立ち向かうことが出来る状態だ。

 ただ、ドラゴンに直接ダメージを与えることが無理そうなレオと人狼族の二人には、後衛となるリゼットとレティの護衛と今はいない魔物の出現を警戒して貰うことになった。


「リゼットはもう一度召喚魔法を使えそうか?」

「アキトの助けがあれば後一度は可能だと思いますが、備えた方が良いかもしれません」


 召喚された精霊と植物系精霊のモモでは大分特徴が違うようだ。

 一度召喚された精霊には単純な一つの役目を与えることしか出来ない。

 そして、役目を終えるか一定時間が経つと精霊界に帰ってしまう。

 その他、精霊自体が死ぬことは無いが、魔力で作られた肉体を失うことでも精霊界に強制送還されるそうだ。

 リゼットはドラゴンの爪でルイーゼの魔力が吹き飛んだのを警戒していた。

 だから今はいない飛行型の魔物が来た時に備えたいようだ。俺も異論は無い。


「わかった、リゼットはそのタイミングが来たら知らせてくれ。

 レティ、作戦は覚えているな」

「はいっ!

 水波舞流(ウォーター・フロウ)でドラゴンを濡らした後に風精霊魔法の応用で雷撃(サンダー・ボルト)ですね。

 ただ、ラシエルさんに教えて頂きましたし練習では上手く出来ましたが、少し不安です」


 やる気は十分だけれど、自信はそこまででも無いらしい。


「俺も補助する。レティなら出来るさ」

「なんか大丈夫な気がしてきました」


 両手で作った拳を胸元にやる気を見せるレティ。

 俺はレティの髪を撫でるように二度叩いて「期待している」と伝えた。


「はいっ! 私かならず期待に応えます!」


 リデルはルイーゼと打ち合わせが終わったようだ。


「前と同じようにギエーガがドラゴンの正面を押さえて、僕とルイーゼが後衛として待機するよ。

 あのドラゴンを相手に大人数で掛かってもお互いが邪魔になるだろう。

 その代わり弱い反応の魔物と後衛の守りは安心して任せてくれていい」

「わかった」

「倒せるのはアキト達だけだ。僕も期待している」


 リデルとルイーゼが後ろを守ってくれるなら心強い。

 突発的な事が起きても二人なら大丈夫だろう。


「ルイーゼ、体調は問題ないか?」

「はい」

「もう一踏ん張りだ、後ろは任せた」

「はい」


 ルイーゼは嬉しそうに微笑む。

 魔封印の呪いを解呪していないためリデルの様に多彩な魔法は使えないけれど、今出来る能力で頑張ってくれている。

 そろそろ戦いに慣れた頃合いでもあるし、落ち着いたら一緒に解呪して魔法を覚えていこう。


 ◇


 先頭を俺とリデルが進み、最後尾をルイーゼとレオが守る形で三階の展望台入り口に辿り着いた俺たちを出迎えたのは、ドラゴンの吐く真っ赤な炎だった。

 予想はしていたが、予想通りだとしてもかなり焦る。


 ブレスはリデルの魔法障壁(マジック・バリア)によって阻まれるが、炎が周りの大理石を焼き上げ魔法障壁内の温度が上昇していく。

 一気に蒸し暑くなる中でリデルの魔力が削られていくのがわかった。


 長く感じるブレスが途切れる。


「ギエーガ、お願い!」


 最初に飛び出したのはギエーガだった。

 まだ炎が燻る中、空へ逃すまいとギエーガが軽い振動を響かせドラゴンに駆け寄る。

 前の戦いから地上戦を嫌ったのか、ギエーガに気付いたドラゴンは両翼を広げ、その翼に魔力を這わせた。


「レティ! 飛ばせるな!」

「はいっ!」


 俺は地面を滑りながら片膝を突き、全身強化から強弓を構える。

 狙いは翼の付け根!


 空気の弾ける音と共に放たれた矢が、狙い通り翼の付け根に突き刺さり小さな爆発を起こすが、前足を落とした時のような威力を見せることは無かった。

 あの時は不意打ちだった上に戦闘が始まってから大分経っていた。

 ドラゴンの魔力も無限では無いのだろう。あれだけ丈夫でも魔闘気は弱まっていたようだ。


 だが今回は俺たちがそうであったように、ドラゴンも十分に回復していた。

 流石に欠損までは治らないようで左前足は失われたままだが、十分な魔力の元に纏う魔闘気は、あれだけの威力を見せていた強弓の攻撃でさえ、大分威力を削られていた。


 しかし一瞬だけ動きを止めることには成功した。

 続けてレティの王鷲を仕留めた火球(ファイア・ボール)が広げた翼にぶつかり大きな爆炎と爆風を撒き散らす。


 どれだけダメージを与えたかは分からないが、大きく体勢を崩した隙にギエーガが間合いに入っていた。


「モモ、大型弩砲(バリスタ)を出してくれ!

 レティ、レオ作戦通り頼む!」

「はいっ!」

「わかった!」


 作戦はそれほど難しい者じゃ無い。

 多少臨機応変さは必要にしても、基本的にやる事は少なかった。


 まず、ギエーガを中心としてマリオンとラシエルが継続的にドラゴンの体力を削り、動きが悪くなったところで、レオが大型弩砲でドラゴンを狙い撃つ。

 作戦で言えばこれだけだ。


 ただ、大型弩砲を確実に当てる為に、出来るだけ魔闘気は削っておきたい。

 その為にはドラゴンの魔力を削る必要があり、無駄に見えても攻撃を繰り出し、魔闘気やブレス、自己治癒などを使わせないといけなかった。

 魔闘気さえ無ければ、女王蟻(クィーン・アント)の爪から作った魔力フル充填の矢でドラゴンを仕留められると考えている。


 大型弩砲は簡単に射出方向を変えられない為、気掛かりなのはドラゴンが空中戦を始めることだった。

 それを防ぐ為に、レティにはドラゴンを水系精霊魔法で濡らしておき、飛び立とうとしたところで応用魔法の雷撃(サンダーボルト)が持つ麻痺効果で打ち落とす重要な役目があった。


 俺は大型弩砲を出してくれたモモを労い、改めて状況を確認する。

 リデルはもう一つの弱い魔物がいる方へ走り、ルイーゼとレオ達がリゼットとレティを守るように周囲に注意を払っていた。


 ?!


 不意に強力な魔力反応が、リデルの近くに発生する。

 そこには菱形の魔法陣が扉のように現れ、その中央はまるで別の空間に繋がるかのように全ての光を吸い込む闇になっていた。

 それは比喩では無く本当に光を吸い込んでいるようで周りの景色が歪んで見えるほどだ。


 次いでドラゴンに匹敵する様な魔力を持つそれが、まるで召喚された精霊のように魔法陣の闇の中から現れる。

 直感が戦うべきでは無いと警鐘を鳴らす。


 現れたそれは二メートルほどの巨躯で、肌は黒く沈んだ灰色の人だった。

 甲殻のような鎧と言うよりは、肌その物が甲殻で出来ているような感じで、何より特徴的なのは闇色の目と闇色の髪だった。

 それは見る者に畏怖を撒き散らすような異質な存在感を放ち、状況を確認するように周りを見渡す。


 俺は直ぐにリデルと合流し、マリオンたちとリゼットたちの間に割って入る。

 これはヤバい。魔物じゃ無い。そして今まで出会ってきた魔人族とも違う。


 作戦を中断できるか?


 マリオンとラシエルはこちらの様子に気付いてはいるようだが、気にはしつつもドラゴンとの戦いは続けていた。

 流石に今手を休めればドラゴンの攻撃がギエーガに集中することになる。

 角竜に続いてドラゴンを一人で相手にするのは、いくら巨人族とは言え些かきついだろう。


 まさか増えたり減ったりしていた魔物が何かしらの方法で転移しているとは思わなかった。

 というか魔物じゃ無い、上位魔人か?

 何でこんな所に――いや、ちょくちょく姿は現していたんだ。

 ここに用があったんだろう。

 と言うことはドラゴンと何関係があるのか。


「貴様らここで何を……転生の秘術が消えているだと」


 声が怒気を孕んだ物に変わる。

 同時にドラゴンよりも小さいと思っていた魔力反応が膨大に膨れあがり、上位魔人の体を赤いオーラが包み込んでいく。


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