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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第二部 第二章 マリオン編
196/225

作戦開始

本日8話投稿分2話目です。

 西の海に沈みゆく夕日の中、俺たちは野営の準備に取り掛かる。

 このあたりに魔物の反応はない。

 弱い魔物は近寄らず、強い魔物はさらにドラゴンの近くにいるからだ。

 皮肉なもので、ドラゴンの覇気が影響するこのあたりが魔物のほとんど出ない安全な場所となっていた。


 ここまでは想定していた以上の激戦で、怪我人も多く出ていた。

 幸いにしてルイーゼの奇跡に頼るほどの大怪我を負った者はいなかったが、継続して戦えない程度には大怪我をした者もいる。

 だから士気が下がっているかとも思ったが、そんな事も無かった。

 むしろ確実に近付く目標に対して士気は上がっているくらいだ。

 俺は十分に食料を提供し、昼間の疲れを癒やして貰う。


「アキトさま、みんなの為に貴重な食料をありがとう」

「気にしなくていいさ。

 マリオンには済まないがギエーガにも届けてくれ」

「うん、ありがとう」


 巨人のギエーガは常に俺たちとは距離を取っていた。

 どういう思いがあってドラゴン討伐に協力してくれているのかは、マリオンに聞いている。

 一言で言うならば宿敵、ただそれだけだ。


「アキト明日の作戦を確認しておこうか」

「そうだな、先に俺とリデルで大きな所を確認して、後はパーティーで詳細を詰めよう」

「了解」


 俺はリデルを伴って、夜露をしのぐ程度のテントに入る。

 テントでは俺たちが来るのを見計らったように、ルイーゼがお茶を入れてくれた。

 俺が礼を言いそれに笑顔で答えるルイーゼ。

 場所が魔物に囲まれた真っただ中とはいえ、いつもと変わらない日常を感じる。


「一応、リゼット頼みでいったん村に戻り休むという手もあるが……」

「それは止めておいた方がいいね。

 士気が高く、程よい緊張感もある。一度村に戻るとそれが崩れるかもしれない。

 それに、明日の朝になってここが安全とは限らないからね」

「まぁ、そうだよな。

 それにここまで協力してくれたギエーガ一人を置いていくわけにもいかない」


 距離が近いとはいえ、全員を一度に空間転移出来るわけではない。

 明日の朝、少人数で空間転移(テレポート)して来たら魔物に囲まれていたでは全滅の可能性すらある。


「予定通り、このまま野営しよう。

 明日の予定として大枠は変えないが、城門まで着いたらクオが率いる人狼達にそこの防衛を頼むことにする。

 魔物の動きが思ったより活発だから、ドラゴン戦が始まった後どうなるか読めない部分がある。

 もし外の魔物が押し寄せてくるようなことがあれば、扉は破られているが城門で迎え撃つのが一番楽だと思う」

「そうだね。もしクオ達に抑えられないような魔物が城内に入ってくるようなら、作戦そのものを中断する必要がある」


 ドラゴンと戦っていたら背後から大量の魔物に襲われるとか考えたくないな。

 その状況になっては逃げるのも難しい。


「場合によっては城門あるいは堀の橋を壊しておくのも手か」

「後のことを考えると避けたいところではあるけれど、一つの手としては有効だね」


 王国再興が遅れるとしても、まずは取り戻すことが先決だ。


「アキト、王城の魔物の様子はわかるかい?」


 到着時点で一度確認していたが、改めて確認する。

 魔力感知(センス・マジック)の反応は五つ。

 最初に確認した時はドラゴンの他に三つの強い反応があった。

 それが今は四つになっている。


「移動している魔物がいるみたいだ、ドラゴン以外に一匹増えて四匹いる。

 あと、弱い反応が一つあるな」

「弱い魔物がドラゴンの覇気に耐えているのは不思議だね」


 俺は念の為リゼットに聞いた転生の秘術について説明をしておく。

 今回は使われないとしても、今後同じようにドラゴンが絡んでくることがあるかもしれない。


「だから、これがもしかしたら幼竜かもしれないな」

「持ち込まれた竜の卵が(かえ)っているのかな」


 俺はそれぞれの居場所をクル・ドラより預かった地図で示す。

 一番強い反応がドラゴンのものだろう。

 居場所はヴィルヘルム島の中心に向かって開けた展望台、王の居室がある辺りだ。


 道中はうまく回避すれば二匹の魔物と戦うだけで済むが、二匹目がドラゴンと近いのが気になる。

 ドラゴンほどではないにせよ、その強い魔力反応はかつて見たことがないほどのものだ。

 それから、増えた一匹もドラゴンに匹敵するほどの魔力反応がある。

 これらを同時に相手にするのは絶対に避けたいところだ。


 本命はあくまでもドラゴンになる。

 いずれ魔物は全て駆逐する必要があるとはいえ、ドラゴンを倒す前に消耗戦をするのは避けたい。

 ただ、ドラゴンと戦っている最中に絡まれる可能性を考えると、先に個別撃破し、休息を取ってからドラゴンに挑むという手もある。


「もし誘導出来るならドラゴンから離したところで全員で片を付ける」

「無理なら二匹目を僕達が引き付けているうちに、アキト達がドラゴンを倒すことになりそうだね」

「出来れば避けたいな」


 ドラゴンは魔物が争っていようと関与しないが、さすがに身近で戦闘があれば動きがあると見た方がいいだろう。

 その場合、近い範囲において二つの戦闘が起こる。

 混戦になることだけは絶対に避けたかった。


「おそらくドラゴンはその巨体からして王城内には入れない。

 ただ、石壁を壊して入ってくる可能性もある……が、そうなってくると他の魔物も寄って来る可能性があるな」

「すべての可能性を見通すことはできないけれど、絞ることは出来る。

 もし王城内で戦うなら謁見の間を使うしか無いだろうね。

 謁見の間は魔法で壁が強化されているはずだから、それで魔物の進入経路は絞れる」


 王都学園の鍛錬棟にもあったやつか。

 国王陛下が外部の人と会う場所だけあってそうした仕組みはしっかりしてそうだな。

 謁見の間は十分な広さがあるし、多少大きめの魔物でも相手に出来るだろう。


「それじゃ、この避けられない魔物は謁見の間まで引いて倒そう。

 もし来ないならそれはそれでいい。

 魔物討伐後、展望台に続くこの通路の押さえはリデルとルイーゼの二人だ、もし突発的な魔物の動きがあったらここで押さえてくれ。

 無理と判断したらドラゴン戦には入らない。

 この辺は状況次第になるが、判断は任せる」

「了解」


 その後、作戦失敗時の撤退手順を決め、それを各パーティで共有する。

 ギエーガがいるため空間転移ができない。

 だから村に戻るには浜辺の魔物地帯を抜ける必要がある。

 その際、ドラゴンが狩りをするタイミングとかち合うのは避けたい。

 成功しても失敗しても、帰りは同じだ。なかなか楽じゃない。

 それでもドラゴンさえいなくなれば、間引きする事で安全になっていくだろう。


 ◇


 翌日。魔力感知で王城アークロードまでの魔物の配置を感じ取る。

 道中に魔物はいないが、王城にあった五つの反応が四つになっていた。

 やはり頻繁に移動する魔物がいるようだ。

 斥候役の見張りも地上を出歩いている魔物を見ていないという。

 だとすれば飛行タイプだろうが、それすら二度も見落とすか?


「リデル、ドラゴンの近くにいた魔力の強い魔物がいなくなっている。

 おかげで道中は二匹だけ相手にすれば良いが、消えた魔物がいつ戻ってくるか分からない」

「ドラゴン戦に入ってからは僕達が警戒にあたる。

 そちらの邪魔はさせないと言いたいところだけれど、飛行タイプとなるとやっかいだね」


「もし飛行タイプなら一時的に俺とレティが離れて強弓と魔法で倒すから、その間のフォローを頼む」

「了解」


 不安要素もあるが、情報が不足していて作戦を変えようもない。

 今出来るのは魔物の一匹が突然現れる可能性に備えるくらいだ。


 俺は今回の参加メンバー全員を見回わす。

 さすがに緊張している者もいるが、フォローが必要なのはレティくらいか。

 若干緊張が行き過ぎている感じだ。


「レティ、張り切りすぎて鍛錬棟みたく城の壁を壊さないでくれよ」

「お、思い出させないでください!」


 青くなっていた顔に少し赤みがさす。


「弁償すると高そうだからな、注意してくれ」

「それは困ります、いま家は余裕ありませんから」

「なんだ、リデルは稼いでくれないのか?」

「そんなことありません、私がうまく回せていないだけです。

 うぅ、意地悪です」

「レティ、俺の手が届くところにいてくれ。それなら守ってやれる」

「は、はひっ!」


 返事にならない返事をして、自分の口元を抑えるレティは可愛らしかった。


「リデル、レオ。行くぞ!」

「了解」

「わかった」


 俺たちは廃墟となっている街を抜け、岬にある王城へ向かう。

 道中はドラゴンの覇気から逃げ出したのか、魔物に出会うことは無かった。

 エルドリアの王都に比べれば遙かに規模が小さい街を抜けると、直ぐに王城アークロードが目に入る。

 幾つか全壊している建物もあるが、出入りしている魔物が少ない為か、中央の通り以外の建物に被害の様子は見られなかった。

 復興の手間はそれほど掛からないかもしれない。


 王城を前に、作戦の変更を余儀なくされる。

 この城には外堀といった物が無く、魔物が外から攻めてきたら橋を落とすという作戦は使えなくなった。

 昨夜、リデルと話していて思い付いた時、直ぐに城の様子を知っているマリオンたちに確認するべきだった。

 城には城壁と外堀があると勝手に思い込んでいて、気が回らなかったな。


 ここは他国からは完全に独立した島国で、魔物も基本的に魔巣から出てこないため、外堀までは必要がなかったようだ。

 とは言え、流石に居住区を分ける為の城壁は存在する。


「まぁ、城内への入り口はあるな」

「そうだね」


 俺もリデルも多少ばつが悪そうに作戦の修正を行う。


 城門を抜けると、石を積み重ねた三層構造の王城だと言うことがよくわかる。

 どちらかと言えば低く広い作りで、外敵に対する城と言うよりは訓練施設の雰囲気がある。

 二代目の国王陛下が大陸からドワーフの職人を呼んで、一五年掛けて作らせたらしく、石畳はドワーフの拘りを表すように綺麗に揃い、その機械的な並びが近代建築の様な印象を受けた。

 意図された物なのかドワーフの拘りなのか、素材となる石材の色がベースとなった飾り気の無い色合いをしていたが、魔巣の作り出す緑の森に溶け込むような自然さは落ち着きのある物だった。


 一番上が展望台であり、今もその強い魔力反応はそこに居座ったままだ。

 残念ながら下からではその様子を窺うことは出来ないが、間違いなくいる。

 それはギエーガにも分かるようで、ただでさえ(いか)めしい表情が更に厳しくなる。

 一瞬一人で駆け出すんじゃないかと思ったが、物静かに怒りを貯めていた。


「クオ、ここを任せる。

 もし手に負えないと思ったら魔物を迂回して、待機地点まで逃げてくれ」

「アキト、俺、ここ、守る、絶対」


 マリオンが無事に逃げるまでは何を言っても無駄と言わんばかりだ。

 それはクオだけで無く、共に付いてきてくれた人狼族の思いとも言えた。


「マリオンは必ず連れて戻る」


 クオ達の思いを俺には押さえられない。

 本来なら全員でマリオンと一緒に突入したいだろう。

 でも、代表として突入するレオと他の二人にその思いを託してくれたことで、背後の魔物に心配すること無く中の魔物に集中できる。


「みんな、私は必ず戻ってくるわ。

 やりたいことがいっぱいあるの。

 それにはみんなの力が必要だから、かならず一緒に帰るからね」

「無事な、帰り、待ち、ます」


 マリオンの言葉に、クオ他二〇人の人狼族達は握った左拳を胸の前に、右膝と右手を地面について頭を垂れる。

 王国騎士団とはまた違った敬意の表し方だが、マリオンに対する思いが伝わってくる。


 マリオンは万感の思いで王城アークロードを仰ぎ見ると、背負うべき物から逃げ出した時間を取り戻す為に先頭に立ち歩き出した。


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