表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第二部 第二章 マリオン編
195/225

作戦前夜

長らくお待たせしました。

本編再開になります。

再開と言いつつエピローグ直前まで一気ですが。

本日8話投稿分1話目です。

誤字を確認しながら、順次投稿していきます。

 ヴィルヘルム島の王城に居座るドラゴンの討伐準備は順調に進んでいた。

 そんな中で多くの希望者の中から先鋭を募り、いくつかのグループに分けていく。


 王城に至るまでには魔巣から溢れた魔物が徘徊しているし、ドラゴンの覇気に耐えその魔力の強さに王城へ寄って来る魔物もいた。

 だから道中もいくつかのパターンを想定し、作戦を練っている。


 対ドラゴン戦の戦力を無事に王城アークロードに届ける役目として、そのリーダーをレオの弟のクオと選抜された二〇人の人狼族に任せる。


 城内に住み着いた強力な魔物の相手は、リデルをリーダーとし補佐にルイーゼを付け、二人を中心としてリゼットとレオそれに人狼族二人を含む防御型の討伐メンバーであたる。


 恐らく止めを刺すだろう大型弩砲(バリスタ)の発射もレオが担当する。

 リゼットは全体を見通し、必要に応じて撤退の為の空間転移(テレポート)を行うことになる。

 また状況によっては召喚魔法を使う予定だ。


 空間転移で一度に全員を運ぶことは無理なので、最後まで残ることになる防御パーティーにリゼットがいると良いだろう。

 このパーティーは重要だ。もしこのパーティーが抑えきれないような魔物が出るようであればドラゴン戦どころではない。


 最後に俺がリーダーをするドラゴン討伐パーティーとなる。

 ドラゴンを正面から抑え込む巨人のギエーガを主軸とし、俺とマリオン、レティ、ラシエルの現状考えうる最大の火力で戦う。


 止めの為に用意した大型弩砲を確実に当てる作戦も、練習を重ねることで実用レベルに達していたし、重要な役割を果たすレティの鍛錬も行っている。


 ルートは出来るだけ魔物を避けるために海岸線を進み、海岸線に突き出た崖の上にある王城アークロードを目指す。

 王城が見えたところでいったん森に入り、そこからは正面突破だ。


 マリオンの記憶を元に空間転移で一気に突入できないかとも考えたが、意思をつなぐ魔石が反応を示すことはなかった。マリオンとは波長が合わないのだろう。

 どちらにしろ周りが魔物だらけのところに空間転移するのはリスクが大きいので、ほかに道がない時にしか使いたくない。


 問題はドラゴンがいつ動き出すかだった。

 理想はもう一度ここまで単独で来てくれることだが、いつ来るともわからないドラゴンを待つのは厳しい。

 前回返り討ちにしたことから、二度とこない可能性もある。


 ならば確実にドラゴンが城にいる時を狙うのが良いだろう。

 ドラゴンの動きは常にギエーガが見張っていたので、行動パターンがある程度読めていた。

 ドラゴンは三日に一度王城を離れ、魔物を狩っては戻るということを繰り返している。


 最後にドラゴンが狩りに出たのは昨日だから、明日の突入時は王城にいると考えていいだろう。

 俺たちが魔物と戦っていても、ドラゴンが魔物を守るために出てくることはない。

 ただ、俺たちを狩るために出てくることはあるかもしれないが、それも獲物として見られているだけなので、狩りを終えた直後なら動かないだろうと考えている。


 まぁ、不確定要素は残っているがすべてを潰すことは出来ない。

 最悪の場合、リゼットの空間転移に頼る可能性もあるが、長い集中と詠唱が必要なため、使うような状況は避けたいところだ。


 それに空間転移を使った場合は巨人のギエーガを見捨てることになる。

 ギエーガがいるとなぜか魔法が発動しなかった。

 理由は不明だが、今は情報が不足している。

 リゼットの推測では魔法抵抗が強すぎて、無意識下で空間転移に抵抗しているのでは無いかと言うことだ。


「クル・ドラ、後は任せるわね」

「お任せください。

 無事な帰りをお待ちしております」


 マリオンがドラゴン戦に連れて行けない仲間を見回して、後を託す。

 最後の王族であるマリオンを中心として再興を目指しているなか、ドラゴン戦に出ることを止める者がいるかもしれないと思ったが、いなかった。

 狩猟民族の王として、力を示すのもまた王の使命だとマリオンは言う。


 今回の戦いは長くはかからない。

 今日のうちに王城アークロードまで進み、明日の内には決着するだろう。


 ◇


 俺たちはレオの率いる人狼族を中心とした二〇人と共に一路海岸線を北上する。

 しかしその道中は当初の予定とは大幅に違うものとなっていた。

 道中の魔物は想定以上に多く、本来なら体力を温存すべき俺たちも参戦し、混戦の様子を見せていく。


 しかしこの島で戦い続けてきたレオたちは強い。

 この島の魔物を知り尽くし、息の合った連係プレイは装備の十分な俺たちと変わらぬ速度で魔物を倒していた。


 魔物の数に押されはするものの、個々の強さは魔物を上回っている為、何とか先に進むことが出来ていた。

 武器を持たないのはレオのスタイルかと思っていたが、そうではなく人狼族のスタイルらしい。

 皆がレオと同じように手甲を改良した武器と防具の役割を併せ持つ装備を身に着け、直接的な打撃によって魔物を倒している。


 人狼族は魔力による身体強化とは違った独自の能力強化があるらしく、高い攻撃力を持っていた。

 レオ曰く、特に何かしら意識して行っていることでは無いらしいので、種族特性のような物なのだろう。

 代わりに魔力はあるのに魔法を使うことが全く出来ないらしい。


 ハーフであるマリオンは本来の人狼族の強さを持たず、その為に魔法と武器に拘った。

 自分にも魔法が使えると知った時のマリオンの喜びようも、当たり前のように使いこなす今となっては懐かしい。

 ただ俺が思うに、マリオンには人狼族の持つ種族特性が少なからずあると思う。

 俺を上回る鋭い瞬発力と見た目に合わない力強さは、身体強化だけの恩恵とは思えない。

 まるで居合い切りのようにダッシュから一閃、魔物の首を飛ばしていくマリオンは頼もしい存在になっていた。


 ここヴィルヘルムは動物系の魔物が多い。

 それはエルドリア王国でも同じだが、比べると違和感があった。

 最初はそれが何かはっきりしなかったけれど、思いつけば簡単だった。

 今まで出会う魔物のほとんどが元の世界にいる動物や昆虫が大きいだけだった。

 でもヴィルヘルムの魔物はエルドリア王国とは逆に元の世界にはいないような動物が多かった。

 翼をもった蛇、鰐のような口と牙をもつサイ、三つ目のゴリラ。

 半透明のクラゲが陸上を飛んでいるのは、改めてここがファンタジーな世界だと認識させられる。

 変わった見た目に合わせて攻撃も毒に麻痺といった特殊効果があり、かすり傷一つでも油断ならない。


 そんな魔物に囲まれている以上、どんなに厳しくてもここで止まる訳にはいかない。

 最悪でもドラゴンの覇気が届くエリアまで進まなければ魔物に押しつぶされるだけだった。


 もちろん無傷とは言えなかった。

 一人二人と倒れていく人狼族をリゼットが村まで運び、予備の人員を連れて戻ってくる。

 そうすることで何とか戦線を維持しながら魔物の群れから抜け出した時には、全員が疲労困憊で砂浜に座り込んでいた。


「そういえばなんでドラゴンの覇気は俺たちに効果がないんだ?」

「あれは精神に干渉する効果ですので、最下級のドラゴン程度であれば自我を強く持つ私たちには影響がありません。

 もし話に聞きました不死竜エヴァ・ルータの覇気であれば私たちも抵抗できなかったでしょう」


 抵抗できないと、恐慌状態に陥ったり、混乱したり、ただひたすら逃げ廻るようになるらしい。

 中には二度と正気に戻れない人や、命まで失う人もいるとか。

 上位の竜に挑むとか、どんな物好きだ。


「なるほど、俺もドラゴンに睨まれただけで魂が飛ばされるかと思ったよ」

「アキト?! 貴方、竜眼を受けたのですか?!」

「ん? なんか中二病的な言葉が出て来たな」

「茶化さないでください。

 今、ドラゴンに睨まれて魂が飛ばされると言われましたよね。

 竜眼の効果は魂の消滅ですよ!

 今こうして生きていることが信じられません……」

「そんな危険なものだったのか。

 確かにあのままだと魂が肉体から離れて戻れなくなる気がしたな」


 もし異世界転移魔法で肉体と魂魄の剥離から戻る術を知らず、あのまま離れていたらどうなったのだろうか。


「ドラゴンが魂の死に直面した時、転生の秘術を利用して発動する術で、ドラゴンを倒す際に受ける乗り越えられない試練とも言われています。

 竜眼を受けて生き延びた例は、古い書物まで見ても見付かりません」


 乗り越えられない試練を受けて、乗り越えてしまった。


「普通は肉体の死と共に転生の秘術が発動するのですが、アキトが相手にしたドラゴンは魂の死を感じ取ったのでしょう。

 命に関わることを伝え忘れていたのは私の落ち度です。

 謝って済むことではありませんが、申し訳ありませんでした」


 リゼットは少し青ざめた顔で胸元に寄せた震える手を何とか抑えていた。

 俺はかぶりを振り、その震えを抑えるようにリゼットの手に自分の手を合わせる。

 片手で包み込めるほどの小さなその手は、俺が生きているのを確かめるように握り返してくる。


「もともと戦うことも想定していなかったから、情報を集めきれなかったのは俺の甘さだ。

 それに、同じ竜眼を受けるなら俺でよかった」

「どういうことですか?」


 涙で潤わせた目が少しだけ細められる。

 自己犠牲と思われただろうか。俺はどうやって竜眼を耐え抜いたかを伝える。


「その様なことが……」


 安心したのか、強く握られた手から力が抜けていく。


「対抗手段は無いと聞いていましたが、そのような術でしたか。

 竜眼を使うには転生の秘術の準備が済んでいることが前提です。

 そしてドラゴンにとっても転生の秘術を犠牲にする必要がある為、必ず使われるものではありません。

 準備が済んだドラゴンは転生の術を失敗するのを避けるため休眠期に入り、外を出回ることも無いはずですが……」


 ないはずが、今回は特別だったわけだ。

 戦う予定はなかった。

 休眠期に入り出回るはずもなかった。

 ドラゴンの魂を砕くほどの攻撃をしたつもりもなかった。

 転生の秘術が済んでいるのか知る術も無かった。


「そこまで例外が積みあがったことに、リゼットが責任を感じる必要はないさ。

 それに知っていても対抗手段がないのなら同じだ。

 あの場で助けに入らないという選択肢はなかったからな」


 震えは止まっていたが、納得はしていないようだ。

 その時は全力を尽くしたつもりでも、振り返ってみれば足りなかったことなんか俺だって何度もある。その結果仲間を危険に巻き込んだこともだ。

 失敗は糧にするしかない。それが生きるための努力だし、巻き込んだ仲間への償いだ。


「ドラゴンは転生を繰り返し、永遠の時を生きると言われています。

 ですが、古代文明期に記された書物によると、ドラゴンは魂が砕かれた場合にのみ永遠の眠りにつくと書かれています」


 竜にとっての死は人間にとっての死とは違うようだ。

 永遠と思える時を転生しながら過ごしてきたドラゴンの、その魂魄が(つい)えるというのは酷なことだと思うが、それでも俺はマリオンの願いを優先しドラゴンを倒すだろう。


「アキトの攻撃によって魂の消滅を感じたドラゴンは、竜眼を使いアキトの肉体と魂の結びつきが強いかどうかを確認したはずです。

 もし弱ければ、異質な存在である竜の魂魄を受け入れる依り代に使えませんので」

「人がドラゴンの転生の依り代になるなんって事があるのか」

「わかりません――ですが、今はわかります。

 今まではあり得ませんでしたが、アキトは耐えたではありませんか。

 つまり成功することもあると言うことです」


 ドラゴンにとってその確率がどれくらいと考えているのか分からないが、自分の魂が消滅しようとしているのだから分の悪い掛けでも使わざるを得ないのか。


「ドラゴンにとって予定外なのは、アキトが魂を奪われることにすら抵抗した事だと思います。

 本来なら魂を奪い去り、自らの魂をアキトの肉体に宿したはずです」


 あのまま魂魄だけ離れていったらそう言うことになるのか。

 その場合、俺の肉体にドラゴンの魂魄が入り……それは人間なのか?


「心に留めておいてください。

 竜眼に耐えたということは、転生の秘術の依り代になり得ると言うことです」

「どちらにしても普通のことじゃないよな。

 あのドラゴンは生き延びたのだから、是非普通に転生してくれと願うばかりだな」

「普通は幼いドラゴンを育て、時を見て転生の秘術を使用するそうです。

 それに転生の秘術は何十年も掛けて準備するものらしいので、あのドラゴンに関してはもう竜眼の心配をする必要も無いでしょう」


 それは助かる。

 そんな危険な技をぽんぽん使われていては堪らないからな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ