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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第二部 第二章 マリオン編
181/225

城塞都市ルドラ

二話投稿分の一話めです。

 ルドラの町。またの名を城塞都市ルドラ。

 エルドリア王国とザインバッハ帝国の国境沿いにあり、王国から帝国に向かう陸路で唯一の出入り口として栄える。


 俺達の前には大草原が広がり、その大草原を北から南に続く石壁は国境線を表していた。

 石壁はおよそ一五〇〇メートルほど続き、その両端は海に面する。

 石壁の高さは一〇メートル近く、堀まで含めると一五メートル位あった。

 一定間隔ごとに尖塔があり、見張りと思われる兵の姿も見える。

 正面中央には一際大きな塔が立ち並び、そこを中心として栄える町は確かに城塞都市と言うにふさわしい景観だった。


 人口はおよそ七万人と言われ、街の規模としては大きい。

 尤も常駐軍や商人の数が多く、実際に永住している人は少ないようだが。


 ◇


「着いたな」


 ルドラへの入り口には商隊と思われる人の列が遠くまで伸び、最後尾は今日中に門を通ることが出来ないと思われた。

 俺達はその列をスルーして貴族用の受付に向かう。

 俺の王国栄誉騎士勲章はこの為にあるような物だ。


 ただ、この門を抜ければ貴族としての特権が使えなくなる。

 特使として行くのであれば貴族の扱いを受けることも出来るが、今回は一市民として入国するからだ。

 よって、ザインバッハへ入る為の門では半日待ちになるだろう。

 それは退屈で、今から憂鬱でもあるが仕方がない。


 ザインバッハ帝国に入るには海路を使う手もあった。

 ただ、この世界の海路には慣れていないため今回は陸路を選択した。


「まずはウィンドベル家別邸に向かい、到着したことを報告しよう。

 そこで、この後の予定を調整してザインバッハに入る。

 足りない物があればここで購入だな」

「了解。

 それじゃウィンドベル家別邸の方は僕が案内しよう。

 一度だけ来た時に勢力の強い貴族については当たりをつけてあるからね」

「それは助かる」


 身なりを揃えたおかげか、俺も貴族用の受付で変に勘ぐられることもなく入ることが出来た。

 リデルがいたからという可能性もあるが、俺にも風格というものが出てきたのだろう。


 早速向かったウィンドベル家別邸は、別邸と言うにはもったいないほど立派なものだった。

 貴族の価値観は間違っているとしか思えないが、俺も誰かに率いられるとしたら、こういう勢力の強そうな貴族を選ぶかもしれない。


 俺達は出迎えてくれたウィンドベル家(ゆかり)の者と打ち合わせを行い、三日後の船でヴィルヘルムへ渡ることになった。

 思ったよりも余裕が無かった。

 と言うより、順調に手配が進んだと言うべきか。

 船に乗るまでの間に案内人とも会う予定だ。


 現在分かっている情報は、魔物に占領された島と言われるヴィルヘルムに、半年ほど前から先住民が戻り、町を起こしているという話だった。

 一度は魔物の脅威に追い立てられたが、自分の故郷を守るために再びヴィルヘルムに戻った人々。

 その中にマリオンがいる可能性は高かった。


 強さを求めていたマリオンは、それを手に俺の元を旅立った。

 戻ってくるという約束はまだ果たされていない。


 ◇


 翌日。

 念のため冬支度と差し入れ用の食品を用意した。

 ウィンドベル家の好意で、食材がほぼ卸値で買えたためかなりの量を購入している。

 これは私的な差し入れなので、自分の財布から支払いを済ませる。

 余っても王都で買い戻してくれるというので、思い切って金貨七五枚分ほど購入しておいた。

 大雑把な計算では一〇〇〇人が一ヶ月は食べるのに困らない量だ。

 まるまる王都まで持ち帰れば、金貨一〇枚ほど上乗せして買い取ってもらえるので無駄がないのもいい。

 こんなことが出来るのも、モモのお陰だな。

 はじめは山のように積まれた食材を前にやり過ぎたかと思ったが、モモに要求されるまま魔力を付与し続けると、すべての物が綺麗に片付けられていた。


 これは迷宮に潜って、大量の巨大蟻と女王蟻をモモに片付けてもらった時に気づいたことだったが、ある程度質量が多くなるとモモが必要とする魔力量も多くなる。

 さらに、一時的な魔力付与では足りないらしく、魔力を常時与える必要が出てきた。

 流石にこの状態だと俺の方も魔力が減っていくのを感じる。

 だからきちんと休みを取らないと魔力が減る一方で回復する気がしなかった。


 モモが管理できる荷物の量は俺の魔力量に依存するのだろう。

 もっと多くの物をモモにお願いしたかったら、俺の魔力総量を増やすか、回復量を上げる必要がありそうだ。

 一度はくじけた大気中からの魔力吸収に、今一度挑戦する時期が来たのかもしれない。


 植物系精霊のブラウニーを連れて商人として成功した人も多いと聞くが、その人達は魔力量が多かったのだろうか。

 俺は自分では魔力量が多いほうだと思うし、今まで出会った人の中には身内以外で魔力量の多い人はいなかった。

 俺より少ない魔力量で俺より多くの物を運べるのは、コツの問題か?

 一般的なブラウニーとは全く容姿が違うと考えると、モモの能力はまた少し違った物なのだろうか。


 山のような食材が消えるのを見た商人が、その魔法鞄を売ってくれと迫ってきたが、普通の魔法鞄はここまで入らないのだろうか。

 ここでもやり過ぎたけれど、魔法鞄ではないと伝えたところで事情を察してくれたのか、肩を落としながらも諦めてくれた。

 精霊が見えない人にはどんなに魅力的だろうと無意味だった。


 念の為にモモのことは口止めしておく。

 お得意様を失いたくなければ余計なことは口にしないだろう。

 それに昔と違って今の俺は士爵の権利を持っている。

 それなりの後ろ盾もあることで、多少の無茶は跳ね除けられるはずだ。

 なにより、俺には国王陛下への貸しがあるからな。

 そうだ、モモに対する絶対不可侵を保証してもらうのも良い。

 国の懐も傷まないし、モモにとっても好きなだけ一緒にいられるようになる。

 よし、さっさと任務を終わらせてお願いを聞いてもらおう。


 ◇


 エルドリア王国の出口になるルドラ大正門を抜けると、直ぐに見えてくるのはザインバッハ帝国への入り口となるカインツ砦だ。


 エルドリア王国側のルドラ大正門と、ザインバッハ帝国側のカインツ砦の間は非干渉地帯になる。

 故に法の適用もなければ衛兵もいないため、ここで起こる問題は全て自分たちで解決しなければならない。

 たまにイザコザから死人が出ることもあり、ある意味最も緊張する地域だった。


 とは言えそんな事は珍しく、俺達は無事に非干渉地帯を抜け、カインツ砦にたどり着く。


 現在は終戦後の平穏な時期であり、国交は正常化していたのでザインバッハ帝国への出入りは比較的自由だった。

 特に冒険者ランクD以上は比較的優先的に入ることが出来たので、思ったよりもあっけなく混雑を抜けることが出来た。

 その他にも通行税を多めに払うことで優先的に通ることも出来るようだ。

 この辺は現実的な落としどころだと思う。


 それでも、目に見える距離を移動するのに半日を掛ける。

 大したことをしていないのに疲労感が大きい。


 俺達はカインツ砦を抜け、そのまま最寄りの港町ベルネスを目指す。

 カインツ砦側には城塞都市のようなものがなく、そのまま城塞があるだけなので泊まるような場所がなかったからだ。


 港町ベルネスはザインバッハ帝国最南端にある港町で、人口はおよそ一五万人。

 町という名前は付いているが、規模としてはもう都市と言っても良いだろう。


 軍事的利用も想定されている巨大な港町という面が一つ、港の北に広がる魔巣を中心としたハルド大森林への入り口という面が一つ。

 二つの要素を持つこの街は必然的に商業の要所でもあり、エルドリア王国からの荷物も一旦ここを通ることから、人口の半分近くは外から来た人だと言われている。


「着いたな」


 少し前に同じセリフを言った気がする。


 そんな感想が出るのも、実際に港町ベルネスに入れたのはカインツ砦を出てから四時間ほどたっていたからだ。

 カインツ砦を抜けてきた殆どの人がこの町に寄るのだから、並ぶのは必然とも言えた。

 ここも冒険者ランクが高ければ融通がきくそうだが、その為には一度この国で冒険者ギルドに登録する必要があった。

 冒険者優遇処置は、ハルドの大森林に出入りする冒険者に対して、毎日の出入りでその時間をつぶすのは無駄だと考えたからだろう。


 高ランクの冒険者がもたらす利益は大きい。

 かつて訪れたトリテアの町がそうであったように、冒険者の囲い込みは優先度が高いようだ。

 こうした入門手続き一つとっても優遇されていることが分かる。


 港町ベルネスはお城並みに防御を意識した作りになっていた。

 石壁の厚さだけでも二メートルほどあり、その入口に当たる門も二重の重厚な物だった。

 流石に軍事的な拠点となるように考えられただけある。

 それに戦時となれば最前線の基地になる町と言うこともあり、軍人と思える人もちらほらと見受けられた。


 この石壁は港町全体を覆っているらしく、全長は二〇キロに到達するとか。

 それを成す為に必要だった労力に呆れるばかりだ。


 門の厳重な作りの様子から、町の中も何処か重みのある雰囲気なのかと思いきや全くそんな事は無く、港町らしい活気があった。

 通りは石畳でよく整備され、建物もほとんどが石造りで、文化レベルの高さを感じる。

 石造りといっても石材その物の色合いではなく、漆喰が塗られた家が殆どだ。

 緑もちらほらと見え、それなりに洒落た雰囲気もある町並みになっていた。


「ここは人が多いな……街の作りが狭いというのもあるのか」

「収穫の季節に合わせて、徐々に商人が集まってきているからね。

 それこそ後一ヶ月もすれば、この通りを埋め尽くすくらいの人が集まるだろうね。

 聞いた話では、収穫祭の時期には門の外にも出店が広がるらしい」


 それは見てみたい物だが、それまでに調査を終えて戻ってくるのは難しいか。


 町は門を頂点とし、緩やかな勾配を描いて海へと続いていた。

 良く見渡せる港には大小の船が多く停船し、また入港待ちをしている。

 夕日に染まる町並みと海は、異世界にありながらどことなく元の世界の地元を思い起こさせ、少しセンチな思いが湧き起こる。


「今日はこのまま適当な宿に泊まり、案内人の元には明日の朝一で向かおう。

 ――その前に、冒険者ギルドには寄っておくか。

 何かで町を出ることがあった時、またあれだけ並ぶのは避けたいところだ」

「賛成だね」


 俺はモモの手を引き、冒険者ギルドの場所を尋ねながら中央通りを進む。

 冒険者ギルドの位置は比較的門から近く、三分と歩かずに着いた。


 むき出しの石材で作られた無骨な建物は、周りの建物に比べると威圧感があるが、中は今日の収穫を売りさばく冒険者で活気づいていた。

 良くある作りだが、冒険者ギルドの受付前ホールは食堂にもなっていた。

 食堂ではすでに出来上がっている冒険者もいて、喧騒にも似た様子を見せている。


 幸い、売買の方の窓口はいっぱいでも登録の方は空いていたので、俺達はそちらに向かう。


 窓口には同じくらいの歳の女の子が座り、俺達を見て笑顔を見せる。

 青い髪をポニーテールにした、同じく青い眼の女の子だ。

 やっぱり受付は笑顔で出迎えてくれるのが一番だな。


 俺は軽く挨拶をし、冒険者登録を頼む。

 エルドリア大陸の冒険者ギルドとは違う系列だが、同様のランク制度を持つ事で、冒険者を誘致しやすくしている。

 だから、エルドリア王国での実績がそのままこちらの冒険者ギルドでも反映されるはずだ。


「えっ……あの、これは」


 俺とリデルが、現在のランクを証明する為に差し出した認証プレートを見て、受付の女の子が戸惑っていた。

 認証プレートと俺達の間を何度も視線が行き来し、その都度揺れる青いポニーテールに俺の視線も泳ぐ。


「何か問題あった?」


 取り敢えず埒が明かないので聞いてみる。


「い、いえ。問題ありません。失礼しました。

 お若い方のにランクBに達しているので驚いてしまいまして」

「ランクB?」


 俺は自分の認証プレートを確認する。

 確かにそれは緑から黄色に変わっていた。


「気が付かなかったな」

「えっと、アキトさんはランクBへの昇級試験を受けられますか?」

「いや、しばらくはこのままでいい」


 討伐依頼を受けることが殆ど無いから、実質ランクを上げることにあまり意味がなかった。

 どうせならみんな揃ったところで一緒に受ければ良い。


「わかりました。

 それではリデルさんはランクCへの昇級試験を受けられますか?」


 リデルは実力的にはとうの昔にランクCになっていたが、騎士団で活動していた為に昇級試験は受けていなかった。


「船が出るのは明後日だから、タイミングが合うなら受けておくと良い。

 取り敢えずランクCで揃えておけば、その内みんなで昇級試験を受けられるからな」

「リーダーがそう言うのであれば異論はないよ」


 ここは冒険者も多いようで昇級試験は一日置きに行われているようだった。

 折角なので明日の昇級試験に申し込む。


「取り敢えずだ? はんっ、聞いたかお前ら。

 そこのガキ共は取り敢えずでランクCになれるらしいぞ」

「ハッハッハ、そいつは良いな。

 なら俺は取り敢えずランクAに成っておくか」

「お前がランクAになれるなら俺はランクSだな」

「どこの坊っちゃんかしらないが、装備だけ良ければランクが上がるってもんじゃないんだよ」


 絡まれた。今までこんな絡まれ方はなかったのに。

 良く見ればエルドリア王国の冒険者ギルドに比べて、随分と柄が悪い感じがするな。


「すいません、アキトさん、リデルさん。

 彼らはランクBの冒険者で、出来れば穏便にお願いします」


 穏便も何もギルドで揉め事があると、絡んできた向こうの方が不味いことになるんじゃ無いだろうか。

 でも、それをわざわざ穏便にと言うのは、意外と無茶が通るのか。

 郷に入っては郷に従えと言うし、俺も多少は荒事を覚悟しておくことにする。


 トリテアの町もそうだったが、冒険者の優遇処置をとっている町では、その待遇から自分が偉いと勘違いする奴らも出てくるのだろう。

 だが、この世界では明確に序列が決まっている。

 大きく分ければ奴隷、平民、貴族、王族だ。

 ここザインバッハでは国王の上に帝王がいるけれど、何れにしても平民に上下関係はない。

 つまり、冒険者ランクが高ければ偉いなどということはない。


 そして、この場に貴族以上の存在はいない。

 俺も長く揉まれてきたせいか、見ればなんとなく分かるようになってきた。

 たとえ隠していても、貴族にはそれなりの特徴がでる。


 彼らの態度は癇に障るが、それは同じ平民なのにというよりも、何度も死にそうな目に遭いながらも培ってきた力に多少の自惚れもあったからだ。


 それでもランクBと聞けば、俺も凄いあるいは偉い人だと思う。

 その人が積み重ねてきた経験と実績を思い、素直にそういう気持ちになるからだ。

 しかし絡んできた奴等には、素直になれない。


 初めて出会った冒険者の熊髭達は、素直に敬うべき冒険者だと思う。

 それと比べると、わざわざ人に絡むような奴等では敬えない。

 やっぱり相手の性格も加味されるな。


 とは言えランクBと言えばバルカスレベルだろ……まかり間違って争いになっても勝てる気がしない。

 魔法を除くとは言えバルカスと戦っても一〇に一つしか勝てない俺では、喧嘩を買ったところで負けが見えている。

 だからここは尻尾を巻いて逃げるのが正解だな。


「よし、お前達がどれほどのものか、俺達が見てやる」


 物語はリアルタイムで進行する。


 色々と考えている内に、状況に変化が生じた。

 多分これはあれだな、生意気そう、あるいは世間知らずな若い奴らには上から一発ガツンと決めて、身の程をわきまえさせるというやつか。

 実にありがたくない、先輩の勝手な思いやりだな。


「え、えっと。

 先輩冒険者による指導・教育はギルドとして推奨項目でして……」


 俺が暗に非難の視線を向けると、受付の女の子は申し訳無さそうに答える。

 指導・教育であるならギルドとしては口出し出来ないということか。


「死んだりしないよな?」

「それはもちろんです!

 死なせてしまうのはもちろん、回復しないような怪我だけでなく、活動に響くような大怪我も駄目です。

 それでは本末転倒になりますから」


 それもそうか。

 なら対人戦の練習だと思って受けるのも良いか。

 リデルも特に反対の様子はない。


「それじゃご指導お願いします」

「さっさと隣の修練場に移るぞ」


 後で知ったことだが、指導・教育をするとギルドから金一封が出るらしい。

 二つ下までのランクが指導出来て、ランクが高いほど金額が良いため、ランクBともなれば意外と馬鹿にならない稼ぎになるようだ。

 新人に指導した場合の特権らしく、新人を煽っては適当にやり過ごし、臨時収入を得るのも良くある話だとか。

 それで冒険者全体のレベルが上がるならギルドとしても安いものなのだろう。


 理由はどうあれ、練習が出来るなら利用するまでだ。


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